観光開発ST-EPとは?世界の貧困を解決する7つの要素と事例紹介、サスティナブルツーリズムとの関係を解説

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発展途上国では貧困地域が多く存在しています。こうした問題に対し観光業界も当事者意識を持つことが求められています。

ST-EPとはSustainable Tourism Eliminating Poverty(持続可能な観光業による貧困の撲滅)の頭文字をとったもので、観光業の発展により貧困の軽減を目指すことです

今回はST-EPとはどんなものなのか、効果などを他国の事例を用いて解説します。

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ST-EPとは?

ST-EP(Sustainable Tourism Eliminating Poverty/持続可能な観光業による貧困の撲滅)とは、先進国の観光開発のノウハウを途上国に移転し、観光客の増加と途上国内での旅行支出の増大を図ることで、観光産業を貧困軽減に役立てようとする動きのことです。

これは特に西アジア地区で取り組まれている試みです。観光業の発展により発展途上国が抱える貧困問題を解決するのが目的です。

観光業による貧困の解消は、観光業が世界のGDPに占める割合を伸長させており、現実的な策ととらえられるようになりました。現在世界において、観光業のGDPに占める割合は11%に達し、2億人もの雇用を生み出しています。

発展途上国に限って言えば、観光は年に9.5%の経済成長を見せています。平均的な成長率が4.6%であることと比べれば、いかに観光開発が発展途上国に適したビジネスなのかがわかります(WTOレポート1997年〜2002年より)。

UNWTO(世界観光機関)が2010年までに34カ国で100のST-EPプロジェクトを実施

UNWTO(世界観光機関)は、スペインのマドリードに本部を置く、観光に関する国際機関です。1975年に設立されました。

この組織は2003年12月に国際連合の専門機関となりました。国際機関として貧困問題改善に取り組むために、ST-EPプロジェクトを進めてきました。日本の窓口である駐日事務所本部は奈良県に存在し、その他東京事務所を構えています。

▲UNWTO(世界観光機関)駐日事務所公式サイト
▲UNWTO(世界観光機関)駐日事務所公式サイト

UNWTO世界観光機関)は2004年に韓国でST-EP基金援助機構を立ち上げると、2005年からはカメルーンのエボゴという小さな村で、ツアーガイドを育てるためのトレーニングを開始しました。

こうした活動は徐々に広がり、各国のODA(先進国から発展途上国への政府開発援助)を受けながら、2010年までに34か国で100のプロジェクトが実施されました。

UNWTOによれば、ST-EPは7つの要素によって構成されています。

  1. 貧困層の雇用
  2. 観光業に必要なサービス、ノウハウの提供
  3. 現地で観光客へサービスの提供、お土産販売(非課税)
  4. 小規模コミュニティでの観光企業創業・運営(課税)
  5. 関税などによる収益を分配
  6. 観光企業や観光客への無償サポート
  7. 観光企業の出資により、貧困層に利益を与えるよう他業種を援助する

これ以外にも、地域住民をツアーガイドやホテル従業員として育てるトレーニングや、ものづくりを行う貧困層へ商品の流通援助、さらに自然遺産・文化遺産がある地域に現地の人を参加させて観光開発に取り組むこともプロジェクトの一環として含まれます。

これらのプロジェクトは、地域が主導している観光事業にビジネスと経済的なサービスを提供することに焦点を当てています。

ST-EPの2つの事例とその効果、受け入れをしない地域も

ST-EPは貧困問題にとどまらず、様々な分野において効果を発揮することがあります。

例えばベトナムにあるクァンナム省ナムザン郡では「カトゥー族」と呼ばれる民族による伝統織物や、文化・社会の価値が認められ、経済的な成長をもたらしました。

さらにカトゥー族は、自らの文化が世界に受け入れられたことによって、民族の誇りや自信が高まったといいます。

ここではST-EPによってもたらされる効果や、ST-EPを受け入れない地域について具体的な例を上げてご紹介します。

1. ヨルダン・ハシミテ王国サルト市の事例

ヨルダン・ハシミテ王国は中東にありながらも産油国ではありません。そのため他の産油国に比べ、外貨の獲得に苦しんでいました。

そこで目をつけたのが観光資源です。

旧首都であるサルト市にはローマ時代、十字軍、オスマン時代の文化遺産が豊富にあるだけではなく、死海などの自然景観にも恵まれています。

しかし、観光客の数は2005年から2010年にかけて減少傾向にあり(独立行政法人国際協力機構より)観光業が成功したとは言えませんでした。

サルト市では観光が主要産業と考えられていないため、その未発達ぶりがホテルやレストランに現れており、実際に2009年まではホテル協会やレストラン協会に登録されている施設がありませんでした。

これを改善するために、レストランや土産屋など計13か所に対してビジネス資金とノウハウの提供が行われ、サルトブランドの開発も進められてきました。

また、エコミュージアム(一定の地域を屋根のない博物館として見立てて、観光客がその土地の文化・風習を学ぶ)を基盤として観光業をさらに発展させるために、国とNGOが一体となって協働しています。

2013年に開催された「サルト・フェスティバル」では各家庭が家宝を展示する「オープンハウス」という企画が実施され、多くの観光客を呼び込むとともに、自宅で再発見された伝統衣装や民具を観光客に解説することで、観光客の興味関心を満たすだけでなく、地元住民が忘れかけていた伝統を思い出すきっかけにもなっています。

これにより歴史的建造物に住む家庭に訪問するホームビジットという体験型の観光業が生まれ、現在4つの家庭が認証されています。これまでになかった「地域住民が主役」の観光業を見事に体現しました。

2. 地域発展の手法として取り組んでいるタンザニアの事例

先に挙げたサルト市とは異なり、タンザニアは観光事業の発展した場所です。

UNWTOによると2014年の国際観光客の数は約104万4,000人にものぼり、野生動物を見て回るサファリツアーや現地住民である「アルシャー族」に出会うことが観光の目玉とされています。

こういった観光業を支えているのがツアーガイドの存在であり、その中には女性の姿も珍しくありません。

彼女たちは人材育成トレーニングを受けた経験はなく、家事や農業、育児を担う存在のため「できる範囲」でガイドの仕事を請け負っているという形です。

支払われる賃金もお小遣い程度であり、専門職として続けるつもりはないと言います。これはタンザニアにおける「女性の仕事は家庭にあり」という考えが強く根付いている結果でしょう。

ツアーガイドを行っている女性たちの中でも「自分の村でできる範囲の仕事がいい」「生活を変えたくない」という意見が多数を占め、ガイドの仕事を家庭よりも優先する女性はほとんどいないのが現状です。

現地に住む女性が実際にガイドとして案内してくれるのは、観光客にとってはその地域の風習や伝統を知ることができる大きなチャンスですが、ガイド側の女性には、そのスキルやノウハウを活かして離れた地域で働こうという発想はありません。

ST-EPの活動は地域住民の協力なくして発達ができないのが実情です。タンザニアの観光業は他組織の影響を受けず、発展に限界がある特殊な例です。

ST-EPとサスティナブルツーリズムの関係は?

観光地として観光客を誘致するのは経済的にも非常に有意義な活動ですが、一方で観光客の集客や来訪が影響して環境が破壊されたり、伝統的な文化が失われるようなことがあれば、その魅力は減少し観光客も足を運ばなくなるでしょう。

観光地の発展においては、地域の環境や文化を守りながら、居住者の経済発展をもたらす形で観光産業を育んでいくのが理想の形と言えるでしょう。

こうした考えに基づく観光業の発展を、持続可能な観光=サスティナブルツーリズムと呼びます。持続可能な開発目標(SDGs =Sustainable Development Goals)は2016年から2030年までの世界全体の開発目標となっており、国連が進める観光での持続可能性を指標化した「サステイナブル・ツーリズム国際認証」の取得が各地で進んでいます。

また、旅行者が観光する際、効率だけを重視しない旅程を組むスローツーリズムという旅行形式も近年注目を集めています。

ST-EPもこうした流れを汲んで計画が進められています。一過性の観光ブームによる消費に貧困の解決を求めるのではなく、今後も持続するような観光産業を成り立たせることが、観光産業による真の貧困解決と言えるでしょう。

サスティナブルツーリズムの意味・定義

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ST-EPが想定するターゲット層は?

サスティナブルツーリズムに関心を持つと考えられるのは、主に環境問題や社会問題に対する意識の高い高所得者や若年層です。

彼らが求めているのは、Wi-Fi環境の整備や他言語パンフレットといった、観光地をまわる上で欠かせないものから、人数規制のある体験教室、資格を持った丁寧なガイドの案内など、観光地域をきちんと楽しめる要素です。

つまり「観光客をとにかくたくさん呼びたい」という姿勢よりも「限られた数の観光客にしっかりとサービスを提供する」という姿勢が受け入れられやすいと言えるでしょう。

ST-EPで観光誘致が世界・地域の問題解決の糸口に

UNWTOやODAなど、国境を超えたグローバルな援助によりST-EPは実現してきました。

これまで貧困とは全くかけ離れた分野だと考えられていた観光開発ですが、実際にはあらゆる地域で成果を上げている現状があり、貧困軽減に効果をもたらしています。

今後も世界的な広がりを見せ、小さな地域から世界中を巻き込むプロジェクトとして発展途上国の大きな助けとなるでしょう。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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