先日発表された2024年の国別訪日外客数では、韓国が1位という結果になりました。
韓国内では2024年12月に戒厳令が発表されるなど、今後の動向に不透明さがあるものの、日本のインバウンド市場において大きな存在であることは変わりがありません。
そこで訪日ラボでは、日本政府観光局(JNTO)で韓国市場を担当する、ソウル事務所長 清水雄一氏に取材。
かつて「消費単価が低い」とも言われていた訪日韓国人の現状や、最新旅行トレンド、そして2025年の重要イベントである大阪万博に向けた取り組みについてもお聞きしました。
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訪日市場は引き続き活況 今後も勢い続く
ーー まずは韓国の直近の動向についてお聞きします。2024年12月3日に戒厳令が出され、政治的混乱が起こったと思いますが、観光への影響はありますか?
私自身も韓国で生活していますが、日常生活への影響はほとんどないと思います。政治的分断が進み、先行きは引き続き不透明ですが、それによってただちに訪日旅行市場が落ち込むことはないと考えています。
数字で見ても訪日市場は活況で、2023年9月以降、訪日韓国人数は単月過去最高を毎月更新し、2024年は過去最高となる約882万人(推計値)が日本に訪れました。
2024年末に起こった痛ましい航空機事故の影響で、一時的に海外旅行意欲は萎縮しましたが、現在はふたたび需要が戻っている状況です。為替レートには引き続き注視が必要ですが、韓国人の海外旅行における勢いは、今後も続くでしょう。
なお、韓国のインバウンド市場(世界から韓国への旅行)については、ツアーのキャンセル増加や新規旅行予約の鈍化など、戒厳令の影響が出たようです。
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「韓国人は消費単価が低い」は昔の話?買い物代が大きく増加
ーー 訪日韓国人の、最新の旅行動向はいかがでしょうか。
観光庁が出している「インバウンド消費動向調査(旧:訪日外国人消費動向調査)」によると、訪日韓国人一人あたりの旅行支出は、2019年では約7万6,000円でした。一方、2024年の最新調査(速報値)では約10万9,000円と、3万円以上増加しています。
内訳を見ると、交通費はあまり変化がありませんが、宿泊費、飲食費、娯楽費、買物代は増加しています。特に買物代は、約1万7,900円から約2万9,000円に増加しています。宿泊費は宿泊単価が上昇しているため金額が上がっているものの、平均泊数は4.2泊と、2019年より微減しています。
つまり、一回の買い物の金額が大きくなっていると考えられます。
ーー 以前より買い物への支出が多くなっているんですね。訪日韓国人は、日本に来てどのようなものを購入するのでしょうか。
まずはブランド品です。
韓国より日本で買った方が安い場合が多いため、例えば「イッセイミヤケを買いたいから表参道に行く」など、お目当てのブランドを求めて、街や駅単位で訪れる場所を決めている人もいます。「このお店は売り切れているから、こっちの店舗に行った方がいい」といった、各店舗の細かい在庫情報も、ブログなどで発信されているんです。
あとは、化粧品、薬やお菓子といった単価が低い商品も人気です。事前に買い物リストを作って、ドラッグストアや免税店でたくさん購入します。
直行便が就航する都市に行って、それほど大きな移動はせずに、その街で楽しく食べて飲んで、買い物して帰るというスタイルがスタンダードのようです。
ーー たとえば中国では「逆向旅行(人の少ない穴場スポットに行く旅)」が人気となっていますが、韓国でも、訪日旅行トレンドを反映したキーワードなどはありますか。
「小都市」が重要なキーワードだと思います。インバウンドが本格的に再開した2023年は、東京、大阪、福岡など、大都市への旅行がメインでした。現在もそうした場所はボリュームゾーンであるものの、「せっかく日本に行ったのに、韓国より韓国人が多かった」という声もあり、最近は「まわりの人があまり行かない都市に行きたい」と考える人が増えています。
ーー 具体的には、どの都市が人気なのでしょうか。
直行便の就航地を中心に、たとえば松山(愛媛県)や高松(香川県)、宮崎、広島などが人気があります。
彼らは「韓国人が少ない場所に行きたい」と言うものの、田舎であれば良いわけではありません。交通の心配がない、ある程度の利便性は必要だと考えます。
ただ、特定の都市の人気が高まっているというより、「小都市」というキーワードが先行して市民権を得ているのが現状ですね。
私たちは、韓国で開催される旅行博に毎年ブースを出すのですが、2023年は東京や大阪、福岡のニーズが大きかったんです。しかし2024年は、小都市に関するパンフレットが非常に好評で、問い合わせも増加。旅行者のニーズに逆転が起きていました。
ーー 「小都市」というキーワードは、プロモーションにも活用できそうですね。
そうですね。SNSの投稿などに「小都市」や「知られざる日本」といった方向性のキーワードを盛り込んだり、ハッシュタグをつけたりするのは効果的だと思います。
訪日韓国人旅行者の半数はリピーターです。旅行者が「前回はブランド品を買いに東京に行ったから、今回は地方に行こう」といった動きをする可能性もあり得ます。
日本人にとって馴染みのある場所も、韓国では知られていないところが多いので、そうしたキーワードをうまく活用してアピールしていただけたらと思います。
関連記事:中国人の間で流行中の「逆向旅行(反向旅游)」とは?
競争社会の韓国 日本のノスタルジックな雰囲気が魅力に映る
ーー 韓国市場において、日本のライバルとなる国はどこでしょうか。
韓国の2023年出国者数の内訳を見ると、1位が日本(30%)で、次にベトナム(16%)、タイ(7%)、フィリピン(7%)と続きます。冬の韓国は非常に寒いので、手頃な価格でビーチリゾートが楽しめる東南アジアは、日本のライバルと言えますね。
夏場は、モンゴルなど涼しい場所の人気も高まります。聞いたところによると、現地の観光地では韓国語が通じるくらい、多くの韓国人が訪れているようです。
中国に関しては、これまでは中高年をターゲットにしたパッケージツアーが主流でした。しかし、2024年11月に韓国人に対するビザが免除されたことを受け、40代以下の若い世代に向けた旅行商品づくりが活発化しています。
しかし総合的にみると、やはり日本が一番人気の旅行先であると思います。
ーー 訪日韓国人にとって、日本の魅力はどんなところだと思いますか。
韓国は非常に激しい競争社会です。受験や就活はとても大変ですし、社会に出ても出世競争は熾烈です。勤め先や子どもの進学先、どんな車に乗っているかなど、常に他人と比べあう風潮があります。
子どもが学校で皆勤賞をとると「学校を休んで海外旅行にいけない家庭」と捉えられるため、むしろ「皆勤賞は恥ずかしい」という考え方まであるそうです。
そうしたストレスの多い韓国社会と比べると、日本はゆったりした雰囲気がある。また、北から南までそれぞれの地域に個性があり、何回リピートしてもおもしろい。行く先々に、こだわりが詰まった小さな喫茶店やおいしい料理が食べられるお店があったりと、非常に安心感があってくつろげるという声は多いです。
私自身、「韓国と日本は似ているのに、いったい韓国人は日本のどこがおもしろいんだろう」と興味がありました。その点についても、まわりの韓国人に聞いてみているんですが、やはり、まち全体の雰囲気や空気感が非常に評価されているようです。
こうしたアピールポイントは、JNTOのプロモーションでも利用しています。運用しているインスタグラムでは、「忙しない日常から抜け出して、日本でゆったりとした時間を過ごしませんか」というコンセプトで、レトロでノスタルジックな日本の雰囲気を伝えています。
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2025年は万博・国交正常化60周年 万博はまずBtoBに注力
ーー JNTOとして、2025年はどのような取り組みをしていくのか教えていただけますか。
私たちはプロモーションを3つの段階に分け、相互に作用させることで、一連の流れを循環させていきたいと思っています。
一つ目は、「心をつかむ」。インスタグラムなどのSNS発信とインフルエンサーの招請活動を行います。
二つ目は、「促す」。訪日旅行に関心を持った方に日本へ来ていただくためには、より具体的な情報提供が重要です。そこで、ブロガーを日本へ招待し、旅行体験記をNAVER(ネイバー)ポストで発信してもらうなど、旅行者が具体的な旅行計画を立てやすくなるよう、情報発信の強化に取り組みます。
三つ目は、「送り出す」。上記の施策と合わせて、航空会社や旅行会社と共同広告を実施していきます。
2025年には大阪万博がありますし、日韓国交正常化60周年の年でもあります。すべての取り組みを2つのテーマに絡めながら、特に地方誘客を推進していきたいと思います。
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ーー 韓国内での大阪万博の認知度はいかがですか。
正直なところ、まだそれほど認知されていないのが現状です。
しかし開幕後には、実際に来場した方も口コミなどで認知を広げてくれると思いますので、我々はそれに先立ち、SNSでの情報発信やメディア・インフルエンサーの招請を行います。万博来場とあわせて観光も楽しんでいただくことで、「万博+観光」を訴求していきたいですね。
一方インセンティブ旅行や教育旅行など、BtoBのプロモーションは早めに行う必要があるので、足元はよりBtoBに注力してPR活動を行っています。
具体的には、インセンティブ旅行向けのセミナーを開催したり、「教育旅行において万博がいかに良い機会であるか」を旅行会社にプレゼンしたりして、アピールしています。
情報発信や企業マッチングで、企業・自治体を支援
ーー 今後、JNTOとしてどのように企業や自治体を支援していきたいですか。
JNTO会員の方には、商談会を設けて韓国企業とのマッチングをサポートすることや、我々が発行するニュースレターで情報発信のお手伝いをすることができます。
特にソウル事務所は地方誘客に力を入れており、韓国人が知らない、あらたな地域の魅力発見を行なっています。メディア招請をはじめ、JNTOが運営するSNS・ブログを活用し、各地の皆さまを応援できればと思います。
これから韓国市場を狙いたいけれど、何から始めていいかわからない方もいらっしゃると思います。我々もできる範囲で真摯に情報提供をしていけたらと考えていますので、個別のニーズや疑問に合わせて適宜、お話をしていきたいです。
あいにくオンラインでの相談は出来かねるのですが、会員でない方も、ソウル事務所であればお気軽にお越しください。その時々の韓国市場の概況をお伝えしたり、日本の事業者さまのお取り組みについても教えていただいたりしながら、情報・意見交換ができると幸いです。
JNTOの会員サービスについて知りたい方は、ぜひ「会員サービスガイド」をご確認ください。
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