緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。
今回は香港のお客様をメインに香港発世界各地への旅をお手伝いする、JALサテライトトラベル/日航天地旅遊有限公司(JAL Satellite Travel Co., Ltd.)董事長の藤田亘宏 氏に寄稿いただきました。
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コロナ禍が与えた衝撃
香港は2020年1月18日に最初の感染者が確認されて以来、2020年6月15日現在、累計感染者1,113人、死者4名、感染入院者はあと42名となっております。昨年6月より始まった「逃亡犯引き渡し条例」に関わる一連の抗議活動などにより、香港への来訪者が激減し、小売り・飲食業界と同様、観光業界も大きなダメージを受けました。旅行会社はOut Bound(香港から海外行き)の一本足打法を強いられましたが、新型コロナウィルスの影響がそこに追い打ちをかけた形となりました。
2月から3月にかけて、日本行きの春の桜の季節とイースターホリデー(今年は4月中旬)に出発予定の沢山の旅行取り消しで忙殺される日々が続きました。
これらの影響で、観光業界では廃業、社員のレイオフや無給休暇実施など苦渋の選択をせざるを得なくなっている企業が多数出てきております。
香港のコロナに対する取り組み
香港のコロナへの対応は、政府と市民ともに早い段階からSARSの経験を活かした対応が取れている印象を受けます。
香港の人口は約750万人、広さは約1,100平方キロメートル。
人口・面積ともに東京都のおよそ半分にあたります。
東京都の累計感染者数は約5,600人、死者は300人を超えている状況と比較すると香港の対応具合が理解できると思います。
香港政府の主な対応は以下の通りです。
1月4日 |
「公衆衛生の為の新型感染症への準備及び対応計画」を発表 |
警戒レベルを「厳重」(3段階の中)。法令を改正し当局の対応権限を強化 |
|
1月25日 |
警戒レベルを「緊急」(最上級)に引き上げ |
小中学校の休校を決定。香港マラソン(2月9日)の中止を決定(5月27日、6月8日、6月15日の段階的に学校再開) |
|
2月4日 |
香港への出入境ポイントを香港空港、深圳湾、港珠澳大橋の3か所に絞る |
2月8日 |
中国からの入境者に対して2週間の強制検疫(*)を開始 |
3月19日 |
全入境者に対し2週間の強制検疫を開始 |
3月25日 |
滞在許可や査証がない外国人の入境を禁止 |
3月28日 |
ゲームセンター、サウナ、ジム、映画館などの営業を一時停止 |
レストランなどの入店者数を50%・1組4名以下に制限、入店時の検温を義務付け (5月8日から1組8名までに緩和) |
|
3月29日 |
公衆の場での4名以上の集まりを禁止(職場、議会など除外あり) |
4月上旬 |
バーやカラオケ、エステサロン、マッサージ店などの営業を一時停止。 (5月8日・5月29日に分けて再開) |
(*)所謂強制隔離措置。場所は自己手配(自宅やホテル)または政府が指定する場所。当該期間中はリストバンド着用、アプリを使った状況(体温など)報告、部屋から外出禁止。違反者には罰則(罰金及び/または禁固刑)が課せられる。
感染者数の推移と対策
このような政府と市民双方の積極的な取り組みで、2月までは累計感染者を100名程度に抑えておりましたので成功していたといえるでしょう。
政府は法的対応と徹底した情報開示でコロナ抑制に努めていますが、市民自身もコロナに対して非常にセンシティブです。自己防衛の意識が非常に高く、政府が推奨する前の早い段階からマスク着用や不要不急の外出を控える行動を自発的に行っていました。
また、エレベーターのボタンやエスカレーターの手すりなど不特定多数の人の手が触れるところは定期的に除菌するなどの対策も取られています。
3月中旬から欧米始め各国から留学生などの帰国で持ち込まれるケース(下図の青色)が爆発的に増えましたが、政府はすぐさま対策(3月19日以降の対応)を講じ、また市民も引き続き感染防止に努めたことで4月上旬をピークに拡大を抑え込んでいます。
香港人の過ごし方:EC普及、ハイキング、オープンテラス
街がコンパクト且つ公共交通機関が充実している事、人とのふれあいや会話が大好きな国民性もあって、外食や店舗での買い物が一般的で、国際的な都市の割にはe-commerceの普及は先進国の中ではさほど高くありませんでした。しかし、コロナの影響で、世界の例にもれず、レストランのテイクアウトや宅配、日常生活品や食材のネット購買が増えるなど、市民の購買行動に変化が見られます。これにより旅行者の旅行手配のオンライン化がさらに進むものと思われます。
実は香港全体の40%は自然公園として保護区になっており、自然と都市が共存しています。ハイキングコースも整備されており、市民は街への外出を自粛する一方で、ソーシャルディスタンスが取りやすいハイキングやトレッキングを楽しむ人もいました。
5月下旬からは徐々に街にも活気が戻ってきました。
週末の夜は人気のレストランには若者が列をなし、バーのオープンテラスでは多くの人が飲食や会話を楽しんでいます。
「アフターコロナ」の観光業
香港から日本への旅行再開は、日本政府の香港に対するVISA免除の再開がキーとなります。
日本国内では、近所→県内→地方内→全国の段階的な国内トラベルバブルが可能ですが、広さが東京の半分程度の香港ではそれができません。コロナの収まりと同時に人々の旅行したい気持ちが高まっています。
香港では日本がコロナ後に一番行きたい国に挙げられています。年間の訪日旅行者数が人口の約3割にあたる220万人以上、リピート率が8割以上の香港は、依然としてポテンシャルがあると思われます。
一方で多くの人は日本の感染状況をチェックしており、香港のそれと比較し日本のコロナ対策に不安を覚えている人も少なくありません。
感染者が比較的少ない地方へのよりディープな旅や、ソーシャルディスタンスが十分確保できる施設や感染予防対策を明示したレストランなどを選択する旅行者が今まで以上に増えてくると思われます。
他方、香港から日本以外の国への渡航が先に可能となると、旅行への欲求が高まった多くの旅行者がその地を先に訪れることが考えられます。
第一希望の行先でなかったとしても「旅行する」欲求が見たされることにより、日本行き旅行需要に水を差す恐れがあるのではと個人的にはちょっと心配しております。
どうやって向き合っていくべきか
まずは香港の状況をよく理解することです。日本での香港の情報は一部の個別に発生している事象を除き、コロナ感染状況含め中国に包含されがちです。訪日ラボなどのインバウンドを意識したソースから香港の正しい情報を入手されることをお勧めいたします。
また、日本では、コロナの影響で訪日外国人の受入れに不安を感じる方が多数おられますので、香港はじめ各国・地域の正しい情報をしっかりと共有し、その方々の不安を払拭することも大切です。
同時に、日本でのコロナを早期に収束させ、香港の人々に日本が安全であると感じてもらうことも大切です。これらは日本の皆さんに頑張っていただく必要があります。行く側と受け入れる側双方が共に安心できる状態を作り出せる場所から動きが出てくるのではと思われます。
香港では現在、マスク着用、施設に入る際の検温が習慣化しております。今までの日本人の感覚ですと、旅館やホテル、レストランなどでお客様をお迎えする際に、マスク着用での接客や入館の際の検温実施は、サービス上の観点で躊躇するかもしれません。
しかし、少なくとも今後一年ぐらいは、それを行わないことで不安に思う香港のお客様がいると思われます。
一方で英国などマスク着用率が低い国からのお客様は別の考えがあるかもしれません。加えて、国ごとに傾向はあるにせよ個人によっても考えが違うでしょうから、それぞれに合わせて対応することは非常に難しいです。
今後は今まで以上にお客様とのコミュニケーションをとって提供するサービスの考え方をよく理解してもらうことが大切になってくると思われます。
著者:JALサテライトトラベル/日航天地旅遊有限公司 董事長 藤田亘宏
1991年日本航空(株)入社。貨物・旅客空港業務、旅客営業(札幌)、関連航空会社総務、欧州(伊、仏)駐在、Web販売部(海外のお客様向け直販サイト企画運営)などを経て現職。
JALサテライトトラベル/日航天地旅遊有限公司は、JALグループの旅行部門ジャルパックの香港現地法人。香港のお客様をメインに香港発世界各地への旅をお手伝いするOut Boundビジネスを中心とする旅行会社。今年で創立41年。
香港市場を中心に弊社直接の顧客や幅広い提携販売網を通じて、各種航空会社を利用したパッケージツアーの造成販売のほか、チャーターフライト、有名施設の入場券や交通切符など豊富な品ぞろえで旅行者のニーズに対応。
香港におけるJR東日本グループの総代理店。地域の魅力を消費者に直接訴求するB to Cセミナーの実施や、地域と連携した農泊などの新しい切口の商品を提案し市場をリードする。
緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集
訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか、また、ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。
ご応募の際には、まずは問い合わせフォーム( https://honichi.com/contact/ )より、
- お名前
- 所属・役職
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をご連絡ください。ご連絡の際には完成した原稿は必要ございませんので、まずはお気軽にご相談ください。
なお、ご応募頂いたすべての方の掲載を保証するものではございませんのでご了承ください。ご応募受付の際には、お問い合わせの返信を持ってお知らせいたします。
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