「ラマダン」はイスラム教徒(ムスリム)にとって1年で最も神聖な期間とされていて、約1か月にわたり、日の出から日没まで飲食を控える断食を行うことで知られています。
ラマダンは、インバウンドの観点でも知っておきたい重要な宗教的行事のひとつといえます。ラマダン中は訪日旅行を控える人が多い一方、ラマダン明けには長期休暇やお祝いムードとともに外国旅行需要が一気に高まるためです。
この記事では、ラマダンの基本的な意味やルール、実施されている国、そして訪日旅行への影響についてわかりやすく解説します。
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イスラム教徒(ムスリム)について
ムスリムとは、アラビア語でイスラム教徒を意味します。
ムスリムは唯一神(アッラー)の教えに従って生きており、「信仰の告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼」の5つの基本行為と、定められた戒律を守ることを義務としています。
たとえば、「聖地であるメッカの方角へ向かって1日5回礼拝を行う」「女性は肌を他人に見せてはいけない」などの風習・習慣があります。
また、生活するうえで合法なもの・非合法なものがイスラーム法によって決まっており、合法なものを「ハラール(ハラル)」といいます。食事に関しては、豚肉やアルコールの摂取が禁止されています。
関連記事:宗教別の食べてはいけないものを一覧で紹介!押さえておきたいタブーと飲食店での対策とは
イスラム教のラマダンとは
ラマダンとはイスラム教の聖典「コーラン(イスラム教の聖典)」の啓示を記念する行事で、ムスリムにとって最も神聖な期間と言われています。
イスラム教の五行(5つの義務)の一つ「断食(サウム)」を実践する期間としても知られています。
断食する期間と時間帯
国連UNHCR協会によると、断食は約30日間にわたって行われ、期間中は日の出から日没までのあいだ、食事を一切断ちます。
水分補給や喫煙などもNG
ラマダン中の断食では、食べ物だけでなく水分補給も禁止されています。これには水も含まれます。そのため、夜明け前に「スフール」と呼ばれるしっかりした食事をとり、日没後初の食事である「イフタール(「断食を破る」との意)」で断食を解きます。
また、喫煙や性的な行為、薬の服用(※健康を害する恐れがある場合は免除される)、故意にものを吐く、人の悪口や噂話、けんか(争い)なども控えるべきとされています。
外出時の服装についても、短パンやノースリーブなど肌の露出が多い服装は避けるべきとされており、日常生活全体を通じて信仰心にあふれた態度が求められます。
免除される人々も、子どもはも6〜7歳ごろから
断食は、すべてのムスリムが必ず実施しなければならないわけではありません。体調や状況によって免除や振替が認められています。
免除対象には高齢者、重病人、乳幼児、妊娠中・授乳中・生理中の女性、長距離の旅行者、重労働に従事する人などが含まれます。生理中の女性や長距離の旅行者のように、後日改めて断食を行えると判断される場合には、免除された日数分だけ振り替えて実施します。
子どもに関しては、一般的に6〜7歳ごろ(日本での小学校入学前後)から断食に親しみはじめることが多いようです。本格的に断食を行うのは思春期以降とされ、はじめは日数や時間を短くするなど、徐々に慣れていけるよう配慮されています。
ラマダンの目的は「浄化と自制、共感」
ラマダンに断食を行うのはムスリムとしての義務のひとつで、目的は心と行動の浄化、欲望の抑制、そして他者への共感にあります。
ムスリムにとってラマダンとは、単に食事を断つだけの期間ではありません。自身の行いや言葉を慎み、善い行いに努めることで、信仰心を深めることが目的のひとつです。
この期間には、家族との時間を大切にしたり、亡くなった人たちへ思いを馳せたりすることも重視されます。さらに、貧しい人々の苦しみに思いを寄せ、チャリティー(ザカート)などの支援活動を積極的に行うことが推奨されています。
あらゆる層の人々が身分に関係なく空腹や喉の渇きを共に体験することで、社会的な連帯感と共感を育むことがラマダンの大きな意義のひとつです。
アジア、中東、アフリカなど広範な地域で実施
ラマダンは、世界中のムスリムが実践する共通の宗教的行事であり、おもにイスラム圏の国々を中心に広く行われています。
各国のムスリム人口の推計値やランキングを発表している「World Population Review」によると、2025年時点で世界には約20億人のムスリムがいるとされており、なかでもインドネシアは世界最大のムスリム人口を擁する国です。人口の約9割、およそ2億4千万人がムスリムといわれています。
ほかにもパキスタンやインド、バングラデシュ、ナイジェリア、エジプト、トルコなど広範な地域に多くのムスリムが暮らしています。また、日本にも約19万人のムスリムが生活しており、地域のモスクやコミュニティを中心に、さまざまな国や地域でラマダンが行われています。
2025年と2026年のラマダンはいつ?
ラマダンの時期は毎年変わります。これは、イスラム教で使われている太陰暦(ヒジュラ暦)によるものだからです。
ヒジュラ暦は月の満ち欠けを基準としており、1年の日数は約354日です。日本をはじめ多くの国で使われている太陽暦(グレゴリオ暦)と比べて、11日ほど短いのが特徴です。
この差によって、ラマダンの時期は毎年少しずつ前倒しになり、季節や太陽暦とずれていきます。
2025年のラマダンは2月28日(金)から3月29日(土)で、2026年のラマダンは2月17日(火)頃から3月19日(木)頃までの見込みです。実際の開始・終了日は宗教機関による新月の確認により確定します。
ラマダンとインバウンドの関係
このように、ラマダン期間中はさまざまな制約があるため、訪日旅行への影響が気になる方もいるでしょう。
実際、イスラム圏の訪日客動向を考えるうえで、ラマダンは無視できないチェックポイントです。ここではその関係性について見ていきましょう。
ラマダン期間中は旅行を控える傾向に
ラマダン期間中、イスラム教徒の多くは日中の断食や礼拝に集中するため、旅行を控える傾向があります。観光や外食を楽しむには適した時期ではないことから、訪日数は減少しやすいといわれています。
日本政府観光局(JNTO)が発表している「訪日外客統計」によると、2024年3月のラマダン期間中、インドネシアや中東諸国からの訪日客について「ラマダンによる旅行控え」が影響したと言及されています。
ラマダン明けは訪日数が増加
一方、ラマダンが明けると状況は一変します。ラマダン終了後には約3日間、「イード(イード・アル・フィトル)」と呼ばれるラマダン明けの祭りが行われます。
また国によって期間は異なりますが、ラマダン明けには長期休暇を設定している国が多く、たとえばサウジアラビアでは「イード休暇」として約3週間の学校休暇が設けられるほか、インドネシアでも断食明け休暇として1週間〜2週間程度の学校休暇が設けられます。
ラマダン明け休暇を設定している国は多く、このタイミングに家族で帰省する人や、まとまった休みを利用して外国旅行に出かける人も相当数おり、日本への旅行が選ばれることも少なくありません。
このような背景もあり、2025年3月の訪日外客数は349.8万人で、3月として過去最高を記録しました。春の桜シーズンに⼊り多くの市場で訪⽇需要が高まったことに加え、断食明け休暇に合わせて外国旅⾏需要が重なったことが押し上げ要因となったと報告されています。
ラマダンの時期とその後の動向を把握しておくことは、イスラム圏からのインバウンド対策を考えるうえで、押さえておきたいポイントといえそうです。
関連記事:3月の訪日外客数349.8万人、過去最速で年間累計1,000万人突破
ラマダンを正しく理解してインバウンド対応を
ラマダンは、ムスリムにとって信仰心を深め、心身を浄化する大切な期間です。日の出から日没までの断食を約1か月間行うほか、家族や地域とのつながり、寄付や善行などを通じて他者への思いやりを育む機会でもあります。
ラマダン期間中は旅行など外出が控えられる一方、ラマダン明けには長期休暇とともに外国旅行需要が高まることから、インバウンド対策を考えるうえでも知っておきたい宗教的行事といえるでしょう。
なお、イスラム教には食事や食材に関する独自のルール(ハラル)があります。詳しくは「イスラム教徒は牛肉を食べられない?食べてはいけないもの・食べてよいハラールフードの違い」の記事も参考にしてみてください。
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<参照>
一般社団法人ハラル・ジャパン協会:イスラム教について
国連UNHCR協会:ラマダンについて、知ってみませんか?ラマダンQ&A
外務省:岸田総理大臣主催による「イフタール」の開催
在マレーシア日本国大使館:ラマダン期間中の海外渡航・滞在に関する注意喚起
在ドバイ日本国総領事館:ラマダン期間中の注意事項等について
World Population Review:Muslim Population by Country 2025
在インドネシア日本国大使館:ラマダンとは
日本政府観光局(JNTO):訪日外客統計
日本政府観光局(JNTO):訪日旅行データハンドブック
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