トレーサビリティとは?仕組みやメリット・デメリット、導入方法を解説

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【連載:マーケティング用語・施策の基礎解説】

本連載では、国内外問わず通用するマーケティング施策を取り上げ、インバウンド対策にも役立つヒントをお届けします。

トレーサビリティ(Traceability)とは、製品や商品の原材料・製造・流通・販売の過程を追跡・記録する仕組みのことです。

食品・医薬品・工業製品など、多くの業界で活用されており、品質管理の強化・安全性の確保・偽造品対策・サプライチェーンの最適化に役立ちます。

導入には時間やコストがかかるものの、消費者の安心を高め、企業の信頼性を向上させる効果が大きいため、注目が集まっています。

近年では、日本人のみならず、訪日外国人観光客食品化粧品・医薬品・ブランド品の安全性や品質保証を重視するようになっており、トレーサビリティを導入することで、商品の信頼性をアピールし、購買意欲を高めることが可能です。

本記事では、トレーサビリティの仕組みやメリット、導入方法について詳しく解説します。

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トレーサビリティとは

トレーサビリティ(Traceability)とは、「追跡」という意味のtraceと「可能」という意味のabilityを組み合わせてできた言葉で、「追跡可能性」を意味します。

製造元や仕入れ先、販売元を記録しておくことで、材料・部品の調達から生産、販売、消費(廃棄)までを追跡可能にし、製品がいつ、どこで、誰によって、何で作られたかを明らかにすることができます。

追跡を可能にしておけば何か問題が発生した際にすぐに原因を特定できるので、迅速に対応することが可能になります。

トレーサビリティの種類

トレーサビリティには2つの種類があります。

  • チェーントレーサビリティ
  • 内部トレーサビリティ

これは、誰に向けて透明性を証明するのかで分かれます。ここでは、それぞれの概要と特徴を解説します。

1. チェーントレーサビリティ

一つは、消費者に対しての透明性の証明として役に立つチェーントレーサビリティです。製品の生産、処理、加工、卸売、販売の各段階の経歴を追跡する仕組みです。

これにより、消費者は、商品の生産地や加工工程、輸送状況などの正確な情報を得られます。

また、生産者は、商品がどのような流通経路を経て消費者に届くかを把握できます。

2. 内部トレーサビリティ

もう一つは、生産管理に役立つ内部トレーサビリティです。工場や物流拠点など、特定の施設内での生産・管理情報を追跡する仕組みです。

製造工程に関わる器具やプロセスがどのような状況であるかを把握できるようにすることを指します。

商品やロットごとに識別番号を付与し、仕入先・組立工程・品質検査・納品先などを詳細に記録することで、品質向上や業務効率化を実現します。

つまり、チェーントレーサビリティが生産から消費者の手に届くまでの工程を対象に関係者や作業環境を把握できるのに対し、内部トレーサビリティは一つの組織内での製品の生産や加工、製造工程を追跡します。

<参照>トレーサビリティ大学:トレーサビリティとは

トレース(追跡)の方法

製造環境や各工程について追跡する方法は主に2つに分けられます。

  • トレースフォワード
  • トレースバック

それぞれの違いを詳しくみてみましょう。

トレースフォワード

トレースフォワードとは、トレーサビリティの過程で集めたデータを活用して、製品の製造工程に沿って追跡することです。

たとえば、製品を出荷したにもかかわらず最初の工程で問題が発生していたことが判明したら、次の工程以降も問題がないか追跡します。

トレースフォワードでは、リコールや不良品への対応に活用できます。

トレースバック

トレースバックはトレースフォワードの逆で、製造工程をさかのぼって追跡することです。問題の起きた工程の前段階を確認していきます。

トレースバックにより、問題発生箇所以外での製造過程上の改善ポイントが見つかる場合もあり、商品品質の向上や安定が見込めます。

トレーサビリティが注目される理由

トレーサビリティが注目されるきっかけは、BSE(狂牛病)問題でした。

健康に関わる食の安全性に疑問が残るようになり、透明化のために管理体制が徹底されました。

近年では食品・医薬品・化粧品などの安全性に対する消費者の意識が高まり、透明性が求められています。

トレーサビリティに取り組む企業はデータを可視化しているので、問題が発生しても素早く解決することができ、被害を最小限に抑えることができます。

トレーサビリティを導入するメリット

続いて、トレーサビリティを導入するメリットについて紹介していきます。

1. 迅速な問題解決につながる

流通の経路を細かく記録しているので、問題が起きた際にすぐに原因を特定することができます。

早期に原因を特定することができれば、問題や被害を最小限に抑えることができ、対処にかかる時間や費用を削減することもできます。

2. 不良品流出を防ぎ、製品の品質改善につながる

トレーサビリティによって製造工程を詳細に追跡可能にすると、不具合発生時の原因究明が格段にスピードアップします。

これにより、迅速な対応と不良品の拡散リスク抑制が可能となり、継続的な品質改善の基盤を築けます。さらに、各工程の責任が明確化されることで、従業員の品質への当事者意識を高め、より主体的な品質管理体制の構築を促進します。

3. 情報公開が顧客満足度を高め、安心感を与える

製造工程の管理をしているので、情報を公開すれば企業の透明化や安全性をアピールできます。

トレーサビリティを導入すれば、安全で信頼できる企業のイメージ定着や、顧客満足度の向上が可能になります。

業界別トレーサビリティの具体的な活用事例

トレーサビリティはさまざまな業界で導入され、それぞれの特性に応じた目的で活用されています。ここでは、代表的な業界における具体的な活用事例をご紹介します。

食品業界

目的:食の安全・安心の確保、産地偽装防止、アレルゲン管理、HACCP対応支援

活用例:

  • 野菜や肉、魚などの生鮮食品の生産者情報、栽培・飼育履歴、流通経路をQRコードなどで消費者に提供。
  • 加工食品の原材料の由来や製造工程、アレルゲン情報を追跡・管理し、万が一の事故発生時に迅速な原因究明と改修を実現。
  • 賞味期限・消費期限管理の精度向上による食品ロス削減への貢献。

医薬品・医療機器業界

目的:偽造医薬品対策、品質保証、副作用発生時の追跡、法規制(シリアル番号付与義務など)への対応

活用例:

  • 医薬品の個装箱へのシリアル番号(GS1データバーなど)表示と、製造から卸、医療機関・薬局までの流通経路の追跡。
  • 医療機器の滅菌・消毒履歴や使用履歴の管理による院内感染防止。
  • 再生医療等製品における細胞の採取から製造、投与までの厳密な個体管理。

自動車・電子部品業界

目的:リコール発生時の迅速な対象部品特定、品質管理強化、模倣品対策、サプライチェーン管理

活用例:

  • 自動車部品(エンジン、エアバッグ等)のロット番号やシリアル番号による製造履歴・組み付け情報の追跡。
  • 電子部品のサプライヤー情報、製造条件、検査データの記録・管理による品質安定化。
  • 部品のトレーサビリティ確保による、リサイクルや廃棄処理の適正化。

アパレル・ブランド品業界

目的:偽造品・模倣品対策、サステナビリティ(原材料調達の透明性)のアピール、サプライチェーンの可視化

活用例:

  • 製品にICタグ(RFID)やNFCタグを埋め込み、真贋判定や流通経路の追跡を実現。
  • 綿花や皮革などの原材料の生産地、労働環境、環境負荷に関する情報を消費者に開示。

トレーサビリティ導入の課題と解決策

トレーサビリティにはさまざまなメリットがありますが、いくつかの課題もあります。

ここでは、トレーサビリティ導入における主な課題とその解決策を解説します。

1. システム導入に手間と時間がかかる

トレーサビリティシステムの導入には、データ管理ソフト・バーコード/QRコード・RFID(ICタグ)などの設備投資が必要です。

特に、小規模企業では初期費用や運用コストの負担が大きくなるでしょう。

また、情報の蓄積や企業間・部門間の連携、細かなコミュニケーションなどの体制づくりに時間がかかってしまいます。

ですが、一度体制を構築すれば初期費用をかける価値があります。

構築に関しては、二次元コードや専用端末を利用するなどして、コストを抑えながら効率化を図る方法があります。

2. データ管理の負担が増える

トレーサビリティでは、生産・流通・販売の各段階でデータを記録・管理する必要があり、業務負担が増大する可能性があります。

紙ベースの記録をデジタル化する際の作業負担も大きくなるでしょう。

解決策としては、以下のような対応が考えられます。

  • IoT・AIを活用し、自動でデータを収集・分析できるシステムを導入
  • データ入力を簡素化し、作業負担を軽減(バーコードスキャンや音声入力など)
  • 既存の業務システム(ERP・WMS)と連携し、データの一元管理を実現

3. 企業間でのデータ共有・連携が難しい

サプライチェーン全体でトレーサビリティを導入するには、複数の企業がデータを共有する必要があります。

しかし、企業ごとに異なるシステムを使っていると、データの統一が難しいでしょう。

解決策として、以下のような方法を検討してみましょう。

  • ブロックチェーン技術の活用:データの改ざんが極めて困難なブロックチェーン上に取引履歴や製品情報を記録することで、サプライチェーン全体の透明性と信頼性を飛躍的に高めるデータ共有環境を構築できます。特に複数企業間での情報連携において有効
  • 業界全体で標準化されたデータフォーマットを採用し、互換性を確保

トレーサビリティの導入方法

ここでは、トレーサビリティを導入するための具体的な手順を解説します。

1. 目的と範囲を明確にする

トレーサビリティを導入する理由を明確にし、適用する範囲を決定します。

目的の例

  • 品質管理の強化(食品の安全性確保、医薬品の品質保証)
  • サプライチェーンの最適化(物流の効率化、在庫管理の改善)
  • 偽造品対策(ブランド品の真正性保証、模倣品の排除)
  • 法規制対応(食品衛生法、医薬品安全基準への準拠)

範囲の決定例

  • 原材料の調達から販売までの全プロセスを追跡するのか?
  • 工場や物流拠点の内部管理だけを対象にするのか?

2. 追跡する情報を決める

どの情報を記録するかを明確にし、製造・流通の各プロセスで管理すべき情報を整理します。

記録すべき情報の例

  • 製造日・ロット番号・原材料の仕入れ先
  • 流通経路・配送履歴・販売店情報
  • 品質検査結果・消費期限・製造工程

3. データ収集方法を選定する

トレーサビリティ情報をどのように収集・管理するかを決めます。

主な収集方法と特徴を紹介します。

方法 特徴
バーコード・QRコード 低コストで導入しやすく、スマホで情報を確認可能
RFID(ICタグ) リアルタイムの追跡が可能、物流・在庫管理に最適
ブロックチェーン技術 データ改ざんが困難、サプライチェーン全体の透明性向上
IoTデバイス 温度・湿度管理が必要な製品(食品・医薬品など)に活用

4. システムを構築し、データ管理を最適化する

クラウド型かオンプレミス型のシステムを選択します。

クラウド型は、導入コストが低く、リアルタイムでデータ共有が可能という特徴があります。

一方、オンプレミス型は、自社専用の環境で高セキュリティ運用が可能です。

また、サプライチェーン全体でデータを共有できる仕組みを作りましょう。

ERP(統合基幹業務システム)やWMS(倉庫管理システム)と連携させたり、ブロックチェーン技術を活用したりするなどして、企業間のデータ改ざんを防止する管理方法が考えられます。

5. 運用ルールを整備し、スタッフのトレーニングを実施する

データの入力・管理ルールを標準化し、「いつ、誰が、どのデータを入力するのか?」を明確にしましょう。

また、記録フォーマットを統一し、データの不整合を防ぐことも大切です。

さらに、スタッフ向けの研修を実施し、運用を定着させていきます。

システムの操作方法やデータ入力のルールを教育し、トレーサビリティの重要性を理解させ、品質管理意識を向上させていきましょう。

6. 消費者向けにトレーサビリティ情報を提供する

消費者がトレーサビリティ情報を簡単に確認できるように情報を提供しましょう。

商品パッケージにQRコードを記載し、原材料・生産履歴・流通経路を表示したり、スマホアプリWebサイトで、トレーサビリティ情報を多言語対応で提供するなどの方法が挙げられます。

7. 定期的にシステムを見直し、改善を継続

運用開始後もデータの正確性をチェックし、改善を続けましょう。

「どの段階でデータの抜け漏れが発生しているか?」を分析し、定期的にシステムのアップデートを行い、精度を向上させていきます。

トレーサビリティ導入で、早期問題解決や顧客満足度向上につながる

トレーサビリティは問題の特定や、周辺の問題も一緒に発見できる仕組みです。問題解決のスピードが上がり、再発防止を実現することは消費者の信頼にもつながります。

消費者は見てわかる製品の品質はもちろんのこと、手元に届くまでの工程にも納得して購入したいと考えるようになっています。食品や皮膚に触れるものはもちろんですが、近年では環境保護の意識も高まっています。

導入には初期投資や運用コストがかかりますが、問題発生時の損害抑制、ブランドイメージ向上による競争優位性の確立、サプライチェーン効率化によるコスト削減など、長期的な視点で見れば費用対効果の高い投資となり得ます。

自社の目的や課題に合わせて適切な範囲・方法で導入を検討することが重要です。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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