日本の伝統芸能や古くから伝わる文化、また広く知られている典型的な日本に魅力を感じる外国人は少なくありません。日本の江戸時代から続く文化である「芸者」の存在も、そうした「日本らしい」イメージを持つ存在の一つでしょう。
英語圏では、「Geisha」という単語が存在するほどの認知を獲得しています。
芸者は、宴席での接待や、舞いや唄、三味線などの芸で宴席を盛り上げてきた存在です。宴席に芸者を呼ぶ文化が廃れつつあるなかにあっても、芸者が日本文化を体現する存在であることには変わりはなく、観光市場の成長に伴い、活躍の場も増えてきています。
温泉街の箱根でも、芸者は古くから観光客を楽しませてきました。宴席以外での芸者の活躍の場をプロデュースすることを目的に、2019年秋より、イベント「Meet Geisha」が開催されています。
芸者の技能を身近に鑑賞できるとして好評を博してきたイベントでしたが、新型コロナウイルスの流行により、その形式を再検討せざるを得ないことになりました。
こうした事態を受け、「Meet Geisha」では2020年5月下旬より、日本で初めて、Zoomを利用した「芸者とオンライン飲み会」を開催しています。さらに5月末からは、インバウンド向けプログラムの提供も開始しています。
この取り組みに対し、海外からも問合せや申し込みが絶えず、運営元のガイアックスでは、新たなインバウンド観光の可能性を感じさせられているといいます。今回は、箱根芸者衆とイベント運営を行っている「Meet Geisha」所属の西村さんに話をうかがいました。
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日本初「芸者とオンライン飲み会」を開始!
ガイアックスでは、2019年の秋より、箱根見番(箱根湯本芸能組合の事務所)とともに、箱根観光客向けの芸者ショーを開催していました。
今回の新型コロナウイルスの流行を受け、2020年5月下旬より、オンラインイベント「芸者とオンライン飲み会」の提供を開始しました。
芸者とのオンライン飲み会は、日本で初の試みです。
2020年6月現在、毎週金曜と土曜のそれぞれに、20時開始、21時開始の2つの時間帯で開催されています。いずれも30分間のイベントとなっています。
定員は6名です。個人での参加、グループでの参加いずれも可能で、他人と同時参加となる場合もあります。
参加費用は1,650円(税込み)であり、メールで届けられるURLにアクセスし、オンライン会議ツールのZoomを利用して、芸者と参加者が対面します。
英語対応もスタート
日本初の「芸者とオンライン飲み会」は、5月最終週からは英語版もスタートさせています。
オンラインイベント「Meet Geisha Online Drinking」は、毎週金曜と土曜のそれぞれ21時開始、21時半開始の2つの時間帯で開催されています。日本語の「芸者とオンライン飲み会」と同じく、30分間の時間で開催されます。
参加費用は2,000円(税込み)です。参加人数は同じく6名までです。オンライン会議ツールのZoomを利用して、箱根の芸者と海外にいる参加者が対面します。
英語でのサービス、告知前から問い合わせも!英語版「芸者とオンライン飲み会」
芸者とのオンライン飲み会は5月22日から開始していますが、この時点では英語でのサービスは提供しておらず、またその告知もしていませんでした。
ところが、日本語版の「芸者とオンライン飲み会」を提供開始してすぐに、30件近く英語での問い合わせが入り、インバウンドのニーズについてかなり強い手ごたえを感じたそうです。
5月23日から英語版「芸者とオンライン飲み会」の申込み受付を開始すると、2日間に2コマずつの4つの枠は、数日足らずで満席になってしまったそうです。
ケース1. 誕生日パーティをオンラインで
5月末の第一回目の開催日には、6名のグループが英語版「芸者とオンライン飲み会」である「Meet Geisha Online Drinking」に参加くださったといいます。
家族の誕生日を祝う場として、世界各国に在住するメンバーがZoomにアクセスし、芸者の待つ場に集合します。
担当した芸者は箱根湯本についてや日本の芸者について、そして唄や踊りを披露し誕生日パーティを盛り上げたそうです。
ケース2. 複数の参加者がアクセス:フランス・インド・アメリカから
また別の開催では、フランス、インド、アメリカと異なる地域から参加者が6名集まったといいます。
1つめのケースとは異なり、参加者の複数名はグループでの参加ではありましたが、もともとの面識のない方も一堂に会する形での開催となりました。
イベントは、出演する芸者のパフォーマンスを鑑賞する形で進行するため、いらしていただく方の間につながりがなくともスムーズに開催できたということです。
ケース3. インドネシア、タイからの問い合わせ
英語での情報発信はまだ開始していない中で問合せも発生しているだけでなく、対応していない言語でのイベント開催についての打診も、すでに数件発生しています。
「芸者とのオンライン飲み会」はインドネシア、タイ、クロアチア、イタリア、ドイツのメディアに取り上げられています。
海外TV局からの問い合わせもあり、どんどんこの先予約が増えそうだと感じているそうです。世界の各地に、日本の「Geisha」と交流したいというニーズが確かにあるようです。
インバウンドに楽しんでもらう際の課題は?
これまでリアルで提供してきたパフォーマンスに対し、訪日外国人からの満足度は非常に高かったと西村さんは話します。
これまでも「Meet Geisha」は、インバウンドの関心を引き付けてきました。新型コロナウイルスの流行以前のリアルでのパフォーマンス鑑賞には、日本と外国人の比率は約半々でした。
観光地としての箱根は、中国や韓国からの訪日観光客にも人気のスポットですが、イベントの多言語対応は現状英語だけを提供していたこともあり、アメリカやヨーロッパからの観光客と思しき方が多かったそうです。
オンラインでの芸者との飲み会は、日本で初めての試みでもあります。海外向けのパフォーマンスでも、実際に開催してみて初めて調整が必要な点に気づいた点もあるそうです。
時差にどのように対応するか
西村さんのお話しによれば、今後まず調整が必要となってくるのが時差を考慮したイベントの開催時間です。
スタートしたばかりの今、開催時刻は日本の飲み会の時刻に設定されています。参加者の居住する地域によっては、朝や昼であることも珍しくありません。
現地時間の朝の時間帯に、この「芸者とオンライン飲み会」に参加された女性は、コーヒーで乾杯していたそうです。
こうしたケースを考えると、相手が楽しめる時間なのであれば、現地時間の「夜」にこだわる必要はないのかもしれません。その一方で、現地時間で好きな時刻を選択できるようなこともこの先必要となってくると考えているといいます。
「テンション」どう伝えるか:格式高いととらえられてしまうことのデメリット
2点目の課題は、「芸者とのオンライン飲み会」というイベントに対して、時に格式ばったものであるというイメージを持たれたり、あるいは、何かルールがあるのではないかという誤解を与えてしまっている場合があるということです。
「芸者との飲み会に適切な飲み物は何か?どういった選択であれば失礼にあたらないのか?」という質問が先に送られてきたこともあるといいます。
西村さんは、日本にはまだまだ、観光客が喜ぶ価値ある文化がたくさんあると考えているといいます。こうした魅力は、海外に伝わっていないことが課題です。
海外に向けて発信すれば響くコンテンツの一つに芸者があり、その魅力に気付いてもらうためには、情報発信と同時に「敷居を下げる」取り組みが必要だと考えているそうです。
こうした、「一見すると敷居が高い『文化』に関心を持ってもらうために、そして実際に足を運んでいただいたりオンラインの体験に参加していただいたりするためにも、芸者との交流には特別な手順や規則はないのだと伝えられる何かしらの工夫が必要」だと、西村さんは感じているといいます。
「パフォーマー」としてのGeishaの魅力
過去には宴席で舞いを披露するのが芸者の役割でしたが、時代の変化に合わせ、Meet Geishaの芸者は、「ショー」として日本の伝統芸能を見に来る観光客に向けて披露しています。
箱根の芸者の特徴は、カジュアルさ、気さくなコミュニケーションの姿勢にあるといいます。こうした彼女たちの性格を基盤に、観光客により深い体験をしてもらえるよう、Meet Geishaのイベントでは芸者と観光客のコミュニケーションの機会を設けていました。
具体的には、芸者さんに質問できる時間を長めに設けたり、ショーの前後には出演する芸者が来場者に声をかけるといった取り組みを試してみたりしています。
コロナ前のリアルの場でのパフォーマンスにおいて、翻訳機械やアプリは使用せず専門の通訳者を起用していたそうです。ニュアンスの細部まで伝わること、それを通じて芸者の人柄を感じ取ってもらうことに重きをおいているといいます。
芸者のパフォーマンスイベントは、観光客が芸者のパフォーマンスを鑑賞するだけでなく、芸者との交流を通じて、理解を深めたり思い出を作ったりできる場になっているといえるでしょう。
オンラインでもコンテンツ提供できるという強み
訪日外国人向けのコンテンツは、実際に体験してもらうまでや、手に取って購入してもらえるまでの道のりが、当然長くなっています。越境ECも普及しつつありますが、まだまだ日本に来て体験、購入してもらうことのほうが多いのが現状です。
ところが、今回の新型コロナウイルスの流行は、こうした直接足を運ぶことを事実上不可能にしてしまいました。
そこで「芸者とオンライン飲み会」のコンテンツがスタートしたわけですが、モニター越しのパフォーマンスやコミュニケーションにも確かに魅力があることが再確認されました。
参加者と出演者の双方が、別々の場所にいながら、同じ空間を共有できることがオンラインコンテンツの特徴です。コンテンツの内容によっては、同じ時間にアクセスする必要もなくなるかもしれません。
芸者の提供する日本文化のコンテンツは、今後さらに市場を広げていくことが期待できるでしょう。
離れていても「おひねり」できる:30分で1万円のおひねりを頂戴したケースも
宴席では、芸者をねぎらったり、感謝や好感を示す意味を込めて観客が「おひねり」を渡す習慣があります。
「芸者とのオンライン飲み会」でも、芸者のパフォーマンスに対して「おひねり」を届けられる仕組みを整えています。AmazonPay、ApplePayやクレジットカードでおひねりの代金を支払い、全額が芸者に届く形です。
これまでに開催したオンライン飲み会では、30分という制限時間の中で1万円を送ってくれた参加者もいたそうです。「新型コロナにより芸者が立たされる苦境に心を痛めている」「回復を祈る」といった気持ちも込められているようです。
アフターコロナのインバウンド向けコンテンツ
新型コロナウイルスの流行は、観光業界に大きな打撃を与えています。東京でのオリンピック開催を前に、世界の観光市場における日本の認知が高まる中での誰も予測しなかった事態に、観光業界では新たな魅力創出と集客の必要性に迫られています。
同時に、「芸者とのオンライン飲み会」を開催する前から、Meet Geishaでは、「芸者という存在への心理的な敷居を下げる」ことを意識してきたといいます。
「こうした心理的な敷居を下げることは、価値を下げることではない」と西村さんは語ります。
アフターコロナの観光市場では、これまで以上にリッチなオンラインコンテンツが生み出されていくと考えられます。対照的に、オフライン(リアル)でなければ届けられない魅力の価値も高まっていくでしょう。
オンライン、オフラインのコンテンツが持つそれぞれ魅力についてしっかりと認識し、また双方をどのように連携させるのかを考えたうえで市場に訴えていく感覚が、これまで以上に重要になっていきそうです。Meet Geishaの「芸者とのオンライン飲み会」はその先陣を切るケースとなるのかもしれません。
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<参照>
芸者とオンライン飲み会Presented by Meet Geisha
PRTIMES:世界初、オンラインで芸者さんと遊ぶ“リモート”インバウンド観光「Meet Geisha Online Drinking」開催報告
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