JNTO地域連携部長に、国内観光地と連携した地方誘客について聞く

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地方誘客の促進に向けて地方自治体DMOなどと連携を進めるために、日本政府観光局JNTO)に地域プロモーション連携室が設けられてから8年。2023年3月には全国10の広域連携DMOとの連携協定を結んだJNTOが、海外市場へのプロモーションと両輪で、国内の観光組織との連携により観光地支援や地方誘客をどのように進めているのか、赤司真紀地域連携部長に聞きました。

取材・文/萩本良秀(地方創生パートナーズネットワーク)

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国内の観光関係者と連携を深めていくのが、JNTO内での地域連携部の役割

── まず地域連携部の、JNTO内における役割についてお聞かせください。

赤司氏「地域連携部は『地域から頼られるJNTO』を目指し、地域や事業パートナーとの取り組みを通じて、地方誘客の促進に寄与することをミッションとしています」

日本政府観光局(JNTO)地域連携部長 赤司真紀氏:訪日ラボ撮影
▲日本政府観光局(JNTO)地域連携部長 赤司真紀氏:訪日ラボ撮影

赤司氏「取り組みには3つの柱があり、このうち国内の関係者と連携して地域の観光コンテンツの認知向上を目指す取り組みを、地域プロモーション連携室が担っています。次に訪日外国人旅行者のみなさまに安全で快適に旅行していただけるよう、訪日旅行の満足度向上につながる取り組みを行っているのが受入対策グループです。そして賛助団体・会員の対応や、『インバウンド旅⾏振興フォーラム』開催などを担当する会員サービスグループがあります。以上の3部署で、インバウンドに取り組むみなさまに向けた情報提供により地域をサポートすることが、地域連携部全体の役割になっています」

地域連携部の役割:日本政府観光局(JNTO)提供
▲地域連携部の役割:日本政府観光局(JNTO)提供

── 地域連携部の具体的な活動をお聞かせください。

赤司氏「地域連携部は国内各地の自治体DMO、会員企業、地方運輸局、観光案内所などから地域の魅力について情報を収集し、たとえば手ぶら観光の取り組みといった自治体による受入施策から災害時の緊急情報までを発信すると共に、訪日インバウンドマーケティングや市場の情報を研修会やセミナーを通じて提供しています。個別にご相談をいただいてコンサルティングや個別の情報をご提供することもあり、観光案内所の方々にはスキルアップ研修会などを実施しています。また、JNTOの各部署や海外事務所とは収集した情報を共有して、海外市場に対しての発信に活かしています。さらに海外からは国内のどの地域の情報が求められている、評価されているといった情報が集まってきますので、それらを国内の関係者につないでいます。賛助団体や会員向けの『インバウンド旅行振興フォーラム』では26の海外事務所長からの講演と個別の相談会を毎年行っており、今年はオンラインも併用することにより、地方のみなさまにもご覧いただけるよう改善しました。地域プロモーション連携室では賛助団体・会員以外の方も参加できる研修会やオンラインセミナーを開催し、自治体DMO、宿泊、旅行、運輸など多様な業種のみなさまに参加いただいています。以上のように、国内の観光関係者のみなさまと海外を繋いでいく役割を担っています」

── 訪日客の増加に伴って、受⼊環境整備も重要な役割のひとつですか。

赤司氏「訪日客の地方周遊が増加している現在においては、安全安心に関する情報をウェブサイトやSNSタイムリーにお届けすることがプロモーションとの両輪でより重要になってきます。全国1,500の観光案内所のみなさまに役立つ情報や、横のつながりをフェイスブックで提供すると共に、地震災害の経験がない国からお越しになる方々に安全確保の方法も日常的にSNSに投稿し、いざというときに役立てていただこうとしています」

── 地方誘客高付加価値旅行、持続可能な観光といったJNTOの重要なテーマにはどのように関わっていますか。

「地域連携部としては地方誘客につながる取り組みがメインになります。高付加価値旅行やアドベンチャートラベルといったテーマに対する地域のみなさまの関心に対応して、研修会では高付加価値旅行の専門家を講師に招くなど、それぞれの関心やニーズを伺って把握した上で提供する情報の中身を考えます。地域連携部でもコンテンツ募集と収集をしてウェブサイトでの発信まで担当している事業がありますが、他の部署が事業に取り組むときには広域連携DMOを通じて第一報を入れてきっかけをつくります。担当部署が定まらない案件の場合は地域連携部が最初の窓口となって、さまざまな地域と各部署を接続する機能を担います。地域のみなさまがJNTOのどの部署が担当しているかわからない案件も、まずは地域連携部に聞けばいいと思われる存在になりたいと思っています」

── 地域プロモーション連携室は、地域の関係者との日常のコミュニケーションをどのように取っていますか。

赤司氏「地域プロモーション連携室では10の地域に各2人の担当を置いています。日常的には広域連携DMOや地方運輸局とお互いの事業予定を共有して、相乗効果を発揮できる情報共有を意識しています。それ以外にも賛助団体や会員となっていただいている都道府県等には毎週のニュースフラッシュをお届けしたり、個別のご相談をいただいたり、海外事務所とオンラインで直接コンサルティングさせていただく機会を設けたりしています。パンデミックを経てコミュニケーションの手段が増えて、海外事務所ともタイムリーにつながっていただけるようになりました」

広域連携プロモーション事業を、地方運輸局や広域連携DMOと共に展開

── 国内10の広域と連携して行っている事業があれば教えてください。

赤司氏「地方運輸局と広域連携DMOとは今年から『広域連携プロモーション事業』を展開しています。10の地域に旅行会社メディアを招請したり、グローバルメディアに広告を出したりして認知を広める取り組みです。地域のニーズを聞きながら招請事業のコースや記事広告の内容を考えていくにあたって、地域の実情を熟知している地方運輸局や広域連携DMOは重要なパートナーです」

地域プロモーション連携室の2025年度事業:日本政府観光局(JNTO)提供
▲地域プロモーション連携室の2025年度事業:日本政府観光局(JNTO)提供

── 令和5(2023)年度観光庁関連予算「戦略的な訪日プロモーションの実施」には、「地方の認知度・興味関心向上のため、広域連携DMOと連携した情報発信」を実施するとの記載がありました。広域連携DMO10団体と連携協定を締結して2年半ですが、どのような変化がありましたか。

赤司氏「締結以前からの取り組みも含めてより効果的に連携できるようコミュニケーションを強化しており、ここ数年でそうしたコミュニケーションが日常化してきたと実感しています。オンラインミーティングや電話、メールなどでいつでもつながる各担当者の存在を認識してもらえる関係づくりができてきたかと思っています。地域のみなさまからは単独で地域の魅力を発信するだけではなくJNTOプラットフォームを活用した情報発信が期待されてきましたが、今年度からの『広域連携プロモーション事業』はその発展形です」

── 広域連携DMOが単独のリソースで出来ないことを、JNTOが連携して行っているのですね。「広域連携プロモーション事業」の具体例を教えてください。

赤司氏「11月末から10本の記事広告をグローバルメディアに掲載しました。例えば『Euronews(ユーロニュース)』での記事広告では、東北の食や酒を海外に発信していきたいという地域のテーマに対して、東北運輸局や広域連携DMO東北観光推進機構とも一緒に取り組みました」

※Euronewsの該当ページ:

── 海外では、政府観光局SNS広告から州観光局のページにランディングするといった、デジタルプロモーションでの連携が進んでいる例も見受けます。

赤司氏「今回の記事広告では、詳しい情報のリンク先は東北観光推進機構の多言語サイトにしています。JNTOの記事広告からJNTOのサイトへという遷移だけでなく、当該エリアの詳細情報を掲載している広域連携DMOのサイトに遷移させることで、地域の最適なコンテンツを見てもらえるようにしています」

海外事務所スタッフが来日し、対面で地域のコンテンツ作りへアドバイスも

── 広域連携プロモーション以外に、地域を支援している活動はありますか。

赤司氏「海外事務所の現地職員が現地に伺って、対面で『地域コンテンツをこう発信すると効果的』『受け入れ環境をこう改善するとより良い』といった地域コンテンツの磨き上げを行うサポートを、今年度は北海道四国中国地域で実施しました。私たちは全国10の地域でインバウンド研修会を実施しているのですが、海外事務所職員がコンサルティングさせていただいた地域では、その内容を講演で共有することで地域の取り組みに役立ていただこうと取り組んでいます」

地域におけるインバウンド人材支援:日本政府観光局(JNTO)提供
▲地域におけるインバウンド人材支援:日本政府観光局(JNTO)提供

── 具体的には、どの地域に対してどの海外事務所が助言をしましたか。

赤司氏「四国では地域が重点市場と定めている市場をヒアリングし、上海とフランクフルト事務所の現地職員を来日させました。高松の苔玉づくりや琴平のうどん打ち体験を視察し、海外在住者の目線で記念品や外国語表記といった提案を直接、事業者のみなさまにさせていただきました。取り組むべき課題が明確になった、即座に取り組めることは今すぐ改善する等の反響をいただいており、コンテンツの磨き上げにつながることを期待しています。地域に昔からある素材や日本人に人気のコンテンツも、内容や多言語表記など工夫することで外国人旅行者にも通用するポテンシャルに、気づいていただけたら良いと思います」

地域観光コンテンツ視察フィードバックの例(四国、上海事務所):日本政府観光局(JNTO)提供
▲地域観光コンテンツ視察フィードバックの例(四国、上海事務所):日本政府観光局(JNTO)提供

── そのようにJNTOが設けてくれる機会以外にも日常的にたとえば、都道府県の事業で新たなアドベンチャートラベル商品を造成した、といった場合に地域連携部にはどのようなサポートが期待できますか。

赤司氏「私たちがその情報を把握できていれば、招請事業の訪問先として旅行会社インフルエンサーに見てもらって発信するなど、プロモーションの対象になることもあり得ます。海外の訪日旅行エージェントからも新しい体験商品や知る人ぞ知る地域の魅力を求められているので、広域連携DMOや賛助団体・会員のみなさまからの新しい情報を提供いただけることは、私たちも日常的に取り組んでいることです」

JNTO会員に限らず、地域の観光関係者とつながって海外発信をサポート

── 以前のJNTOは海外事務所を拠点に、賛助会員に対してプロモーションのサポートやノウハウの提供を行うのが主たる役割でしたが、地方周遊や高付加価値旅行の推進に向けて磨き上げられた国内コンテンツを掘り起こしていくためには、賛助会員以外にも有力な地域の事業者に対して、JNTOの活動への理解を広めていくことは重要に思われます。

赤司氏「JNTOと地域の強みは異なりますから、互いの強みを掛け合わせて日本の各地域に訪れてもらう活動を行うことが必要です。地域の魅力をよくご存じのDMOや観光事業者の皆さまからいただく情報が増えるほど、私たちの海外市場に対する情報発信の幅も広がります。地域連携部では会員サービスグループによる支援だけでなく、賛助団体・会員以外の方々も対象に地域プロモーション連携室がセミナーなどを実施しています。賛助団体・会員ではないみなさまも、広域連携DMOと日常的に連携し、情報共有いただくことにより、私たちにも地域の情報が届く流れになっています」

── 全国の観光関係者とのより広範な連携に向けて、地域連携部からメッセージをお願いします。

赤司氏「私たちの名刺に『日本の魅力を、日本のチカラに。』というJNTOのタグラインが書いてありますが、地域連携部は『地域の魅力を日本のチカラに』していく役割を担っている部署だと思います。その上では国内各地域に事務所がないJNTO単独ではできないことを、地域の皆さまと連携していくことが不可欠です。それぞれの地域にまだ外国人観光客が知らない魅力的なコンテンツがたくさんあります。単独でPRして認知されにくくても、みなさんが広域連携DMOを中心に情報共有していただければ、広域連携DMOとつながっているJNTOが一つひとつのコンテンツを点から線につないで、そして面として海外に発信して機会が生まれていきます。私たちが用意しているさまざまなチャネルを活用して、小さなことでも気軽にご相談ください」

プロフィール:日本政府観光局(JNTO)地域連携部長 赤司真紀氏

日本政府観光局(JNTO)地域連携部長 赤司真紀氏
▲日本政府観光局(JNTO)地域連携部長 赤司真紀氏

1996年より受入環境整備や会員サービスを担当、総務部では人事や財務、経営企画など本部業務を歴任。23年地域連携部に異動、25年より現職。

著者プロフィール:萩本 良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター


民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など観光庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

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この記事の筆者

萩本良秀

萩本良秀

地方創生パートナーズネットワーク 事業支援ディレクター。民間企業や関東広域DMOなどインバウンド観光関連事業で、多言語ウェブサイトやInstagramなどSNSを活用したデジタル・マーケティング担当を歴任。全国通訳案内士(英語)として150名以上の外国人旅行者をガイド。観光庁「地域周遊・長期滞在促進のための専門家派遣」など、観光庁や文化庁事業の委員、自治体や観光団体のイベントでの講演、大学ではホスピタリティ科目の講師も務める。

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