アドベンチャートラベルをテーマとした世界最大の商談会・イベント「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(以下、ATWS)」。日本国内随一のアドベンチャートラベル先進地域である北海道が、アジア初のATWS開催地として選ばれました。コロナ禍中2021年のオンライン開催を経て、改めて今年2023年、現地で開催した形となっています。
今回訪日ラボは、ATWSの様子を現地で取材。アドベンチャートラベルは世界の旅行・観光にどのような影響をもたらすのか、そして北海道、日本全体の観光・インバウンド業界において、アドベンチャートラベルはどのような役割を果たすのか。今後の展望を取材しました。
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アドベンチャートラベルとは
アドベンチャートラベル(アドベンチャーツーリズムとも呼ばれる)とは、「自然」・「文化体験」・「アクティビティ」の3つの要素のうち、2つ以上で構成される体験型の旅行を指します。必ずしも「ハードな冒険」を指す言葉ではなく、「深い学びや体験を通して、自身の内面まで変わっていくような旅」がアドベンチャートラベルである、と言われます。
地域の自然・文化をしっかりと体験する必要があることから、長期滞在となることが多く、消費額が大きくなる傾向にあります。また、現地の旅行会社やツアーガイドなどが深く関わったり、自然を生かした観光、その地の食材を生かした食事を提供したりと、地域にお金が落ちる割合も比較的多いと言われており、「消費額向上」「地方創生」を掲げる日本にとって、注目の観光コンテンツの一つとなっています。
これまでアドベンチャートラベルは、旅において「ストーリー」を重視する欧米豪の旅行者を中心に、そして観光地も主に欧米豪を舞台として浸透してきました。一方で、雄大な自然や美味しい食事、豊かな歴史・文化を背景に、アドベンチャートラベルの舞台の一つとして「北海道」に注目が集まっています。
アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)北海道を取材
ATWSは、2021年に北海道でバーチャル開催、2022年にスイス・ルガーノで開催後、満を持して2023年、北海道で現地開催されました。
サミットのテーマは調和(Harmony)。北海道の雄大な自然や文化と調和するような、さまざまなイベントが行われました。
ここからはATWS北海道 1日目〜2日目の様子をお届けします。
1日目:Day of Adventure(DOA)の様子
9月11日にはDay of Adventure(DOA)として、実際に北海道でアドベンチャートラベルを体験するイベントが行われています。いくつかのグループに分かれ、道内の美しい自然を探索できるよう案内されました。
Day of Adventureに参加したという南アフリカからの参加者に話を聞くと、「エキサイティングだった」と体験を振り返りました。「日本は文化体験が豊富だ。アドベンチャートラベルは自然、文化体験、アクティビティのうち2つを "combine" (組み合わせる)ことで生まれる。日本では特に自然と文化体験を組み合わせることで、魅力を最大化できるのではないか」と語りました。
また、当日予定していたツアーが天候の関係で中止になってしまったものの、別の内容を体験できたと話す参加者もいました。水口猛ほか著『アドベンチャートラベル大全』には、「屋外でのアクティビティなど、悪天候により催行できなくなる可能性が容易に想定できるものは、事前に代案を準備しておく必要がある」と述べられていますが、その準備も周到に行われていたようです。
2日目:基調講演・プレスカンファレンス・開会式の様子
9月12日には基調講演・プレスカンファレンス・開会式(オープニング レセプション)が行われました。
基調講演
まずはイベント司会者の高田健介氏による軽快な進行で、なんと「ラジオ体操」からスタート。北海道観光PRキャラクター「キュンちゃん」も登場し、会場は大いに盛り上がりました。
パネルディスカッションとして、ATTA(アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション)CEOのシャノン・ストウェル氏と駐日ヨルダン大使 リナ・アナブ氏が登壇。アナブ氏は「日本の多様性はすべてがアドベンチャーで、ユニークなストーリーがある」と述べた他、「東京だけでなく、地方に足を伸ばしてみるべきだ」などと語りました。
また、基調講演でストウェル氏は、国内でも問題となっている「オーバーツーリズム」に言及。「コロナ後には、コロナ前よりもっと悪くなると予想している」「旅行はローカルコミュニティに歓迎されていないといけない」と強調。その中でアドベンチャートラベルは、オーバーツーリズムに対する解決策を持っているとしました。
また、参加者に対して「我々は競争者ではなく協力者だ。協力しよう」と呼びかけました。
さらに琴・書道のコラボなど、日本の歴史文化をアピールするようなパフォーマンスやムービーなどが披露されました。
プレスカンファレンス
報道関係者向けのプレスカンファレンスでは、ATTAからCEOのシャノン・ストウェル氏、アジア地区のディレクター ハンナ・ピアソン氏、そしてATWS北海道実行委員会から筆頭副会長の小金澤 健司氏、幹事の水口 猛氏が登壇しました。
今回の開催についてのそれぞれの所感を紹介します。小金澤氏は、今回はアジア初の実地開催で、その意義は「大変大きい」と語りました。また、「この広い大地と、独自の文化や食の豊かさを、ポテンシャルだけで終わらせてはいけない。北海道観光はもっと大きくなっていく、ATWSはその大きな契機」だとした上で、「サミット関係者とのネットワークを大切に、アドベンチャートラベルを浸透させ、根付かせていきたい」と述べています。
水口氏は、ATTAのストウェル氏からもあったように「すべての関係者がパートナー。競争者ではない」として、国内そして世界の観光地が協力していく重要性を語りました。さらに、「パンデミックを経て、求められるようになったものがまさにアドベンチャートラベルに合致している」とした上で、今後は「デスティネーション(旅行先)としての北海道の地位の確立」を目指すとしています。
ストウェル氏は、2021年のATWS北海道はバーチャル開催で、2023年の実地開催まで熱量を維持しなければならなかった点に言及し、それに成功したことが、「協力関係がいかに強固なものかを物語っている」としました。また、「なぜ北海道なのか」については、「自然、文化、アクティビティが備わっている」「DOA(Day of Adventure)でアドベンチャーの多様さと質が示された。枚挙に暇がないほどのアクティビティがあり、参加者を楽しませた」と評価しました。
ピアソン氏は、ウェルネスツーリズムやスロートラベルといったキーワードが、コロナ禍でさらに印象を強くしたと指摘。さらに「日本は素晴らしいデスティネーション」だとして、たくさんの場所を見ることに気を取られた旅では逃してしまう魅力を、アドベンチャートラベルなら一箇所に時間をかけて吸収することができるのではないかと語りました。
質疑応答で、小金澤氏は今回の開催に対する手応えを問われると、やはり「競争の場ではなく協力の場」として開催できたことが一番の成果だと語り、「北海道を認知してもらういい機会」「北海道に来たことがなかった人に見てもらえた」になったと述べました。
訪日ラボは、今後世界のアドベンチャートラベルをどのように推進していくかについて、ピアソン氏に直接インタビューしました。これについてピアソン氏は、「コミュニティ全体でアドベンチャートラベルを盛り上げていくことが重要だ。特に日本の場合、官民が一丸となってイベントを開催している」「この機会を活かし、アドベンチャートラベル全体の底上げに向けてとにかく前に進む、積極的に動いていく機運を醸成できれば」と話しました。
開会式(オープニング レセプション)
オープニング レセプションは、札幌オリンピックミュージアムで開催されました。
スキージャンプ選手による華麗なジャンプや、北海道における伝統文化の代表・アイヌの音楽を現代風にオマージュした演奏などが披露されました。
また、ATWS北海道実行委員会会長である、鈴木直道北海道知事も登壇。「北海道には雄大な自然、多様なアクティビティ、アイヌをはじめとする独自の文化・良質な食がある」と強調。参加者に対しては、「ATWSを通じて北海道の"宝"を探してもらい、新しい旅先として北海道、日本を選んでもらえるよう、世界中の人たちに発信してほしい」と話しました。
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今回のATWSには、64の国から754名が登録。ジャーナリストが50名、バイヤー(旅行会社)100名の参加者がいたそうです。そんなATWS2023を取材して、北海道がアドベンチャートラベルを提供する代表的な地域の一つとして認知されていく光景を目にすることができました。
一方で、ATWSは一つの通過点であり、ゴールではありません。日本政府観光局(JNTO)訪日マーケティング戦略では、2025年にアドベンチャートラベルの「アジアNo.1」を目指しています。そのためには北海道だけでなく、日本全体でアドベンチャートラベルを認知し、推進していく必要があるでしょう。
自然や伝統文化、歴史をしっかりと旅行体験に組み込みながら、世界にその魅力をアピールした北海道。今後は他地域のアドベンチャートラベルも盛り上げていけるよう、ATTAのストウェル氏やATWS北海道の水口氏が言ったように「競争ではなく『協力』関係」として、地域同士も協力して観光・インバウンド業界を盛り上げていけるとよいのではないでしょうか。
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