既に報道などでご存知の方も多いでしょうが、浅草寺と仲見世通りにある商店街の店舗の間に家賃引き上げに関するトラブル が起きています。仲見世通りと言えば、JR浅草駅からほど近く、雷門、浅草寺などを訪れる訪日外国人を含む観光客で常にごった返している人気の観光スポットです。その浅草寺と、目の前にある仲見世通りの間のトラブルについて詳しく見ていきましょう。
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浅草寺と仲見世商店街の家賃引き上げ問題、その経緯とは?
浅草寺と仲見世商店街の関係は、その土地、建物の所有者に関する問題から複雑になっています。仲見世通りの起源は江戸時代にまで遡ると言われており、日本で最も古い商店街の1つで、約250mに89店が軒を構えています。仲見世通りの「土地」は元々は浅草寺の所有物でしたが、明治4年に所有権が国に移ります。明治18年に東京都がここにレンガ造りの建物を建て、明治44年に「土地」が浅草寺に返還されますが、「建物」については東京都が管理を続けてきました。今までは浅草寺が「土地」を東京都に無料で貸し、東京都が「建物」を店主に貸すという状況が続いてきました。
しかし、この「建物」部分について浅草寺側が所有権を以前から希望しており、今年の7月になって東京都が浅草寺側に、「建物」を仲見世通りの景観や賑わいを維持する事を条件に約2,000万円で売却することで合意しました。しかし、東京都側は浅草寺に固定資産税を支払うように求めており、この固定資産税の支払いの為に、浅草寺側も付近の不動産価格に照らし合わせて、新たな賃料を設定。浅草寺側は仲見世通りにある各店に対し、来年1月から家賃を現在の約16倍に引き上げるという通知が出され、それに対し商店街側が反対しているというものです。
仲見世通りの観光地としての魅力は高く、平成28年の観光消費額はなんと958億円
仲見世通りは駅からのアクセスも良く、日本人、そして訪日外国人にとっても人気の観光スポットである浅草寺のお膝元であることもあり、台東区によると 平成28年に浅草を訪れた観光客の数は3,230万人、買い物、飲食などで消費された観光消費額は958億円 となっています。訪日外国人の中で仲見世通りを目当てに観光に訪れている人は少ないかもしれませんが、雷門、浅草寺を目当てに訪れた訪日外国人が、気軽にショッピング、食べ歩きを楽しめるスポットとして非常に人気の高い観光スポットとなっています。
浅草寺側の提案は現在の家賃の「16倍」この家賃設定は妥当なのか?
今回、浅草寺が商店街にある店舗の家賃を「約16倍」に引き上げるという方針を示した事が大きな注目を集めていますが、これは今まで10平方メートルあたり月15,000円だった家賃を、来年1月から月25万円にするというものです。「16倍」と聞くと大変大きな値上げであるという印象を受けますが、仲見世商店街が東京都に家賃として払っていたのは年間で約2,500万円とのことで、仲見世商店街に89店舗あることを考えると、1店舗あたりの年間の家賃は約28万円。1ヶ月あたりでは23,000円に過ぎません。
いくつかの報道によると、商店街の店舗のオーナーの中には「ここまで家賃が引き上げられてはやっていけない」、「既存店が潰れた後にはシャッター街となってしまう」、「大手チェーン店が代わりに入ってしまうことで仲見世通りの景観が壊されてしまう」という声もあるようです。しかし 仲見世通り以外の商店街における家賃は平均して月に25万円から30万円台 ということで、常にお客さんで賑わう仲見世通りに店を構えられるのであれば、現在の月あたり平均23,000円の16倍にあたる約37万円でも安い、むしろ出店したいと考える店主は少なくないようです。
最終的には仲見世通りの商店の家賃はいくらになるのか?
浅草寺側は現在の家賃から「16倍」となる家賃の支払いを店側に要求、店側は「高すぎて支払えない」としている店舗もあるようですが、このように貸主側が賃料の増額を求めても借主側がその増額を認めない場合、貸主側は調停を起こして賃料を決定する必要があります。しかしこの調停の中でも賃料が決まらない場合に関しては、貸主側が賃料を決定するための訴訟を起こす必要があります。そして、最終的な賃料の決定に関しては裁判所が選定した不動産鑑定士が妥当な賃料を鑑定する流れとなります。
この妥当な賃料の算出に関してはいくつかの評価手法が存在し、新規賃料と現行賃料との差額を貸主と借主に配分する「差額配分法」、お互いが合意した時点での利回りを基に賃料を算出する「利回り法」、純賃料ないし実際実質賃料等に変動率を乗じて賃料を算出する「スライド法」、類似する継続賃料の事例を比較して賃料を算出する「賃貸事例比較法」などが存在します。浅草寺、商店街は話し合いを続けていくようですが、今後どのような結末を迎えるのか注目が集まっています。
浅草寺側、商店街側の視点以外に、この賑わいを生み出している観光客側の視点が必要
今回の浅草寺と仲見世通り商店街の家賃問題ですが、浅草寺側の視点で見るか、商店街側の視点で見るかで景色が変わってきます。商店街側の立場で見ると今まは安い家賃で商売が出来ていたのが、いきなり「16倍」の値上げで驚くと同時に、今後は継続して経営が出来ないかもしれないという不安を抱えるわけですが、東京都に固定資産税を支払う必要がある浅草寺側からすると、今までは周辺の店舗の家賃が平均して月25万円から30万円台の中、破格の月約23,000円で建物を貸していたわけですから、10平方メートルあたりで考えても周辺と同程度以下の家賃を設定したことで、予想以上に強い不満の声が上がっているという印象なのかもしれません。
観光客目線ではシャッター街になってしまったり、浅草に来なくてもどこにでもある大手チェーン店ばかりの仲見世商店街になってしまうのは避けて欲しいものですが、東京都が浅草寺側に「仲見世通りの景観や賑わいを維持する」事を条件に「建物」部分を売却した事、浅草寺側も仲見世通りの雰囲気に大きな魅力があることは理解しているでしょうから、「賃料の大幅値上げのせいで仲見世通りが観光客、訪日外国人にとって魅力の無いものになってしまう」という心配は杞憂に終わるかもしれません。
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