『ポストコロナのインバウンド戦略』では、コロナ禍において、業界の「中の人」に聞くサバイバル術として最前線に立つ方々に特別寄稿いただきます。
今回の寄稿者は、 国内外の企業、政府関係機関、公的団体などに総合的な広報サービスを提供するオズマピーアールの馮 惠芸(ヒョウ ケイウン)氏です。
初めまして。インバウンドプロモーションを手掛ける株式会社オズマピーアールの馮と申します。
株式会社オズマピーアールのグローバルチームでは、先日台湾現地の最大手旅行会社-雄獅旅遊(Lion Travel)の訪日旅行商品造成担当者である温怡誠氏と、同グループの広告マーケティング会社-傑森全球整合行銷(JWI Marketing)で訪日プロモーションを手がけている呉祝華氏とともに、コロナ前後で変化した台湾生活者の情報収集・観光ニーズについて、現地の最新事情を交えながらトークセッションを行いました。
インバウンドの促進にあたっては、来訪動機をつくる情報発信(コミュニケーション)と、実際に人が動くための商品造成や受入整備(ディストリビューション)の連携は不可欠ですが、実際はそれぞれが個別に動くことも多く、効果的な連携が取れていないことも少なくありません。
コロナ前からこの課題はありましたが、インバウンドが止まっている今だからこそ、回復に向けて一層の連携を図るべく、今回は双方の視点を取り入れたセッションを持つことができました。
アフターコロナの変化にどう対応していくべきか、今からできることはなにか、観光に携わるみなさまの業務において実践のヒントとなれば幸いです。
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日常生活を取り戻した台湾。移動規制の反動から国内旅行がブームに
観光プレイヤーから見た台湾の現状
報道等でも耳にされている通り、コロナ感染をいち早く封じ込めた台湾では、日常生活はほぼ通常どおりに回復しています。
最近では、人が多く集まる旅行博や記者会見のような屋内イベントも開催されており、日本のようなオンラインへの傾倒も見られず、イベントなどはむしろオフラインでの開催に価値を置いているケースもあります。
また、移動規制の反動から「報復性旅遊(リベンジ旅行)」と呼ばれる国内旅行ブームが到来しており、離島や自然豊かなエリアは特に人気が高く、予約が殺到しています。
一方で、コロナの感染者数が減少した今なお、公共交通機関でのマスク着用が義務付けられており、駅構内にはマスク自販機が設置されています。
台湾では、生活者一人ひとりがコロナ対策を徹底しており、他国と比べてもとりわけ衛生意識が高い様子が見受けられます。そのため、近い将来、海外旅行が解禁された際には、他国にも同レベルの防疫対策を求めるでしょう。
台湾人旅行者の意識の変化
JWI Marketing呉祝華氏が明かしてくれたところによると、同社が8月に行った独自調査では、コロナ前後で台湾人旅行者の訪日観光ニーズに関する意識変化が明らかになっています。
これまで人気だったテーマパークなど都市型観光地に対して確実な防疫対策を求めるほか、コロナ影響による外出自粛や生活様式の変容から、「開放的な空間でゆったりのんびり過ごしたい」というニーズが増加しています。
また、訪日リピーターの多い台湾人は、その土地ならではの隠れた日本の魅力を知りたいと思っているため、都市部やゴールデンルートよりも「訪問先を地方のみに絞ってディープな旅行をしたい」というニーズが強まっています。
「都市部やゴールデンルートから地方へ」という傾向自体はコロナ以前からありましたが、都市部に拠点を置きながら地方を訪れるこれまでのスタイルから、これからは目的地直行型に変化が加速していると言えます。
また、台湾では、サイクリングやグランピング、グルメ満喫など特定の目的を持った旅行、いわゆる「主題旅遊(テーマ旅行)」が流行っています。
こちらも以前からテーマを設定すること自体の傾向は見られていましたが、より濃く、とことんテーマに沿った体験や時間を楽しむ、という変化が起きています。
その背景には、限られた時間とお金を自分の一番好きなものに使いたいというアフターコロナ特有のニーズがあると考えられます。
2021年までに訪日したい台湾人。必要なのは安心・安全とポジティブ情報
台湾で今伝わっている情報から見える日本
同調査では、台湾からの海外旅行が10月に解禁される場合、98%の人が2021年までに日本へ旅行に行きたいと答えています。安全・安心な旅行さえできるなら、日本へすぐにでも行きたいと考えている人が多いことが分かります。
こうしたニーズがある一方で、そのための情報収集において、日本からの観光に関する発信がほとんどないことを残念がる声が挙がっているのも事実です。
訪日観光インバウンドの回復のためには、やはり継続的な情報発信が必要です。現在台湾における日本の情報はそのほとんどがネガティブなコロナ関連情報となってしまっています。
せっかく海外旅行が解禁になれば日本に行きたいと考えてくれる旅行者が多いのに、このままでは逃してしまいかねません。
求められるのは、モデルコースや観光スポット、交通アクセス情報といった基本的な観光情報の最新動向に加え、特にきちんとしたコロナ対策が取られているのか等の安心・安全情報、そして各観光地の現状や地域の人たちが元気に過ごしている様子など、ポジティブな情報です。
出しづらい今だからこそ。情報発信の工夫
旅行の情報発信事例もいくつかご紹介しましょう。下の画像はLion Travelが取り扱っている国内クルーズ旅行のポスターで、日本とは関係ないものですが、キャッチフレーズの1行目「oh 海 呦」が「おはよう」の発音に近く、写真も沖縄を想起させると話題になりました。旅行者の訪日ニーズをうまく捉えた例と言えます。
あるいは、SNS上では、先日「#像極了愛情(まるで恋のようだ)」とハッシュタグを付けて投稿することが一種のブームになっていました。
このハッシュタグを付けることで、素敵な詩のようになる、として若者の間だけでなく、企業や官庁、政治関係者の情報発信にも使われていました。トレンドを押さえておくと、これを活用した情報発信の工夫も見えてきそうです。
また、観光受入れが回復している様子や日本国内でのGoToトラベルキャンペーンの様子など、回復のプロセスが見えるような情報も、台湾のお客さんの共感を呼び、”応援したくなる”情報として求められています。
このようにその時々で生活者が食いつくような情報発信の仕方を少し工夫することは、コロナと無関係な時期と同様に重要なポイントになります。最新トレンドは刻々と移り変わっていきますので、この時期の情報発信には、現地の事情を把握したパートナーと連携することも重要です。
日本側で今からできることは「情報提供」と「受け入れ体制整備」
旅行会社であっても広告会社であっても台湾の観光プレイヤーは日本の情報を求めています。既に述べたような一般的な観光情報から、感染症対策の情報、それに取り組む地域の様子、あるいは今後行われるであろうGoToキャンペーンのインバウンド版のような制度など。旅行者向け、事業者向けのあらゆる情報を求めています。
Lion Travel温怡誠氏は今後の訪日旅行商品造成について、以下の5つの方向性を挙げています。
- 密回避の旅行スタイル:人が集まるショッピングスポットや屋内施設を避け、安心・安全を最重要視した、カスタマイズした小グループ向けのテーマ旅行商品。
- コロナ対策ガイドラインの徹底:旅行者の不安を払拭するために、行程に取り入れる施設・スポットには更なる防疫ガイドラインや動線確保などの対策を求める。
- 訪問先分散の工夫:時間帯分散予約制や実名登録制を導入された施設を訪問先として優先的に検討。
- キャンセルポリシーの緩和:キャンセルポリシー条件緩和や撤廃などに関する手続きやフローの明示が望ましい。
- 保険と医療体制の整備:訪日観光中にコロナ感染や病気になった場合に安心して治療を受けられるよう、海外旅行保険ならびに医療支援の強化。
1~4は既に各地の事業者様が国内向けに取り組まれている部分も多いかと思いますが、今後インバウンドの回復期においては5を含めたこれらの点を意識して整備し、台湾の旅行会社からも自社のお客さんに安心だと思ってもらえるだけの情報提供があるとありがたいです。
台湾の訪日キーマンとのトークセッションを終えて
冒頭で情報発信と受入整備の両輪が大切、と述べましたが、広告会社の視点でも旅行会社の視点でも情報発信部分が足りない。とセッション相手の両社から所感が挙がったのが興味深いポイントかと思います。台湾のプレイヤーからこのような声が上がるということは他国でも同じであると考えられるでしょう。
難局を乗り越えるために、今まで以上に情報発信、商品造成、受入整備など関連するプレイヤーが横断的に連携しあう必要があります。その中で台湾のプレイヤーは日本からの情報発信がほとんどなくなってしまっていることに危機感を覚えているということです。
当面の来訪が期待できないマーケットに対して貴重なリソースを使って情報発信するのは難しい、という事情ももちろんあると思います。
ただ、ご存じの通り台湾は本来訪日市場にとって大きなマーケットです。さらに、プレイヤーの方々もどうしたらスムーズに日本旅行市場を回復させられるかを考えて下さっているのが今回のセッションでひしひしと感じることができました。
そんな方々と共に市場回復を目指していくという意味でも受入整備の目途が立てば、情報を伝えていくという両輪が大切になってきます。
「今来てね」というメッセージは伝えづらい状況ですが、将来に向けた情報発信を今から積み重ねていきましょう。
<参考>
・オズマピーアール トークセッションレポート:http://ozma.co.jp/announcement/column-20201012/
【登壇者プロフィール】
オズマピーアール グローバル開発部
コミュニケーション・ディレクター
馮 惠芸(ヒョウ ケイウン)
台湾台北出身。来日9年目。
北海道の観光系大学院の修了後、高級温泉ホテルチェーンにて公式サイトの多言語化及び台湾向けFacebookの立ち上げに携わった後、インバウンドプロモーションに特化した広告会社にて官公庁向け提案業務に従事。台湾をはじめ、香港やタイなど、地方自治体の東・東南アジア諸国向けプロモーションを多数手掛ける。
緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集
訪日ラボでは、現在のコロナ禍をどうやって乗り越えていくべきなのか?ポストコロナをどのようにとらえ、今対策をしていくべきなのかなどを、インバウンド業界の「中の人」に寄稿いただく特別企画を実施しております。本企画において寄稿を募集しておりますので、ぜひご応募ください。
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