日本政府観光局(JNTO)は9月に「第28回 JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催しました。
同フォーラムでは、海外全26拠点の海外事務所長などが訪日旅行市場の最新動向を解説したほか、ゲストスピーカーを招いたパネルディスカッションなども実施されました。
訪日ラボでは、2日間にわたるフォーラムの様子を取材。本記事では「高付加価値旅行」のトピックスに注目し、講演とパネルディスカッションの内容をお届けします。
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JNTOの高付加価値旅行市場の取り組みについて
高付加価値旅行者とは、訪日旅行1回あたりの総消費額(国際航空券代を除く)が100万円以上の旅行者のことを指します。また1回あたりの旅行消費額が大きいのみならず、一般的に知的好奇心や探究心が強い傾向にあることも特徴です。
JNTOのインバウンド旅行振興フォーラムでは、市場横断プロモーション部長の藤内 大輔氏が登壇し、JNTOの高付加価値旅行市場の取り組みについて解説しました。

高付加価値旅行の推進には課題も
藤内氏は、高付加価値旅行の推進は消費額の拡大および地方誘客の促進に資する施策として重要だと述べました。
高付加価値旅行者の地方誘客について、藤内氏は観光庁が作成した「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりアクションプラン」を紹介し、「ウリ(魅力のあるコンテンツの発掘・造成)」、「ヤド(宿泊施設)」、「ヒト(地方への送客・ガイド・ホスピタリティ)」、「コネ(海外高付加価値層とのネットワーク・情報発信)」、「アシ(移動のシームレス化への対応)」の観点を踏まえ、JNTOでも対策を強化して取り組んでいると述べました。
続いて、2023年の高付加価値旅行の市場規模に関する調査結果についても紹介。2023年の訪日高付加価値旅行市場は2019年比で旅行者数が83.2%増、消費額は50.6%増となり、どちらも世界の増加率を上回りました。
一方で藤内氏は、訪日高付加価値旅行を市場別で見ると、アジアのシェアが大きく、欧州や中東地域の需要を取り込めていない課題があるという認識を示しました。
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高付加価値旅行市場では日本ブームが続く
高付加価値旅行市場のトレンドとしては、以下のようなキーワードが挙げられました。
- オーバーツーリズム回避
- ウェルネス
- つながり・体験の共有
- サステナビリティ
- ガストロノミー・食体験
ほかにも、JNTOが参加した商談会で海外の旅行会社から得られた所感も紹介されました。それによると、高付加価値旅行市場において日本は引き続きブームとなっており、特に桜シーズンは根強い人気があるといいます。
また、ゴールデンルート以外の旅行地に関する情報を欲しており、DMCに対して特別な体験を求める声が強くなっています。DMCについては、特に地方コンテンツを手配できる地域DMCとの直接取引を望むバイヤーも多いとのことです。
一方で課題としては、ガイド不足のほかにレスポンスの遅さなど、DMC側の受け入れ体制への指摘も多かったといいます。そのため、近年ではホテルなどの直接手配やコンシェルジュ経由で手配する傾向も強まっているようです。
【パネルディスカッション】高付加価値旅行におけるガイドの力
同フォーラムでは、「唯一無二の旅をつくる:高付加価値旅行(ラグジュアリートラベル)におけるガイドの力」と題したパネルディスカッションが行われました。
市場横断プロモーション部長の藤内 大輔氏がモデレーターを務め、JAPAN PRIVATE TOUR CEOのラフマン・アフラ氏、全国通訳案内士Behind the Sceneryの曽我 悠氏、全国通訳案内士LinKnot.の伊藤 えりか氏、石川県国際観光課長の北口 義一氏がパネリストとして登壇しました。

高付加価値旅行者の特徴
訪日する高付加価値旅行者の特徴について、アフラ氏は海外の高付加価値旅行では利便性や柔軟性が重視される一方で、日本では希少性や特別性といったお金だけでは手に入らない本質的な価値が求められていると説明しました。曽我氏は、特にアメリカからの旅行者はタイムパフォーマンスを重視する傾向があるほか、本物志向の傾向も強いと述べ、旅慣れている高付加価値旅行者にとって、日本は数あるうちの旅行先の一つであることから、求めるクオリティも高いと話しました。また高価であれば良いというわけではなく、旅行者の感性に合うものを提供していくことが求められていると語りました。
北口氏は、高付加価値旅行者の受け入れ時には夜間や休日に急遽対応を求められることもあるとして、「DMCやガイド、行政、民間事業者との太いネットワークを地域で作り上げないと高付加価値旅行者の誘致は難しい」と述べました。
高付加価値旅行における「ガイドの役割」とは
そのような状況下でガイドに求められるものとして、曽我氏は、普通の旅行者を高付加価値旅行者に変容するように導いていくことが重要だという考えを示しました。実際の現場では、最初から日本の文化や精神性に対して高い意識を持つ旅行者は多くないため、一人ひとりの感性に深く届く旅をガイドが導くことで、旅行者の視点が変わっていくと話しました。伊藤氏は、ガイドの役割はサポーター役であるという認識を示し、特に旅行者の心の調整を大切にしていると語りました。実際に接する旅行者のなかには、疲れが見えたり意向が変わったりする人もいるとのこと。その際には、コンテンツの良さを伝えたい受け入れ側と旅行者の間で温度差が生まれることもあるため、「旅行者の心の変化に寄り添いながら、受け入れ側の伝えたいことを受け取ってもらえるように、旅行者の心の余裕を調整していくことがガイドとしての役割」だと話しました。
またアフラ氏はDMC側の立場として、ガイドは旅行者と共に過ごす存在だからこそ、旅行者と受け入れ側をつなぐ役割を重視してほしいと訴えました。例えば旅行者が無茶な要求をした場合でも、ガイドがいきなりNGを出すのではなく、旅行者の心に寄り添った上で周囲と連携して対応してほしいと強調し、旅行者の満足度が損なわれると旅程の途中であってもガイドの変更を要求されることもあると苦悩をにじませました。
伊藤氏は、JNTOのガイド研修でも「(旅行者に対して)NOを言わない」ことをまず教えられると話し、実際に高付加価値旅行者の付き人に「要求に対してくれぐれもNOと言わないで」と指示されたとして、高付加価値旅行のガイドならではのエピソードを共有しました。
ガイドは共に価値を作るパートナー
ガイドとしてDMCなどの観光事業者に求めたいことについて問われると、伊藤氏は全体の旅程を共有してほしいと述べました。三重県のローカルガイドとして活動する伊藤氏は、旅程の一部分を担うことが多く、旅の全体像がわかれば旅行者の状態に合わせた柔軟な対応が可能になると語りました。
曽我氏は観光事業者への要望として、「ガイドを1日限りの委託先ではなく、共に価値を作るパートナーとして考えてほしい」と提案。ガイドの資産である知識やネットワーク、スキルが軽視されることもあり、そのような状態が続けば優秀な人材がガイド業界に流入しなくなると指摘しました。また行政やDMOへの提案として「ガイドをツアー以外の業務に巻き込み、観光地のストーリー作りやコンテンツの磨き上げなどにガイドのノウハウを活用してほしい」と呼びかけました。
北口氏は、高付加価値旅行において良質な宿泊施設やコンテンツを用意するだけでは足りないとして、ガイドの重要性を強調。北陸地方では高付加価値旅行に対応できるガイドが不足していることにも触れ、観光庁の支援を受けてガイド育成に取り組んでいると述べました。
藤内氏は、JNTOとして高付加価値旅行の誘客に引き続き取り組み、ガイドとの連携も強めながら、さらに盛り上げていきたいと意欲を示しました。
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