訪日外国人観光客の誘致には欠かすことのできない多言語対応。かなりのコストがかかるものの、訪日外国人観光客が不慣れな日本を楽しんでもらうためには、適切な情報を提供することが極めて重要です。

支払い方法や設備の使い方など、具体的な事柄を説明するのは比較的簡単ですが、抽象的なテーマが絡むと難易度が上がります。特に日本固有の歴史や伝統文化が関わる場合、どこまで、どのように説明するべきなのか注意しなくてはなりません。

観光庁は平成28年(2016年)8月4日、文化庁と合同で「文化財の英語解説のあり方に関する有識者会議」を行い、「文化財の英語解説のあり方について ~訪日外国人観光客に文化財の魅力を伝えるための視点~」という報告書を発表しました。

特に解説が難しいと思われる文化財を、英語で解説する際のポイントについて解説したものですが、飲食業や宿泊業に関わる事業者にも参考になると思われます。たとえば、日本料理を出す場合、「これはどういう食べ物なのか」「なぜこのように食べるのか」「どういう歴史を持っているのか」などを説明できると喜ばれるでしょう。これは英語圏に限らず、日本と文化を共有しないあらゆる国の訪日外国人観光客について言えることです。

今回は「文化財の英語解説のあり方について ~訪日外国人観光客に文化財の魅力を伝えるための視点~」から、多言語対応のポイントをご紹介します。

 

多言語対応で重要なのは「歴史や伝統文化の価値を感じられるように書くこと」

まずは「文化財の英語解説のあり方について ~訪日外国人観光客に文化財の魅力を伝えるための視点~」が発表された背景から解説していきましょう。

同報告書によれば、訪日外国人観光客の多くは「訪問場所を決定する際重視する条件」として、「異文化を体験できる」「歴史がある」ことを挙げています。しかし、歴史・伝統文化体験ができる観光施設に実際に足を運ぶ訪日外国人観光客は少数です。つまり、日本の文化、歴史に強い関心があるものの、それを楽しめていない人々が多いというわけです。この原因は何か。さまざまなことが考えられますが、「専門性が高く、分かりやすい」になっているかどうかという視点から、多言語対応の点検が十分にできていないためだとしています。

同報告書以前にも、観光庁は平成26年度(2014年)に「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」を発表しています。しかし、これはローマ字の書き方、外国語での表記ルールなど基礎的な内容が中心で、それぞれの観光資源の価値を高めるということを、主眼に置いていません。

そこで訪日外国人観光客が日本の歴史、伝統文化を理解し、価値を感じられるような多言語対応のポイントを紹介しようというコンセプトで制作されたのが、今回の「文化財の英語解説のあり方について ~訪日外国人観光客に文化財の魅力を伝えるための視点~」なのです。

 

歴史や伝統文化を伝える際の多言語対応のポイント

日本の歴史や伝統文化を伝える際に注意すべきこととして、以下のような4つのポイントを掲げています。それぞれ詳しく解説していきましょう。

  • 日本語の解説を直訳しない。基本的な用語の解説を補足するなど、理解の前提となる情報を盛り込む
  • 訪日外国人観光客がどこに興味、関心を持つかを把握し、メリハリの利いた解説を
  • 案内板とパンフレットなどの解説媒体に応じて情報を書き分ける。デザイン上の見やすさや景観との兼ね合いも考慮
  • 英文執筆、翻訳を委ねることができる優れた人材を確保する

日本語の解説を直訳しない。基本的な用語の解説を補足するなど、理解の前提となる情報を盛り込む

日本語の解説は、日本の歴史や伝統文化をある程度知っている日本人向けのものです。訪日外国人観光客の場合、たとえば「江戸時代」「のれん」「おみこし」のような語が理解できないかもしれません。かといって、あまりにも詳細で長すぎる文章は好まれません。時には全体像だけでも理解できるように、概説的な解説に置き換えることも必要です。

訪日外国人観光客がどこに興味、関心を持つかを把握し、メリハリの利いた解説を

訪日外国人観光客と日本人では興味、関心を持つ点が異なります。神社の鳥居は日本人にとって当たり前の光景ですが、訪日外国人観光客は「なぜ存在するのか」「なぜ朱色なのか」と疑問に思うかもしれません。

ですから、日本人だけで多言語対応を完結させるのではなく、モニターツアー、アンケート調査などを実施し、情報収集するべきでしょう。また、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいることを考慮し、各国の訪日外国人観光客を対象に、情報収集することが重要です。

案内板とパンフレットなどの解説媒体に応じて情報を書き分ける。デザイン上の見やすさや景観との兼ね合いも考慮

案内板、パンフレット、ガイドブック、音声ガイドなど多言語対応できる媒体はいくつもあります。用途や掲載できる情報量、適切な伝え方はそれぞれに異なります。同じ原稿を転用するのではなく、適切に使い分けるようにしましょう。

英文執筆、翻訳を委ねることができる優れた人材を確保する

以上のようなポイントを満たし、多言語対応するには外国人の傾向に詳しい人材の確保が不可欠です。具体的には、日本で暮らしている外国人や国際交流事業に関わる日本人などが該当すると思われます。

 

まとめ:多言語対応は事業者によって差がつきやすい

訪日外国人観光客の誘致にあたって多言語対応は不可欠ですが、日本の歴史や伝統文化が楽しめるよう、十分に配慮されているものはあまりありません。これは文化財のみならず、その他の観光業、飲食業、旅館業にも言えることなのではないでしょうか。

文化を共有しない訪日外国人観光客にも理解できるようにするためには、外国人の傾向に詳しい人材の確保が必要です。大きなコストがかかるため困難なことだとは思われますが、その分、事業者によって差がつきやすいところになるでしょう。

 

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