新型コロナウイルスの影響で旅行業界は大きな打撃を受けています。海外からの観光客はもちろん、遠方からの観光客も訪れるのが難しい状況にあります。
そこで注目されているのが「マイクロツーリズム」です。ウィズコロナの旅行のスタイルとして、自宅から30分から1時間ほどで行ける場所へ旅行するマイクロツーリズムは広がっていくと考えられています。
本記事では、コロナ禍の旅行ニーズの変化やマイクロツーリズムの特徴、マイクロツーリズムの具体的な取り組み事例について解説します。
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新しい旅のあり方「マイクロツーリズム」とは
ウィズコロナの新しい旅のあり方として星野リゾートが提案しているのが「マイクロツーリズム」です。
三密を避け車で行ける近場へ旅行するという今後の旅行ニーズに合わせて提案された、マイクロツーリズムの特徴を解説します。
星野リゾート代表が提案するマイクロツーリズムとは
マイクロツーリズムとは、遠方への旅行や海外旅行ではなく、近場にあるホテルで三密を避けながら過ごすスタイルです。
これまでの観光業は都市圏やインバウンド事業による収入をねらったビジネスを展開していましたが、新型コロナウイルスの流行により従来のビジネスモデルを続けることが難しくなってきました。そこで星野リゾートが提案した新しい旅行の形がマイクロツーリズムです。
自宅からおおよそ30分から1時間で行ける程度の距離で、安心安全に過ごせるだけでなく、地域の魅力を知る機会の増加や地域経済への貢献が期待できます。遠方へ出かけて観光地や観光施設へ赴く旅行とは違い、温泉や自然散策、その土地の料理などを楽しみ、保養を目的として旅館やホテルを訪れる滞在旅行を指します。
マイクロツーリズム 3つの特徴
マイクロツーリズムには3つの特徴があります。
1つ目が、ウィズコロナ期の旅行ニーズの反映させた旅行スタイルです。外出自粛により自宅にこもる時間が増えたことによる疲労を、地元の宿泊施設でゆっくり癒せる「小さな旅」を目指しています。
2つ目が、感染防止と地域経済の活性化を両立させることです。マイクロツーリズムを通した地域観光を通して、長距離移動による感染リスクを避けつつ、地域内での経済活性化が期待できます。
3つ目が、地域の魅力の再発見です。星野リゾートでは、マイクロツーリズムを通して地域の方への体験機会や交流を深め、地域の魅力に触れられる滞在を提案し、それにより地域の特性を再認識するとともに愛着を持ってもらうことを目指しています。
コロナ禍の旅行ニーズ
コロナ禍では旅行のニーズも変わってくると予測されています。
実際に熊本県観光協会連絡会議が2020年4月下旬に実施した調査において、飛行機や新幹線を利用した遠方への旅行は「当面は控える」と回答した人がもっとも多いという結果が出ました。
一方で近隣エリアへの旅行に関しては「外出自粛要請の解除後」に再開するという回答がもっとも多い結果となりました。
J.D. パワー・ジャパンが6月上旬に実施した調査においても、移動自粛要請や渡航制限の解除後にしたい旅行について、半数の50%もの人が「車での近場への旅行」であれば旅行をしたいと答えています。
ワクチンや特効薬の開発が進むにつれて段階的に旅行意欲が高まると予測されているものの、現段階では他人と接触しにくい車での旅行需要から回復していくと考えられます。
星野リゾートが実践するマイクロツーリズム
マイクロツーリズムを提案した星野リゾートでは、三密の回避や地域課題の解決、「地域再発見」の場の提供といった取り組みを通じて実際にマイクロツーリズムを実践しています。
三密の徹底的回避
星野リゾートでは三密を回避するために、チェックインからチェックアウトまでの各場面、施設ごとに細かく対策を講じています。
具体的には、チェックイン時に混雑を避けるために客室でチェックイン手続きをしたり、換気しやすい部屋タイプを用意したりといった対策です。
ほかにも、スマートフォンで浴場の混雑状況を確認できるシステムを導入し、人が少ない時間帯で利用することで顧客自ら三密を避けられるようにもしています。
地域課題の解決
マイクロツーリズムの実施により地域課題の解決に向け、地域の人たちとの関係を深めるための取り組みも実施しています。
実際に星野リゾートでは、フードロスの問題に悩む那須エリアで生産された牛乳を活用した「牧場を救うミルクジャム」という製品を開発し、栃木県の施設で使用しています。
さらに青森では、中止が決まったねぶた祭で使用予定だったねぶたの製作者と協力し、共同イベントの開催を検討中です。
このように地域の生産者や文化の作り手とのネットワークを強化することで、地域課題の解決に貢献しています。
こうした取り組みによって、さらにマイクロツーリズムを利用する観光客が増加することや、地域の共感を呼び一体感を高めることが期待されます。
地域から学び「地域再発見」を提供
星野リゾートの星野社長は、マイクロツーリズム市場を推進していく時には、旅のコンテンツも変わってくると予測しています。
これまでの地産地消は、その地域の料理や習慣といった魅力を他県から来た人や海外から来た人に伝えることが主流でした。しかしこれからの地産地消は、地元の人にとっても魅力の再発見につながります。
加えて、学校の休校によりこれまで学校給食で賄っていた子どもの昼食を準備しなければならない人が増えるなど、新型コロナウイルスの影響で以前より家事の負担が増加している傾向にあります。
そのため、温泉旅館で用意された美味しい食事を食べ、ゆっくり過ごすのは、保養の面から大きな魅力になるといいます。
マイクロツーリズムを提案する企業・自治体の事例の紹介
マイクロツーリズムに関する取り組みは星野リゾートだけではなく、さまざまな企業や地方自治体、観光協会で実施されています。
【事例1】星野リゾートの宿泊プラン/地域限定・会員限定
マイクロツーリズムを実現するため、星野リゾートでは対象エリアに住む人向けに、基本料金よりもお得に宿泊できる「地域限定プラン」を販売しています。
その一つにプロサッカークラブ・湘南ベルマーレと共同で発売されたサポーター限定プランがあります。
このプランは湘南ベルマーレのホームタウン観光応援プロジェクトの一環として、ホームタウン湘南のサポーターに箱根エリアでの滞在を満喫してほしいとの想いから発売されました。
湘南ベルマーレのホームタウンに住む人を対象に、7月26日宿泊の1組限定で実施されます。
料金が15%割引になるだけでなく、元選手のプライベート実況や食事のグレードアップといった特典もついています。
【事例2】地元割引/京都・愛知
京都市と京都市観光協会が共同で実施しているのが「地元応援!京都で食べよう、泊まろうキャンペーン」です。
新型コロナウイルスによって影響を受けた飲食店や宿泊店を対象に、最初は400店舗を超える飲食店を対象に、7月からは宿泊施設を対象に含め実施されます。
対象店舗では期間中特別メニューやプランが用意され、京都ならではの豪華景品が当たる抽選も開催予定です。
愛知県では、7月1日より旅行会社が販売する県内発着の旅行に対して、1万円を上限に代金の2分の1相当を助成する「LOVEあいちキャンペーン」を開始しました。
さらに観光スポットを巡るスタンプラリーや、高速道路乗り降り自由の観光商品権付ドライブプラン、SNS上でのキャンペーンも実施されます。
【事例3】地元民向けの自治体によるモデルコースの紹介/千葉・福岡
地元の人に向けたモデルコースを紹介している自治体もあります。
千葉県香取市では地域やテーマごとに6つのモデルコースを紹介しています。それぞれ写真入りのパンフレットが作成されており、魅力や見どころについての情報が記載されているのが特徴です。
千葉県佐倉市では、徒歩や自転車といった観光手段ごとにモデルコースを紹介しています。それぞれのルートは地図付きで、各スポット間の移動にかかる時間まで詳しく記載されています。
福岡県北九州市では、市内の行きたい街や住みたい街の情報を配信するメディア「iko-sumo.jp」でマイクロツーリズムのおすすめスポットやコースについて紹介しています。Web記事では、印刷費用などのコストをかけずに情報量の多いコンテンツを提供できます。それぞれのスポットについての魅力が、写真や文章で詳細に伝えられています。
マイクロツーリズムで新たな旅行ニーズへの対応を
新型コロナウイルスの影響で遠方への旅行へのハードルが高くなっている一方で、近場への旅行のニーズは徐々に回復傾向にあります。そこでウィズコロナの新しい旅の在り方として広がりつつあるのがマイクロツーリズムです。
感染予防策として三密対策を講じたうえで、自宅から30分から1時間の範囲の地元民を誘致することで、地域の魅力を知る機会の増加や地域経済への貢献が期待できます。
企業や自治体もマイクロツーリズムへの取り組みを始めており、旅行業界はマイクロツーリズムによる新たなニーズへの対応が求められています。
<参照>
熊本県観光協会連絡会議:新型コロナウイルス感染症 収束後の旅行・観光に関する意識調査 調査報告書
PR Times:J.D. パワー ジャパン「旅行に関する意識調結果」
【7/3開催】宿泊のイマを考える「ホスピタリティサミット」
インバウンド需要の高まりに加えて2025年は大阪・関西万博の開催など、国内旅行者に限らず訪日観光客の増加も加速する日本。今、国内観光の需要は増加する傾向であり、ホテル・宿泊業界は大きなビジネスチャンスの時代を迎えています。このような状況において、宿泊施設としての取り組みやサービスの品質改善は、お客様に選ばれ続けるための最重要課題となっています。
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【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」
2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。
「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。
初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。
参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。
<こんな方におすすめ>
- インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
- 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
- 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
- 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
- インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生
【インバウンド情報まとめ 2025年6月後編】「2030年6,000万人・15兆円」の目標達成に向けた議論 ほか
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※本レポートの内容は、原則当時の情報です。最新情報とは異なる場合もございますので、ご了承ください。
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