東京都江東区の豊洲に10月11日にオープンした豊洲市場に関しては、早くも様々な問題点が指摘されており、これらの問題に関する報道を見る機会も増えてきました。実際にこの豊洲市場に関して問題とされているのは大きくわけて「建物の設計に関する問題」「交通の便に関する問題」「使用する側の意識の問題」の3つです。それぞれの問題に関して詳しく解説します。
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豊洲市場炎上の論点その①:建物の設計に関する問題
建物の設計に関しては、いろいろな指摘、報道がなされています。代表的なものとしては「排水性が悪い」「構造物としての強度が足りない」「ターレが旋回出来ない」といったものですが、一部正確性を欠く指摘もあれば、実際にはこれから市場として機能していく中で結論が出ていくであろう内容もあります。
豊洲市場の排水性は本当に悪いのか?
水産物を扱う店舗が移転後に「排水溝が詰まってしまった」とSNSなどで写真と共に発信し、この内容に関しては様々な意見が寄せられました。
この排水性の問題は排水管の太さに問題があるなどとして、築地市場の排水管の太さと豊洲市場の排水管の太さに大きな差があると専門家からの指摘も出ていましたが、後述するように豊洲市場はそもそもドライフロアシステムとして設計されており、ウェットフロアシステムの築地市場とはそもそも設計が異なっています。
そのため、ウェットフロアシステムでの運用を考えると確かに排水性は足りないと言えるかもしれないが、そもそも運用思想が違うと言うことが出来ます。
豊洲市場の構造強度が足りなくて床が抜ける?
これは水産仲卸売場の床用積載荷重が1m平米あたり700kgという発表の後に出てきたものです。この問題に関して「フォークリフトはおろか、積載重量2t程度のターレを運用しても床が抜けるのでは?」といった指摘も出ていましたが、建築物の積載荷重とは「1m平米あたりに何kgの荷重に耐えられるようにする」ということであり、さらにこれらの荷重を床、構造物全体で支えるという考え方になります。
これに関しては、東京都、設計を行った日建設計もHP上で「タイヤの接地面にかかる集中的な荷重を床全体で支え、負担を分散させることから、床の積載荷重に関して問題は生じません。」「1店舗の売場全体に載っている重さを平均して1平方メートルあたり700kgを超えなければ、700kg/m2を超える重さの水槽や冷蔵庫でも置くことができます。」などと回答しており、今日現在でも「豊洲市場の床が抜けた」という報道はありません。
なお、豊洲市場自体は耐震強度を建築基準法の1.25倍以上確保することが東京都から求められていたわけですが、これに関しては実際に大規模な地震が発生しない限りなんとも言えないところです。
「ターレ」が旋回出来ないと騒がれたが。。
第6街区と呼ばれる水産仲卸売場棟にあるターレ(市場内での商品輸送に使用される車両)が利用するスロープ内にあるヘアピンカーブで「この設計ではターレが旋回出来ない」という指摘が豊洲市場開場前にありました。
これは水産物を積載したターレが行き違いで走行する際、ターレが曲がりきれずに互いに衝突する、急カーブのために積載物が落ちるなどとするものですが、駆動輪である前輪が360度回転するというターレの特性上「曲がりきれないはずがない」とする意見が内外から出ており、「曲がりきれる」ことを証明する動画もSNS上にアップされました。
豊洲市場炎上の論点その②:交通の便に関する問題
豊洲市場開場日に大規模な渋滞が発生
実際に都道補助315号線が開場日に大渋滞となり、豊洲市場近くの通勤・通学時間帯のバスの遅延、市場関係者の配送に1時間〜2時間遅れが発生するなど大きな影響が出ました。
しかしこれも豊洲市場開場から数日が経過すると、片側2車線の1車線をマスコミの中継車両が路上駐車によって使用出来ない状況にしていたことが明らかとなり、その後大きな渋滞に関する報道は出ていません。
環状2号線未開通による交通の便の悪さ
東京都が建設を進めていた環状2号線に関しては豊洲から築地間の開通が待ち望まれてきましたが、この度豊洲から築地間の約2.8kmが、11月4日(日)14時に暫定開通することが発表されました。
築地市場の跡地に道路を通す計画だった築地区間については、市場の移転がずれ込んだために、しばらくは片側一車線の迂回道路での対応となり、築地から新橋間の本線トンネルを含む全線の開通は、2022年度とされています。
そのため、環状2号線が開通していないことによって交通の便が本来の設計どおりとなっていないという指摘に関しては確かにそのとおりであると言えます。
電車・バスなど公共交通でのアクセスは改善しつつある
実際に豊洲市場開場の日に買い付けに訪れた市場利用者も交通の不便さは口にしていますが、「ゆりかもめ」の市場前駅からのアクセスは良く、東京都も10月11日から都営バスの運行を新たにスタートしました。これによって新橋駅もしくは東陽町駅から豊洲市場へと行くことが可能です。
とは言え、これからさらに国内外からも観光客を迎えることを考えると、公共交通を利用する際の利便性の改善は引き続き求められるでしょう。
車でのアクセスは現時点ではやや不便、駐車場は少なく値段が高い
環状2号線が一部開通する11月4日以降は、車・バイクによるアクセスは大幅に改善されるでしょう。一方、駐車場が少ないという課題は引き続き存在します。
市場内の関係者が利用する駐車場の数が足りず、市場に仕入れにくる市場利用者の駐車場の数も足りない、また一般客にしても車で来ても駐車場を確保するのは至難の技という指摘が多数されています。
今後の市場の発展のため、路上駐車によって事故・渋滞を引き起こさないためにも、駐車場スペースを拡大することが求められています。
豊洲市場炎上の論点その③:新市場を巡る意識の差の問題
今回の豊洲移転に関してあまり大きく報道されておらず、且つ最大の問題と言えるのが「意識の差の問題」です。今回の豊洲市場への移転は、そもそも築地市場が抱える様々な問題の解決のためでした。
その問題とは「建物の老朽化」「耐震性への不安」「開放型であることによる衛生面の問題」などで、これらを解決するため豊洲市場では耐震強度を建築基準法の1.25倍以上確保する設計がされているとされ、HACCP(ハサップ)と呼ばれる国際的な食品衛生観点に基づく設計がされ、衛生面への配慮、商品の鮮度を保つなどの理由から「閉鎖型施設」となっています。
こうした設計思想の東京都側と、実際に市場で働く市場関係者との意識の差が解消されぬままに設計が行われ市場が開場したために、様々な問題が発生しているのです。
「HACCP(ハサップ)」に基づく設計
HACCP(ハサップ)は食品を製造する際に工程上の危害を起こす要因を分析しそれを最も効率よく管理できる部分を連続的に管理して安全を確保する管理手法であり、ドライフロアシステムを前提とするものです。これは床面を基本的に乾いた状態で使用する設計で、排水溝に関しても水以外のもの(生ゴミなど)を流す想定はされていないものです。
一方の築地市場は排水溝が深く、配管も太いウェットフロアでの運用を前提としていました。排水溝にはある程度生ゴミが流れ出てしまっても排水の問題が発生しにくい作りとなっており、この生ゴミを餌とするネズミ・ゴキブリの大量発生に繋がっていた背景があります。
豊洲市場が開場してからは、このドライフロアシステムに関する賛否両方の意見が出ており、既存のウェットフロアシステムでのやり方が抜けない市場関係者は「使いにくい」「排水性が悪い」という指摘をする一方、ドライフロアシステムの使い方に順応した市場関係者は「使いやすくて清潔」「排水性も問題ない」としています。
開放型施設と密閉型施設の意識の差
HACCP(ハサップ)に基づいて密閉型施設として設計された豊洲市場の場合、トラックから商品を搬入する際も商品の温度を出来る限り上げず、商品が外気に触れる機会を限りなく減らすため、バース(荷降ろしの場所)が設けられ、トラックの後ろ側から商品を運び出す設計となっています。
これは生鮮食品や医薬品などの輸送の際に常に低温に保つということでコールドチェーンと言われています。豊洲市場では設計に基づいてコールドチェーンの方式に則って商品の搬入を行うことが可能ですが、築地市場の場合、トラックの横開き(ウイング型)の荷室部分から商品を運び出すのが一般的でした。
そのため、豊洲市場でも築地市場と同じ方法でトラックの横開きの荷室部分から商品を搬入しようとすると無理があり、作業スペースを確保するため結果的に露天で作業をすることになります。
しかし、流通の現場の視点からするとフォークリフトを使って素早く荷物の積み下ろしが出来るウイング型のトラックのほうが一般的で効率的であるため、稼働が始まった豊洲市場でも築地市場と同じやり方で商品の搬入をしようとする市場関係者が多く、不満が出ているわけです。
大きな混乱がほとんどなかった青果棟 (5街区)と対照的な水産仲卸売場棟(6街区)、水産卸売場棟(7街区)
今回の豊洲市場開場に関しては、鮮魚を扱う市場関係者からは利用しにくいという声も上がっていますが、青果を扱う市場関係者からの不満の声はほとんど出ていないようです。
一部では青果を扱う市場関係者は設計側の東京都とレイアウトや使い勝手に関して密に連携を取りリハーサルを行っていたからだという指摘もされていますが、報道では鮮魚を扱う市場関係者の不満の声だけがクローズアップされている可能性もあります。
当然建物やレイアウト、導線設計に関して東京都が許可を出した設計に全く問題がなかったわけではないでしょうが、今回の豊洲市場移転に関して全ての市場関係者が同意して設計の段階から協力をしていたわけではありません。
両者が設計の部分からもう少し歩み寄って協力が出来ていれば、今回指摘されている様々な問題は発生せず、移転もここまでずれ込むことはなかったでしょうし、開場後にもここまで問題・不満が噴出しなかったはずです。
まとめ
泣いても笑っても豊洲市場は既に開場し、築地市場の取り壊しが始まっています。設計時の問題、利用する側の意識/設計側の意識の差の問題は引き続き残りますが、今となっては「いかにより良い豊洲市場にしていくか?」ということこそが真剣に議論されるべきです。
「〜に関しては誰が悪かった」「〜だからここが駄目」と犯人探しをするだけではなく、より建設的な議論を重ねて豊洲市場を発展させていくことに、東京都、市場関係者のエネルギーが使用されるべきでしょうし、世間一般の関心もそこに注がれるべきでしょう。
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