2月に中国の北京で開催予定の北京冬季五輪をめぐって、米バイデン政権は12月6日、自国から政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を発表しています。
加えて、アメリカのみならずオーストラリア、イギリス、カナダ、ニュージーランドも政府関係者を派遣しないことを明らかにし、外交的ボイコットを講じた国は5か国目となりました。
ニュージーランドは新型コロナウイルスの感染拡大を懸念し閣僚の未派遣を表明していますが、オセアニア地域でオーストラリアと足並みをそろえた形となっています。
今回の外交的ボイコットは、新疆ウイグル自治区内における中国政府による人権弾圧に抗議するための外交的態度であり、国際的にも非常に高い関心を集めているといえるでしょう。
北京五輪をめぐる各国のこれまでの動向を振り返ります。
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五輪をめぐって実施されてきた「ボイコット」とは
ここでいうボイコットとは、軍事的・政治的な国際問題をはじめとした、各国の問題に対する抗議の一環として実施される外交政策を指します。
過去のボイコットの例では、アメリカが1980年にソ連で行われたモスクワ五輪に対して外交団に加え、選手も含めた「全面的なボイコット」を実施しました。
これは前年にソ連がアフガニスタンへ侵攻した軍事行為を受けて講じられた措置で、4年後の米ロサンゼルス五輪では報復として、ソ連をはじめとした10か国以上の東側陣営がボイコットしています。
今回北京五輪をめぐり、現時点で一部の国が検討・実施を表明しているボイコットは「外交的ボイコット」とよばれるものであり、政府関係者は派遣しないものの選手団の派遣は実施されます。
「外交的ボイコット」、ウイグル族に対する人権問題が火種に
ボイコットに至った理由の一つに、現在、国際社会から抗議されている人権問題が挙げられます。
中国政府による新疆ウイグル地区での、ウイグル族やカザフ族などイスラム教徒の少数民族に対する、虐殺、拷問、集団拘束などがそれにあたります。
BBCによると中国側はウイグル族が収容されているのは「職業教育訓練施設」だと主張している一方で、180以上の組織が各国の政府に対し、北京五輪をボイコットするよう要請しています。
世界最大の国際人権NGOであるアムネスティインターナショナルは、新疆ウイグル地区での人権侵害(拷問、迫害など)に関する報告書を公表しました。
本報告書はウイグル族への人権侵害の実態における調査結果が160ページにわたって記載されており、国連への調査も要求されています。
人権問題を受けた各国の対応、外交的ボイコットは同盟国4か国に
北京五輪に対し「外交的ボイコット」に踏み切った国は、アメリカ・オーストラリア・イギリス・カナダの4か国に及んでいます(12月9日時点)。
他に閣僚級の派遣の取り止めを発表しているニュージーランドは、新型コロナウイルスの感染拡大の懸念を理由として、北京五輪への政府関係者の派遣を実施しない方針です。
4か国ともに政府関係者の派遣を取りやめた理由として、中国政府の再三にわたる人権侵害への懸念や、中国当局による自国民への拘束を挙げています。
米ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で、「大統領が習近平国家主席に『人権のために立ち上がることはアメリカ人のDNAに組み込まれている』と伝えた」と語り、人権問題の渦中にある中国の人権問題に対し、強く立ち向かう姿勢を示しています。
選手団については「この五輪に向けてトレーニングを積んできた選手らの不利益になることは正しい措置でない、この大会に参加出来るべきだ。」「私たちは自宅から彼らに声援を送ることを楽しみにしている。」と語り、予定通りの派遣と全面的な支援を表明しています。
各国の対応を受けた中国・IOCの反応
北京五輪をめぐるアメリカの措置を受け、7日の会見で中国外務省の趙立堅報道官は、アメリカが講じる措置は米中の関係を損ねる恐れがあると指摘しました。
その上で「断固とした対抗措置をとる」と述べ、アメリカに対する対抗措置を示唆しています。
中国側の対応として1984年のロサンゼルス五輪同様、外交的ボイコットか情勢によっては全面的なボイコットを対抗措置として講じることも考えられます。
加えて、中国外務省の汪文斌副報道局長は8日の会見で「強烈な不満と断固とした反対を表明する」と述べ、オーストラリア側に抗議、申し立てを行ったことを明らかにしています。
IOC(国際オリンピック委員会)は米政府の外交的ボイコットを受けて「政府関係者や外交官の参加は、各政府の政治決定であり、政治的に中立であるIOCは完全に尊重します」とJNNの取材に応じており、各国政府による北京五輪をめぐる決断を尊重する一方で、直接的な関与を避ける姿勢がうかがえます。
日本政府の対応、林外相「適切な時期に判断」
日本政府は北京五輪への閣僚の派遣を見送る方向で検討していることが7日わかっています。
岸田首相は7日の総理大臣官邸での記者団の取材に対して、「わが国の対応は、オリンピックの意義、さらには、わが国の外交にとっての意義などを総合的に勘案し、国益の観点からみずから判断していきたい。これがわが国の基本的な姿勢だ」と述べています。
また同日、会見に応じた林芳正外相は「日本政府としては今後、適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案して判断します。この外交上のやりとりの一つひとつにコメントをすることは差し控えたいと思います。」と述べるにとどめており、北京五輪に向けた閣僚派遣に関する具体的な方針は明らかにしておらず、事態の推移を見守っている状況です。
一方で日本の与野党の議員からは、外交的ボイコットをめぐる日本政府への対応に主張が相次いでいます。
今回の外交的ボイコットによって、米中両国の関係悪化は必至でしょう。
日本がアメリカなどと足並みを揃える形で外交的ボイコットを講じた場合、中国との外交上や貿易上の対立が深まることが予想されます。
コロナ前の2019年の訪日外国人全体の旅行消費額のうち、中国が36.8%と最も大きい割合を占めていた日本のインバウンド需要の今後についても、大きな変化が起きる可能性があります。
一方で北京五輪の式典に日本の閣僚級が参加させることを選択した場合、国際社会からは中国の人権侵害を看過したとみなされ、大きな非難を集めてしまうことも考えられます。
岸田首相および政府関係者には、米中との板挟みにある日本の現状について、明確な立場を示す時が近づいています。
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<参照>
外務省:林外務大臣会見記録(令和3年12月7日(火曜日)10時43分 於:本省会見室)
Amnesty International:“LIKE WE WERE ENEMIES IN A WAR” China’s Mass Internment, Torture and Persecution of Muslims in Xinjiang
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