内閣府クールジャパン・プロデューサー / 内閣府 クールジャパン官民連携プラットフォーム(CJPF) ディレクターを務める渡邉 賢一氏。「社会課題の解決」を目的とした価値デザイナーとして、地方創生、離島振興、宇宙、教育、食文化など、各分野で行政と連携したソーシャル・アクションを展開しています。
今回はそんな渡邉氏が、mov/訪日ラボ主催カンファレンス「THE INBOUND DAY」に登壇!同じく内閣府クールジャパン・プロデューサーの陳内 裕樹氏とともに、アニメ・漫画の可能性、インバウンドの質的変化への対応、AI・テックの活用、ナラティブ戦略の未来、SBNR(※後述)など、多様なキーワードから日本のブランディングデザインについて語り尽くしていただきます。
そこで本記事では講演に先立ち、渡邉氏が持つ現在のインバウンド✕クールジャパン市場への期待感と課題意識、そして講演でどんな内容をお話しいただくのかまで、詳細にインタビューした内容をお届けします。
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クールジャパン戦略における「内閣府クールジャパン・プロデューサー」の役割とは
日本文化、アニメ、ポップカルチャーなど日本の強み・魅力となる商品やサービスの海外展開を拡大し、我が国の経済成長や雇用創出などにつなげるものとして提唱されている「クールジャパン」。2024年6月には内閣府知的財産戦略本部による「新たなクールジャパン戦略」が公表され、今後の「基幹産業」と位置づけ、強化する動きが加速している状況です。
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クールジャパン戦略に基づき、海外マーケティング、地域連携、ブランド化、デジタル技術・テクノロジー等の活用に関する情報提供や相談への対応などを担うのが、クールジャパン・プロデューサーです。その一人である渡邉氏は、日本各地の観光地の魅力発信や、食を通じた体験デザイン、地域を舞台としたゲーム開発、さらには宇宙ナラティブ開発まで、さまざまな観点からクールジャパンを発信。2033年までに50兆円の市場規模を見すえる市場を盛り上げる役割を担っています。

渡邉氏「私の仕事は『価値デザイン』という言葉に集約されます。地方創生から始まって、今は日本のローカル文化を、いかにして海外目線で再編集するかがテーマです。観光やインバウンドという目線だけではなく、たとえば『お米からお肉を作る』とか、デジタルツイン※1 を活用したシミュレーションなど、多岐にわたるプロジェクトに関わっています」
※1 デジタルツイン…バーチャル空間上に、リアル空間と全く同じ「双子(ツイン)」のような環境を再現する技術
インバウンドが注目する「日本人の精神性」
インバウンドに関わる取り組みとしては、例えば伊勢市の海外向けブランディングに携わっているといいます。
渡邉氏「今年から伊勢神宮の式年遷宮※2 が始まり、とても重要なテーマであると認識しています。伊勢市とフランスの旅行会社Japan Experienceと連携し、スピリチュアリティをテーマとして伊勢神宮の周辺の体験プログラムをテスト販売しましたが、なんとそれが2週間で120件以上申込がありました。インバウンドの人たちも、明らかに日本人の精神性の価値に気づき始めていますよね」
※2 式年遷宮…定められた年ごとに社殿を新しく建て替えるお祭りのこと。伊勢神宮では20年ごとに行われており、建築技術を次の世代に継承するとともに、地域が活気につつまれる伝統行事でもある
伊勢などでの地域ブランディングにおいてキーワードとなるのが、「SBNR」。「Spiritual But Not Religious」の略で、宗教的ではないがスピリチュアル(精神的)な価値や豊かさを重視する考え方や、そうした考えを取り入れる人々のことを指します。
渡邉氏「日本人はまさにSBNRですよね。たとえば、初詣や初日の出に出かける人は、毎年9,000万人もいると言われているんです。西洋の宗教と違って経典や教祖、戒律はなく、ライフスタイルや伝統文化としてそういった行動が受け入れられている。一方で、それらはテクノロジーや経済発展とも調和していて、お祭りで褌を締めた人々が神輿を担いでいたその場所が、世界最大級の金融街・大手町だったりするわけです。それが海外の人々にとって、日本の不思議であり、魅力でもあるんです。
そして、こうした日本人のメンタリティを体験する旅が、欧米をはじめとした世界から注目されています。お祭りもそうですし、お遍路や熊野古道、それこそ伊勢神宮でも、自然と対話しながら自分の感覚を研ぎ澄まし、心を落ち着かせることができる。海外の人たちは、その体験に『オーセンティック(本物)』を感じるんです」
クールジャパンの代表格「アニメや漫画」の強さの源泉
「クールジャパン」と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、アニメや漫画などのポップカルチャーではないでしょうか。渡邉氏は、こうした文化の強さの源泉にも目を向けます。
渡邉氏「たとえばポケットモンスターの売上は、ディズニーの2倍にものぼります。なぜここまで強いコンテンツが生まれるのかといえば、日本人が昔から想像する力に長けていて、自然の中に“神秘性”を見出すナラティブ(物語)を作り、共有してきたという点があると思います。
また、江戸から明治に変わるタイミングで西洋の文化が入ってきたときも、そのまま西洋にすべて染まるのではなく、江戸に至るまでの蓄積された文化力を融合させて独自に発展してきました。日本には他の文化を吸収し、さらに“魔改造”していく力があります。身近な例でいえば、パスタやカレーも、元の料理とは全く違う食文化として定着していますよね。
まさにこの改造力が、IP※3 の強さにつながっているんです。元は何かを組み合わせたり改造したりしたものだったとしても、うまく昇華させることで、日本独自のクリエイティブを作ることができます」
※3 IP…人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などの「知的財産(Intellectual Property)」のこと。アニメや漫画、楽曲やデザインなども含まれる
日本がこうした力を活かしきれば、2033年に目標とする50兆円は「確実にいく」と渡邉氏。今後の日本経済を支える柱になると考えているといいます。
渡邉氏「世界ではフランスやイタリアなどが『文化で稼いでいる国』ですが、それに追いつく、もしくは追い越す規模です。いよいよ、日本が世界最大のIP産業を持つ国になる可能性が見えてきます」
クールジャパン市場のポテンシャルを最大化するには?現状と課題
クールジャパン市場の「2033年に50兆円」目標が達成できるとすると、2025年見通し(27.1兆円)からほぼ倍増することになります。非常にチャレンジングな目標である一方で、それに見合う十分なポテンシャルを、日本は持っている状態です。このポテンシャルを最大化するためにどんなことが必要なのか、渡邉氏の課題意識を聞いていきます。
渡邉氏「課題としては4つあると思っています。1つは、世界から見たら何が日本文化の価値なのか、そして日本文化への理解にどんなギャップがあるのかを『認識』すること。
日本の文化は無言語化、つまり空気を読むのが特徴で、たとえば茶道では扇子を置いて結界を作りますが、そのときに『今から結界を作ります』とは言わないですよね。表現しないことが美とされるわけですが、海外の人からするとわからないから、やろうとしても大事なものが欠落してしまう。
とはいえ、イチから全部説明するとそれはそれで無粋かもしれない。そういうものをどう表現し、どのタイミングで伝えて、ギャップを解消するのか。さらに着物の着方や寿司の握り方など、西洋が理解し再解釈した日本というのも存在しますから、日本側もそれを知った上で、どういう方針で日本文化を輸出するかを考えるべきタイミングに来ているんじゃないでしょうか。
課題の2つ目は急激に産業が伸びていること。2024年(19.1兆円)から2025年(27.1兆円)の伸びを単純計算すると、1日あたり200億円が新たに生まれていることになります。『クールジャパン・バブル』ともいえるこの状況に、日本としてどう対応していくのかが問われていると思います。
3つ目は産業構造。日本に存在する企業500万社のうち、99%は中小企業にあたります。特に文化は基本セルフエンプロイド(自己雇用)の人によって築かれていることが多く、当然ながら海外事業部がなかったり、文化の発信までは手が回らなかったりします。なかなか外需化ができない領域に対して、どう支援していくかが課題です。
最後の4つ目は『ビジョン』。50兆円という金額も大事ですが、仮にそれが達成されたときに、果たして日本はどういう姿になっていたいのか。国としてのビジョンを明確に示す必要があると思います」
日本の観光業は「エクスペリエンス」をデザインできているか?
そうした現状や課題意識がある中で、「THE INBOUND DAY」の講演では何を話していただくのか、同じくクールジャパン・プロデューサーである陳内氏と、どんな議論を展開していくのかについても伺いました。
渡邉氏「今回はIPというテーマで、日本のIPそしてクールジャパン産業のあらましから、最新の技術・テクノロジー、たとえばVRやデジタルツインなどによってIPの世界が変わるんじゃないかとか、そういったこれからの展望も含めて、陳内さんとディスカッションしていければと考えています。
さらに、講演のテーマである『インバウンド』とこれらの議論を絡めて、旅のモチベーションの変化、日本に対する評価の変遷と、それに対してやるべきことみたいな話ができたら面白そうですね。かつては欧米の人々はヨーロッパ域内やアメリカを旅行していましたが、ここに来て日本・タイ・インドなどへの旅行が爆増している。西洋が東洋に行く動きが増えているわけですが、これはなぜなのか。
また、日本に来るようになった欧米の人たちが期待しているのは、かつてインバウンドの象徴であった爆買いやパッケージで買えるようなツアーとはまた違って、『自分を変える旅』を求めている。そうしたエクスペリエンス(経験・体験)を日本の観光業界がデザインできているか?というと、そうでもなかったりすると思います。
その考え方をシフトさせるのを今年2025年にやらないといけない。今年を『エクスペリエンス元年』として、言語化されてなかったものの価値に目を向けて、世界に伝えていく年になればいいと思います。でないと、回転率とか価格競争の話からいつまで経っても抜け出せないんですよね。
もしかしたら今回の『THE INBOUND DAY』が、業界の旧態依然な価値観を変えていくチャンスなのかもしれないですね。今は一気にインバウンドが押し寄せていて、『なぜ海外から注目されているのか?』『日本の文化ってなんだっけ?これからどうしていくんだっけ?』とか、考える余裕もなく受け入れなければいけなくなっている。これからどうやって日本が成長していくか、それを一緒に考える機会にできたらと思います」
「50兆円のビッグチャンス」に乗る人がまだまだ少ない
最後に観光業に携わる方々へのメッセージを伺うと、「価値デザインができる会社や人材が圧倒的に不足している」と渡邉氏は話します。
渡邉氏「1日200億円のペースで伸びる市場があるんだから、その中に年商100億円の会社が何十個作れる?って話です。圧倒的に足りてないんですよね。各都道府県・市区町村に1人ずつ、アニメとか武道とかテーマ別に専門家を置くとしたら、1万人いたって足りないかもしれない。市場の成長力を考えたら、絶対やったほうがいいです。それに、始めるにあたってジョブジャンプする必要もなくて、農家+エクスペリエンス、漁師+エクスペリエンスみたいな元々の職業を活かしながらやることもできますし。実は一番参入しやすいのがエクスペリエンスマーケットだと思うんですよね。
クールジャパン市場は、これから50兆円規模に成長していく巨大産業です。何かと兼業しながらでもビッグチャンスをつかめる美味しい仕事ですし、『日本を演出する仕事』と考えたら、ワクワクする方も多いんじゃないかなと思います。もし読者の中にそういう方がいたらチャレンジしてほしい。『一緒に夢を見よう!』」
内閣府クールジャパン・プロデューサーの渡邉賢一氏と陳内裕樹氏が熱く議論!mov/訪日ラボ主催「THE INBOUND DAY」
本記事では、内閣府クールジャパン・プロデューサー 渡邉 賢一氏へのインタビューをお届けしました。
mov/訪日ラボ主催「THE INBOUND DAY」では、同じく内閣府クールジャパン・プロデューサーの陳内 裕樹氏とともに、さらに深掘りした議論をお届けいたします。「文化×経済×未来戦略」をベースに、強くしなやかに日本をどうブランディングしてゆくか?そのデザイン思考に迫る、ここだけのセッションです。
開催が8/5に迫っておりますので、この機会にぜひお申し込みください。
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
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- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
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