観光庁は、2019年9月から12月にかけて、成田、羽田、関西、新千歳、福岡計5か所の国際空港から出国する訪日外国人を対象に、それぞれの訪問先で旅行中に困ったことを調査しました。
この調査は毎年実施されており、訪日外国人の受け入れ環境が整うことで、年々訪日外国人の困りごとが減少していることがわかっています。
一方、ゴミ箱の少なさや意思疎通の難しさに困った訪日外国人が一定数存在しているほか、都市部と地方部では公共交通機関やフリーWi-Fiの利便性に大きな差があることがわかりました。
新型コロナウイルスの影響により海外からの入国制限が敷かれ、訪日外国人の客足はほとんど途絶えてしまいました。
しかし、2019年までは日本全国で東京オリンピックに向けた訪日外国人の受け入れ環境整備が進められており、その成果は調査結果に如実に表れています。
それでは、どのような対策が功を奏しており、これからはどのような対策が必要となるのでしょうか。調査資料の数値から浮き彫りになった成果と課題を解説します。
《注目ポイント》
- 「困ったことはなかった」が過去最高の38.6%に
- 困ったこと1位は「ゴミ箱の少なさ」
- 「公共交通機関の利用」都市部では86%が「便利」、地方では8%にとどまる
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「困ったことはなかった」が過去最高の38.6%に/1位は「ゴミ箱の少なさ」
順位 | 項目 |
割合 |
(参考) | 困ったことはなかった | 38.6% |
1位 | ゴミ箱の少なさ | 23.4% |
2位 | 施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない | 17.0% |
3位 | 公共交通の利用 | 12.2% |
4位 | 多言語表示の少なさ・わかりにくさ | 11.1% |
5位 | 無料公衆無線LAN環境 | 11.0% |
同時に、前年と比較してすべての調査項目の数値が減少しており、訪日外国人が日本で遭遇する困りごとは一様に減少していることがわかります。
以前から「困った」割合が高かった「無料公衆無線LAN(フリーWi-Fi)環境」と「施設等のスタッフとのコミュニケーション」の2項目も、前年比でそれぞれ7.7%減、3.6%減となりました。フリーWi-Fiの整備が進んだことや、施設における多言語人材の採用や翻訳機の導入が進んだことで、これら2点の課題は解決に向けて大きく前進したようです。
一方、2019年から新たに追加された調査項目「ゴミ箱の少なさ」の選択率は23.4%となり、「困ったことはなかった」を除いた各調査項目の中で最も高い結果となりました。これはゴミ箱の少なさに困った訪日外国人が一定数いることを意味しており、解決すべき課題が新たに表面化したといえます。
日本では、1995年に発生した地下鉄サリン事件をきっかけに駅などの公共施設からゴミ箱が次々と撤去されました。街からゴミ箱が完全に消えた訳ではありませんが、ゴミを持ち帰る文化も相まって、諸外国より街中のゴミ箱が少ないようです。
テロ対策という観点から見るとゴミ箱の設置はリスクを高めることにつながるため、公共施設や街中にゴミ箱を増やすことについては慎重に考える必要があります。
また、使用済の割り箸やマスク、ティッシュペーパーなどが集まるため新型コロナウイルス感染拡大の原因となりかねないとして、一時期コンビニや駅などのゴミ箱が使用中止となったこともありました。
今後訪日外国人を受け入れるにあたっては、テロ対策やコロナ対策に留意しながらゴミ箱の設置を進めていく必要があるでしょう。
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都市部・地方部で「困る場所・状況」に差が
なんらかの困りごとに遭遇した訪日外国人の割合は都市部で61%、地方部で60%と、エリアによる差はほとんど見られません。
しかし、調査項目ごとに都市部と地方部で困る割合の高い施設や場所を比較すると、いくつかの違いが出てきました。
※「都市部」は三大都市圏の東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫の8都府県、「地方部」とはそれ以外を指します。
多言語表示の少なさ:都市部では駅、地方部では神社仏閣
まず「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」という調査項目では、困る割合の高い施設として「飲食店」「百貨店・ショッピングセンター」「その他小売店」が都市部と地方部で共通して4位以内に入っています。
一方、都市部では「鉄道駅構内」が39%(地方部では16%)、地方部では「城郭・神社仏閣」が24%(都市部では20%)と高く、エリアで差が見られます。
特に「鉄道駅構内」については、多言語表示を頼りに電車を利用する訪日外国人も多く存在することから、英語、中国語、韓国語をはじめとする多言語表示をさらに充実させることが利便性の向上につながります。また、係員による案内を強化したり出口や乗り換えのルートを明示したりすることで、訪日外国人のみならず利用者全員にとってわかりやすい交通機関が実現できるでしょう。
公共交通の利用:都市部では電車、地方部ではバス
「公共交通の利用」で最も困った項目としては、都市部では「新幹線以外の鉄道」が72%(地方部では50%)となっているのに対し、地方部では「バス」が51%(都市部では20%)となっています。
東京や大阪など複雑な路線網を抱える都市では、駅ナンバリングを導入したり路線の色を分けることで利便性の向上を図っていますが、それでもなお訪日外国人にとってわかりやすいとは言いがたい状況です。
現場における案内に力を入れたり、アプリやWebサイトを活用して事前に情報を提供できるようなシステムを構築するなどの対策が求められます。
バスについても、日本のバスは前乗りと後乗りや整理券方式などが混在しているため、訪日外国人にとっては利用のハードルが高い交通機関となってしまっています。地方部ではそもそも運行本数が少ない路線もあるため、バスではなくタクシーが選ばれる場合も多くあります。
とはいえ、駅やバスセンターなどの主要拠点にバスの乗り方を案内するパンフレットやポスターを設置したり、翻訳機の導入や多言語表示を進めることで、バス路線の利便性を向上させることは十分に可能です。
都市部と地方部で「便利さ」に大きな差が
今回の「訪日外国人が旅行中に困ったこと」調査では、都市部と地方部での「便利さ」についても尋ねています。
都市部と地方部を両方訪問した調査対象者による回答を見てみると、すべての調査項目において都市部は地方部より「便利」と回答されている割合が高く、地方部における受け入れ環境の整備の遅れが浮き彫りとなっています。
特に「無料公衆無線LAN(フリーWi-Fi)環境」を便利と感じた割合は都市部で70%、地方部で31%となっており、同じく「公共交通の利用」を便利と感じた割合は都市部で86%、地方部で8%となっています。
これら2項目においては都市部と地方部の差が著しく、地方部では今後これらの課題に向き合っていく必要があるでしょう。
今後の課題浮き彫りに
多言語表示とフリーWi-Fiの設置は都市部を中心に進んでおり、これらの成果は数値として着実に現れています。
調査結果から、都市部では交通機関の案内を強化し、訪日外国人にもわかりやすい交通システムを構築することがあらためて必要であることがわかりました。地方部ではこれに加え、多言語表示やフリーWi-Fiの整備が求められています。
ゴミ箱の設置や公共交通機関の整備は事業者単体で対策を実施することが難しい場合もあるものの、観光協会の主導などにより地域一丸となって受け入れ環境を計画すれば、鉄道やバスを含めた観光システムの構築も十分に可能です。
訪日外国人が姿を消し、リソースが余ってしまっている今だからこそ準備できるインバウンド対策も数多くあります。できることから取り組むことで、アフターコロナの訪日外国人回復に備えることが重要です。
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