観光公害から住民を救う?政府が本腰入れる「マナー啓発動画」の準備&持続性可能性を視野に入れた評価指標

公開日:2019年10月30日

世界中で問題となっているオーバーツーリズムの波が、今日本にも押し寄せてきています。

2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけに、日本では今後さらなるインバウンド需要の高まりが予想されます。

そこで政府は、9月にもオーバーツーリズム対策の一環として、訪日外国人観光客向けのマナー啓発動画を公開する方針です。来年3月末までには、混雑やマナー違反といった観光地を評価する指標を作成します。

今回は、政府による外国語のマナー啓発動画と新たな指標について、現在の日本と世界のオーバーツーリズムをふまえて見ていきましょう。


外国語のマナー啓発動画&新たな観光地の評価指標とは

観光庁は、早ければ9月にも、電車の乗り降りや歴史的建造物の写真撮影といった、訪日旅行中に意識してほしい基本的なマナーについて紹介する動画を作成し、少なくとも英語・中国語・韓国語の3ヶ国語で配信予定としていました。

インバウンドのマナー喚起を強化することで、観光客を受け入れる側の地元住民の生活の質向上が目指されます。政府は、観光と生活の両立に向けた環境改善の1つとして取り組むとしています。

10月末現在、この動画の作成について続報はないようですが、動画の配信に先駆けてインバウンドも多く訪れる京都では25日、私道での写真撮影を禁止することを決定しました。高札を掲げ、日本語・英語・中国語で「許可のない撮影は1万円申し受けます」と案内しています。

また、新たな観光地の評価指標の制定では、観光地の持続可能性に着目します。

観光産業の雇用者数や消費額といった評価できる点と、観光地の混雑度やマナー違反、犯罪・違法行為の発生状況といった点を数値化することで、より効果的なインバウンド対策ならびに観光政策を図るのが特徴です。まずは北海道の複数の自治体の協力を得たのち、全国規模での活用を目指します。

世界のオーバーツーリズム対策、2つの例

オーバーツーリズム問題に悩む世界中の人気観光地では、さまざまな観光公害対策を講じています。今回は特に大規模な対策を講じている、イタリアのベネチアとスペインのマドリードの例を見ていきましょう。

入場税導入:イタリアの人気観光地・ベネチア

年間訪問者が2,800万人にも及ぶベネチアでは、観光客向けの民泊増加から家賃の値上げが相次ぎ、住民が退去するケースが増加しました。景観保護や治安維持に関する条例も改正を繰り返し、ポイ捨て禁止などの禁止事項に違反した場合は最大500ユーロの罰金を科すとしていますが、依然としてマナー改善には程遠く住民からの苦情が後を絶ちません。

そこで市議会は2019年2月、ベネチアに上陸する観光客に対し、季節に応じて3〜10ユーロの入場税の徴収を決定しました。

これまで歴史地区の清掃や安全確保に対する費用は、ベネチア市民が負担してきたため、今後は入場税の徴収により住民の負担軽減を図ると同時に、観光客で溢れるベネチアの混雑緩和が期待されます。

民泊を95%減:インバウンド大国スペイン・マドリード

民泊の著しい増加による地元住民の生活の質低下や、住民向けの賃貸物件の減少が顕著なマドリードでは2019年3月、市内の1万軒以上観光客向けマンスリーマンションの貸与に規制を設けることを決定しました。マドリード市内中心部の民泊に滞在する観光客は直近4年で20倍にも増加している一方で、安価な民泊を利用すインバウンド客の増加は、観光業の発展に繋がらないとの見方が強く、今回の規制に踏み切りました。

市は民泊を約95%減少させる一方で、高級ホテルの誘致による富裕層の誘客を加速させ、観光産業のGDPの増大を図ります。

スペインの人気観光都市・バルセロナで新規ホテルの建設が禁止されたこともあり、高級ホテル側もマドリードへの進出に積極的です。世界的な高級ホテルチェーンのフォーシーズンズやマンダリン・オリエンタル・オラヤングループなどが名乗りを上げています。高級ホテルの誘致拡大により雇用を増やし、スペインの高い失業率の上昇に歯止めをかけることも期待されます。

日本でも相次ぐオーバーツーリズムによる観光公害

オーバーツーリズムの影響は、海外だけでなく日本の人気観光地にも及んでいます。鎌倉市では2019年4月、混雑する観光スポットでの食べ歩きや、危険な場所での撮影などを迷惑行為と定め、観光客のマナー改善に向けた新たな条例を施行しました。

鎌倉は、国内外で人気の漫画「スラムダンク」のアニメの聖地として、中国や台湾を中心に多くのインバウンド客が訪れます。聖地巡礼の熱が高まるとともに、鎌倉高校前駅付近の踏切に侵入する危険な写真撮影や、踏切付近で立ち止まって撮影に集中する観光客の増加により、近隣住民からの苦情が多く寄せられました。

安全面の懸念もあるため、条例で撮影の自粛を促すこととなっています。条例制定は中国メディアでも大きく取り上げられ話題となりましたが、具体的な罰則等はありませんでした。

そうした中で、罰金を制定した京都市の取り組みがどのような進展を迎えるのかには大きな注目が集まります。

まとめ:観光と住民の生活の両立に向けた観光地の環境改善

インバウンド向けの最新オーバーツーリズム対策として政府が作成する、多言語のマナー啓発動画の配信で、訪日外国人観光客のマナー改善ならびに地元住民の生活の質向上が期待されます。

オーバーツーリズムによる観光公害の増加は、いまや世界的な問題となっているため、海外の対策事例も参考に早めの対策が鍵となるでしょう。


<参照>

・産経新聞:五輪へ「観光公害」対策 政府、9月にも外国語のマナー啓発動画

・AFP:ベネチア、7月から「訪問税」徴収へ 美観・安全の維持費に

・訪日ラボ:【鎌倉】外国人観光客の「迷惑行為」で苦情、マナー条例施行へ..."スラダン"聖地巡礼で大混雑

・訪日ラボ:インバウンド大国、スペイン・バルセロナで新規ホテル建設を禁止...なぜ?世界の「オーバーツーリズム問題」最新事情

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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