2015年から始まった「日本遺産(Japan Heritage)」は、文化庁が認定する地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを指します。
2020年には認定数が104件となり、日本遺産認定地域では観光客誘致への取り組みが実施されています。同時に、日本遺産に認定された地域では、インバウンド誘致に対するさまざまな課題も見えてきています。
そこで、アフターコロナのインバウンド誘致成功に向け、日本遺産の概要から日本遺産認定地域が取り組むインバウンド対策の実例とともに、日本遺産の魅力を海外に訴求するうえでの課題とその対策について解説します。
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遺産を活用し、地域を盛り上げる:日本遺産とは
地域に点在する遺産を活用し、地域の活性化につなげることを目的とした日本遺産は、一体どのようなものなのでしょうか。
ここでは、日本遺産とは何か、認定におけるポイントと申請方法とともに、日本遺産認定により地域が期待できる効果について紹介します。
日本遺産とは?
日本遺産について、文化庁は以下のように定義しています。
地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーとして文化庁が認定するもの。
世界遺産や文化財と似ているように思われる日本遺産ですが、世界遺産や文化財は登録・指定される文化財(文化遺産)の価値付けと保護の担保が目的であり、保存を重視しています。
対して日本遺産は、地域に点在する遺産をひとつの「面」として活用し、発信することで地域活性化を図ることを目的としており、活用が重視されています。
日本遺産の認定は2015年から始まり、2020年には当初の目標であった100件を超え、現在104件が日本遺産として認定されています。
日本遺産の認定基準:3つの「ストーリー」がポイント
日本遺産に認定されるストーリーは、いくつかの市町村にまたがりストーリーを展開する「シリアル型」と1つの市町村でストーリーが完結する「地域型」の2種類あり、3つの条件をクリアしているものに限られます。
その3つの条件は、下記となります。
- 地域の風習や歴史的経緯に根ざしており、世代を超え受け継がれている風習、伝承などを踏まえていること
- ストーリーの中心に地域の魅力として発信する明確なテーマがおかれており、遺跡・名勝地や建造物、祭りなど地域で継承・保存されている文化財にまつわるものが含まれていること
- 地域の歴史や文化財の価値を説明するだけのものではないこと
日本遺産への申請方法
日本遺産認定においては、文化庁から各都道府県の教育委員会を通じて、年に1度募集が行われます。
市町村が申請者となり、各都道府県の教育委員会から文化庁へ申請します。
シリアル型への申請は、市町村の連名での申請となりますが、市町村の所在が同一都道府県の場合は都道府県からの申請もできます。
地域型への申請は、世界文化遺産一覧表記載案件または世界文化遺産暫定一覧表記載・候補案件を有する市町村か、歴史文化基本構想または歴史的風致維持向上計画を策定済みの市町村である必要があります。
申請し、日本遺産に認定された市町村は、文化資源活用事業費や文化芸術振興費など文化庁からの支援が受けられるようになります。
日本遺産で期待される効果
日本遺産に認定されることで、地域の認知度アップやブランド化、地域住民のアイデンティティの再確認などの効果が期待できます。
例えば、大阪府柏原市と奈良県三郷町による「亀の瀬・龍田古道」は、これまで観光地として目立たなかった地域で認定された日本遺産です。
これを受け、柏原市と三郷町は情報発信に必要なウェブサイトの整備や体験コンテンツの造成を計画しており、「亀の瀬・龍田古道」を活かした観光振興を行う予定です。
このように、日本遺産は地域全体の観光振興や認知度拡大のカギとなります。
地域住民のアイデンティティの再確認に関しては、日本遺産の調査・運営に携わるフュートゥラディションワオが2018年に実施した「日本遺産と旅行に関する意識調査」の結果から、その可能性が読み取れます。
この調査では、日本遺産に感じる価値について回答者の41.6%が「日本の良さや日本人としての誇りを再認識できる」、30.4%が「地元や故郷を大切にしたいという気持ちが強まる」と回答し、日本遺産への認定が地域住民の誇りとなることがわかっています。
インバウンド向けに日本遺産を活かした取り組み事例
日本遺産に認定された市町村は、それぞれが日本遺産を活かし、訪日観光客の誘致に力を入れています。
日本遺産認定市町村がどのようなインバウンド対策をしているか、事例を紹介します。
1. 富山県高岡市:日本遺産の第一弾として
富山県高岡市は、2015年に日本遺産の第一弾として認定されました。
高岡市は2010年から郡上市と連携した訪日台湾人観光客の誘致や、英語・韓国語・中国語(簡体・繁体)の4言語のパンフレット製作に取り組んできました。
2015年以降は台湾を対象としたプロモーション「日本遺産のまち高岡」や大型クルーズ船の受入を開始し、クルーズ船乗客向けのシャトルバスの運行や専用パンフレットの製作、臨時窓口の開設などインバウンド対策を行っているといいます。
そして、ユネスコ無形文化遺産に登録されている高岡御車山祭を体感できる会館案内の多言語化を図ることで、訪日外国人に楽しんでもらうためのおもてなし環境が向上したなど、成果が報告されています。
2. 兵庫県:「伊丹諸白」と「灘の生一本」
兵庫県伊丹市は、神戸市、尼崎市、西宮市、芦屋市とともに日本酒をテーマにした「伊丹諸白」と「灘の生一本」を日本遺産に申請し、2020年に認定されました。
この日本酒をテーマにしたストーリーには、国の重要文化財に指定されている「旧岡田家住宅・酒蔵」も含まれており、インバウンドに訴求力のあるテーマとして評価されています。
これまでも、伊丹市は日本酒や酒蔵を活用したインバウンド向けの活動を行ってきました。
2017年度にはCIR(国際交流員)を採用し、さまざまな国の旅行者に対応できるよう、英語でのコミュニケーションを充実させています。
そのほかにも伊丹市では、なぎなた・剣道体験や茶道体験、鏡開き体験などのプログラムを開始し、インバウンド向けPR動画の作成や市内の観光施設に無料Wi-Fiを設置するなど対策が進められています。
SNS運用においても、伊丹市の酒造業の歴史や日本酒商品の紹介など、インバウンドに向けたアピールが行われています。
日本酒に対する海外の反応は?「SAKE」に魅せられた外国人からの素朴な疑問を紹介
近年の日本食ブームの影響などを受け、海外での日本酒の認知度は高まってきています。一方で、日本酒の存在自体は知っていてもどのような飲み物なのか詳しく知らない外国人も多いようです。今回は日本を代表するお酒「日本酒」について外国人がどのように認識しているのか、英語で交わされる情報を元にまとめました。目次日本酒が海外へ広がったきっかけは「和食」日本酒コンテンツで訪日外国人の心をつかむ外国人からの日本酒に対する疑問なぜ「酒」はワインやウイスキーほど有名でないの?日本酒って結局ビールなの?ワインなの?...
3. 文化庁:オンラインガイドツアー
新型コロナ禍にあった2020年の夏、文化庁は海外に日本文化の魅力を発信するため、海外向け文化観光情報サイト「WOW U」の協力のもと、外国人向け日本遺産オンラインガイドツアーを実施しました。
当日は、通訳案内士が動画を用いて鳥取県の「六根清浄と六感治癒の地~日本一危ない国宝鑑賞と世界屈指のラドン泉~」を英語で案内しました。
シンガポール・米国在住の訪日観光に関心のある20代~30代の社会人7名が参加しましたが、オンラインツアー終了後の質疑応答では参加者全員が訪日意欲が向上したと回答しており、一定の成果が得られました。
日本遺産におけるこれからの課題
観光庁と文化庁は、2019年に日本遺産認定地域と旅行会社などのニーズやシーズを把握するため、「日本遺産マッチング・相談会」を共催し、日本遺産にまつわる今後の課題が明確化しました。
これらの課題は、日本遺産認定地域のみならずインバウンド業界においても誘致の際のポイントになります。
ここでは、この相談会で明らかになった課題について解説します。
ターゲットに向けた情報発信
情報発信において、日本遺産認定地域がターゲット層に向けた情報発信の手段や方法がわかっておらず、情報を効果的に発信できていないという意見が挙がりました。
この課題を解決するためには、認定地域は海外の情報メディアやOTAを利用した情報発信や、訪日外国人に関する調査からニーズを把握することが有効であるとの見解がなされました。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が続いている現在では、在日外国人に向けた情報発信も有効な手段となります。
「コロナ収束後の友人・家族の再会」需要を掴めるか:渡航制限解除後の「VFR」向けの対策とは
新型コロナウイルス感染拡大はいまだ収束のめどが立たず、訪日外国人観光客の渡航制限は続いています。しかし渡航制限が解除されたとしても、訪日外客数がすぐに2019年並みの水準に戻るわけではないでしょう。渡航制限解除後のインバウンド需要が戻る順番を展望した時、まずはじめに戻るのが個人旅行(FIT)、特に「VFR」と呼ばれる「友人・親族訪問を目的とした旅行」の戻りが早いとされています。本記事では、今後のインバウンド対策を検討する上で注目されるVFRとはなにか、そしてVFRの需要を掴むために必要な対...
旅行商品・体験コンテンツの造成(地域にお金を落とす仕組み)
日本遺産認定地域の観光客数は増加傾向にある一方で、地域経済を活性化する取り組みも必要であるという意見がありました。
ほかにも、体験コンテンツが少なく、ニーズに合った旅行商品の造成や体験コンテンツが不十分という課題も明るみになりました。
これに対し、解決のためにはまずDMOの担当者が日本遺産のストーリーと魅力をしっかりと理解したうえで協議会と連携を図り、商品化を行うことが挙げられました。
そして体験コンテンツの造成以外にも、多言語に対応したウェブサイトの掲載や海外エージェントとの連携が販促につながると考えられているほか、日本遺産と知名度の高い周辺観光地と組み合わせて商品化することも効果的とされています。
受入環境の整備(案内看板等の多言語整備、キャッシュレス対応等)
受け入れ環境の整備においては、構成文化財や案内看板をはじめ、飲食店や交通手段などの多言語対応や、キャッシュレス対応、Wi-Fiなどの整備ができていないという問題も浮上しました。
そのほかにも、ムスリムに対する理解不足や、対応店舗の少なさに関する意見もみられました。
この問題に対する解決策には、案内板、ガイドなどの多言語化と、電子チケットなどITを活用したキャッシュレス決済や事前決済の導入など、先端技術の活用が挙げられました。
日本はいつ中国に追いつけるのか?キャッシュレス後進国、脱出の可能性をさぐる
今世界では、クレジットカード決済や電子マネー決済などのキャッシュレス決済の普及が進んでいます。QRコードでの決済が広がっている中国や、クレジットカード決済が普及する韓国や欧米諸国など、多くの国は2016年時点でキャッシュレス決済比率が40%を超えています。 一方、日本は2106年の時点で19.9%と他国に比べて大きく遅れをとっている状況です。訪日外国人観光客が増加の一途を辿る日本において、キャッシュレス決済に慣れたインバウンド客に対して多様な決済方法を整備することは喫緊の課題となっています...
日本遺産のこれからに期待:課題解決に取り組むことがカギに
文化庁が6年に渡り取り組んできた日本遺産は、その地域が持つストーリーや遺産を観光客誘致に活用し、地域を盛り上げるという取り組みです。
2020年度で認定数が目標数を超え、日本遺産の新規の認定は当面しないということが発表されています。
日本遺産認定市町村が観光客の誘客に取り組んできたなか、インバウンド対策においては商品化や多言語対応、情報発信の方法、Wi-Fiやキャッシュレス決済の導入など、さまざまな課題が見えてきました。
日本遺産認定市町村がそれぞれの課題の解決に取り組むことで、地域の文化的遺産を「保護」から「活用」へ転換させていくことが期待されます。
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