「ハラル(ハラール)」とはアラビア語で「許されたもの」を意味し、イスラム教の法律「イスラム法(シャリーア)」において合法とされている食事や服装などのことを指します。
イスラーム法には食事の摂取方法や行動や服装などに関する決まりが含まれており、イスラム教徒(ムスリム)の生活様式と考え方に大きな影響を与えています。
近年日本を訪れる外国人観光客の中にも多くのムスリムがおり、彼らのさまざまなニーズに対応するため、いま日本でもハラルを意識したサービスや商品の提供が求められています。
本記事では、ハラルの概念や、ハラルを意識した製品・サービス提供の必要性、国内におけるムスリム向けサービスの導入事例などを紹介します。
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ハラルとは?ムスリムの生活に根付く重要概念
ハラルとは、中東やアフリカ、インドネシアで多く信仰されているイスラム教の戒律で「合法」とされるものです。
反対に、イスラム教の戒律に反した「非合法」とされるものは「ハラム」と呼ばれています。
ここでは、ハラルの概念や、ハラルの代表例である「ハラルフード」について紹介します。
ハラルはムスリムの基準、「合法」であること
ハラル(ハラール)とは、イスラム教の聖典である「コーラン」と預言者ムハンマドの言行を基にして作られた法律「イスラム法(シャリーア)」において、許されたもの、合法であるもののこと全般を指しています。
一方、イスラム法において非合法とされているものや行いのことは「ハラム(ハラーム)」または「非ハラル(非ハラール )」などと呼ばれています。
ハラルはイスラム教徒の生活の軸とも言えるようなもので、食事のほか、服装や生活、行事など幅広い分野に影響が及ぼされています。
戒律をどの程度守るかは国や地域、教徒によって異なる場合もありますが、基本的に豚肉の食用やお酒の飲用、窃盗や嘘をつくことは禁じられています。
ハラルフード:ムスリムの食事もイスラム教に遵守
イスラム法によると、食事の面で摂取が禁止されている代表的な例としては、主に豚肉やアルコール、またはイスラム教徒が処理していない肉類が挙げられます。
まず、イスラム教の聖書「コーラン」において、豚肉を不潔・不浄のものとしてとらえています。
そのため、ムスリムは豚肉を食べることができませんし、乳化剤やショートニング、ゼラチンなど豚由来成分を使用した料理や調味料、添加物も食べません。
アルコールも、イスラムの教えでは一般に禁止されているため、多くのムスリムは飲酒しません。
またみりんや醤油、お酢などアルコールが含まれる調味料の使用も避けられています。
さらに、豚肉以外の動物性の食材もイスラムのと畜方法で処理されないと、口にしないという決まりもあります。
このようにムスリムの人たちの食事は「ハラル」と「ハラム」に基づいており、彼らが何を食べていて、何を避けているのかを知ることがムスリムへのインバウンド対策の一歩となります。
なお、以上は一般的な規範であり、国や地域によって食の習慣が異なる場合があります。
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重要性の増すムスリム市場:必要のインバウンド対策とは
全世界で17億の人口を有するムスリムは、世界の観光産業で注目されています。
日本にも毎年多くのムスリム観光客が訪れており、その存在感が増しています。
以下では、世界のムスリム人口と旅行市場規模、訪日ムスリム客数、ハラルに対応するインバウンド対策について紹介します。
世界の観光産業で注目されるムスリム市場:人口と旅行市場規模を紹介
アメリカのシンクタンク「ピュー研究所(Pew Research Center)」の発表によると、2015年の時点で全世界のムスリム人口は17億人を超えており、2060年までに30億人近くに拡大し、世界人口の31.1%を占めることが予測されています。
また下のグラフで示すように、人口増加数においては、ムスリムの増加幅はキリスト教徒やヒンドゥー教などほかの宗教より大きいとかわります。
国別のをみると、ピュー研究所によればもっともムスリムが多い国はインドネシアであり、2015年の時点でインドネシア全人口の87.1%、すなわち約2億人がムスリムであり、世界ムスリム人口の12.6%を占めています。
次にインド、パキスタン、バングラデシュ、ナイジェリアといった南アジアやアフリカの国々が続いています。
また、ムスリム人口の増加とムスリムを抱える国々の経済成長とともに、ムスリム旅行市場も拡大し続けています。
Mastercard-CrescenRating Global Muslim Travel Index 2019によれば、2000年においては2,500万だったムスリム旅行者は、2018年には約5.6倍となる1億4,000万人を記録しており、2026年には2億3,000万人にのぼると予測されています。
また旅行購入額も伸び続けており、同調査によれば、2018年にはオンラインを通じた旅行購入額は450億米ドルに達しており、2026年には1,800億米ドルとなると推計されています。
これらの数字から、ムスリム旅行市場は拡大傾向にあり、観光業界において重要な位置を占めつつあるといえるでしょう。
インバウンドにおけるムスリム旅行者の現状:東南アジアのムスリムが増加中
MasterCard-CrescentRating Japan Muslim Travel Index 2017によれば、訪日ムスリム客は、2004年には15万人でしたが、2016年には70万人へと増加し、2018年には100万人を超えると予測されています。
また同調査では、訪日ムスリム客の60%は東南アジアからの観光客であり、そのうちもっとも多い国籍はインドネシアの27%でした。次いで、マレーシアの23%とシンガポールの5%でした。
またJNTOの訪日外客数では訪日インドネシア人数と訪日マレーシア人数が年々増加していることから、今後日本に訪れる東南アジア出身のムスリム客数はより増加すると見込まれています。
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訪日ムスリム客の受け入れ体制:「ハラル認証マーク」、「ムスリム対応ガイドブック」
ムスリムが食品や化粧品などを選ぶ際、「ハラル認証マーク」と呼ばれる印が製品についているかどうかが判断基準になることが多々あります。
「ハラル認証マーク」とは、豚やアルコールといったイスラム法に反する材料が使われていないことのほか、製品の製造から販売まで、イスラム法の戒律に沿っていることを保証するマークのことです。
ハラル認証マークのついている製品は使用が合法であることが保証されているため、ムスリムの視点からすると商品を安心して購入できるという利点があります。
なお、ハラルに関する認証マークで統一された国際基準は設けられておらず、日本でも認証機関として9つの機関が存在します。
また観光庁では、宿泊・旅行業者・地方自治体などに向けて、ムスリムにより快適に訪日旅行をしてもらうために、食や礼拝を中心とした具体的な対応方法をまとめた「ムスリムおもてなしガイドブック」を作成しました。
各都道府県、自治体でも独自のガイドブックを制作しています。
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日本の各企業、自治体のムスリム対応のための取り組み事例
今後日本を訪れるムスリム 観光客に対応するため、日本の企業や自治体はさまざまな取り組みを試みています。
ここでは、日本の各企業や自治体が取っているムスリム対応の事例を紹介します。
1. 成田国際空港:ハラル専用キッチン付きレストラン・礼拝室の設置
2014年以降、成田国際空港ではムスリムの利用客向けサービスや受け入れ整備の拡充を進めています。
2014年6月にはハラルに対応しているレストランが開業し、ハラル用の専用キッチンで調理された料理を提供しています。
また、同年7月には礼拝室が設置され、ムスリムの利用客の生活様式にあわせたサービスが可能になりました。
成田国際空港にあるガイドブック「MUSLIM VISITORS」ではこうしたハラルに対応しているレストランや、ケータリングサービス、礼拝室の場所などがまとめられています。
また、お土産店でもハラルの対応をすすめる動きがあり、成田国際空港の土産店ではハラル認証取得の米菓子を販売しています。
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2. プレジール:ハラル認証付き化粧品
ハラルは豚肉やアルコールといった飲食関連で注目されることが多いものの、化粧品や医薬品もイスラム教の戒律の対象となっています。
そのため、化粧品会社でもイスラム法に沿った製造方法・材料で商品を開発しようという動きがみられており、静岡県の企業「プレジール」の製品が2020年1月にハラル認証を受けました。
同社が製造するハラル認証つきの製品は、イスラム文化圏への輸出や、訪日観光客が訪れる宿泊施設でのアメニティーなどさまざまな分野で販路を広げていく予定です。
ハラル認証の化粧品を製造している国内メーカーはまだ少ないほか、インバウンド観光客向けホテルや土産店といった観光客向け施設でも消費されやすいため、日本を訪れたムスリム観光客にブランドイメージを与えやすいという特徴があります。
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3. 富山、新潟、長野の連携地域:ムスリム専用の公式サイト
富山県の朝日町、新潟県の糸魚川市と上越市、長野県の小谷村、白馬村、大町市は、2015年に観光庁の「訪日ムスリム外国人旅行者の受入環境整備等促進事業」の実施地域として選定されました。
これらの自治体では、北アルプス日本海広域観光連携協議会が中心とり、ムスリムセミナーや料理教室の開催、礼拝環境整備、ムスリム専用ホームページの作成といった、訪日ムスリム客受入の知識の習得と環境整備を行いました。
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ハラルを理解し、ムスリム観光客に寄り添ったサービスを
ハラルとは、イスラム教の戒律で合法とされている事柄を指します。
イスラム教徒にとって旅行先で口にする食事や購入する製品がハラルであるか否かは重要な要素なだけに、ムスリムをはじめ様々な信仰や文化的背景を持つ人が訪れる場所では、こうした需要を汲み取ったサービスを提供する必要があります。
ハラルは日本人にとって身近な概念ではありませんが、世界のムスリム人口は増加しており、さらに日本を訪れるムスリムの観光客も増加しています。
今後も多くの観光客の流入が期待される中、誰にとっても訪れやすい場所を作っていくためには、ハラルに対応したサービス・商品の提供体勢を整えることも重要になりそうです。
<参考>
・Pew Research Center:The countries with the 10 largest Christian populations and the 10 largest Muslim populations
・Pew Research Center:The Changing Global Religious Landscape
・Mastercard-CrescenRating:Global Muslim Travel Index 2019
・MasterCard-CrescentRating:Japan Muslim Travel Index 2017
・観光庁:飲食店、宿泊施設等向けに「ムスリムおもてなしガイドブック」を作成しました!~ムスリム旅行者が安心して快適に滞在できる環境整備の促進を図ります~
・観光庁:訪日ムスリム外国人旅行者受入環境整備等促進事業の実施地域を選定しました!
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