新型コロナウイルス感染症の拡大による「巣ごもり消費」の影響で、テイクアウトやデリバリーの需要が増えています。
全国に「外出自粛」が拡大する中、飲食店の需要は減少しており、売上を維持するためにデリバリーサービスを導入する企業も増えてきました。日本政府は補助金制度の設立などの対策を進めており、自治体にもデリバリーサービスやテイクアウトサービスの開始に対する支援策提供の動きが見られます。
今回はデリバリーが進む世界の状況を紹介し、新型コロナウイルス収束後、盛り返しが期待されている食のインバウンド市場におけるデリバリーサービスの役割について考察します。
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世界のフードデリバリーサービス事情
様々な領域で、需要の変化に合わせた新しいサービスが始まっています。衣食住は生活の基本であり、このうちの一つである飲食業界でも変化が起きています。
出前文化は日本でも昔からありますが、日本そして世界で、スマートフォンアプリを用いたフードデリバリーが広まりつつあります。
1. 中国
中国におけるデリバリー市場は、2010年は日本円にして約9,750億円に留まっていますが、2015年頃から市場が伸びはじめ約3兆9,850億円まで成長、2019年は約9兆円と見込まれるなど、今後さらなる伸びが期待されています。
中国ではそもそも「外食」が日本よりも身近です。女性は産後もすぐに職場復帰するのが一般的であり、退勤後帰宅して食事を用意する頻度は、日本ほど高くないと考えられます。
また、近年では勤務時間の長時間化も起きています。こうした生活スタイルは、外食やデリバリーへの需要を高め、そこに便利なアプリが登場しデリバリーサービスはますます社会に浸透していきました。
中国の主力フードデリバリー市場では、アリババ系列の餓了麼(ウーラマ)、テンセント系列の美団外売(メイトゥアンワイマイ)、そして百度外売(バイドゥワイマイ)の三社が利用されています。
2019年第2四半期シェアでは「美団外売」65.1%、「餓了麼」が32.8%であり、両者が市場全体の97.9%を占めている状況です。
中国宅配サービス「美団外売」は「1.5日に1地域進出」猛烈なスピードで競合を置き去りに:IT巨人テンセント出資・大衆点評との関係は?
中国では様々なITサービスが普及しています。特に、スマートフォンを利用した電子決済サービスは様々な業界で対応しており、フードデリバリーサービスもその例外ではありません。フードデリバリーのブランドにも、中国のトップIT企業の勢力図が出来上がっています。本編では、そのうちの一つである「美団外売」(メイトゥアンワイマイ)について解説します。目次美団外売はなんと読む?概要は?「美団外売」の読み方は「メイトゥアンワイマイ」「美団外売」の概要「美団外売」は美団点評の看板事業:テンセントから出資も中国の...
2. アメリカ
デリバリ―推進国のアメリカでは、2018年の全米フードデリバリー市場額は340億ドル(約3.64兆円)、前年比よりも13%増加を記録したそうです。
オンラインで食事をオーダーできるレストランの比率は、実はまだ全体の5%程度であるため、今後フードデリバリー分野の成長に期待が寄せられています。
アメリカ国内で、シェアを拡大しているのは「DoorDash(ドアダッシュ)」「Grubhub(グラブハブ)」「Uber Eats(ウーバーイーツ)」「Postmates(ポストメイツ)」の4社です。
日本に進出している「Uber Eats(ウーバーイーツ)」以外は聞き慣れない企業ですが、「DoorDash(ドアダッシュ)」はソフトバンクを中心としたいくつかの投資会社から融資を受けています。
市場シェア率ではドアダッシュの躍進が目立っています。2018年末にウーバーイーツを抜き業界2位に、また2019年3月には業界1位のグラブハブを抜きついに首位に躍り出ました。
世界へのシェア拡大と共に、今後は日本参入も十分に可能性があると言えるでしょう。
3. インドネシア
デリバリー需要が増えているインドネシアでは、元々バイクタクシーが主力事業であった2社、GO-JEK社とGrab社によるフードデリバリーサービス「GO-FOOD(ゴーフード)」「GRABFOOD(グラブフード)」が人気となっています。
インドネシアのデリバリー市場拡大は、もともと家庭内で料理を作らない文化も関係しています。
それに加え女性の社会進出と共に、共働き夫婦が増えたことも要因です。24時間配達可能なサービスの普及によって、街中では至る所で配達員の姿が増えています。今後はさらにシェア拡大が見込まれている国です。
日本国内のデリバリーサービス需要
もともと「蕎麦屋の出前」「宅配ピザ」等のサービスが展開されていた日本ではどうでしょうか。ある調査によると、日本国内のフードデリバリー市場規模は拡大していることが報告されています。
またグルメサイトでは、新型コロナウイルスの感染拡大により影響を受けている飲食店支援として「テイクアウト・デリバリーができるお店特集」を組んでいます。
新型コロナウイルス流行による外出自粛が、デリバリーサービスの市場拡大の期待せぬ追い風となっているようです。
様々なデリバリープラットフォームが存在する日本
出前や仕出しといった形で、江戸時代からデリバリーサービスが存在していたと言われる日本国内では、大胆な広告施策で急速に売り上げを伸ばしているウーバーイーツ以外にも、実は様々なサービスが存在しています。
代表的なものとして、店舗数が1万8,000軒を突破した大手デリバリー専門ポータルサイト「出前館」や、チャットツールとしてのユーザーの利用が見込める「LINEデリマ」があります。2020年3月、LINEによる出前館の追加株式取得が報じられました。LINEデリマの名称を出前館とすることが合意事項となっていますが、2020年4月23日現在、サービスはLINEデリマの名称で継続しています。
またこの他にも、ドコモ利用者を対象とした「dデリバリー」や、楽天グループが手がける「楽天デリバリー」があります。
特定の料理を配送する「銀のさら」や「釜寅」、仕出し弁当やケータリングの「ごちクル」など、独自のサービスを展開しているところもあります。
電話注文が長らく主流を占めてきた日本国内において、インターネット注文によるデリバリーサービス市場はまだまだ伸びしろがあるといえるでしょう。
国内におけるデリバリーの課題
今日急速に売り上げを伸ばしているデリバリーサービスですが、顧客と配達員間で発生するトラブルや、責任の所在などいくつかの課題が残されています。
これまで、配達時の商品液漏れや配達先のミス、商品がまだ届いていないにも関わらず配達完了通知が来る、といったケースが報道では取り上げられています。2019年10月には、ウーバーイーツを利用した男性が液漏れを理由に商品受け取りを拒否したところ、マンション内に商品が投げ捨て放棄されてしまうというケースがありました。
しかしこの配達員はデリバリーサービスを提供するウーバーイーツとは雇用契約がなく、食事の配達を依頼したユーザーの訴えに対しては、トラブルの解決のために配達員に何か行動を促すようなことはできないと答えたとされています。
こうしたサービス設計では、ユーザーがトラブルの際に損をしてしまう可能性も高く、利用を思いとどまらせてしまうかもしれません。
Uber Eats(ウーバーイーツ)の日本でのシェアは?
Uber Eats(ウーバーイーツ)は、世界で配車サービスを展開するUberの子会社で、飲食店のデリバリーサービス展開をサポートしています。
スマートフォン向けアプリから、ユーザーは登録店舗に料理をオーダーでき、これを配送メンバーが届ける仕組みです。
日本では2016年9月に、東京の150店舗からサービスを開始しました。登録店舗数は順調に増加し、1年後には1,000店舗、2年後には3,500店舗、3年目までに1万店舗を超えたといいます。
特に昨年の後半から、ブランドカラーである黒と緑の宅配用ボックスを背負う配達員の姿は、都内では目に見えて増えています。
ユーザー数は2018年12月の時点で80万人となっており、ライバルの出前館のアクティブユーザー229万人と比べると劣勢のようですが、その成長スピードからは今後勢力構図の変換もありうるかもしれません。
店舗がウーバーイーツに登録するには?
店舗がウーバーイーツを利用するには、まずは加盟店である「レストランパートナー」として登録する必要があります。
公式サイトの「ウーバーイーツ加盟店申し込み」フォームから、店舗名や所在地、店舗数や料理の種類などの必要項目を入力し申請します。
その後ウーバーイーツによる加盟店審査が行われ、加盟店として適しているか判断された場合に提携となります。
ウーバーイーツ申請時には「対応エリア確認」がマスト
ウーバーイーツへ加盟店申請をおこなう際、店舗所在地が「ウーバーイーツ対応エリア」内であるかどうか確認する必要があります。
ウーバーイーツは2020年1月には、対象エリアは東京23区はじめとした首都圏、大阪、京都、愛知(名古屋市)、兵庫、福岡でしたが、4月中旬には広島、愛媛、岡山、香川、宮城、石川、富山とその範囲を拡大しています。
社会的需要にこたえ、引き続きエリアの拡大に期待が寄せられていますが、現状のエリア外にしか店舗が無い場合にはウーバーイーツ以外のサービスの利用を検討すべきでしょう。
インバウンド×デリバリーサービスの可能性
日本食は、生魚といった素材の珍しさや、彩り豊かな見た目、栄養価の高さや油を使わない調理方法など、様々な観点から、観光コンテンツとしての地位を確立しています。
新型コロナウイルスの収束後、再び盛り上がるであろうインバウンド市場の回復スピードを左右する鍵は、日本食とデリバリーサービス、テイクアウトの掛け合わせにあるのではないでしょうか。
訪日外国人は滞在中、日本でしか楽しめない食事を楽しみにしています。しかし限られた予算で旅行をしており毎食はレストランに行けないという人や、店舗での言葉のやりとりを不安に感じている人もいます。デリバリーサービスは、こうした訪日外国人の日本食需要、日本での食体験の需要を満たす一つの形となります。
飲食店のインバウンド対策として、今後はウーバーイーツの活用も検討に値します。この場合も、アプリ上のメニューに英語表記を加えたり、ベジタリアンに対応したメニューを開発したり、店頭と同じような訪日外国人目線のサービス設計、商品開発が必要となってくるでしょう。
<参照>
Business Insider:2018年には11兆円市場に——中国でなぜフードデリバリー革命は起きたのか
人民網日本語版:中国人が「フードデリバリー」を好む理由は?ネットフードデリバリー利用者数4億2100万人に
宣伝会議:全米3.6兆円規模の市場を求め さらに競争が激しくなるフードデリバリー業界
Yahoo!ニュース:インドネシア、生活の一部になってきた「フードデリバリーサービス」スマホで簡単注文、バイクで配達
PR TIMES:『ヒトサラ』「テイクアウト・デリバリーができるお店特集」開始 新型コロナウイルス拡大の影響を受け、全国の飲食店に無料登録枠を提供
LINEデリマ:『出前館』がフードデリバリー事業におけるシステム開発や店舗開拓などを担う 「LINEデリマ」が本日よりスタート!
J-CASTニュース:Uber Eats配達員が料理「投げ捨て放置」? ツイッター訴え、運営に対応聞く
DIAMOND Online:Uber Eatsが4年で流通総額8700億円、課題山積でも急成長の内実
ECのミカタ:「Uber Eats」が2年で約9倍の伸び フードデリバリーとモバイル決済が急成長
Impress Watch:LINE、出前館に300億円出資。「LINEデリマ」は「出前館」に
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