先日の訪日ラボの記事「タトゥー受け入れ率は0.86% 訪日外国人観光客の温泉への期待とは裏腹に温泉の刺青お断り率はまだまだ高い」でもお伝えしたとおり、現状では、日本の温泉施設の刺青を入れている方への受け入れ状況はまだまだ低いです。訪日外国人観光客のなかで、訪日アメリカ人観光客を例にとれば、10人に3人がタトゥーを入れている状況であるなか、日本政府や観光業界はタトゥーに対してどのような対策をとっているのでしょうか?

<関連記事>

 

訪日外国人観光客のタトゥー拒否問題の発端はマオリ族への入浴拒否

タトゥーを入れる―その目的はファッションや伝統文化など様々です。海外にはタトゥーを伝統文化として入れる民族も数多くあります。日本人の感覚としては「タトゥーを入れたら温泉には入れない。それは自己責任」という概念がありますが、伝統文化としてタトゥーを入れている人が訪日し、温泉施設やビーチ、プールで入場を拒否されたとしたら人権問題として扱われかねません。

マオリ族の伝統的な入れ墨(タトゥー)

マオリ族の伝統的な入れ墨(タトゥー)

そのようなケースとして、ニュースとして大々的に取り上げられたのが2013年の9月です。北海道恵庭市内の温泉施設で、顔に入れ墨のあることを理由にニュージーランドの先住民「マオリ」の女性が入浴を拒否されました。女性はマオリ語講師で、北海道平取町で開かれていた先住民族の言語を学ぶ会合に招かれており、関係者と入浴施設を訪れた際、従業員が入浴を拒否。

女性は、マオリの伝統文化の入れ墨を唇とあごに入れていたが、温泉施設側は「(伝統文化であっても)利用者に安心して入浴していただくため、入れ墨の入っている方は一様に断っている」と抗議も受け入れなかったとのこと。

マオリ女性 タトゥーによる入浴拒否に対する政府のコメント

この事件に対し、菅義偉官房長官が記者会見でコメントを述べています。

北海道恵庭市内の温泉施設で、顔に入れ墨の入ったニュージーランドの先住民マオリの女性が入浴を拒否されたことについて、菅義偉官房長官は13日午前の記者会見で「施設の判断で断ったのだと思うが、2020年の東京五輪開催にあたり、さまざまな国の方がわが国に来てくれることが予測される」と指摘。その上で「外国のさまざまな文化に対して敬意を払い理解を進めていくことが大事だ。外国人を迎えるため、しっかりと対応策を考える必要がある」と述べた。―産経ニュース「マオリ女性入浴拒否、東京五輪控え「多様な文化への敬意、対応策必要」菅長官

と、東京オリンピック開催に向けて対応を進めていくべきであるという方針を伺わせました。

 

観光庁による取り組み:入浴施設へのアンケートと対応改善促進

先述のマオリ族女性の入浴拒否のケースをはじめとして、訪日外客数が伸びるにつれ各所で同様の問題が噴出し始めたのを受け、観光庁も対応をし始めます。2015年10月の入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート、および2016年3月の「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」の発表です。

入れ墨(タトゥー)がある方に対する入浴可否のアンケート

まずは実態を調査するためにアンケート調査を実施。全国のホテル、旅館約3,800施設を対象に調査表を送付、約600施設(約15%)からの回答がありました。

その調査結果によると、

  • お断りをしている施設:約56%
  • お断りしていない施設:約31%
  • シール等で隠す等の条件付きで許可している施設:約13%

とのことで、現状では半数以上の施設が入浴を拒否していることが判明しました。また、回答率が低い(15%)こと、タトゥー・刺青OKな店鋪に関するユーザー投稿サイト「Tatoo Spot」への登録件数の少なさから考えると、実情はもっと低い可能性が高いものと思われます。こちらについては、冒頭でもご紹介した以下の記事で詳しくご紹介しています。

「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」の発表

観光庁「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」

観光庁「入れ墨(タトゥー)がある外国人旅行者の入浴に際し留意すべきポイントと対応事例」

観光庁は、このアンケート結果をふまえ、タトゥーがある訪日外国人観光客の入浴に関する留意点や対応事例をとりまとめ、個別の施設の対応改善を促すことにしました。

観光庁ホームページには留意点と対応事例が配布されており、そこでは留意すべきポイントとして

  • 宗教、文化、ファッション等の様々な理由で入れ墨をしている場合があることに留意する。
  • 利用者相互間の理解を深める必要があることに留意する
  • 入れ墨があることで衛生上の支障が生じるものではないことに留意する。

と、「入れ墨≠暴力団」であることを暗に伝えています。また、対応事例としては

  1. 一定の対応を求める方法
    • シール等で入れ墨部分を覆い、他の入浴者から見えないようにする(衛生的な入浴着等を着用する方法も考えられる)。
    • 入れ墨のサイズが小さく(例えば、手のひらサイズ)、他の入浴者に威圧感を与えない場合は特別な対応を求めない。
  2. 入浴する時間帯を工夫する方法
    • 家族連れの入浴が少ない時間帯への入浴を促すようにする。
  3. 貸切風呂等を案内する方法
    • 複数の風呂がある場合、浴場を仕分けてご案内する。
    • 貸切風呂がある施設では、貸切風呂の利用をご案内する。
    • 宿泊施設の場合、専用風呂のある客室等をご案内する。

をあげています。

しかし、日本の一般ではタトゥー・入れ墨にまだ拒絶感も

Yahoo!ニュースの訪日外国人観光客の温泉利用についての取材記事「外国人観光客の「タトゥー」温泉体験のおもてなしの行方」では、タトゥーを入れている在日ポーランド人女性にフォーカスをあてて、タトゥーと温泉利用の問題に切り込んでいます。

記事中では関東弁護士会連合会が行ったタトゥーに対する意識調査を紹介。2014年6月の調査によると、

「イレズミを入れた人を実際に見たときに、どのように感じましたか」の質問に対して、「不快」と答えた人が51.1パーセント、「怖い」が36.6パーセントだった。

と、マイナスイメージが非常に強い結果に。しかしながら、欧米圏やアジア圏でも、最近では日本ほどタトゥーに対するマイナスイメージがなくなってきていることを紹介しています。

Yahoo!ニュース「タトゥーをした人の温泉施設などの利用をどう考える?」より引用

Yahoo!ニュース「タトゥーをした人の温泉施設などの利用をどう考える?」より引用

また、この記事の文末では温泉や銭湯などの入浴施設でタトゥー・入れ墨をした人の利用についてネットアンケートを実施。27万票以上の調査の結果、

  • 「タトゥーの大きさを問わず認めるべき」が17.8%
  • 「シールなどで隠れる程度のサイズであれば認めるべき」が31.3%
  • 「全面的に禁止するべき」が46.2%

という結果に。現状では半数弱の日本人がタトゥー・入れ墨を入れている人の入浴に対して禁止を求めていることが伺えます。

 

まとめ:訪日客の権利と日本人客の感情の調整が必要か

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、訪日外国人観光客のおよそ3割が温泉入浴に期待して訪日してきます。また、温泉入浴の実施率はおよそ4割弱。世界に誇る温泉地帯である日本においては、温泉は欠かせない観光スポットの1つとなっています。

入浴施設のタトゥー・入れ墨問題は、異文化との摩擦の一端に過ぎないものと思われます。「観光立国」を果たすためには、施設の対応改善をもとめるなどのハードの問題だけでなく、国民の意識といったソフトの問題も解決していく必要があるのではないでしょうか。

 

訪日ラボをフォローして
最新情報を受け取る

インバウンド最新情報をお届けします。

これ以上前の記事はありません…