開催まで残り3か月を切った、「大阪・関西万博」。会期中は国内外から多くの来場者が見込まれており、2025年の観光業界において非常に重要なイベントとなっています。
2024年7月に発表された「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版」では、訪日意向者の72%が「万博に行ってみたい」と回答しており、今後も会期が終了するまで、インバウンドの関心はさらに高まる可能性があります。
訪日ラボは、万博を主催する公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会において、日本各地の魅力を発信する、広報・プロモーション局に取材を行いました。
多くのインバウンドが見込まれる万博に向けて、主催協会ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
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今年4月から開催 海外からの来場数は350万人予想
大阪・関西万博とは、大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催される国際博覧会です。
開催期間は、2025年4月13日(日)~10月13日(月)の184日間で、来場者数は約2,820万人と予想されています。そのうち海外からの来場者は約350万人で、全体の12%を占めます。
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観光に大きな影響を与える万博
前回(2020年)開催されたドバイ万博では、コロナ禍にも関わらず、約2,410万人、178か国の来場者を記録しました。
新型コロナ感染拡大により世界的に観光業が厳しい状況に置かれたものの、万博会期中のドバイ来訪者数は、コロナ前の水準に近づきました。このように、観光業における万博の影響は大きいと考えられます。
登録博覧会*が日本で行われるのは、2005年の「愛・地球博」(愛知万博)以来です。愛知万博における最終的な入場者数は約2,205万人、外国人旅行者は86.8万人でした。
愛知万博の時点では、インターネット上のサービスはあまり普及していませんでしたが、大阪・関西万博では、チケットは全て電子化されています。旅行会社での関連商品の販売も、店頭に加え、オンラインが主流となっています。
このような状況の変化により、今後、万博に対する国内外の関心がどのように動くか、注視したいところです。
*6週間以上6か月以内の会期で、総合的なテーマを扱う万博のこと。
万博を通して日本の魅力を発信する「広報・プロモーション局」その活動は?
大阪・関西万博を主催する「公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会」は、2019年1月に、国・地方自治体・経済界の協力のもと設立されました。
そのなかでも広報・プロモーション局は、万博を通して、世界に日本の各地域の魅力を発信する役割を担います。
訪日ラボは、広報・プロモーション局において、海外コミュニケーション部 上席審議役を務める吉村佐知子氏、地域・観光部 審議役を務める川村泰正氏にお話を伺いました。
世界中に万博をPR 教育やビジネスの場としても活用
大阪・関西万博には158か国・地域、9国際機関(12月28日時点)が公式参加しており、これまでの万博では最も多い数となっています。
この契機を生かすため、海外コミュニケーション部は、万博を海外メディアや現地のイベント開催を通じてPRし、インバウンドを誘致する役割を担っています。
韓国、台湾、中国、香港、アメリカといった訪日客が多い国にプロモーションするのはもちろんのこと、それ以外の国の方にも入場チケットを買ってもらいたい、と吉村氏は語ります。
吉村氏「たとえば欧米には万博の長い歴史があるため、彼ら自身も大阪・関西万博を自国で宣伝したいという想いがあります。そのため、フランスのジャパンエキスポ・パリ(欧州最大の日本文化イベント)などのイベントにも参加し、PRを行っています。
また、前回の万博はドバイで開催され、次回(2030年)はサウジアラビアで開催されます。中東は、現在訪日客があまりいないエリアですが、富裕層が多く、インバウンドのポテンシャルがあります。万博をきっかけに、ぜひ日本に来てもらいたいと思っています」
万博は、地球規模のさまざまな課題に取り組むために、世界中から英知が集まる場所とされています。そのため、普段はなかなか訪日に至らない国や地域からも、旅行者が訪れる可能性があります。
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吉村氏「国以外の観点ですと、『未来社会の実験場』というコンセプトの通り、万博は未来のことを考える場所であるため、なるべく若い方に来場してもらいたいです。そのため、現地の大学とも連携し、海外学生の誘致にも取り組んでいます。
あとは、観光だけでなく、万博をきっかけとしたビジネスチャンスの拡大にも期待しています。会期中には、約8週間、地球規模の課題の解決に向け、公式参加者や、政府・自治体、出展企業などが集ってビジネス交流を行うプログラムを実施します」
コロナ禍を経て、対面での交流の重要性が見直されているなか、観光だけでなく、教育やビジネスの観点でも万博の注目度が高まります。
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万博の開催効果を日本各地へ 政府や観光事業者と連携
しかし、せっかく外国人旅行者が万博に訪れたとしても、近隣エリアを観光するだけでは、観光業への貢献は限定的です。
そこで地域・観光部では、観光庁や日本政府観光局(JNTO)、国内の観光事業者と密に連携を行い、会期中に訪れた外国人旅行者に対して、全国の観光に足を運んでもらうための仕組みを作っています。
川村氏「万博は大阪だけのものではありません。自治体が万博会場で魅力をアピールしたり、逆に各地域で旅行者をお迎えしたりすることで、万博の開催効果が全国に及ぶことになります。そのため、万博をきっかけに地方部にも宿泊してもらうことが、協会として取り組むべき施策となっています」
多様な国・地域からの訪日が見込まれるタイミングだからこそ、日本全国の観光をPRすることが重要となります。
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体験商品を掲載したポータルサイト 来場者に地域の魅力発信
広報・プロモーション局では、万博来場者が地域を訪れたくなる仕組みとして、「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」を2024年4月にオープンしました。
ポータルサイトでは、インバウンドをはじめとした国内外の万博来場予定者に対して、全国各地への周遊促進を目的に、地域の魅力紹介や、万博のテーマと親和性が高い体験商品を掲載しています。(日本語、英語、簡体字、繁体字、韓国語対応)
→Expo 2025 Official Experiential Travel Guides
川村氏「サイトの情報は、万博チケット購入者に配信するメールマガジンや、来場予約完了時のメール、会期中の会場内でのサイネージなど、来場予定者・来場者に対して直接アプローチします。
発信する際には、その場所で何をしてほしいのか、体験に沿った内容にすることを心がけています。例えば『京都に行ってください』ではなく、『日本に来たら、伝統的なお祭りが見たいと思いませんか』 『万博会場で展示している伝統工芸品について、現地で本物を見てみませんか』と伝えるイメージですね。ただ場所をアピールするのではなく、その土地の魅力を知ってもらう方が重要だと考えています」
川村氏「方針としてはやはり、さまざまな国・地域から来てもらいたいです。ただ、時間をかけて日本各地を巡るのは、滞在時間の長い欧米豪のお客さまが中心になると思います。そのため事業者の方には、最低限英語で案内ができるようにお願いしています。もちろんアジアにおいてもリピートして各地を訪れる場合があるので、韓国語・中国語でも対応できればなお良いですね」
2024年10月から来場日の予約が始まり、1月13日からは、パビリオン・イベントの観覧予約の申込受付が開始されました。来場日の予約をセットした旅行商品も販売されており、観光業界での万博への期待は高まりつつあります。
川村氏「すでに来場日ごとの予約が始まっており、『何月何日にこの場所に行く』と具体的な計画が行われる時期に入っています。2025年からは、開幕前の最後のプロモーション期間として『この地域では、この時期だとこういった体験ができるよ』と提案し、旅行計画をサポートすることで、航空券やホテルの手配といった行動に移してほしいと思います」
吉村氏「現時点では、万博がどういったものかイメージしづらい人が多いと思いますが、会期が始まった際には、インフルエンサー誘致などで情報発信を行う予定です。そのため、まだ日本に来ていない人でも、会場で体験できる内容や、日本各地での観光が想像しやすくなると思います」
関連記事:2025年版「インバウンドカレンダー」訪日プロモーションのタイミングを徹底解説
「確実に日本に来てくれる」旅行者へ効率的にアプローチ
「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」掲載の申請件数は、2025年1月28日時点で911件です。
最初は関西近隣エリアの申し込みが多かったものの、西日本を中心に、徐々に全国から集まりつつある、と川村氏は話します。
川村氏「特定の日に、確実に訪日する旅行者に対して情報を届けることができるため、効率が良いと考えて申請してくれるのではないかと思います。
内容としては、文化体験に関するものが一番多いですが、ローカルフードなど『食』に関する登録も増えてきています。その地域ならではの食体験をアピールすることで、万博から離れた地域にも足を運んでもらえる可能性が高いですし、そうした考えに共感してくれる事業者が増えているのではないでしょうか。
ただ、現時点で日本全国がすごく盛り上がっているかというと、まだまだと感じます。私たちはポータルサイトに掲載する体験商品について、1,000件を目標にしています。より多くの人が万博をきっかけとした観光地づくりに賛同してくれたらと思います」
万博後も選ばれる地域に 地域活性化のきっかけをつくる
主催協会として、日本の魅力を世界に発信する前線にいる広報・プロモーション局。国内事業者の取り組みについて、何を感じるのでしょうか。
川村氏「ポータルサイトでは全国から申請が来るようになったとはいえ、地域によって温度差があるのが現状です。また、同じ地域の中でも、インバウンド受け入れに力を入れている事業者と、そうでない事業者がいます。
ポータルサイトに掲載している商品には、複数のコンテンツを組み合わせて、地域全体で滞在時間を伸ばそうと取り組む事例や、旅行会社の力を借りて、宿泊商品を作る事例などもあります。
単独の事業者だけでなく事業者間で連携して魅力的な商品を作り上げられれば、地域全体でインバウンドを呼び込める環境ができるのではないかと思います。
また、さらに広域の事例ですと、関西、中国、四国のDMOが連携し、それぞれの地域の観光を促進するための協定を結んでいます。そのような地域では、やはり体験商品の掲載も多い傾向にありますね」
地域活性化に向けたインバウンドの受け入れ体制整備や観光商品の造成は、自治体やDMOが中心となり、普段から推進している地域も多いのではないでしょうか。
川村氏はそういった地域に関しても、今回の万博を、さらに取り組みを推進する機会として活用してもらいたいと語ります。
川村氏「万博に向けて準備したことは、会期が終わったら終了するわけではありません。万博来場者が全国各地に訪れれば、地域の消費拡大や、リピーター・新規ファンの獲得、受け入れ体制整備につながり、万博が終了しても遺産として残ると思います。
万博での成功体験を活かして、継続的に旅行客に選ばれる地域に育っていくことが私たちの理想です。協会は、そのきっかけになる場を提供しています」
関連記事:宿泊・観光業の「人手不足」に挑む、観光庁の戦略と展望
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<参照>
日本貿易振興機構(JETRO):2020年ドバイ国際博覧会の取り組みと今後の展望(前編)
国土交通省:愛・地球博をめぐる交通・観光の動向
大阪市:万博についての基礎知識
公益社団法人2025年日本国際博覧会協会:EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
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