世界中で問題となっているオーバーツーリズムの波が、今日本にも押し寄せてきています。
2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、日本では今後さらなるインバウンド需要の高まりが予想されます。
そこで政府は、9月にもオーバーツーリズム対策の一環として、訪日外国人観光客向けのマナー啓発動画を公開する方針です。来年3月末までには、混雑やマナー違反といった観光地を評価する指標を作成します。
今回は、政府による外国語のマナー啓発動画と新たな指標について、現在の日本と世界のオーバーツーリズム例をふまえて見ていきましょう。
【訪日ラボは、8月5日にインバウンドカンファレンス「THE INBOUND DAY 2025」を開催します】
会場での開催に加え、一部講演ではオンライン配信(参加費無料)も実施!さらに、チケットを購入した方限定でアーカイブ配信も予定しています。
ご来場が難しい方や当日ご都合が合わない方も、この機会にぜひご参加ください。
外国語のマナー啓発動画&新たな観光地の評価指標とは
観光庁は、早ければ9月にも、電車の乗り降りや歴史的建造物の写真撮影といった、訪日旅行中に意識してほしい基本的なマナーについて紹介する動画を作成し、少なくとも英語・中国語・韓国語の3ヶ国語で配信予定としていました。
インバウンドのマナー喚起を強化することで、観光客を受け入れる側の地元住民の生活の質向上が目指されます。政府は、観光と生活の両立に向けた環境改善の1つとして取り組むとしています。
10月末現在、この動画の作成について続報はないようですが、動画の配信に先駆けてインバウンドも多く訪れる京都では25日、私道での写真撮影を禁止することを決定しました。高札を掲げ、日本語・英語・中国語で「許可のない撮影は1万円申し受けます」と案内しています。
また、新たな観光地の評価指標の制定では、観光地の持続可能性に着目します。
観光産業の雇用者数や消費額といった評価できる点と、観光地の混雑度やマナー違反、犯罪・違法行為の発生状況といった点を数値化することで、より効果的なインバウンド対策ならびに観光政策を図るのが特徴です。まずは北海道の複数の自治体の協力を得たのち、全国規模での活用を目指します。
世界のオーバーツーリズム対策、2つの例
オーバーツーリズム問題に悩む世界中の人気観光地では、さまざまな観光公害対策を講じています。今回は特に大規模な対策を講じている、イタリアのベネチアとスペインのマドリードの例を見ていきましょう。
入場税導入:イタリアの人気観光地・ベネチア
年間訪問者が2,800万人にも及ぶベネチアでは、観光客向けの民泊増加から家賃の値上げが相次ぎ、住民が退去するケースが増加しました。景観保護や治安維持に関する条例も改正を繰り返し、ポイ捨て禁止などの禁止事項に違反した場合は最大500ユーロの罰金を科すとしていますが、依然としてマナー改善には程遠く住民からの苦情が後を絶ちません。
そこで市議会は2019年2月、ベネチアに上陸する観光客に対し、季節に応じて3〜10ユーロの入場税の徴収を決定しました。
これまで歴史地区の清掃や安全確保に対する費用は、ベネチア市民が負担してきたため、今後は入場税の徴収により住民の負担軽減を図ると同時に、観光客で溢れるベネチアの混雑緩和が期待されます。
民泊を95%減:インバウンド大国スペイン・マドリード
民泊の著しい増加による地元住民の生活の質低下や、住民向けの賃貸物件の減少が顕著なマドリードでは2019年3月、市内の1万軒以上の観光客向けマンスリーマンションの貸与に規制を設けることを決定しました。マドリード市内中心部の民泊に滞在する観光客は直近4年で20倍にも増加している一方で、安価な民泊を利用すインバウンド客の増加は、観光業の発展に繋がらないとの見方が強く、今回の規制に踏み切りました。
市は民泊を約95%減少させる一方で、高級ホテルの誘致による富裕層の誘客を加速させ、観光産業のGDPの増大を図ります。
スペインの人気観光都市・バルセロナで新規ホテルの建設が禁止されたこともあり、高級ホテル側もマドリードへの進出に積極的です。世界的な高級ホテルチェーンのフォーシーズンズやマンダリン・オリエンタル・オラヤングループなどが名乗りを上げています。高級ホテルの誘致拡大により雇用を増やし、スペインの高い失業率の上昇に歯止めをかけることも期待されます。
日本でも相次ぐオーバーツーリズムによる観光公害
オーバーツーリズムの影響は、海外だけでなく日本の人気観光地にも及んでいます。鎌倉市では2019年4月、混雑する観光スポットでの食べ歩きや、危険な場所での撮影などを迷惑行為と定め、観光客のマナー改善に向けた新たな条例を施行しました。
鎌倉は、国内外で人気の漫画「スラムダンク」のアニメの聖地として、中国や台湾を中心に多くのインバウンド客が訪れます。聖地巡礼の熱が高まるとともに、鎌倉高校前駅付近の踏切に侵入する危険な写真撮影や、踏切付近で立ち止まって撮影に集中する観光客の増加により、近隣住民からの苦情が多く寄せられました。
安全面の懸念もあるため、条例で撮影の自粛を促すこととなっています。条例制定は中国メディアでも大きく取り上げられ話題となりましたが、具体的な罰則等はありませんでした。
そうした中で、罰金を制定した京都市の取り組みがどのような進展を迎えるのかには大きな注目が集まります。
まとめ:観光と住民の生活の両立に向けた観光地の環境改善
インバウンド向けの最新オーバーツーリズム対策として政府が作成する、多言語のマナー啓発動画の配信で、訪日外国人観光客のマナー改善ならびに地元住民の生活の質向上が期待されます。
オーバーツーリズムによる観光公害の増加は、いまや世界的な問題となっているため、海外の対策事例も参考に早めの対策が鍵となるでしょう。
<参照>
・産経新聞:五輪へ「観光公害」対策 政府、9月にも外国語のマナー啓発動画
・AFP:ベネチア、7月から「訪問税」徴収へ 美観・安全の維持費に
・訪日ラボ:【鎌倉】外国人観光客の「迷惑行為」で苦情、マナー条例施行へ..."スラダン"聖地巡礼で大混雑
・訪日ラボ:インバウンド大国、スペイン・バルセロナで新規ホテル建設を禁止...なぜ?世界の「オーバーツーリズム問題」最新事情
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
本イベントでは「顧客への情報アピール」「顧客体験(ゲストエクスペリエンス)」「運営のデジタル化」など、施設運営に必要なをテーマを、市場の最前線を走るエキスパートたちが集結。お客様が施設を見つける「旅マエ」から、実際に滞在する「旅ナカ」まで、あらゆるフェーズにおける最新戦略と成功事例を徹底解説します。
<本セミナーのポイント>
- 変わりゆく市場の状況と、今後注目のトレンドを把握できる
- 旅マエの顧客行動を理解し、集客・予約率アップのヒントが得られる
- 旅ナカの接客品質を高め、顧客満足度向上に繋がる実践的な対応を学べる
- 各分野の専門家から、ビジネスを加速させる具体的な戦略や成功事例が聞ける
詳しくはこちらをご覧ください。
→宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」【7/3開催】
【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
訪日ラボを運営する株式会社movでは、観光業界やインバウンドの動向をまとめたレポート【インバウンド情報まとめ】を毎月2回発行しています。
この記事では、主に6月後半のインバウンド最新ニュースを厳選してお届けします。最新情報の把握やマーケティングのヒントに、本レポートをぜひご活用ください。
※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
※口コミアカデミーにご登録いただくと、レポートの全容を無料にてご覧いただけます。
詳しくはこちらをご覧ください。
→「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年6月後編】
今こそインバウンドを基礎から学び直す!ここでしか読めない「インバウンドの教科書」

スマホ最適化で、通勤途中や仕込みの合間など、いつでもどこでも完全無料で学べるオンラインスクール「口コミアカデミー」では、訪日ラボがまとめた「インバウンドの教科書」を公開しています。
「インバウンドの教科書」では、国別・都道府県別のデータや、インバウンドの基礎を学びなおせる充実のカリキュラムを用意しています!その他、インバウンド対策で欠かせない中国最大の口コミサイト「大衆点評」の徹底解説や、近年注目をあつめる「Google Map」を活用した集客方法など専門家の監修つきの信頼性の高い役立つコンテンツが盛りだくさん!