JNTOは、インバウンド向けプロモーションを展開する際の方針として「訪日マーケティング戦略」を策定しています。

これは「観光立国推進基本計画」に基づいて作成され、観光庁、JNTO、地方運輸局、DMO、地方自治体などが政府目標達成のための施策を展開する際の指針となっています。

ここでは、訪日マーケティング戦略に含まれる「市場別マーケティング戦略」のうち、中東市場のマーケティング戦略についてまとめました。JNTOの方針を理解し、中東地域の観光客向けのマーケティングやプロモーションに生かしていきましょう。

まずは全体方針をチェック

まずはJNTOの「訪日マーケティング戦略」の全体観について確認しておきましょう。

本戦略では、市場別のマーケティング戦略のほか、市場を横断した戦略として「高付加価値旅行」「アドベンチャートラベル」「大阪・関西万博」を掲げています。また、全体として「持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)の推進を念頭に」置き、各戦略に紐づく事業を展開するとしています。

「持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)」では、地域の環境・文化・経済の持続可能性と両立しながらの観光を実現することを目指します。

また、「アドベンチャートラベル」については2023年9月に開催された「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」を契機に推進していくほか、2025年の「大阪・関西万博」で関西地域のインバウンドを中心に全国を盛り上げます。

「高付加価値旅行」は、「オーバーツーリズム」が問題視される中で重要な概念です。訪日旅行者数の増加だけでなく、訪日旅行消費額の拡大を目指すべく、高付加価値旅行者に合わせたコンテンツ醸成や効果的な情報発信、国内外旅行者とのネットワーク拡充などを進めます。

▲訪日マーケティング戦略概観:JNTOより
▲訪日マーケティング戦略概観:JNTOより

中東市場のマーケティング戦略

市場別マーケティング戦略では、まず国もしくは地域別のマーケティング方針の大枠が定められています。

この方針に従って「ターゲット」が複数設定されており、それぞれについて年齢性別や観光コンテンツの好み、訪日経験の有無など具体的な属性が想定されています。

それぞれのターゲットに適したプロモーション方法も優先度とともに示されているので、見ていきましょう。

マーケティング方針

  • 多くは訪日旅行未経験者であり旅行先としての日本の認知度が極めて低い市場であることから、まずはゴールデンルートを中心とした地域の豊かな自然、食、文化、歴史などについて、オンライン媒体を中心とした情報発信の強化に重点を置き、新規訪日層の獲得を図る。
  • 高所得者層に特化した高付加価値旅行のプロモーションを行い、旅行消費額単価の向上を図る。

中東市場 ターゲット別の戦略・戦術A(GCC)

ターゲット像A
世帯可処分所得上位30%(1,600万円/年以上)
家族
ターゲットが好む観光コンテンツ
豊かな自然(風景/庭園・花)
ショッピング(マーケット・⽇用品/ラグジュアリーブランド)
食/飲み物(ローカルフード/ミシュラン店)
訴求時のポイント
旅⾏先としての⽇本の認知度が低い。
海外旅⾏、訪⽇旅⾏ともにオーダーメイド旅⾏が半数を占めているため、旅⾏会社向けのアプローチが重要。

優先順位 マーケティング・プロモーション施策 施策の対象
1位 インターネット(WEB・SNS) BtoC(訪日外国人)
2位 旅⾏博・商談会 BtoB(旅行会社など)
3位 レップ BtoB(旅行会社など)
4位 広告 BtoC(訪日外国人)
5位 共同広告 BtoC(訪日外国人)
6位 セミナー・ネットワーキングイベント(メディア・旅⾏関係者) BtoB(旅行会社など)
7位 メディア招請 BtoC(訪日外国人)
8位 インフルエンサー招請 BtoC(訪日外国人)
9位 旅⾏会社招請 BtoB(旅行会社など)
10位 人材育成 BtoB(旅行会社など)
11位 その他(ニュースレター) BtoB(旅行会社など)
12位 セミナー・ネットワーキングイベント BtoC(訪日外国人)
13位 PR(広報) BtoC(訪日外国人)

ターゲット属性詳細
海外旅行実施者に占める割合 ※
12.0%(60万人)
年代
40代:45.4%
30代:29.5%
50代:20.2%
世帯可処分所得
15万 - 19万9,999米ドル:47.4%
20万 - 24万9,999米ドル:35.8%
25万 - 29万9,999米ドル:11.3%
訪日旅行経験率
1回:1.0%
2回以上:1.3%
訪日ファネル
無認知:76.3%
認知:11.3%
興味関心:11.0%
比較検討:1.3%
地⽅エリア訪問希望率
52.0%
同行者
配偶者・パートナー:75.3%
20歳未満の子ども:46.8%
20歳以上の子ども:32.9%
旅行形態
オーダーメイド旅⾏:51.2%
FITパッケージ:24.4%
個人手配:22.0%
滞在日数
12.3日
旅行単価(円換算)
83万6,000円

※「海外旅行実施者に占める割合」は、GCCの海外旅行実施者に占めるターゲットの割合

中東市場 ターゲット別の戦略・戦術B(GCC)

ターゲット像B
世帯可処分所得下位70%(1,600万円/年未満)
家族
ターゲットが好む観光コンテンツ
街並/有名な建築(風景/カフェ)
大都市(夜景/アニメ・映画の舞台訪問/テーマパーク)
歴史/遺跡(歴史的な宿)
伝統文化/芸能(ローカルフード/お茶・お花など室内体験)
訴求時のポイント
旅⾏先としての⽇本の認知度が低い。
ターゲットA、Cと比べ価格に敏感な層。

優先順位 マーケティング・プロモーション施策 施策の対象
1位 インターネット(WEB・SNS) BtoC(訪日外国人)
2位 広告 BtoC(訪日外国人)
3位 共同広告 BtoC(訪日外国人)
4位 旅⾏博・商談会 BtoB(旅行会社など)
5位 レップ BtoB(旅行会社など)
6位 旅⾏会社招請 BtoB(旅行会社など)
7位 セミナー・ネットワーキングイベント(メディア・旅⾏関係者) BtoB(旅行会社など)
8位 メディア招請 BtoC(訪日外国人)
9位 インフルエンサー招請 BtoC(訪日外国人)
10位 セミナー・ネットワーキングイベント BtoC(訪日外国人)
11位 旅⾏博・イベント BtoC(訪日外国人)
12位 人材育成 BtoB(旅行会社など)
13位 その他(ニュースレター) BtoB(旅行会社など)
14位 PR(広報) BtoC(訪日外国人)

ターゲット属性詳細
海外旅行実施者に占める割合 ※
21.0%(110万人)
年代
30代:39.7%
40代:36.0%
50代:21.7%
世帯可処分所得
75,000 - 99,999 USD:29.7%
65,000 - 74,999 USD:23.7%
125,000 - 149,999 USD:21.3%
訪日旅行経験率
1回:0.7%
2回以上:0.0%
訪日ファネル
無認知:74.6%
認知:10.8%
興味関心:11.5%
比較検討:3.1%
地⽅エリア訪問希望率
47.7%
同行者
配偶者・パートナー:79.9%
20歳未満の子ども:54.7%
20歳以上の子ども:30.5%
旅行形態
オーダーメイド旅⾏:44.3%
個人手配:29.5%
FITパッケージ:23.2%
滞在日数
10.9日
旅行単価(円換算)
81万3,000円

※「海外旅行実施者に占める割合」は、GCCの海外旅行実施者に占めるターゲットの割合

中東市場 ターゲット別の戦略・戦術C(GCC)

ターゲット像C
20〜40代
夫婦/パートナー
ターゲットが好む観光コンテンツ
アウトドア/アクティビティ(エコツアー)
食/飲み物(ローカルフード/カフェ/ミシュラン店)
ナイトライフ(ローカルフード/カフェ/ミシュラン店)
スパ/温泉/ヨガ(ラグジュアリーホテル/エステ・スパ/ウェルネス)
訴求時のポイント
旅⾏先としての⽇本の認知度が低い。
⼥性の割合が比較的高い。
オンライン媒体からの情報収集が多い。
オンラインを通じた個人での旅⾏⼿配が多い。

優先順位 マーケティング・プロモーション施策 施策の対象
1位 インターネット(WEB・SNS) BtoC(訪日外国人)
2位 広告 BtoC(訪日外国人)
3位 共同広告 BtoC(訪日外国人)
4位 メディア招請 BtoC(訪日外国人)
5位 インフルエンサー招請 BtoC(訪日外国人)
6位 セミナー・ネットワーキングイベント BtoC(訪日外国人)
7位 旅⾏博・イベント BtoC(訪日外国人)
8位 旅⾏博・商談会 BtoB(旅行会社など)
9位 セミナー・ネットワーキングイベント(メディア・旅⾏関係者) BtoB(旅行会社など)
10位 旅⾏会社招請 BtoB(旅行会社など)
11位 その他(ニュースレター) BtoC(訪日外国人)
12位 PR(広報) BtoC(訪日外国人)

ターゲット属性詳細
海外旅行実施者に占める割合 ※
11.7%(60万人)
年代
30代:56.5%
40代:39.2%
20代:4.2%
世帯可処分所得
75,000 - 99,999 USD:37.9%
65,000 - 74,999 USD:29.7%
100,000 - 124,999 USD:8.5%
訪日旅行経験率
1回:3.9%
2回以上:1.6%
訪日ファネル
無認知:73.6%
認知:12.7%
興味関心:11.0%
比較検討:2.7%
地⽅エリア訪問希望率
44.1%
同行者
配偶者・パートナー:100.0%
旅行形態
オーダーメイド旅⾏:46.0%
個人手配:32.9%
FITパッケージ:15.6%
滞在日数
10.5日
旅行単価(円換算)
68万2,000円

※「海外旅行実施者に占める割合」は、GCCの海外旅行実施者に占めるターゲットの割合

中東市場 ターゲット別の戦略・戦術D(トルコ)

ターゲット像D
20〜40代
世帯可処分所得上位50%(300万円/年以上)
ターゲットが好む観光コンテンツ
暮らし体験/交流(ローカルフード/マーケット・⽇用品/お茶・お花など/室内体験/伝統⾏事・祭体験)
歴史/遺跡(歴史的な宿/遺跡・街並)
アウトドア/アクティビティ(サーフィン/グランピング/スキー・スノボ)
訴求時のポイント
地⽅訪問希望率が高く、訪⽇旅⾏には地⽅便のあるアジア諸国を経由するため、地⽅のPRが効果的。

優先順位 マーケティング・プロモーション施策 施策の対象
1位 レップ BtoB(旅行会社など)
2位 広告 BtoC(訪日外国人)
3位 セミナー・ネットワーキングイベント(メディア・旅⾏関係者) BtoB(旅行会社など)
4位 旅⾏博・イベント BtoC(訪日外国人)
5位 インターネット(WEB・SNS) BtoC(訪日外国人)
6位 共同広告 BtoC(訪日外国人)
7位 インフルエンサー招請 BtoC(訪日外国人)
8位 メディア招請 BtoC(訪日外国人)
9位 旅⾏会社招請 BtoB(旅行会社など)
10位 旅⾏博・商談会 BtoB(旅行会社など)
11位 セミナー・ネットワーキングイベント BtoC(訪日外国人)
12位 その他(ニュースレター) BtoB(旅行会社など)
13位 その他(ニュースレター) BtoC(訪日外国人)

ターゲット属性詳細
海外旅行実施者に占める割合 ※
43.5%(50万人)
年代
30代:58.3%
20代:25.3%
40代:16.3%
世帯可処分所得
1,800,000〜2,200,000 TRY:20.3%
180,000〜250,000 TRY:20.3%
250,000〜330,000 TRY:15.3%
訪日旅行経験率
1回:38.3
2回以上:31.7
訪日ファネル
無認知:17.8%
認知:2.3%
興味関心:18.7%
比較検討:61.2%
地⽅エリア訪問希望率
68.0%
同行者
配偶者・パートナー:73.8%
20歳未満の子ども:16.2%
自分ひとり:11.9%
旅行形態
FITパッケージ:46.2%
個人手配:42.9%
オーダーメイド旅⾏:9.0%
滞在日数
6.4日
旅行単価(円換算)
73万9,000円

※「海外旅行実施者に占める割合」は、トルコの海外旅行実施者に占めるターゲットの割合

中東市場 ターゲット別の戦略・戦術E(イスラエル)

ターゲット像E
30〜40代
ターゲットが好む観光コンテンツ
伝統文化/芸能(歴史的な宿/修⾏・宿坊体験/伝統⾏事・祭体験)
食/お酒(ローカルフード/ミシュラン店/酒蔵訪問)
大都市(現代建築/夜景/ヘリ遊覧)
訴求時のポイント
個人での旅⾏⼿配やFITパッケージを利用した旅⾏形態が多い。

優先順位 マーケティング・プロモーション施策 施策の対象
1位 レップ BtoB(旅行会社など)
2位 セミナー・ネットワーキングイベント(メディア・旅⾏関係者) BtoB(旅行会社など)
3位 共同広告 BtoC(訪日外国人)
4位 旅⾏博・商談会 BtoB(旅行会社など)
5位 旅⾏会社招請 BtoB(旅行会社など)
6位 メディア招請 BtoC(訪日外国人)
7位 旅⾏博・イベント BtoC(訪日外国人)
8位 セミナー・ネットワーキングイベント BtoC(訪日外国人)
9位 広告 BtoC(訪日外国人)
10位 インフルエンサー招請 BtoC(訪日外国人)
11位 その他(ニュースレター) BtoB(旅行会社など)
12位 その他(ニュースレター) BtoC(訪日外国人)

ターゲット属性詳細
海外旅行実施者に占める割合 ※
58.4%(220万人)
年代
30代:54.7%
40代:45.3%
世帯可処分所得
20,000 - 30,000 NIS:21.7%
18,000 - 20,000 NIS:12.0%
15,000 - 18,000 NIS:11.0%
訪日旅行経験率
1回:19.3%
2回以上:14.3%
訪日ファネル
無認知:26.3%
認知:3.5%
興味関心:39.8%
比較検討:30.5%
地⽅エリア訪問希望率
46.3%
同行者
配偶者・パートナー:79.2%
自分ひとり:13.9%
20歳未満の子ども:12.9%
旅行形態
個人手配:39.6%
FITパッケージ:37.6%
団体ツアー:12.9%
滞在日数
7.4日
旅行単価(円換算)
66万4,000円

※「海外旅行実施者に占める割合」は、イスラエルの海外旅行実施者に占めるターゲットの割合

中東市場のマーケティング・プロモーションに使えるツール

2020年よりビジット・ジャパンの重点市場に中東地域8か国が追加されました。2019年の中東地域8か国合計の訪日観光客数は9万5,160人と決して多くはないものの、今後の成長に期待が持てる市場といえます。

また、中東地域は富裕層が多く、1人あたりの旅行消費額も高額になる傾向にあるため、インバウンド対策をはじめるなら押さえておきたい地域のひとつです。

中東地域から訪日客を呼び込むために検討するべきSNSや検索エンジンなどを紹介します。

SNS:Facebook、Instagram(インスタグラム)、YouTube、X(旧Twitter)

SNSに費やす1日の平均時間が日本の1人あたり51分に対し、中東、とくにアラブ首長国連邦とサウジアラビア、トルコの3か国は3時間前後にものぼるなど、中東のインバウンド対策をするうえでSNSは欠かせないチャネルといえます。

なかでも中東地域で多くの人が使っているのがFacebookです。アラブ首長国連邦では65%、サウジアラビア、トルコでは40%以上のシェア率を誇ります。そのほか、Instagram(インスタグラム)やYouTube、X(旧Twitter)などで情報収集することもあるようです。

検索エンジン:Google、YANDEX(ヤンデックス)

世界中で多くのユーザーを抱えるGoogle。中東でもほとんどがGoogleを使用していて、アラブ首長国連邦とサウジアラビアではじつに90%以上のシェア率を誇ります。

トルコでは70%のGoogleに対し、YANDEX(ヤンデックス)が約24%と2番目のシェアを獲得しています。

中東はインバウンド対策をするうえで狙いたい市場のひとつです。Googleを使ったマーケティング施策が必須といえます。