インバウンドの「競合」とは、日本国内の同業他社だけとは限りません。それぞれの国からの「海外旅行」というマクロな視点で見れば、他国も日本のインバウンドにとって、競合「国」であるといえます。
今回は、前回に引き続き、欧米やオセアニア(英語圏)での日本のインバウンド競合国を調査・分析しました。
インバウンドの本当の競合は中国!? 各国の海外旅行先から見る日本の競合国:アジア編
近年の急速な訪日外国人観光客数の増加により、インバウンド市場は史上類を見ないほどに急成長をしています。おそらく、本メディア「訪日ラボ」をご覧になっている方はインバウンドビジネスを既にはじめていたり、または新規事業として検討段階にあったりすると思います。市場参入やビジネスをグロースさせるにあたり、市場分析、なかでも「競合調査」はどのビジネスでも重要視するのではないでしょうか。その競合調査にあたり、国内インバウンドビジネスがどのようなことをやっているのか、だけでなく、「日本」の競合はどこなのか...
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おさらい:なぜ他国を競合として見るのか
当然のことながら、訪日外国人観光客にとって「日本旅行」とは「海外旅行」です。とすれば、訪日外国人観光客は、その海外旅行の旅先として「どの国に行こうか?」という比較検討フェーズを経て、日本を選択し、旅行に来てくれています。そのため、訪日外国人観光客にとって「日本 vs. 他の国」という検討フェーズが必ず発生します。
インバウンドの競合「国」を把握しておくと何が良いのか
インバウンド市場における競合「国」を知っていることで、
- その国の海外旅行検討者は何を基準に旅行先を決定したのか
- 「海外旅行」がブームになっているのか「訪日旅行」がブームになっているのか
- その国の訪日旅行の今後
などを推定することができ、中長期的な計画や、具体的なターゲット国の選定に役立ちます。
訪日主要国の海外旅行市場での「日本 vs. 他国」比較
それでは、各国の状況を見ていきましょう。今回は、欧米&オセアニア(英語圏)の
- 2014年の渡航先別海外旅行者数TOP10
- 2010年〜2014年までの5年間のTOP10国への旅行者数推移
をご紹介します。
アメリカ人の海外旅行データ
アメリカ人の海外旅行渡航先のトップはメキシコとカナダで、1位、2位を独占している状態にあります。やはり隣国ということだけあり、観光としても行きやすいことと、ビジネス目的の旅行客が多いためと思われます。その後、イタリア、フランス、イギリスと欧州各国が続いていきます。
日本はTOP10入りならず、19位に位置しています。アメリカでの海外旅行先ランキングでは上位に食い込めていないものの、インバウンド市場での外客数シェアで第5位につけているを見るに、アメリカの海外旅行市場の規模感に驚かされます。
日本は、アジア各国の中では、8位の中国、12位のインド、13位の香港の次に位置しており、タイ、フィリピン、韓国などよりは上位にランクイン。そのため、「アジアに旅行に行こう」というアメリカ人の選択肢には、比較的入りやすい状況にあります。
アメリカ人の海外旅行渡航先TOP10の5年間推移を見てみると、全体的に安定した横ばい傾向にあります。所得増加による海外旅行者数急増がみられる東アジアや東南アジアと比較して、先進国であることから、旅行やアクティビティー向けの支出・予算額も安定しているためです。
メキシコへの訪問者数が2014年に急上昇していることも特徴。特段、リオオリンピックのような国際的イベントがあったわけではないですが、アメリカ内でメキシコ旅行が流行している模様。
カナダ人の海外旅行データ
カナダ人の海外旅行渡航先のトップは隣国のアメリカです。言語が基本的に英語で共通していることで気負いせずに旅行できること、またビジネス目的の渡航者も多いことが理由だと思われます。
2位はアメリカを飛び越えてキューバがランクインしているものの、アメリカ行きの2300万人に対してわずか127万人の訪問者数で、およそ20分の1以下であり、大差をつけられています。日本はTOP10入りならず、16位にランクイン。
カナダ人の海外旅行先1位のアメリカは安定した訪問者数を確保しています。ここから、定番の旅行先ないし、ビジネス目的の旅行者が多いことが推測されます。
その他の国については特段大きな伸びも見られず、良く言えば安定傾向にあるとも言えます。総じて、カナダ人はアメリカ以外には海外旅行に行くことが少ないと言えます。
イギリス人の海外旅行データ
イギリス人の海外旅行先は、海を挟んで隣の国のスペインとフランス、アイルランドが1位から3位にランクイン。続いてアメリカ、イタリア、トルコ、ドイツ、ギリシャ、オランダ、ポルトガルと、やはり主に欧州の国々に旅行に行っています。
日本はかなり遅れをとる格好で42位。やはり地理的に長旅になってしまうことがランクから落ちる原因だと思われます。しかしながら、タイが12位、中国は23位、香港が24位についている(もちろん、香港統治をしていた歴史的事実も関連していると思われます)ことから、アジア圏に足を伸ばしているのは事実。今後も訪日英国人観光客の伸びを期待できます。
イギリスの海外旅行者数推移は、微増ながらも右肩上がり傾向にあります。日本と特に競合になりやすいアジア各国においては、タイが堅実に旅行者数を伸ばしており、中国・香港はほぼ横ばい傾向です。また、上記の票ではわかりづらいものの、日本への訪日英国人観光客数は堅調に伸びています。
2013年ごろから中国を訪れるイギリス人が若干減少傾向にあり、この取りこぼし分の観光客を日本が取り込んでいる可能性もあります。また、EU脱退による影響が気になるところですが、そもそもイギリスはシェンゲン協定(国境でのパスポートコントロールを無しにする協定)には加盟しておらず、旅行者に限って言えば、大勢に影響はなさそうです。
オーストラリア人の海外旅行データ
オーストラリア人の海外旅行先は2位から僅差でアメリカが1位です。2位以降は、ニュージーランド、インドネシア、シンガポール、イギリスと、近隣ないし英語が通じる国々を選択している模様。日本はTOP10入りならず、15位にランクイン。しかしながら、全体的にアジア圏を旅行先として選ぶことが多く、今後の伸びに期待できそうです。
また、上記グラフの縦軸を見ていただければわかるように、1位の米国でさえ年間130万人程度となっており、全体を通して、今回取り上げた他の国よりも海外旅行者が少ない印象です。
先述の通り、オーストラリア人は比較的海外旅行をしないものの、5年推移を見てみると、基本的に右肩上がりの傾向を見せています。最も上昇率が高いのはアメリカで、日本も東日本大震災の影響で2011年に客足を下げたものの、その後はアメリカと同水準で上昇し続けており、着実に訪日旅行者を獲得しています。
また、地理的に日本と競合になりやすいアジア各国においては、直近5年間で30万人以上増加している国もあり、全体的に上昇傾向に有ります。そのため、先述の通りオーストラリア人の旅行先選択基準として「英語が通じるか?/英語である程度快適に旅行できるか?」を日本がクリア出来るようになれば、今後急上昇していく可能性もあります。
まとめ:どの国をメインターゲットにするかによって、競合とする国はさまざま
前編・後編で海外旅行における競合国についてご紹介しました。全体的な傾向として、
- 海外旅行先の選択基準になるのは「近さ」「言語」「文化」の3つのキーワード
- 中華圏では、海外旅行市場において中国が最大の競合国
- アジア各国では海外旅行市場が伸びており、それとともに訪日旅行者数も伸びている
- 欧米・オセアニア(英語圏)各国では、海外旅行市場全体は基本的に横ばいで安定している
などの特徴が見えます。また、各国においてアジア圏への海外旅行数は堅実に伸びていることから、今後も訪日旅行者数も底堅く推移していくものと思われます。
ターゲットとする国によって、競合となる国はさまざまです。中長期でインバウンドを考える際には、これらの競合国を分析し、「なぜ(日本ではなく)その国に行くのか」を洗い出すことが必要です。そうすることによって、一過性のブームに踊らされない堅実なインバウンドビジネスを実現できます。
<アジア編はこちら>
インバウンドの本当の競合は中国!? 各国の海外旅行先から見る日本の競合国:アジア編
近年の急速な訪日外国人観光客数の増加により、インバウンド市場は史上類を見ないほどに急成長をしています。おそらく、本メディア「訪日ラボ」をご覧になっている方はインバウンドビジネスを既にはじめていたり、または新規事業として検討段階にあったりすると思います。市場参入やビジネスをグロースさせるにあたり、市場分析、なかでも「競合調査」はどのビジネスでも重要視するのではないでしょうか。その競合調査にあたり、国内インバウンドビジネスがどのようなことをやっているのか、だけでなく、「日本」の競合はどこなのか...
<参考>
- JNTO「世界20市場 マーケティングデータ」
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