日本国内におけるEC市場は好調で、BtoCにおいては10年連続右肩上がりで成長しており、2019年には19.4兆円規模に達しています。2020年以降はコロナ禍の休業要請などにより、ECサイトを開設し売上げを維持しようと試行錯誤する事業者が増加中です。
ECサイトでの販売促進は、サイトヘの流入を増やすことと、サイト上で購買に至る率を上げることの両輪が必要です。前者は、Web広告やSEOなど既に対策を講じている企業が多いですが、後者で問題視すべき「カゴ落ち」が盲点になりやすい傾向です。
訪日外国人がオンラインで商品を購入しようとしても、「カートに商品を入れたまま購入せずに離脱してしまう(カゴ落ち)」ケースが多く発生します。
特に、インバウンド向けのECサイトでは、言語の壁・決済手段の違い・送料や関税の不安などがカゴ落ちの原因となり、売上機会を逃してしまう可能性があります。
本記事では、「カゴ落ち」の意味や主な要因、具体的な対策まで解説します。
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- カゴ落ちは機会損失を招く
- カゴ落ちに至った代表的な理由と対策10選
- 理由1.サイトを回遊しているだけで、買う気が無かった
- 理由2. 送料や税金、手数料の追加費用が想定より高かった
- 理由3. アカウント作成が必要で手間に感じた
- 理由4. 購入完了までの工程が複雑だった
- 理由5. クレジットカード情報入力に抵抗があった
- 理由6. 入力途中でエラーが表示されたり、動作が遅くストレスを感じた
- 理由7.決済手段が限られていた
- 理由8. 返品ポリシーに不安があった
- 理由9. 配送が遅かった
- 理由10. 言語の壁(サイトの多言語対応不足)
- ツールを利用してサイト分析やカゴ落ちメールを自動化
- カゴ落ち対策は売上げアップだけでなく、ECサイトの最適化も実現
目次
カゴ落ちは機会損失を招く
「カゴ落ち」という響きからは深刻さをイメージしにくいですが、購入せずに離脱する事象は高い確率で発生しており、企業にとって機会損失となります。
ECサイトへの訪問数をいくら増やしても売上げに寄与しづらくなるため、早急な対策が必要です。
カゴ落ちとは
カゴ落ちとは、ECサイトに訪問したユーザーが特定の商品を選び「商品をカゴに入れる」「カートに追加」などのボタンを押してカートに入れ、その状態を保ったまま購入せず離脱することです。
カート放棄やカート離脱とも呼びます。
ECサイトのカゴ落ち率、日本は平均68.2%
米国のBaymard Instituteが2025年に発表した調査によると、世界でECサイトのカゴ落ち率は平均70.19%で、実際に決済まで完了しているのはわずか3割です。
またイー・エージェンシーによれば、日本においても平均68.2%と高い確率でカゴ落ちが起きており、機会損失額は平均で売上げの2.5倍と、大きなインパクトを与えています。
年々増加傾向のカゴ落ちの要因として、商品選びから購入までのプロセスで、ユーザーの購買意欲が変動しやすいことが挙げられます。カゴの中に商品をキープできる点や購入タイミングを自由に決められる点、入力作業が伴うなど実店舗とのギャップが、ユーザーの手を止めてしまっている可能性があります。
カゴ落ちを減らすには、購買意欲が高い状態を維持したまま決済完了に到達させることがポイントになります。
<参照>
49 Cart Abandonment Rate Statistics 2025
ECサイト、売上の約2.5倍がカゴ落ちによる機会損失 ~ イー・エージェンシー|カートリカバリー>お知らせ|CART RECOVERY|さぶみっと!|株式会社イー・エージェンシー
カゴ落ちに至った代表的な理由と対策10選
カゴ落ちの理由はさまざまですが、代表的な6つの理由と改善策を紹介します。ユーザーがどこでつまづいているのか、どんな心理で購入に至らなかったのかを把握し、一つひとつ潰していくことが早道です。
理由1.サイトを回遊しているだけで、買う気が無かった
調査結果によるとは、約6割のユーザーがカゴ落ちの理由として「回遊していただけ」と答えています。こういったユーザーはサイトへの再訪で購入につながる可能性が高く、リマインドメールを送りアクセスを促すなど攻めの対策が有効です。
また、他の商品と比較中であることを想定し、早い段階でのアプローチは購入率が上がりやすくなります。
カゴ落ち時点から3時間後、24時間後、7日後の3回配信は高い効果が期待できます。メールを送る際は「カートの中にお買い忘れの商品はありませんか?」「お探しの商品は見つかりましたか?」などの件名で気付きを与えると良いでしょう。
ファッションECの事例では売上げの11.2%がカゴ落ちメール経由との結果も出ており、有効な手段として効果が出ています。
理由2. 送料や税金、手数料の追加費用が想定より高かった
ECサイトの特徴として、商品の代金以外に送料や手数料が別途発生するため、ユーザーは支払いが想定より高いと感じる傾向にあります。
2021年4月より消費税を含む総額表示が義務化されましたが、合わせて送料も含めた代金を示すことで「送料無料」と表示できるようになり、割高感を軽減できるだけでなく得をしたような気分を抱いてもらえます。
また初期の画面で実際に支払う代金を表示する形式であれば、より誤解が生まれません。
価格で選ぶユーザーも多くいることを念頭に置き、支払合計金額を早い段階で伝えることと、可能であれば追加費用自体を減らすことでコストによる断念を食い止められます。
理由3. アカウント作成が必要で手間に感じた
ECサイトの手軽さにメリットを感じ、利用しているユーザーも多いため、購入時のアカウント作成が手間で離脱してしまう場合があります。
解決策としては、アカウントを作らず購入可能とするか、アカウント作成は必須なまま、会員限定クーポンやポイント制度などメンバーが得られる特典を明確に示すことで、魅力を伝える方法があります。
また、郵便番号を入力すると住所を自動表示したり、氏名を入力すると自動でふりがなが入るなど手順を簡略化することで、入力途中での離脱を防げます。
理由4. 購入完了までの工程が複雑だった
決済までの画面遷移や入力項目が多かったり、読まなくてはならないテキストが長いと、途中で意欲が失われてしまいます。
最近ではスマートフォンで利用するユーザーも増えており、小さい画面でもストレスなく操作できるサイトにする必要があります。
具体的には、入力フォームを1ページにまとめる、Amazon Payなど他サイトのアカウント情報を引き継げるようにする、色合いや幅を調整しスマホ画面に最適化した表示にするといった対策が有効です。
理由5. クレジットカード情報入力に抵抗があった
カード情報の不正利用を恐れ、入力に抵抗を感じるユーザーもいます。事実、ECサイト担当者の約半数が「サイバー攻撃を受けたことがある」と回答しているほどセキュリティリスクは確実に存在し、万一漏洩した場合は社会的信用を失うなど重大な事態になります。
対策としては、根本であるセキュリティ対策が充分か見直し、導入しているセキュリティサービスをサイト上に表示しましょう。例えばNortonのロゴが目立つところに表示されていれば、ユーザーの目からも安全だとわかり、躊躇しにくくなるでしょう。
他にも、通信を暗号化し「https」で始まるURLで公開することや、ページ内にリンク切れや画像の読み込み不可などの事象が起きないように運用することが信頼獲得に結びつきます。
理由6. 入力途中でエラーが表示されたり、動作が遅くストレスを感じた
商品画像の表示や入力内容のチェック処理などで動作が遅いページは、購入意欲を失う要因になります。
ECサイトでは、読み込み時間が0.5秒長くなるだけでコンバージョン率が7%悪化する可能性があると言われており、性能の良し悪しは重要な観点です。
そもそも不正な文字を入力できないように規制をかけておくことで、エラー発生の予防になります。また、単に「エラー」と表示するのではなく、どの部分が対象なのかやエラー理由について赤字で表示するなど、アシスト機能を充実させると混乱が起きにくくなります。
新商品発売やセール期間などアクセスの集中が見込まれる場合は、あらかじめサーバー処理を強化しておくと良いでしょう。
理由7.決済手段が限られていた
近年、決済手段の選択肢が増え、どの方法を利用するかは顧客ごとに異なります。特に、クレジットカードやバーコード決済などのキャッシュレス決済では、ポイント還元率やキャンペーンを基準に選ぶ人が多いでしょう。
そのため、ECサイトで商品をカートに入れた後に、希望する決済方法が使えないと分かると、購入をやめて他のサイトへ移動する可能性があります。
同じ商品や類似品を、他のECサイトでもほぼ同じ価格で見つけられるケースが多いため、少しの手間をかけてもお得な決済手段を選びたいと考える消費者が増えています。
対策としては、クレジットカードのほか、コンビニ支払い、電子マネー、代金引換、キャッシュレス決済など複数用意し、柔軟に選べるようにすると利便性が上がります。
また、PayPal・Apple Pay・Google Payのようなグローバル決済手段を用意するほか、中国向けにAlipay・WeChat Pay、東南アジア向けにGrabPay・Gcashなどを導入するのも有効です。
ランキング上位のECサイトでは4つ以上の決済方法を導入しているものが多く、顧客満足度が高い理由の1つになっていると言えるでしょう。
理由8. 返品ポリシーに不安があった
返品・交換のルールが分かりにくかったり、返品時の送料や手数料が不明瞭だと不安になることがあります。
また、返品期間が短すぎるたり、返品不可である場合は、購入を躊躇してしまう原因となります。特に、海外からの購入者にとって、短期間の返品対応は難しいため、購入を辞めてしまうことがあるでしょう。
ECサイトでは、商品到着後に「イメージと違った」「サイズが合わない」などが一定数起こるため、返品や交換がスムーズにできることがわかれば、購入に踏み切りやすくなります。
改善策としては、下記の対応が考えられます。
- 返品ポリシーを分かりやすく記載(「〇日以内なら返品可能」「送料は〇〇」など具体的に明示)
- 返品、交換の対象となる条件を「よくある質問」としてまとめる
- 多言語対応を強化し、訪日外国人向けにも返品ルールを分かりやすく説明
- 返品無料キャンペーンを実施し、顧客の安心感を向上(例:「初回購入者は返品無料」など)
- FAQページを充実させる(「返品方法」「交換手続き」などを簡潔に説明)
理由9. 配送が遅かった
配送日数が長すぎたり、いつ届くか分からない場合も不安の要因となります。特に急ぎで欲しい商品のときに、速達や即日配送が選べない場合は、他のサイトでの購入を検討するユーザーもいるでしょう。
改善策としては、下記の対応が考えられます。
- 配送オプションを増やす(例:「標準配送」「速達」「当日受け取り」など)
- 配達予定日を明確に表示(例:「〇月〇日までにお届け」など、注文前に確認できるようにする)
- 即日発送サービスを導入(一定時間内の注文は当日発送することで、配送スピードを向上)
- 倉庫拠点を海外にも設置し、訪日後の購入者が帰国後も迅速に受け取れる仕組みを構築
理由10. 言語の壁(サイトの多言語対応不足)
日本語のままのサイトでは、外国人顧客が理解できずに離脱する可能性があります。また、自動翻訳の精度が低く、購入手続きが不安な場合
改善策としては、英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語などのネイティブ翻訳を導入したり、国別の専用サイトを用意し、ターゲットごとに最適化することが考えられます。
たとえば、ユニクロは、国ごとに専用のECサイトを運営し、多言語での自然な表現を実現しています。
ツールを利用してサイト分析やカゴ落ちメールを自動化
ECサイトは、ユーザーのアクセスログが残るというメリットがあるため、収集したデータを基にサイトの改良を繰り返したりアプローチを仕掛けたりすると、PDCAの精度が上がります。
Googleアナリティクスで離脱傾向の高いページを特定
カゴ落ちが多い商品や、離脱率が高いページの特定など、Google アナリティクスなどのアクセス解析ツールを利用すれば洗い出すことが可能です。また、施策前後で比較して評価でき、次の一手を考えやすくなります。
カゴ落ち対策専用のMAツールでリマインドメールを自動送信
カゴ落ちメール専用のツールやMA(マーケティングオートメーション)を導入し、メールを自動配信すると、必要なタイミングで漏れなく催促できます。
カゴ落ちメールは、配信時期や再アクセスを促す内容、送信回数で効果が左右するため、精度高く確実に送れる自動処理は有益でしょう。
カゴ落ち対策は売上げアップだけでなく、ECサイトの最適化も実現
商品の置き去りを防止するカゴ落ち対策により、スムーズな購買が促進され売上げ向上につながります。
カゴ落ち対策で得られる効果はそれだけでなく、サイトの利便性や信頼度が改善することで、これまでよりも多くの商品を閲覧したり、ついで買いをしたり、快適さからおすすめをしてくれるユーザーが増えたりするなど間接的な効果も期待できます。
処理の高速化やセキュリティ対策など、品質改善も心がけながらECサイトを育てていくことが長く活用されるポイントになります。
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