【連載:マーケティング用語・施策の基礎解説】 |
ABC分析は、商品や顧客、在庫などを重要度に応じてランク付けし、優先的に管理・分析すべき対象を明確にするためのフレームワークです。「重点分析」とも呼ばれ、特に在庫管理、販売戦略の立案、顧客管理といった幅広い分野で効果を発揮します。
この手法は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが提唱した「パレートの法則(80:20の法則)」の考え方を応用しており、限られたリソースを最も成果に繋がりやすい部分に集中させるのに役立ちます。
この記事では、ABC分析の基本的な意味や目的から、具体的なメリット・デメリット、実践的な手順(やり方)、マーケティングへの活用事例、そして分析を行う上での注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
ABC分析を正しく理解し、日々の業務や経営戦略の改善にぜひお役立てください。
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ABC分析とは
ABC分析とは、商品、在庫、顧客、売上など、分析対象となる様々なデータを重要度や貢献度に応じて「A」「B」「C」といったランク(グループ)に分類し、優先順位をつけて管理・分析するための手法です。
この分析を行うことで、企業は限られたリソース(時間、資金、人的資源など)を、どの分野やアイテムに重点的に投下すべきかを客観的かつ効果的に判断できるようになります。
そのため、「重点分析」や「重要項目分析」とも呼ばれています。
ABC分析の基本的な考え方
ABC分析では、収集したデータを特定の指標(例:売上高、利益額、販売数量など)に基づいて評価し、アイテムをランク付けします。
一般的には、以下のような基準でグループ分けされますが、この基準(閾値)は企業の状況や分析の目的によって柔軟に設定されます。
- Aグループ:最も重要度が高いグループ。全体のごく一部の品目(例えば、全アイテム数の10~20%程度)でありながら、全体の売上や利益の大部分(例えば、70~80%程度)を占める。最優先で管理・投資すべき対象であり、手厚い在庫管理や積極的な販売促進が求められる
- Bグループ:Aグループに次いで重要度が高い、中程度のグループ。Aグループほどではないものの、企業にとって一定の貢献がある品目群(例えば、全アイテム数の20~30%程度で、全体の売上の15~25%程度を占める)。状況に応じて管理方法を検討する
- Cグループ:重要度が低いグループ。多くの品目数(例えば、全アイテム数の50~70%程度)を含むものの、全体の売上や利益への貢献度は低い(例えば、5~10%程度)。管理コストの最適化や、場合によっては取り扱いの縮小・中止も検討される対象
このように、ABC分析でグループ分けに使われる指標は、売上高だけでなく、販売個数、利益率、在庫回転率など、分析の目的に応じて多岐にわたります。
「A」に分類されたアイテムが、その指標において組織にとって最も重要なものであり、経営資源を集中させるべき対象となります。
パレートの法則(80:20の法則)との深い関係性
ABC分析の考え方の根底には、「パレートの法則」という経験則が存在します。
これは、「成果全体の約80%は、限られた一部(約20%)の要素によって生み出されている」という考え方で、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートによって提唱されました。
「80:20の法則(はちじゅうにじゅうのほうそく、にっぱちの法則)」としても広く知られています。ビジネスにおけるパレートの法則の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 「全商品のうち、上位20%の品目が総売上の80%を稼ぎ出している」
- 「全顧客のうち、上位20%の優良顧客が総利益の80%をもたらしている」
- 「ウェブサイトの全ページのうち、20%のページが全体のトラフィックの80%を集めている」
ABC分析は、このパレートの法則の考え方を実際のデータ分析に落とし込み、「どの20%(Aグループ)に注力すれば、80%の成果(あるいはそれ以上の効果)を得られるのか」を具体的に特定するための有効な手法です。
これにより、たとえば「利益の大部分を生み出すAグループ商品の在庫を重点的に確保し、欠品を絶対に防ぐ」「Cグループ商品の在庫は極力抑え、管理コストを削減する」といった、メリハリの効いた具体的な戦略や行動指針を導き出すための重要な指標となります。
関連記事:パレート分析とは?課題を絞り込み・パレート図についても解説
ABC分析を行う3つのメリット
ABC分析を行う次の3つのメリットについて解説します。
- 重点的に取り組む課題が明確になる
- 定期的に施策効果を可視化できる
- 使用方法を覚えれば、さまざまなシーンで活用できる
重点的に取り組む課題が明確になる
ABC分析で、商品・サービスをランクづけることで優先順位がわかるようになります。各ランクは以下のように捉えられます。
Aランクに値する商品は比較的少なくなりますが、売上に占める割合は大きく影響度も高いです。課題解決を行うのであれば、最優先で取り組む必要がある項目になります。
Bランクは、Aランクほど優先度は高くありませんが、影響力があります。Aランクを改善した後に、必ず着手するべき項目です。
Cランクは全体にはあまり影響しない商品なので、すぐに改善する必要はありません。
このように、商品やサービスの重要度を確認し、どの商品により多くの資金を投入するのか、もっと力を入れてプロモーションしていくかなどを決定することができます。
また、ランクAとランクBの商品を組み合わせてマーケティングしたり、ランクCの取り扱いを検討したりするなど、会社の利益を向上させるための有効な計画を立てられます。
定期的に施策効果を可視化できる
パレート図を作成することで、商品の影響力や優先順位が一瞬でわかるようになります。したがって、定期的に同じ項目を分析し結果を比較することで、打ち出した施策にどれだけ効果があったかも可視化できるようになるのです。
継続していくことでさまざまな動向や重要商品を判断できるようになり、安定した経営につながることが期待できます。
使用方法を覚えればさまざまな項目で活用できる
ABC分析のやり方を覚えれば、さまざまなデータ項目で同じように分析できるようになります。現象、時間、場所、特徴、材料など多角的に分析することで、「どんな特徴を持つ商品が、どの時間帯に、どこで売れているのか」がわかるようになるはずです。
上位の20%の原因を解決することで、問題全体の80%が解決すると言われています。仕事のさまざまなシーンで、すべての課題に取り組むのではなく、まずは重要な20%にだけ着目すればよいと考えると業務効率化にもつながるのではないでしょうか。
ABC分析の手順(売上を指標とする場合)
ここでは、実際にABC分析を行うための手順を紹介します。今回は「売上」を指標にグループ分けする場合を説明します。
大きく分けて、以下の4つの手順があります。
1. 必要なデータの準備
まずは、ABC分析を行うために必要なデータを準備します。
商品の売上高、利益率、回転率などさまざまな角度からデータを収集しますが、在庫管理などで使用しているシステムがあればそこで収集しているデータなどを流用することもできます。
データが集まればエクセルでも分析は可能です。売上高で分析するなら売上金額の高いものから順番に並べる、利益率で分析するなら利益の高いものから並べ替えるなどすると分析しやすいでしょう。
2. 各商品の売上構成比を算出
今回は売上を指標に商品をグループ分けする場合を考えるので、まず、全商品の売上における、それぞれの商品の売上の比率を計算します。
ある商品の売上の比率を出すには、その商品の売上を売上全体で割り算することで求められます。算出された比率が売上構成比です。
続く分析のために、売上構成比の大きな順番に商品を並べます。
3. 累積構成比を元に分類
それぞれの商品の売上構成比の計算が終わったら、「累計構成比」を算出します。累計構成比は、それぞれの商品の売上高が、売上高全体に対してどの程度の割合なのかを計算した数字です。
先に算出した売上構成比をもとに、構成比が大きい順番に並べます。次に、複数の商品の売上構成比を合算し、累積構成比を求めます。
累積構成比が全体の70%、20%、10%である商品のグループに分けて、それぞれをA、B、Cとします。
この時の累積構成比は、自社の状況に合わせて設定します。累積構成比が60%、30%、10%という分け方や、50%、40%、10%という分け方などが考えられます。
4. パレート図の作成
ABC分析で3つのグループ分けができたら、パレート図を作成します。
パレート図とは、売上の高い順に商品を並べた棒グラフと累計構成比を合わせたグラフを指します。パレート図は商品の重要度と販売件数の関係を視覚的に理解できます。
パレート図は、エクセルなどの表計算ソフトで簡単に作成できます。表計算ソフトにはテンプレートが入っているため、ABC分析のデータが入力してあれば専門知識がなくても作成可能です。
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ABC分析のマーケティングへの活用法
ABC分析は難しいデータ分析や特別なツールがなくても簡単にできます。
ここからは、実際のマーケティングへの活用法を見ていきます。
在庫管理
ABC分析の結果を在庫管理に活用する場合は、グループごとに確保しておく在庫の数を決めることができます。
たとえば、Aグループに属する商品は、パレートの法則を当てはめると売上の80%を作り出す主力商品です。そのため、常に在庫を切らさないように十分に確保し、一定数になったら忘れずに補充しなければなりません。
逆に、Cグループは売上への貢献度が低いため、在庫を抱えないように調整する必要があります。
AとCの中間に位置するBグループの商品は、一定期間での販売数を計算して定期的に少量発注するなどの計画を立てます。
顧客売上管理
ABC分析は、顧客ごとの売上管理にも活用できます。年間の顧客別利益率を見ることで、どの顧客が自社にとって重要なのかを可視化できます。
また、四半期ごとや年度で区切ってデータを比較することで、Aグループにいた企業がBグループに下がったり、Cグループだった顧客がAグループに上がったりした場合に気づきやすくなります。
可視化することで利益率が変化した顧客がすぐにわかるため、個別に要因を探ることができ正しい対処法を導き出すことが可能になります。
ABC分析の注意点
非常に便利なABC分析ですが、実践する前に押さえておきたい3つのポイントがあります。
- 一過性の商品の場合がある
- 売上構成比が低くても重要度が高い商品がある
- ECサイトではCランクの商品にも注目する
3点とも意識しておかなければ、優先順位を認識し間違えて売上に大きく響いてしまう可能性もあるのでチェックしておきましょう。
一過性の商品の場合がある
たくさんある商品の中には、一定期間のみ売れる「一過性商品」があります。
このような商品は、年間の売上を見るとCグループに属する場合でも、一定の期間だけAグループに属することがあります。
それがどの期間に起こるのかを把握し、その期間は在庫切れを起こさないように計画的に発注をするようにします。
売上構成比が低くても重要度が高い商品がある
前述の一過性商品と同じような商品に、見せ筋商品・季節商品・新商品といったものがあります。
見せ筋商品は、顧客を呼び込むのに期待できる商品のことで、それ自体の売上は低くてもほかの商品を見てもらうためのきっかけとして必要な商品です。
季節商品は、クリスマス用品や水着など、その季節にしか売れない商品ですが、毎年必ず売れて短期間で大きな売上を上げる商品です。
販売開始されたばかりの新商品は、これからプロモーションに力を入れることで売上アップを期待できるものも多いでしょう。しかし分析を行った際、Cランクだったことを理由にプロモーションを放置してしまうとせっかくのチャンスを逃してしまうことになります。
ABC分析を行う際は、一過性商品や売上構成比が低い商品などほかとは異なる特徴を持つ商品にどれだけ気付けるかが重要なポイントといえます。
ECサイトではCランクの商品にも注目する
ネットショップで販売している商品を分析する際は、実店舗と同様の分析が適さない場合もあります。ECサイトのメリットとして、在庫管理やディスプレイするのにコストがかかりません。そのためCランクに所属する商品も、維持コストをかけることなく販売できます。
Cランクも含めた幅広い商品を取り扱うことで、ニッチな層を逃さず顧客の幅を広げることが可能です。
上記の考え方は「ロングテールの法則」とも呼ばれており、実店舗ではCランクに分類される商品でも、ECサイト戦略によっては利益に貢献する重要商品になる場合もあります。
ECサイトでABC分析を取り入れる場合は、ロングテール戦略を意識し、サイトの閲覧数や成約率(コンバージョン率)を分析項目にすることをおすすめします。
ABC分析を活用して店舗経営を効率的に
在庫管理や顧客管理に有効なABC分析は、商品や顧客の重要度を可視化して効率的な経営戦略やマーケティング計画を立てるのに役立ちます。
それぞれの要素の重要度がわかれば、資金や労力を投入する対象がわかるので、優先すべきことを判断できるでしょう。
まずはさまざまな角度からデータを収集して分析し、何を優先していくのかを見極めるとよいでしょう。
ただし、すべての商品に対して同じ視点で分析を行ってしまったり、ランクに対する捉え方を誤るとABC分析は正確に機能しなくなります。ABC分析を行う際は、なるべく多くの視点を持ち商品の特徴や分析項目について考えることが重要です。
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