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台湾市場を15年見続けてきた「カケハシ」がお届けする連載「台湾インバウンド解体新書」。 第二回の今回は、台湾最大級の旅行博「ITF台北国際旅展」での台湾大手旅行代理店への取材をもとに、旅行需要の状況から、台湾側から見た「日本側の課題」「日本旅行マーケットの今後」まで具体的にお伝えしていきます。 |
2025年も、日本は台湾人にとって「一番身近で、一番通う海外旅行先」であり続けている。11月7〜10日に台北・南港展覧館で開催された台湾最大級の旅行博「ITF台北国際旅展」でも、その熱気ははっきりと感じられた。


本稿では、台湾の大手旅行会社「可樂旅遊(コーラツアー)」マーケティング・広報経理(マネージャー)黃盈甄氏、中堅旅行会社「世邦旅遊(スパンクツアー)」マーケティング 経理・魏苑玲氏の2名へのインタビューをもとに、台湾発の日本旅行マーケットの現状と、日本側が取り組むべき課題・チャンスを整理する。


1. 日本旅行の需要は「好調が続いている」
東京から大阪へ、そして地方・四季体験へ
両氏ともに口を揃えているのが、「ここ1〜2年で大きな落ち込みはなく、好調が続いている」という点だ。
- 台湾人の日本旅行人気はコロナ前から変わらず高く、リピーター比率はさらに上昇
- 可樂旅遊が出展した各地の旅行展(台中・高雄・ITF)でも、「一番売れるのは日本」という状況は不動
日本旅行の好調は変わらない一方で、行き先には変化がある。
首位は東京から大阪へ
コロナ前は台湾人の日本旅行といえば「まず東京」が定番だったが、現在は大阪が首位に。
USJの存在に加え、関西各地へのアクセスの良さ、そして「関西→北陸・中国地方」など周遊のしやすさが後押ししている。
地方都市への分散:東北・中国・九州へ
黃氏・魏氏ともに、地方都市への需要の高まりを強調する。
- 東北:仙台を拠点に、山形・青森などを周遊
- 例:蔵王の樹氷、青森の冬景色など「台湾にはない四季・雪景色」を体験したいニーズが強い
- 中国・九州:岡山、熊本、福岡などもじわじわ人気上昇
- 四国:特に愛媛行き直行便の存在により、今後の伸びしろが大きいエリアとして注目されている。四国に行ったことのない台湾人がまだ多く、リピーターの次の旅行先候補となりやすい
台湾人にとっては「自国にはない四季を感じる旅」がわかりやすい魅力であり、“季節性×地方”のコンテンツは引き続きキラーコンテンツといえる。


商品トレンド:自由行動+テーマパーク+交通パス
商品面のトレンドとしては、以下のポイントが挙がった。
- 東京・大阪など都市部ツアーでは、1〜2日の自由行動を組み込んだパッケージが人気
- 交通系・入場券系は相変わらず堅調
- JRパスなどの周遊券
- スカイツリー、USJ、「ハリー・ポッター」関連施設などテーマパーク・観光施設のチケット
「ある程度の安心感はツアーで担保しつつ、現地では自由に遊びたい」
これが、いまの台湾人の日本旅行の主流モードだ。
2. セグメント別ニーズの違い
富裕層は「同じ場所でも“体験の質”に投資」
黃氏によると、富裕層と一般層の違いは「体験への投資額」に現れる。
- 一般ツアー:白川郷合掌造りは「見学」して終わることが多い
- 富裕層向け:合掌造りの宿に実際に泊まるなど、「その土地でしかできない滞在体験」を求める

つまり、「行き先」は同じでも、“どれだけ深くその土地を味わえるか”が富裕層の商品価値になっている。

若年層 vs シニア・ファミリー
魏氏によると、年齢層によるニーズの差は比較的はっきりしている。
- 若い層:コスパ重視+自由度重視
- 価格と自由時間のバランスが重要
- FIT(個人手配)や、自由行動多めのツアーを好む
- シニア層・ファミリー層:安心重視
- 団体ツアーへの参加率が高い
- 交通・食事・言語など「全部お任せ」の安心感を求める

また、社員旅行など団体案件では、温泉旅館宿泊、和服体験、ハンドメイド系DIY体験、宴会スタイルの食事など、「日本らしい体験+一体感の出るコンテンツ」のリクエストがあったという。
3. 台湾側から見た「日本側の課題」
1. 言語対応とバリアフリー情報
両氏とも、「商品手配そのものに大きな問題はない」としながら、“FIT目線”では不便がまだ多いと指摘する。
- 外国語(特に中国語・英語)対応がない施設・店舗では、情報不足から利用を諦めるケースも
- 大きな荷物を持つ旅行者にとって、階段の上り下りは負担が大きい
- 地下から地上への導線で、途中まではエスカレーターだが、最後だけ階段になるパターンなど
- エスカレーターやエレベーターの場所が直感的にわかる標識を望む声が多い
2. 鉄道の大型荷物ルールの「分かりにくさ」
日本の鉄道は世界的にも高評価だが、大型荷物のルールの複雑さは外国人旅行者の混乱ポイントだ。
- 例えば新幹線において、JR東日本では大型荷物の事前予約が必要な区間がある一方、他社ではルールが異なる
- 「どこを見れば最新かつ正確な情報がわかるのか」が一元化されていない
台湾側からは、「一元的に参照できる公式情報源が欲しい」「多言語での案内強化を望む」という声が上がっている。
3)ベジタリアン対応の多様性に追いつけていない飲食店
魏氏が挙げたのが、ベジタリアン対応の難しさ。
- 牛肉だけNGの人
- 五葷(にんにく・ねぎ等)を避ける宗教的ベジタリアン
- 完全菜食主義(ヴィーガン) …など
台湾市場ではベジタリアンは珍しくなく、「ベジタリアン=肉抜きメニュー」だけではカバーしきれない。
現状、日本側のレストランでは十分な対応ができず、「お客様が自分で食事を持参するケース」も見られたという。
4)タックスフリー制度の“わかりにくさ”
さらに、FIT層からよく聞く不満が、免税制度のルール変更の分かりにくさだ。
- 2026年11月1日の制度改正後、「何が・どこまで・どう買えば免税になるのか、税金の還付手続きの流れ」が把握しづらい
制度改正後の混乱を防ぐため、ルールの明確化や周知徹底が求められる。
4. 台湾から見た「日本旅行マーケットの今後」
直行便都市を軸に、オープンジョー&地方周遊が拡大
短期的には、黃氏は「日本旅行市場は引き続き順調」と見ている。
- 直行便が飛んでいる都市(大阪・福岡・仙台・愛媛等)を中心に需要が拡大
- 行きは大阪、帰りは福岡など、インとアウトで違う空港を使う“オープンジョー型”の旅も増加傾向

魏氏も「今後5年の見通しは明るい」と評価する。
- 台湾人は圧倒的リピーター市場
- 一度行った場所に“飽きた”のではなく、 「次は別の地方へ」「別の季節に行こう」という回遊的なマインドが強い
おわりに:台湾は“もっと日本を求めている”
可樂旅遊・黃氏、世邦旅遊・魏氏ともに、「台湾の日本旅行市場はこの先5年も明るい」と語る。
すでに何度も日本を訪れている台湾人にとって、日本は「一度行って終わりの国」ではなく、「人生の中で何度も帰ってくる場所」になっている。
あとは、日本側がどこまで“受け皿”を整えられるかだ。
- 四季と地方の魅力を、ストーリーとして伝え切れるか
- 体験の質で、富裕層・リピーターをどこまで惹きつけられるか
- 言語・バリアフリー・食・免税制度といった“足元の不便”をどこまで解消できるか
台湾市場は、すでに「量」から「質」へのステージに入っている。
今回のITF台北国際旅展での声は、日本のインバウンド関係者にとって、そのシフトを加速させるための具体的なヒントに満ちていると言えるだろう。
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