コロナ禍で消費者のデジタル利用は加速し、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みが、観光地にも求められるようになりました。少しずつデジタル化が進み始めている一方で、
- データを集めるにとどまってしまい「利活用」する取り組みが進まないこと
- 地域全体 / 現場まで巻き込み、その後の取り組みを「自走」する仕組み化ができないこと
などが課題となっています。
そんな中、観光庁では観光DXを実現するための課題、解決策、ビジョンなどを検討しており、以下の4つの柱に沿った取り組みを進めています。
- 旅行者の利便性向上、周遊促進 …ウェブサイトやOTAによる情報発信
- 観光地経営の高度化 …マーケティング(CRM)による再来訪促進、消費拡大
- 観光産業の生産性向上 …顧客予約管理システム(PMS)の導入徹底
- 観光デジタル人材の育成・活用
そこで今回は、3月8日に開催された観光庁 観光DXプロジェクト主催「観光DX成果報告会 ”Next Tourism Summit 2023”」のイベント内で紹介された、3つの事例をご紹介します。
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事例1. まち全体が「一つの温泉旅館」としてDXを推進:兵庫県豊岡市
まず1事例目として、兵庫県豊岡市の豊岡観光DX推進協議会 一幡氏による成果報告がありました。
豊岡市の観光の目玉は、城崎温泉エリア。「まち全体が一つの温泉旅館」をコンセプトに、駅や商店街、旅館、土産物店、外湯などが連携して事業を進めています。
地域全体を巻き込んで取り組む難しさが課題となる中で、まずは地域の観光事業者と意見交換。
地域・行政・DMOが目線を合わせ、それぞれが抱えている課題は何で、どういう方向性を目指すのか、しっかりと共有したといいます。
その中で明らかになった課題の一つが「エリア全体のデータが蓄積しない」こと。
これを解決するツールとして、地域のデータを蓄積できるシステムを独自に構築。各事業者にも共通のPMS(顧客予約管理システム)を導入するよう促しました。
数値的成果では、おおむね達成を見込んでいます。エリア全体でのPMS導入も進み、データも集められました。
一方で、フロントスタッフなどの現場まで取り組みが浸透しなかった、データ収集に穴があった(生年月日・年齢等)といった反省点があったそうです。今後は現場に向けた勉強会の開催を進めるとともに、データ収集の項目を改善していくとしています。
さらに次年度以降の自走に向けて、より細かいデータを集めてマーケティングに活かし、目標消費額を達成したいと考えているということです。
一幡氏は最後に、「観光客の満足度を上げ、『観光客目線でのDX』を達成したい」と述べていました。
確かに、デジタルを導入するだけで目的が達成されるわけではありません。観光客から見て良い変化ができているのか、という視点で考える「観光客目線でのDX」は、良いキーワードだと感じました。
事例2. 思い切ったオープンデータ化で観光事業者の収益向上へ:福井県
次に2事例目として、福井県観光連盟 佐竹氏による成果報告がありました。
地域の大きな民間企業を巻き込んだ一大プロジェクト。来年3月に控えている北陸新幹線延伸に向け、「稼ぐ観光」を目指すことを目的に据えています。
まず特徴的だったのが、県の公式サイトのアクセスデータ(Googleアナリティクス)や、アンケートデータ(県内70か所にQRコードを設置して取得、個人情報は秘匿化)をインターネット上で公開していること。
「観光データがない」という課題を解決し、民間プレイヤーが稼ぐためのデータ活用を後押しします。
実際に公式サイトにアクセスしてみたところ、自由にデータを見ることができました。
https://www.fuku-e.com/feature/detail_266.html
※主要観光地人流データの閲覧は、福井県観光連盟会員のみ。
ただし、オープンデータにしたはいいものの、何もせず事業者に活用してもらうのは難しいことがわかってきたといいます。
そこで勉強会の開催や、コンサルティング事業者との連携を進めています。
さらに、Googleの口コミやInstagram投稿などのUGC(ユーザー生成コンテンツ)の分析も行い、現状のユーザーニーズの分析・理解、新しい集客ポイントの開発にも取り組んでいます。
データをオープン化しているというのはすでにご紹介したところですが、Github(プログラムコードなどを共有できる開発プラットフォーム)上に観光スポット情報のデータを公開しており、すでにアプリを「誰でも」しかも「多言語で」作れる状態になっているというのには驚きました。
さらに、集めたデータは行政活動にも活用し、来年度の予算を作成する際にも活かされているということです。
佐竹氏は今後について、「より精緻なデータを集め、解析し、皆さんに提供していく。主にデータベースの領域に注力し、作り込んでいきたい」と意気込みました。
事例3. スポーツツーリズムで経済活性化:ぴあ株式会社
最後に3事例目として、ぴあ株式会社 大下本氏による成果報告がありました。
スポーツスタジアムがある札幌、福岡、鹿嶋、清水、京都の5地域と連携した事業です。
大きなスタジアムを有し、スポーツツーリズムで栄えてきた地域の課題として、やはりコロナ禍の影響から回復できていないことが挙げられました。スタジアムの動員数減は周辺地域の飲食店や観光施設、商業施設などにも影響しており、地域経済の活性化、再生が急務となっています。
そこでチケット販売・イベント運営事業を展開するぴあは、5つのスタジアム周辺地域と連携し、Jリーグ試合日をターゲットとした戦略的な情報発信を開始しました。
情報発信は、「サッカー観戦をする日の体験を促進する」目的で、独自のアプリを使って実施しました。
例えば出場選手にゆかりのあるお店など、おすすめの店舗紹介や観光ガイド、経路検索を提供。ファンが欲しい情報をそろえ、周遊観光を促しました。
成果としては目標未達の部分もあったものの、アプリDL数は4,300以上を集めるとともに、消費額のアンケートデータも集めることができています。
一方、消費額は変わらず、今後のマネタイズが課題として残りました。
無料で用意したスポットなども多かったため、有料のスポットを増やしたり、パッケージツアーなどを開発したりといった工夫に取り組むとしています。
大下本氏は最後に、「今後は利用者を増やし、意見をいただきながら改善していきたい」と述べました。
確かに、利用者が増えるごとにマーケティングとして活用できるデータも増えていくはずなので、今後の改善にも期待です。
観光DXによる「稼ぐ観光」の実現に向けて
自治体・DMO主導のデジタルデータ活用が進まない地域も多い中、企画・施策の実行・検証どれもが戦略的に進められ、さらにその後の自走まで考えられているという意味で、どの事例も非常に先進的だと感じました。
消費額などの面でも数値的成果が表れており、アフターコロナの観光回復におけるキーワードである「高付加価値化」の観点から見ても、好事例だと言っていいでしょう。
もし自治体・DMOの方がこの記事を読まれていたら、かなりヒントになる部分も多かったのではないかと思います。
ただし、「同じようなことをうちの地域でもやろう」と考え、そのまま実行してしまうのは危険かもしれません。
デジタルを導入しても何も良い変化がないのであれば、ただコストをかけただけで、利益はマイナスになってしまいます。かえって手続きが面倒になるといった弊害が生まれる可能性もあるでしょう。
旅行者が情報を得られて満足できる、あるいは観光地の現場が楽になる、といった成果が実際に表れるよう、その地域に合わせて目的・施策・検証方法まで設計することが重要です。
単にデジタル化するだけにとどまらず、長い目で見た観光DXを推進していけるかが、「稼ぐ観光」を実現する鍵となるでしょう。
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