持続可能な観光推進のポイントは?北海道美瑛町・熊本県阿蘇市など先進事例5選【観光庁 持続可能な観光推進モデル事業 成果報告会取材】

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2024年3月1日、観光庁は「令和5年度持続可能な観光推進モデル事業」の成果報告会を行いました。

「持続可能な観光推進モデル事業」とは、オーバーツーリズムの未然防止や地域の自然・文化や生業等の保全・活用にかかる持続可能な観光の普及・啓発を目的として、持続可能な観光の推進における優良モデルの構築を進めるものです。

令和5年度(2023年度)は公募にエントリーした全国の地域・団体の中から10の地域・団体にて事業を実施。その成果について各地域・団体が約8分間の発表を行いました。本記事では、その中から5つの事例を抜粋してご紹介します。

▲「持続可能な観光推進モデル事業」の概要:観光庁より
▲「持続可能な観光推進モデル事業」の概要:観光庁より

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北海道美瑛町:実証実験を行いオーバーツーリズム対策の実現へ

一つ目の事例は、北海道美瑛町での取り組みです。一般社団法人美瑛町観光協会より成果報告がありました。

美瑛町が取り組んだのは、観光客のマナー問題への対策。美瑛町の有名観光地であるパッチワークの丘では、農地が観光地になっていることから、私有地であるにもかかわらず多くの観光客が農地に立ち入ってしまうという問題が長年生じており、今回はその中でも冬季に観光客が多く訪れるクリスマスツリーの木にて実証を行いました。

当初、観光協会のみで対策を考えていたこの課題について、2023年度は観光に関わる様々なステークホルダーの意見を取り入れることに。また、農地立ち入りの発生状況を明確に把握し、効果検証を行い、次年度以降の具体的な対策に落とし込むことを目指したと言います。

中でも注目されたのは、屋外IPカメラを使った実証実験。カメラを設置してマナー問題が特に発生している箇所を見える化するとともに、4パターンの施策について1週ごとに効果検証を行いました。

  1. 屋外IPカメラの設置のみ
  2. 屋外IPカメラの設置+マナー啓発動画の放映
  3. 屋外IPカメラの設置+「監視カメラ作動中」のサインの提示
  4. 屋外IPカメラの設置+無断侵入に対する自動音声対応

結果として、3の「屋外IPカメラの設置+『監視カメラ作動中』のサインの提示」が農地への無断侵入の未然防止に効果的であることが判明しました。また、パッチワークの丘周辺は農地が観光地になっているという国内でも珍しい立地であり、「どんなルールがあるのか」を知らない観光客も多いことから、まずはルールを周知することの重要性が見えたとのことでした。

そして、この実証事業で明らかになったクリスマスツリーの木周辺の実態や観光客の反応をもとに、DMO戦略会議にて次年度以降の具体的な施策を議論しました。

まずは、農地に入ってはいけないことや、農地に入ることで作物に細菌や病気をもたらしてしまう可能性があることなどを観光客に周知すべく、ニセコや京都を参考に「びえいルール」の制定を検討。また、他のエリアへの屋外IPカメラの設置や、駐車料金などを活用した観光客負担による環境保全・受入環境整備に係る財源確保の仕組みづくりを提言書としてまとめました。

こうした美瑛町の取り組みに対し、持続可能な観光指標に関する検討会の委員であり、北海道大学観光学高等研究センターの客員教授を務める小林英俊氏は「10数年前から問題になっていた観光客による農地への侵入について、実態がクリアになったことは大きな一歩だと思う」とコメントしました。加えて、住民の理解を得て、地域をあげて「『農地に入ってはいけない』という態度を示すこと」の重要性についても語りました。

山形県鶴岡市:人口減少が続く地域で観光振興とまちづくりを両立させる

次にご紹介するのは、株式会社めぐるんによって発表された山形県鶴岡市の出羽三山における取り組みです。

修験道を中心とした山岳信仰の山として知られる出羽三山は、かねてよりその歴史文化的な価値が認められ観光地としても来訪者を受け入れてきたものの、それを地域づくりに繋げられていたとは言えない状況でした。

そこで目指したのが、手向地区における信仰・観光の営みを核とした持続可能な地域づくりです。手向地区ではこれまで、地区の有志が観光振興と地域づくりを絡めた体制を模索してきました。

具体的には、地域の方々や前年度以上の範囲のステークホルダーを積極的に巻き込み、ヒアリングを実施。手向地区の信仰観光の中核になっていることや、今後守っていきたいものなどについて地域と共有し、現状の課題の構造を整理したうえで、まちづくりビジョン実現のためのロジックモデルを策定したとのことです。

その成果として、手向地区においては歴史的文化資源である信仰文化を守り活かすコンテンツによって来訪者・事業者・地域社会の関係を強化することが、地域づくりと観光振興の両方に繋がっていくというシナリオを見出すことに成功しました。

同時に、この過程の中で課題も明らかになったと言います。出羽三山は「宿坊(※参詣者を受け入れ参拝前に心身を清めることを目的とした施設)」や「講中(※信仰をともにする人たちの集まり)」の文化が今も続く唯一無二の文化的価値を持つ資源であるものの、現行の法律の枠組みでうまく守れていないことがわかったのです。今後はその実態に対する行政の理解を得ることや、地域を守るための事業費の捻出に努めたいとのことでした。

一連の取り組みの中で小林氏が特に着目したのは、「精神文化の観光化」という難易度の高い問題に対して非常にロジカルに取り組んでいる点でした。日本の精神文化に対する海外の注目度の高さにも触れ、今後期待されるインバウンドのための基盤づくりとしても高く評価しました。

岐阜県高山市:市民の意向を正確に把握するための調査・分析手法を確立

これまでも多くの訪日外国人旅行者が訪れていた高山市には、2023年には人口の6倍の訪日外国人旅行者が宿泊しました。

コロナ禍を経て旅行者数が回復したことは市内経済にとって明るいニュースではあったものの、他方で急激な旅行者数の回復により、旅行者の満足度の低下、住民の暮らしの快適性に影響を及ぼすことの懸念の他、観光関連事業者の人手不足等の課題が顕在化してきました。

こうした中で、観光関連事業者・従事者の状況や、観光が市民生活に及ぼす影響を十分に踏まえながら、力強くインバウンドを本格回復させていくことにより、外国人旅行者による観光振興を市民の幸福度の向上や地域の豊かさにつなげていくため、今回のモデル事業において、市民・観光関連事業者を対象としたアンケート調査の実施や、持続可能な観光振興に向けた指標の検討が行われました。

市民を対象としたアンケート調査では、市民の「観光客歓迎度」や生活への影響等が定量的に明らかになりました。さらに、本調査結果に基づいた分析により、各要素における市民の「観光客歓迎度」に及ぼす影響度を測ることが可能となり、施策の優先順位づけの参考となる情報も得られたといいます。

今後は、今年度得られたデータや知見を踏まえ、観光に係るマネジメントサイクルの確立や、市民生活と観光振興の調和を図るための具体的な施策を実施したいと話しました。

小林氏は、地域内の事業者の協力を得る上でも、具体的な数字を見せることの重要性について示唆するとともに、今年度、高山市において実施された取り組みを高く評価しました。市民アンケートの結果における観光に係る「市民の理解度や協力度の高さに驚いた」としつつも、さらに高山市として高みを目指す姿に、観光地のロールモデルとして今後の取り組みに注目したいとの感想を述べました。

三重県明和町:観光振興への関心が低い地域をサステナブルな観光地へ

4つ目の事例として紹介するのは、明和観光商社が行った三重県明和町での挑戦についてです。

松阪市と伊勢市の間に位置する明和町は、その立地から江戸時代までは多くの人が訪れていた地域。しかし、明治時代に鉄道を開通させなかったことで賑わいを徐々に失っていったという歴史的な背景があります。そんな同町には国史跡「斎宮跡」など魅力ある歴史資源があるものの、住民には観光振興に対する意識がほとんどなく、その意識改革を目指していました。

「歴史・文化がサステナブルな“斎宮”の創生」をテーマにまず取り組んだのが、将来に繋がる小さな好循環づくりです。

具体的には、地域住民と一緒に植えた花畑から発想を得て、史跡や町内の廃棄素材、生ごみ等を減らすたい肥・土づくりにつながるソーシャルコミュニティを形成、環境と住民の小さな循環づくりを展開。

また、町内の飲食店を対象とした地産地消の現状に関するアンケート調査、史跡内の風物詩だったはさ掛け(※棒などにかけて天日干しにする方法)での干し大根を飲食店へアンケートの謝礼として配布することによる地産地消への啓蒙、地域住民と参加者が交流できるサステナブルツアーの企画・実施などを行い、地域内での人々の接点を多数設けました。

明和町の意識改革におけるポイントとして明和観光商社の中岡氏が語ったのは、観光振興意識が低い地域だからこそ、地域を巻き込む中で「観光」というワードを出さないことの重要性です。知らず知らずのうちに観光への興味や理解が醸成されることや、今後につながる行動変容を意識して取り組んだと話しました。

こうした明和町の取り組みは「観光の”ない”町がどう観光を作り出していくか?」の実験でもある、と小林氏。花植えや土づくりから、はさ掛け大根という郷土景観を守るというところまで、この循環の仕組みを1年で築いたことを讃えました。また、1年間で延べ数百人の関係者を巻き込んだ点にも着目し、そこで生まれた信頼関係やコミュニケーションが今後の取り組みの後押しになるのではないかと期待を込めました。

熊本県阿蘇市:行政と事業者が二人三脚で、個別の現状把握やアクションプラン策定まで

成果報告会の最後に発表されたのは、阿蘇カルデラツーリズム推進協議会による熊本県阿蘇市での取り組みと成果でした。

同市では、2020年にキックオフとなるシンポジウムを実施して以来、人材育成を含めて持続可能な観光育成に取り組んできました。その中で阿蘇市は、持続可能な観光地の国際的な認証団体「グリーン・デスティネーションズ」より、世界の持続可能な観光地トップ100に2021年、2022年と2年連続で選ばれています。

そんな同市が2023年度に目指したのは、グリーン・デスティネーションズのブロンズ※1 以上の取得に向けた、サステナブルな観光のさらなる磨き上げ。これまでの取り組みの成果を「見える化」し、各事業者が「自分ごと」として取り組む状態をつくってきたと話します。

※1 グリーン・デスティネーションズは、認証までのプロセスにおいて段階的な表彰制度を設けており、Top100、ブロンズ賞、シルバー賞、ゴールド賞、プラチナ賞、グリーン・デスティネーションズ認証というステップとなっている。

特に2023年度は宿泊施設に焦点を絞り、宿泊事業者を対象に専門家によるセミナーや人材育成に関する研修会、GSTC※2 による研修会を実施。その後、中でも意欲的な宿泊施設に対し、個別の状況の対面ヒアリングやアクションプランの策定なども行ったそうで、行政と事業者が二人三脚で持続可能な観光を推進する様子が印象的でした。

※2 GSTCとは、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会、Global Sustainable Tourism Councilの略。

今後3年のビジョンも明確で、宿泊・観光事業者、地元住民、行政団体などの三者がそれぞれのアクションプランを継続的に実施することにより、旅行者、地元、自然の「三方良し」の循環の輪を回し続け、そしてロールモデルとして他のエリアにも広げていくことを目指したいと話しました。

阿蘇市の発表後、小林氏は成果報告会の総括も兼ねて「発表された10の地域・団体の取り組みの中で、阿蘇市は最もステージが進んでいる事例である」とコメント。グリーン・デスティネーションズのブロンズを目指すフェーズにあることはもちろん、その目標に対して具体的にどんなことをすべきかを提示できること、さらにはその内容を深めたり広げたりすることができる点を評価しました。そして、阿蘇市の取り組みを例に、事業者をうまく巻き込むにあたってはコンテンツづくりまで一緒に取り組むことが重要であることを全体に共有しました。

また観光庁は、持続可能な観光の実現には、計画を作ることとその計画に対する指標を作ることの重要性を改めて示しました。

ーーー

以上、「令和5年度持続可能な観光推進モデル事業」の成果報告会で発表された取り組みの一部を紹介しました。

インバウンドの急増や地域の人口減少などを背景に、観光業においても「サステナブル」が重要なキーワードとなりつつある昨今。持続可能な観光推進を今後日本全国へ広めていくうえで、今回ご紹介したようなモデル事業が果たす役割は大きいはずです。まずはこうしたモデル事業から学ぶことが、持続可能な観光を実現する上での第一歩となるのではないでしょうか。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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