コロナ禍前である2019年ごろまで、多くの訪日外国人観光客で活況を極めていた大阪、黒門市場。
文字通り訪日外国人観光客が消失して久しい昨今、地元の人は異口同音に「黒門市場は"インバウンド前"に戻った」と言います。それは良いことなのでしょうか。
現地へ取材しました。
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黒門市場とは
黒門市場は大阪市の中心部、ミナミに位置する市場です。その歴史は古く江戸時代後期まで遡り、当地域にかつてあった圓明寺(えんみょうじ)の山門、つまり黒門の前で鮮魚商人が市を開いたのがその起源とされています。
商店街としての類型は「超広域商店街」であり、キの字型に伸びる総距離約580mのアーケードに、鮮魚をはじめ、青果、精肉、漬物、乾物、食堂などさまざまな店が軒を連ねています。
黒門市場は長く地元住民や来阪する人々の食を支え、まさに大阪の「天下の台所」を体現したエリアでした。
訪日外国人観光客でにぎわうようになったのは2011年ごろからです。そのころから円安やビザ緩和政策、関西国際空港へのLCC就航などが重なり、多くの訪日外国人観光客が訪れるようになりました。
インバウンド対応の「成功事例」だった
黒門市場はこうした環境の変化に対応し、訪日外国人観光客のニーズを満たす商品展開、看板や案内の多言語対応、Wi-Fiや外貨両替機などを兼ね備えた休憩所「黒門インフォメーションセンター」などの対応を次々と進め、コロナ前まで活況を極めていました。
その取り組みはインバウンド対応の「成功事例」として見聞きした人も少なくないでしょう。
しかし2020年以降、新型コロナウイルスの流行によって状況は一変します。訪日外国人観光客は文字通り市場から「消失」しました。
それで日本人観光客がすぐに戻ったかというと、そうではありませんでした。押し寄せる訪日外国人観光客によって元々根付いていた地元住民の客足は離れ、「観光地価格」はそれに拍車をかけました。
コロナ前に書かれた「まるで日本ではないようだ」という日本人観光客の口コミは、外国語で書かれた看板が乱立し、お店の人の案内も外国語、道ゆく人も外国人ばかりの光景に圧倒された当時の様子が窺えます。
時代の激流に合わせその姿を変えてきた黒門市場。現在はどのような状況なのでしょうか。
地域住民の生活に密着した今の市場の様子
現地へ実際に足を運びました。やはりインバウンド需要消失の爪痕でしょうか、シャッターが下りた店舗が散見されました。
しかし人通りは決して少なくありませんでした。取材した日が平日ということもありますが観光客らしき人通りは少なく、夕食の食材を買いに来ているような方や、仕事帰りのサラリーマンらしき人が多く、生活に密着した市場の雰囲気がうかがえます。
元々は「生活商店街」だった
現在も営業しているお店の方々に話を聞くと、今は「インバウンド前の光景」に戻っていると口々に言います。
話を聞くと心斎橋や千日前通りのようなエリアと違って、黒門市場は観光地というよりも、本来は地域の住民や事業者の需要にこたえる「生活商店街」だったということです。
それがインバウンド需要が急速に拡大する熱狂の中で、黒門市場も観光客向けの商店街としての転換を目指した。しかし今振り返れば、そこには無理をしていた部分もあったと、地元で惣菜やおでんを販売しているお店の方は振り返ります。
専ら訪日外国人観光客向けに商売をしていたお店は姿を消し、古くから業態を変えていない店舗が今残っているといいます。
そう話を聞いている間にも、次々とお客さんが現れ、お惣菜を買っていく光景がありました。
持続可能な発展目指して
ここまで黒門市場の変貌を書いてきましたが、決してインバウンド対応が失敗だったと伝えたいわけではありません。もし新型コロナウイルスの世界的な流行がなければ今でも黒門市場は活況を呈していたでしょう。
外部環境の変化を機敏に察知し、商店街が団結して観光客のニーズを満たすコンテンツづくりや受け入れ環境整備を進めていき、実際に飛躍的に客足が増えていったことは特筆すべきことであり、学ぶべき成功事例です。
一方でコロナ後の観光を見据えたとき、渡航再開後再び訪日外国人観光客でごった返し、地元民が離れてしまう光景を再び繰り返したい人は少ないでしょう。
この地域に限らず日本各地の有名観光地では、観光客が押し寄せたことによってオーバーツーリズムを引き起こし、ゴミや騒音問題など様々な弊害が発生し、事業者の頭を悩ませてきました。
長い歴史と伝統をもつ黒門市場にはそこで築かれていった空気があります。そうした地域が持つ本来の魅力や、日本人の生活に触れたいと求める訪日外国人観光客も多くいます。
こうした魅力をうまく残し、外国人にも伝えていくことが、持続可能な発展につながり、「三方よし」の観光地域づくりにつながるのではないでしょうか。
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