「お笑い」は大衆向けの娯楽でありながら、社会を風刺する側面も持ちます。観客に面白みを感じさせると同時に既存の常識に対する目線を与える、その他の娯楽とは一線を画した存在と言えるでしょう。
アメリカではコメディアンが社会の事象に斬り込み、そうしたネタが物議を醸すことも珍しくないそうです。日本のお笑いでも、このような「世間のタブー」に切り込む姿勢を見せる芸人は存在します。
ところがこうした取り組みは、基準を誤ると、絶対に踏み越えてはならない一線を越えた非常識な発言に終わってしまうことになります。そして、今年の9月には、日本の芸人による「失言」が相次ぎ取りざたされました。日本のお笑い界における失言は、島国である日本の人種差別に対する意識の低さが根底にあるのかもしれません。
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外見や属性をいじる日本の芸人「アウト」
まず、2019年9月のステージで失言したのは、女性二人で構成されるお笑いコンビの「Aマッソ」です。舞台で披露されたネタの中に、大阪出身の女子プロテニス選手の大坂なおみ選手について、「漂白剤が必要」と、いわゆる一般の日本人よりも肌の色が濃いことを前提にした発言があったといいます。
文脈としては「日焼けをしすぎているから」と理解できる構成ではあったそうですが、肌の色を含む外見について取りざたすることは、世界的な基準で言えば差別に該当します。それどころか「漂白剤が必要」という表現により「肌が黒いことは良くない」という価値観すら伝わってきます。こうした外見に優劣をつける言動は、まぎれもなく差別とみなされるでしょう。
ネット上でこのネタに対する批判が高まったことを受けて、同グループの所属事務所は大坂選手へ謝罪しました。
偏見や人種差別といった社会問題に迫っていくこと自体は、何ら批判されることではないでしょう。しかし優劣をつけてそうした偏見や差別を助長することは、お笑いというエンターテイメントの核心になんら関係しない、ただの無教養な振る舞いでしょう。SNS上でも「笑いと履き違えている」との声があがっています。
HIV感染に関する偏見を助長する発言も
本騒動と前後して、お笑いコンビ金属バッドが2012年に披露したネタについてもフォーカスされます。YouTube上にアップロードされたある動画が10月の時点で84万回以上再生されており、この中で差別的発言の対象となっているHIVに関連した支援団体などが批判の声を上げていることをニュースメディアが伝えています。
同コンビの動画には、双子の女性タレントの見分け方について「健康であるか、エイズに感染しているか」にあると発言します。そして、後者の破天荒な性格を描写したあと「それはエイズになって当然だ」と閉めます。
さらに、同じタレントの好きな異性のタイプについて話題は転換します。タレントのうちエイズに感染している女性は、人間ではなく動物と性交渉を持つことを望む人間であるとしたうえで、動物と関係を持てばエイズになるのは当然と断じます。
さらにこれを受けて、対象は猿だけでなく黒人であると発言し、「やめ、お前」と制止する相槌を入れるものの、最後には女性をさげすむ論調に同調し終わります。
お笑いのライブは、基本的にはクローズドな空間で行われているものです。芸人のファンだけが楽しむものであれば、時には世間の基準に合致しないコンテンツが消費されることは制限されるべきではないのかもしれません。
このコンテンツは当時は84万回再生されてているとの情報がありましたが、11月末には削除されているようでこの再生回数のものは確認できませんでした。ただし、YouTube上には他のアカウントからアップロードされたと思われる動画が存在し、この問題発言は誰でも再生できるようになっています。
こうした動画がいつでも見られる状態にあることについて、支援団体の代表は問題視していることを前出のニュースメディアは伝えています。
HIVに感染して喜ぶ人は基本的には存在しないと考えられ、また感染経路についてネガティブなイメージを持たれるため検査のハードルは現在でも低くはないと考えられます。こうした状況に対し、同コンビのパフォーマンスはさらに追い打ちをかけるものとなり得るでしょう。
HIV感染した人や、その家族、黒人に対する侮辱と言われても相違ない内容になっています。
日本のお笑いにおける人種差別発言を、外国人はどう感じたか
SNS上では、一連の騒動について落胆と怒りを表明する書き込みが、外国人からも多くありました。
「恥ずべき」と批判する意見のほか、「日本全体の問題だと思う」や「被害者のような顔をせず、差別をしたと謝るべき」という意見も見られました。
またあるアメリカ在住の理論物理学者はネット上で、日本は「人口減少と高齢化による労働力不足解消のため移民を必要とする」「誰が本当に日本人であるかについての時代遅れの態度を再検討する必要がある」と述べています。
なぜ日本人は「差別」に鈍感か
2019年6月のあるデータによれば、日本の人口に対する移民比率は1億2,650万人のうち250万人で約2.0%と、先進国でも少なくなっています。
移民の人数や比率の大小は、国土面積やもともとの人口、経済活動に向く地域であるかどうかといった様々な要因が存在するため、一概に日本の移民率が低いかどうかは断じられません。
しかし、日本人の発言において、文化や生まれ持った外見に対する感性があまり成熟していない印象を海外の人に与えることがあるとすれば、こうした環境も少なからず影響していると考えられるでしょう。
移民が多ければ、さまざまな国が持つ文化や、個々人に備わった背景(アイデンティティ)と接触する機会も増えます。こうした中で、環境が整っていれば、こうした異質な他者を尊重するにはどのようにふるまうのかを学ぶことができるでしょう。
人種差別については「人種差別に鈍感なことより、過剰反応することが問題」といった論調もしばしば見られます。「悪気はなかった」「知らなった」という前提があれば、行為や発言が人種差別に当たろうと許して良いと考える人もいるようです。
しかし、国際化や多様化は今後も進むでしょう。相手の立場に立って考えることのできる幅広い知識は、これからの社会に欠かせないものとなるかもしれません。
日本が人種差別についての「国際感覚」を身に着けるべき理由
人口比率としてはまだまだ移民の割合が低い日本ですが、外国人居住者は確実に増加しています。現政府は一億総活躍の実現を掲げ少子化対策や女性の労働環境改善に取り組んでいますが、労働力を補填する方法として外国人労働者の受け入れについても積極的な姿勢を見せています。
さまざまな国から労働者を迎え入れることで日本は多文化社会の色合いを濃くしていくでしょう。
大坂なおみ選手は10月に日本国籍を取得しました。彼女がどちらの国籍を選択したにしろ、日本人としてのルーツを持つこととアメリカ人としての習慣を持つことは、どちらも尊重されるべきことです。
日本社会が多様化していく中で、今目の前にいる一個人がどういうアイデンティティを持っているか、それを傷つけるような言動をとっていないかをよりいっそう意識する必要が出てきたと言えるのかもしれません。
他者を尊重する意識と、尊重について考えること
2013年の流行語大賞に「おもてなし」が選ばれるなど、日本はホスピタリティが高い国だと自負している人も多いかもしれません。増加するインバウンドを意識して、外国人観光客を迎える時には心をこめて対応している店や人が多いと思われます。
しかし、今年の下半期にフォーカスされた芸人の失言を振り返ってみるに、こうした「相手目線」に立てていない、越えてはならない一線を越えてしまう行動に対して、日本人はまだまだ鈍感だと推察せざるを得ません。
多用な文化圏からの旅行者をもてなすインバウンド業界においても、今一度価値観をアップデートさせる必要性があるかもしれません。まずは、そのおもてなしが相手にとって本当に心地よいものになっているかどうかをまずは考えるべきでしょう。
またこうした目線は、接客の現場だけでなく、プロモーション等のコンテンツでも意識されるべきものです。いずれにせよ、相手の大切にしたい価値観を本当に尊重できているか、それが伝わる表現となっているかを相手の立場に立って振り返ることが有効でしょう。
<参照>
https://finance-gfp.com/?p=5635
https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/kinzoku2
https://freethoughtblogs.com/singham/2018/09/20/naomi-osaka-and-racism-in-japan/
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