インバウンド業界が年々盛り上がりを見せる中、外国人観光客が訪日旅行に求めるニーズも多様化しています。
外国人観光客の目的には「買い物」や「観光地巡り」以外にも、さまざまなニーズがあることが、受け入れ側の日本でも認知され始めています。例えば「スポーツツーリズム」は、来年の東京五輪をきっかけに注目が集まる分野です。その中でも今回は、「モータースポーツ」に着目したニュースをご紹介します。
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横浜で「F1誘致」構想が浮上、すでに関係各所の調整も
8月22日、林文子市長は横浜市カジノ誘致について正式に表明しました。これに対抗するように、“ハマのドン”こと藤木幸夫氏は、山下埠頭のF1グランプリ誘致する計画を打ち出し、話題を呼んでいます。
横浜経済界の重鎮である藤木氏の側近であり、横浜港運協会常務理事の水上裕之氏によれば、F1誘致計画は具体的に進んでおり、実際に開催されれば莫大な集客が見込めるとしています。
今年1月には、F1を主催する国際自動車連盟の幹部らが山下埠頭に視察に来たり、その2週間後には具体的なコースをデザインした図面まで上がっていたりと、F1主催側も乗り気だといいます。
横浜市が誘致すると表明しているカジノを含む統合型リゾート(IR)は、完成までにおよそ10年ほどかかるとされています。
横浜市の意見募集によると、市民の94%がカジノに否定的な立場であることも伝えられており、藤木氏はこうした点を根拠にF1計画を強く勧めています。
実は以前も計画が!幻となった横浜へのF1誘致
1987年に岐阜県の鈴鹿サーキットで開催されたF1日本グランプリは、実は、横浜が開催を逃した悲願のF1グランプリ誘致計画の結末でもあります。
開催の2年前の1985年から、横浜青年会議所はF1グランプリ誘致計画を本格的に始動していました。
関係者は横浜市民向けにF1誘致について発表をしたり、市民アンケートを実施したり、また計画模型の展示やポスターの掲示を通じてF1グランプリ誘致の周知に努めていました。
F1誘致という大規模イベントによる治安悪化を懸念した神奈川県警や横浜商工会議所に対しても、各所に根気強く説明してたそうです。
しかし本田技研工業(ホンダ)が、決定直前に全社を挙げて鈴鹿への誘致に動き出し、どんでん返しで鈴鹿がF1グランプリを獲得します鈴鹿サーキットは1962年にホンダが建設したサーキットであり、創業者の本田宗一郎氏がホンダの最終顧問にいるうちに一旗挙げようと考えたのです。
このように横浜には、F1グランプリ誘致まであと一歩のところで開催を逃してしまった過去があります。
これまでのF1誘致、成功例と失敗例は?
世界で成功したF1誘致先といえば、モナコグランプリが有名でしょう。モナコには、マカオと同じくIRもあり、さらにカジノもあります。モナコグランプリは、F1でも最古の歴史を持ち、フランスのルマン24時間レースとアメリカのインディ500に並ぶ「世界3大レース」と称されるグランプリです。
モナコグランプリやマカオグランプリの開催を見てみると、関係者をはじめ世界中から多くの観光客を集めており、経済波及効果は非常に大きいものです。全世界のメディアも注目するイベントですので、開催地の観光PR効果も期待できます。
例えばモナコの場合、公道を使用して開催されている市街地レースなので、宿泊するラグジュアリーホテルやクルーザーなどからもレース観戦することができます。また、レース観戦のみならず、IRやカジノといった誘客施設、コートダジュールを一望できる景色や、伝統的な建物などの観光要素も十分です。
このように、豪華さを満喫できるとあり、モナコグランプリは世界の富裕層にも喜ばれるイベントとなっています。開催後も滞在し観光するインバウンド客も少なくなく、大きな経済波及効果が生まれています。
不興を買った、問題だらけ「韓国F1グランプリ」
2010年に開催された韓国初のF1グランプリは、サーキット施設不備や宿泊施設不足、そして観客動員の少なさなどから、開催運営側からの謝罪で始まったグランプリとして有名です。
本コースはあるものの施設は未完成のままだったり、サーキット会場の周辺には外国人対応可能な宿泊施設も極めて少なかったりという状況で、関係者の多くがラブホテルを兼ねた韓国人向けの宿泊施設に泊まったそうです。
建設工事の大幅な遅れから開催承認も大きくずれ込んでしまい、観戦客に対するPRも十分に行えず、観戦チケットは値引き販売や無料配布という形を取らざるを得なくなりました。
開催の結果も、観客が非常に少なかったため、グランプリとしての雰囲気が足りなかったと酷評されています。一部のメディアでは、韓国F1グランプリは、開催以来150億円を超える多額の負債を抱えたとも報じています。
日本にF1×カジノが実現した場合…その経済効果は莫大
国際自動車連盟の幹部の話によると、横浜市でF1グランプリを開催できれば、一開催につき700億円の売り上げが見込めるそうです。
同じく市街地コースであるシンガポール開催では450億円の売上があります。こうした数字と比べても、山下埠頭のF1コースとしての魅力と可能性は、世界的にもまったくそん色ないものだということがわかります。
”ハマのドン”藤木氏の側近である水上氏は、横浜市からの許可が出れば、3年以内のF1開催を実現できるとしています。
鈴鹿F1グランプリの国内全体への誘発生産額は、直接効果と第1次間接効果、消費内生間接効果合わせて292億円超で、その波及倍速率である乗数は2.36という数値でした。鈴鹿の事例を見ても、非常に期待が高まる誘致計画です。
また、横浜市は5月の構想案発表時にカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致した場合の経済効果についても見解を述べています。これによれば、整備や運営も含めた経済波及効果は年間約7,700億〜1兆5,600億円が見込まれています。納税等による地方自治体への増収効果は、年間約600億円〜1,400億円に達すると予想しています。
横浜は日本の玄関である羽田空港からも電車で20分、東京からも電車1本で到着できるアクセスの良さがあります。さらに周辺には、みなとみらいや中華街などの観光地も密集しています。
試算の数字はかなり大きいものにも見えますが、こうした環境であれば観光客がもたらす経済波及効果にも期待でき、現実味のあるものと考えることもできそうです。
まとめ:カジノ含むIRとF1の相乗効果で富裕層を惹きつける
モータービジネスの分析によれば、F1ビジネスは2003年から2014年の間に、7億2,900万ドルから15億2,300万ドルの収益増加を記録しています。
日本でもかつて80・90年代には、本田技研工業や中島悟選手などの人気ドライバーの登場でモータースポーツブームが起こりました。横浜でのF1誘客計画をきっかけに、日本スポーツビジネスが発展していくことも期待されます。
現在、横浜はカジノを含むIRだけ、あるいはF1だけのどちらが正しいかというような論調も感じますが、実はモナコやマカオなど海外に目を向けてみると、IRとF1開催とをセットに誘致している都市もあり、その形態は決して珍しいとは言えないでしょう。
こうした施設は富裕層との相性も良く、将来的には例えばモナコのようにタックスヘイブンとして、富裕層の移住を狙った税収アップすら目指せるかもしれません。
<参照>
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