「宿泊施設の観光DX」11例、観光庁が実証事業の成果公表

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観光庁は4月24日、「宿泊施設を核とした観光地のDX推進に向けた実証事業」の成果を公表しました。

2022年10月に選定された11の実証事業について、およそ半年におよぶ観光DXのおもな取り組み内容や成果、次年度以降のビジネスモデル案などを公表しています。

本記事では11の実証事業の成果をわかりやすく紹介します。

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観光DXとは?その目的は

観光庁によると「観光DX」とは、業務をデジタル化することで効率化を図ること。そして収集されるデータを分析・利活用することで、ビジネス戦略を再検討したり新たなビジネスモデルを創出したりといった “変革”を行うものと位置付けられています。

観光DXが実現することで、旅行者のデータに基づいた、持続可能な観光地経営が可能となるのはもちろん、旅行者にとってもより良い体験を提供できるようになります。

観光庁、宿泊施設をメインに実証事業公募

多くの宿泊施設では顧客管理や会計業務に関わるITツールなどを導入し、少なからず観光DXに取り組んでいるのも事実です。一方で、その宿泊施設内で活用するのみで、ほかの観光関係事業者などと連携し、データを活用した分析や戦略に基づいた施策を実施できていないことが課題に挙げられています。

そこで観光庁は、観光地のDXを推進する目的で、宿泊施設をメインに観光DXの実証事業を2022年8月に公募。同年10月に以下の11事業が選定され、公表されました。

No.

応募事業名

申請主体名

1

福島県福島市 飯坂温泉地区 DX・顧客データ活用推進事業

飯坂温泉旅館協同組合

2

温泉街情報共有によるお客様滞在価値向上と地域売り上げの向上の両立

株式会社銀山荘

3

PMSの周辺システム接続における汎用フォーマットの検証事業

仙台ヘリテージツーリズム株式会社

4

宿泊予約と既存の体験コンテンツ予約システムの連動による滞在日数と観光消費拡大に向けた実証事業

一般社団法人高千穂町観光協会

5

宮島中江町エリアにおける宿泊地を主とした観光DX

株式会社地域創生Coデザイン研究所

6

宿泊施設のPMS連携と地域プラットフォームシステムの構築による天童温泉の観光DX実証事業

天童温泉協同組合

7

宿泊データ自動連携×地域の生産性向上=地域全体で消費額UP!

那須温泉旅館協同組合

8

攻めのスポーツ市場誘致のためのワンストップサービス構築に向けたDX事業

NPO法人沼津観光協会

9

[おもてなしを科学する] エリアDXの推進による山ノ内町全体の高付加価値化事業

株式会社ヒューマンアグリ

10

栗原地域サスティナビリティステイDX実証事業

株式会社ゆめぐり

11

PMSを中心とした温泉宿泊施設を取りまとめる宿泊ミドルウェア導入を目指した実証実験

米沢八湯会

観光DXの実証実験成果を公表

11の実証事業を公募、発表したのが2022年10月のこと。それからおよそ半年ほどが経った4月24日、観光庁は「観光地のDX推進に向けた実証事業」の成果を公表しました。ここからは事業の概要と具体的な成果を解説します。

1. 【福島県 ・飯坂温泉】DX・顧客データ活用推進事業

福島県の飯坂温泉では、DXやPMS(ホテル管理システム)などに対して「余計な仕事が増える」などのネガティブな印象を持つ経営者が大半を占めていました。しかし、マーケティングなどの専任スタッフがいない小規模な宿泊施設ほど、PMSを活用することで経営基盤が整う可能性があります。

そこで、PMS未導入の8施設にPMSを導入するところからスタート。導入を敬遠していた経営者も実際に操作することで、予約管理や在庫管理などの効率化を実感したそうです。

また、各宿泊施設に稼働率アンケートを実施することで、エリア全体における日ごとの稼働状況や単価、満足度などが一元的に可視化することに成功。今後、エリア全体でレベニューマネジメントを実施するうえで有用なデータを取集する基盤が整いました。

2. 【山形県・銀山温泉】温泉街情報共有によるお客様滞在価値向上と地域売り上げの向上の両立

山形県の銀山温泉では、宿泊施設の年間平均稼働率が約90%と高稼働な地域ではあるものの、全体的に小規模な宿泊施設が中心で、重要な顧客像を設定できていないことが課題でした。

そこでPMS連携を通じて顧客情報を分析し、最適な方法で顧客に価値を訴求していくことを目指すことに。

今年度はPMS未導入の宿泊施設7軒にPMSを導入することで、銀山温泉エリア全体の予約状況や予約経路、宿泊者属性などを可視化することに成功しました。

今後は地域一体となってデータに基づく検証を実施するため、銀山温泉組合が主体となって進めていくこと。そして自走可能な運営を実現するため、地域プラットフォームからの販売手数料による維持、危機管理対策費からの捻出を検討していくことなどを挙げています。

3. 【宮城県・仙台市】PMSの周辺システム接続における汎用フォーマットの検証事業

PMSはメーカーごとに独自の仕様で開発されているため、じつにさまざまなパターンが存在します。その結果、PMSとほかのシステムを連携させることが困難で、これにより宿泊施設による観光DXが阻害されていることに着目しました。

そこで、汎用性のあるツールを設計、製造してほかのシステムと連携しやすくなる仕組みをつくることで、業界全体で観光DXを実施しやすくなると仮定しました。

システム連携できるPMSの標準化を進め、公開することで周辺サービスと連携しやすくなることが分かったことなどを報告しています。また、オンラインチェックアウトなどができる仕組みをアドオンできる仕様で開発したことも成果として挙げています。宿泊施設の業務が効率化されるだけでなく、宿泊者にとっても快適な宿泊体験を提供できそうです。

4. 【宮崎県 ・高千穂町】宿泊予約と既存の体験コンテンツ予約システムの連動による滞在日数と観光消費拡大に向けた実証事業

日本神話ゆかりの地として知られる宮崎県高千穂町。そんな高千穂を代表する観光名所が「高千穂峡」です。多くの観光客が訪れる一方、ほかのエリアへ周遊しないことによる滞在時間、観光消費の伸び悩みを感じていました。

そこで、本事業に参画する高千穂町内の宿泊施設に直接予約をすると、「宿泊予約者限定 体験予約サイト」から体験コンテンツを優先予約できる仕組みを構築。高千穂町内を周遊してもらう仕組みをつくることで、“通過型”観光地から“滞在型”観光地への脱却を図りました。

また、収集した宿泊データ、体験データを分析することでデータの可視化にも成功したと報告しています。

5. 【広島県・宮島中江町】宮島中江町エリアにおける宿泊地を主とした観光DX

売上アップや生産性向上を目指してデータ活用を検討しているものの、活用のイメージが持てないなどの理由によってDX化が実現できていませんでした。

そこで、地域内の合意形成およびリテラシー向上に向けて「DX勉強会」を実施。20名にもおよぶ宿泊事業者などが参加する結果となりました。

また、PMSデータをもとに需要予測をダッシュボードとして見える化し、レベニューマネジメントを実施。年間・月間の宿泊者数と稼働率の傾向を予測できるようになったことなども報告しています。

6. 【山形県・天童温泉】宿泊施設のPMS連携と地域プラットフォームシステムの構築による天童温泉の観光DX実証事業

天童温泉協同組合に参画している宿泊施設11軒のうち、9軒が同じPMSを使用している一方で、各宿泊施設で異なるインターネット予約システムを採用。その結果、「宿泊+アクティビティ」のセットプランを地域一帯となって販売できないことが課題でした。

そこで、PMSの連携および改修が完了するとともに、宿泊+アクティビティシステムが連動できるプラットフォームを構築。連動検証を実施しています。

さらに、天童エリアの宿泊施設の予約機能を付加し、予約成立後に当該宿泊施設の周辺でできるアクティビティを自動表示するシステムを構築。宿泊とアクティビティの予約を自動化するなどしています。

7. 【栃木県・那須町】宿泊データ自動連携×地域の生産性向上=地域全体で消費額UP!

東京から電車で70分の場所に位置する栃木県那須町。多くの観光客が訪れる一方で、今後8年で約4,000人の人口減少が見込まれています。地域経済が維持発展していくためには「宿泊単価アップ+現地における消費金額アップ」か、「宿泊者数アップ」を実現させる必要があります。

そこでPMSデータを集約し、宿泊動向などの各項目の月次、日時で可視化することなどを実現。今後はビッグデータを活用した最適な宿泊価格の自動提示や、地域観光事業者への需要予測データ共有を実現するため、新たなデータ基盤の構築を検討するとしています。

8. 【静岡県・沼津市】攻めのスポーツ市場誘致のためのワンストップサービス構築に向けたDX事業

予約日から宿泊日までの日数をリードタイムといい、団体客に比べて個人客のリードタイムは短く、単価も高くなる傾向にあります。静岡県沼津市の中心市街地地区に位置する宿泊施設では、低単価の団体予約を受けてしまうことによる機会損失が生じていることが課題でした。

そこで、サイトコントローラーから出力された各宿泊施設の予約データを収集するシステムを開発。また、地域全体で受入可能な宿泊者数を表示するシステムを構築したことなどを成果として報告しています。

今後はスポーツ合宿の手配実績を伸ばすために、沼津市新総合体育館の利用状況サイトとの運用協力と情報の共有化を目指すとしています。

9. 【長野県・湯田中温泉地区】[おもてなしを科学する] エリアDXの推進による山ノ内町全体の高付加価値化事業

湯田中温泉地区の宿泊施設では、人手不足や事業承継が進まないこと、そして地域一体となったエリア分析(売上・マーケティングなど)ができていないことなどが問題でした。

これを解決するため、PMS未導入の3施設にPMSを導入した結果、地域全体におけるデータの取得が可能になったとのこと。また、将来の予約を地域一体となって共有・可視化し、適切な料金設定をする素地としたそうです。

今後は湯田中温泉地域のエリアレベニューマネジメントを行うために、データ基盤の構築を実施するとしています。

10. 【宮城県・栗原市】栗原地域サスティナビリティステイDX実証事業

栗原市内の大半の施設ではPMSやサイトコントローラーなどのシステムが未導入で、DX化という点で大幅に遅れていることから、地域一体となったDX化推進が課題でした。

そこで、宿泊と地域の体験プログラムなどのアクティビティを組み合わせたセット商品をWeb上に掲載。宿泊データ分析システムを通して予約データを集約し、地域全体の顧客属性の見える化、観光客の行動やニーズをリアルタイ ムに捉える仕組みを構築することに成功しました。

今後はPMSなどの導入推進を継続するとともに、「観光DX化にむけた検討会」を継続して開催することで、推進役の決定と運用方法を検討するとしています。

11. 【山形県】PMSを中心とした温泉宿泊施設を取りまとめる宿泊ミドルウェア導入を目指した実証実験

課題としてはデータに基づくレベニューマネジメントやマーケティングなど、戦略策定のための基礎作りが進んでいないこと。そして、宿泊者1名あたりのエリア内消費額や連泊率など、KPIを正確に測る仕組みができていないこと。

これにより適切なボリュームマネージメント、プロモーションに対するコストパフォーマンスの評価ができていないことが挙がりました。

そこでPMSなどの導入・活用状況を把握して地域で共有化。さらに、手書きで台帳管理を行っている施設から、OCR(オプティカルキャラクターリーダー)による読み取り実験を実施するなどしました。

今後は宿泊施設および観光事業者からの移動データ・購買データなどを収集するために、地域基盤システムを構築することなどを課題に挙げています。 


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<参照>

観光庁:「宿泊施設を核とした観光地のDX推進に向けた実証事業」の成果を公表します
観光庁:「宿泊施設を核とした観光地のDX推進に向けた実証事業」の選定事業を公表します
観光庁:事業報告(宿泊施設を核とした観光地のDX推進に向けた実証事業)
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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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