現在世界中の人気観光地で問題となっている、オーバーツーリズム。受け入れ可能レベルを超えて観光客が押し寄せているイタリアのベネチアでは、入場税の導入を決定するなど、混雑緩和ならびに住民の生活の質向上を目指す強行策を打ち出しました。
今回は、世界のオーバーツーリズム問題の最新事情として、イタリアのベネチアをはじめ、スペインのバルセロナとマドリードの現状と課題をふまえ、日本のインバウンド業界でも必要な備えについて見ていきましょう。
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1. イタリア・ベネチアで入場税導入!混雑緩和へ
1987年に世界遺産に指定されて以降、観光客が著しく増加していったベネチアでは、年間訪問者は2,800万人にも及ぶと言われています。2017年の宿泊客数は、2005年比で1.6倍の500万人を超えました。
こうした観光客を受け入れるべく民泊が増加し、これの影響から家賃の値上げが相次いでいます。住民が退去するケースも増加しています。
市も長年対策を講じており、景観保護や治安維持のための条例を1987年に制定して以来、改正を繰り返しています。路上での寝そべりやポイ捨てを禁止し、違反者に最大500ユーロの罰金を科すといった対策をしてきましたが、依然としてマナーの悪い旅行者や生活の質低下、景観破壊に対する住民たちからの苦情は後を絶ちません。
引き続き改善の余地があるインバウンドのオーバーツーリズム問題に対し、市議会は2019年2月、3ユーロの入場税を日帰り観光客から徴収することを決定しました。2020年以降は季節に応じ最大10ユーロに設定する方針で、観光客の増加を抑えることを目指します。
しかし、住民からは「まるで遊園地。住む場所じゃない」「入場税徴収といったかたちでなく、人数を制限し、マナー改善のための抜本的な見直しが必要」というように、効果を疑問視する声も多く上がっている現状です。
2. インバウンド大国、スペインのバルセロナでは新規ホテル建設を禁止
1992年のオリンピック開催以降、急速に観光客が増加したインバウンド大国・スペインのバルセロナでは、毎年人口約160万人の約10倍もの観光客が押し寄せています。
しかし、観光客の増加と比例するように観光公害の増加も顕著となりました。
そこでオーバーツーリズム対策の1つとして市が取り組んでいるのが、観光客向けの民泊アパートの規制です。
近年ではアパートを観光客向けに貸与するケースが増加し、住民のための賃貸住宅の減少や、投資目的の物件購入増加から家賃が高騰するなど、住民が中心部で生活することが難しくなってきたことが背景としてあります。
市は、観光客向けアパートの運営許可数を限定するとともに、2019年以降の新規ホテルの建設やバルセロナ大聖堂とその周辺地区で店舗が24時間営業することを禁止しました。
しかし、新規ホテルの建設制限により、およそ30億ユーロ(約3,750億円)と数千人の雇用の損失を招いているのも事実です。
実際に、高級ホテルのフォーシーズンズが市の決定が不服で撤退を決めるなど、高級都市を目指すとしているバルセロナには大きな痛手となっています。市中心部での規制を強化する一方で、観光投資が進んでいない郊外へ誘導するといった対策も実施していますが、依然としてオーバーツーリズム解消への道のりは長いとの見方が出ています。
3. スペイン・マドリードでは民泊を95%減、高級ホテル誘致強化へ
バルセロナで新規ホテル建設が禁止されたことを受け、同じくスペインのマドリードでは高級ホテルの誘致に力を入れています。
マドリードでも民泊の増加による地元住民の生活の質低下やマンションの賃貸物件減少が顕著となり、苦情が殺到したことから、2019年3月に市内の1万軒以上の観光客向けマンスリーマンションの貸与に対する規制を決めました。マドリード市中心部のインバンド向け民泊の滞在人数は4年で20倍にも増加している一方で、安価な民泊を利用するインバウンド客の増加は観光業の発展には繋がらないとの見方が強くなっています。
そこで市は、高級ホテル誘致を強化することで、富裕層の誘客促進を目指すことを方針として打ち出しました。
観光産業のGDPを上昇させるとともに雇用を増やし、スペインの高い失業率の上昇に歯止めをかけることも期待されます。高級ホテル側もマドリードへの進出に積極的で、バルセロナから撤退したフォーシーズンズをはじめ、マンダリン・オリエンタルやオラヤングループなどが名乗りをあげている状況です。
インバウンドの地方誘客&量より質でオーバーツーリズムによる観光公害解消へ
世界のオーバーツーリズム対策として、イタリアのベネチア・スペインのバルセロナとマドリードの例を紹介しました。ベネチアのように入場税を導入するといった強行策をはじめ、中心部での民泊や観光施設の規制、郊外への観光投資、高級ホテル誘致による富裕層の誘客など、さまざまな手法でオーバーツーリズム問題に向き合っているのが現状です。
こうした事態は、日本にとっても他人事ではなく、すでに京都でオーバーツーリズムによる観光公害が顕著となっています。
日本のインバウンド業界でも、地方誘客と「量より質」といった富裕層のさらなる誘客促進は、観光客を分散させることにつながり、オーバーツーリズムによる観光公害解消に対しても効果的と言えるでしょう。
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<参考>
・SankeiBiz:「オーバーツーリズム」世界で頭痛の種 受け入れ能力超える観光客
・BUSINESS INSIDER JAPAN:インバウンドブームの日本で深刻な「観光公害」欧州ではホテル新設、24時間営業禁止も
・訪日ラボ:【スペイン・マドリード】民泊95%減めざす異例規制を強行した理由とは/観光公害による住民からの苦情殺到で
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
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- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
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【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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