中国で「氷雪経済」が発展 日本のスノーコンテンツの現在地と今後の可能性は?

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近年、中国では雪や氷を観光資源として活用した「氷雪経済」が急速に発展し、大規模な市場へと成長を遂げています。

日本のインバウンド市場においてもウインタースポーツは有力なコンテンツで、北海道や長野のスノーリゾートは高い人気を集めています。

世界的にスノーコンテンツを楽しむ人が増えれば、より多くの訪日客が、雪を求めて日本に訪れる可能性が高くなります。しかしその一方で、日本に来るはずだった観光客が、氷雪経済が盛り上がる中国に流れることも考えられます。

そこで本記事では、中国の氷雪経済の動向に加え、日本のスノーコンテンツの現状、そして今後取るべきインバウンド戦略について、事例を交えて解説します。

関連記事:【2025年最新】スキー場で外国人に人気の観光スポット:エイブル白馬五竜スキー場が2位、1位は?

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中国で「氷雪経済」が急速に発展

中国では、ウインタースポーツを中心に「氷雪経済」が急速に拡大しています。氷雪経済には、スキーやスノーボード以外にも、雪や氷を観光資源として活用したレジャー、イベントなども含まれます。

まずは、中国における氷雪経済の動向を見ていきましょう。

北京オリンピックが貢献 2025年に20兆円規模を目指す

中国では2016年から2025年までを対象に、「ウインタースポーツ開発計画(冰雪运动发展规划)」が実施されています。この計画では、2025年までにウインタースポーツの基盤を強化し、中国国内の氷雪産業は2020年までに6,000億元、2025年には1兆元(約20兆円)規模に成長するとされています。

また2024年11月には、中国国務院が、2027年までに氷雪経済の規模を1兆2,000億元(約25兆円)、2030年までに約1兆5,000億元(約30兆円)に引き上げる目標を発表しました。

この目標には、ウインタースポーツの普及やインフラやサービスの整備、消費拡大などの取り組みが盛り込まれており、今後も中国の氷雪観光市場が活性化していくことが見込まれます。

このような氷雪経済の発展を大きく後押ししたのが、2022年に開催された北京冬季オリンピックです。

開催地に選ばれたことを契機に、施設の建設や氷雪観光客が増加しました。日中経済協会によると、2023年時点の中国内のスケートリンクは1,912か所、スキー場は935か所とされています。(2022年の日本のスキー場は400か所程度)

ハルビン市など、新たな旅行先が人気上昇

こうした氷雪経済の発展によって注目されている旅行先のひとつに、中国東北部に位置するハルビン市があります。

同地域では厳しい寒さや経済不振が理由で人口減少が続いていましたが、近年の氷雪観光の人気の高まりにより、国内外の旅行客でにぎわうようになりました。2023年にハルビンを訪れた観光客は1億3,500万人で、前年比では145%増、2019年比では41.4%増と、急速な盛り上がりを見せています。

2025年2月にハルビン市で開催された「第9回アジア冬季競技大会」では、アジア各地の34の国と地域からアスリートが集結し、フィギュアスケートやカーリング、スピードスケート、スノーボードなどの種目で熱戦が繰り広げられました。

氷雪経済の発展により、ハルビン市を筆頭として、新たな旅行先が存在感を高めつつあります。

日本でもスノーコンテンツの人気は同様

ここまで、中国における氷雪経済の盛り上がりを見てきました。次に、日本国内のスノーコンテンツについても詳しく見ていきます。

国内需要が減少するなか、インバウンドが大きく増加

観光庁によると、日本国内のスキー・スノーボード人口は減少の一途をたどっています。1998年は1,800万人だったのに対し、2014年は760万人、2021年は280万人にまで落ち込んでいます。

一方で、インバウンドによる需要は増加傾向にあります。訪日外国人のスノーリゾート訪問数は、2014年は40.3万人だったところ、2019年には83.3万人と、わずか5年間で2倍以上に成長しています。

日本のスキー場の魅力として、世界でもトップクラスとされる上質なパウダースノーが挙げられます。この極上の雪質を求めて、世界中から多くの人が訪れます。また、多彩なアクティビティや、設備・サービスが整っている点も人気の理由です。

また、「雪そのもの」に対する憧れも、インバウンド需要を後押ししています。

日本政府観光局JNTO)が発表している、市場別の外国旅行の動向によると、中国の華東・華南地域、台湾香港東南アジアなど、雪が珍しい地域では雪は特別な存在であり、訪日旅行の大きな動機となっています。たとえば中国の広東省では、コロナ以前、旧正月の連休に合わせてチャーター便を利用した北海道ツアーが定番化していました。

こうした背景から、日本国内の多くのスノーリゾートが、そのエリアの価値をさらに高めることで、インバウンド需要を取り込もうとしています。

関連記事:【春節】日本の人気旅行先ランキング スノーエリアや温泉地がランクイン(Booking.com)

▲スキー・スノーボード人口と訪日外国人旅行者数:観光庁資料より
▲スキー・スノーボード人口と訪日外国人旅行者数:観光庁資料より

“氷雪”は地方の消費拡大に向けて強力なコンテンツ

また、スノーコンテンツは、地方での長期滞在や消費を推進する力を持っています。

観光庁の資料によると、スキー・スノーボードを実施する訪日客の平均滞在日数は、訪日客全体の約1.2倍で、一人あたり消費額は約1.4倍でした。スキー・スノーボードを実施する訪日客は、一般的な訪日客よりも長い期間日本を楽しんでいることがわかります。

日本のインバウンド市場において地方誘客・消費拡大が課題となっているなか、スノーコンテンツは訪日客の関心を引きつけるコンテンツとして、今後ますます重要になっていくでしょう。

▲スキー・スノーボード実施者の支出・滞在の傾向:観光庁資料より
▲スキー・スノーボード実施者の支出・滞在の傾向:観光庁資料より

インバウンド誘客には総合的な取り組みが必要

中国の氷雪観光市場は今後も拡大が期待されており、スノーコンテンツを楽しむ人が増えれば、より多くの人が雪を求めて日本に訪れることも考えられます。

日本がインバウンド誘致を進めるうえでは、さまざまな視点から戦略的に取り組むことが求められます。

たとえば、日本のスノーリゾートの弱みとして、スキー以外にすることがない(コンテンツ不足)が挙げられます。そのため、独自コンテンツを強化し、訪日客の多様なニーズに応えていくことが欠かせません。たとえば、「初めての雪遊び」など初心者向けの体験を用意しつつ、より付加価値の高い体験へとつなげていく工夫が必要です。

また、スキー場単体での発信にとどまらず、山やまち全体でひとつの「リゾート」を作り、地域全体でコンテンツやプロモーションを展開していく視点も求められます。こうした施策を実現するには、地域の事業者や自治体が連携する体制づくりも必要になります。

このような総合的な取り組みによって、地域の魅力がさらに引き出され、最終的には日本全体の観光競争力の向上にも貢献すると考えられます。

最後に、実際にこうしたインバウンド誘客の取り組みを実施している国内スノーリゾートの事例を紹介します。

【キロロ(北海道)】アフタースキーのコンテンツ造成で集客力アップ

キロロでは体験型スノービレッジを造成し、イルミネーションやかまくら体験、巨大スクリーンによる演出など、スキー後も楽しめるコンテンツを充実させました。

その結果、SNSなどで拡散が見込めるコンテンツが実現し、79日間で約8,800人が訪れる成果を上げました。

【白馬(長野県)】多言語の標識整備で満足度が向上

白馬では、受け入れ環境整備の一環として、安全啓発に関する多言語の標識を1,181枚設置しました。

これにより、スキー場でのけが人が2019年シーズン比で78%減少し、安全性が向上しました。あわせて、インバウンドの満足度も改善されています。

関連記事:【白馬が描く、通年型リゾートの未来図】インバウンド誘客みすえた今後の戦略は

【湯沢(新潟県)】シャトルバス周遊の実証実験を実施

湯沢では、二次交通を確保するため、駅と各スキー場間のシャトルバスを整備し、冬期周遊バス設定に向けた実証実験を行いました。

その結果、移動の快適性への評価が25%から74%に向上。インバウンド回復に向け、路線バス化・観光バス化を目指しています。

関連記事:斑尾高原スキー場、1月売上が前年比156% インバウンド来場者は431%に

氷雪経済の成長を“チャンス”に

ここまで、中国における氷雪経済の盛り上がりと、日本のスノーコンテンツの今後の可能性について解説しました。

氷雪経済の盛り上がりは、日本のスノーリゾートにとっても新たな可能性を広げるチャンスです。このような動向を踏まえつつ、選ばれる観光地になるために、地域の魅力を磨いていくことが、今後の地方活性化にもつながる鍵となるでしょう。

関連記事:温暖化で雪が減少…集客戦略の転換を迫られる「スノーリゾート」課題と成功事例3選

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<参照>

国家体育总局:冰雪运动发展规划(2016-2025年)
一般財団法人日中経済協会:【出張報告】遼寧国際氷雪経済協力商談推進会(12/12-14・瀋陽)
黒龍江省人民政府:2023年哈尔滨旅游总收入创历史最好水平
第9回アジア冬季競技大会(2025/ハルビン):公式サイト
国際オリンピック委員会:日本代表選手 メダリスト一覧/2025年アジア冬季競技大会ハルビン
観光庁:スノーツーリズムのインバウンド誘致と地域の活性化
日本政府観光局(JNTO):中国市場外国旅行の動向
中华人民共和国中央人民政府:国务院办公厅关于以冰雪运动高质量发展 激发冰雪经济活力的若干意见 国办发〔2024〕49号

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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