日本政府観光局(JNTO)は9月6日・7日、「第26回 JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」をセルリアンタワー東急ホテル(東京都渋谷区)で開催しました。
今回は2023年度の内容として、「本格回復する訪日インバウンド市場向け最新情報や課題解決の場を提供」することをテーマに、日本政府観光局(JNTO)が進める施策の方向性や具体的な取り組み、さらに市場別の最新動向などを紹介。最後にはパネルディスカッションも行われました。
訪日ラボでは、初日(6日)のフォーラムの様子を取材。充実した講演内容の中から、特にインバウンド対策に役立つ情報をピックアップしてお届けします。
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「地域との連携が何より重要」主催者 JNTO理事長挨拶
まずは日本政府観光局(JNTO)理事長 蒲生 篤実氏より、主催者挨拶がありました。
水際対策緩和以降、堅実な回復を示してきた日本のインバウンド。 地方自治体・DMO・観光関連事業者と連携し、継続的に情報発信を続けることで、日本は旅行先として世界から高い評価を維持してきたと述べました。
また、インバウンド市場全体としては消費額拡大(高付加価値化)、持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)、地方誘客を大きな軸としています。その中で何よりも重要なのが、「日本の観光の魅力を作り上げる地域の事業者との連携」であると強調しました。
「付加価値を高めて消費額を上げる」インバウンドに関する政府方針
次に、観光庁の国際観光戦略について、観光庁 国際観光部 国際観光課長 齋藤 敬一郎氏より解説がありました。
コロナ前の2019年と比較すると中国の戻りが遅れている一方で、中国以外はコロナ前の水準まで回復してきています。特に消費額は2023年1〜3月期が2019年同期比の1.4倍となっており、円安の影響も指摘しつつ「目標であった1人当たり20万円は、意外に早く達成」する可能性を示唆しました。
また、インバウンド促進の目標については「人数をそれほど追わなくなっている」と説明。人数だけが集まる状況ではオーバーツーリズム問題の発生や「地元に恩恵がない」状況になってしまうことを危惧し、しっかりと付加価値を高めて消費額を上げることが重要だと強調しました。
その事例として、観光再始動事業の一環で実施された「新宿御苑の夜桜花見」の取り組みを紹介。普段は6時までのところ、桜の時期に夜11時までオープンしたといいます。特別感を演出し、入園料を大幅にアップしても入場者を確保できたということで、高付加価値戦略の好事例として大いに参考になりそうです。
JNTOの今後の主な取り組み
続いて、日本政府観光局(JNTO)企画総室長 平野 達也氏よりJNTOの今後の主な取り組みについて解説がありました。
JNTO 訪日マーケティング戦略についての説明があった他、プロモーションとしてはウェブサイトやSNS、メディア向けニュースレター等で情報発信を強化しているとしています。また、島国・日本ではやはり航空便の回復がインバウンド市場を大きく左右する要素です。複便・新規就航にあたっては「路線認知度を高める」ことが重要だということで、航空会社との共同広告を進め、路線回復・予約率向上を同時に目指します。
サスティナブルツーリズムの推進では、コンテンツの売り込みの前に地域そのものがサスティナブルツーリズムに対する認識を深め、「観光地づくり」から進める必要があるとして、国際認証・アワードの取得などを目指しています。
また、9月11日より北海道で開かれる「アドベンチャートラベル・ワールドサミット」にも言及。さらに2025年には大阪・関西万博もあり、東アジアの他、直近で万博を開催した地域からの注目度が高まっているとしています。今後はサミットで得た知見を共有するとともに、コンテンツ醸成や販路拡大を進めるということです。
市場別のインバウンド最新動向
ここからは、市場別のインバウンド最新動向・取り組み状況に関する講演内容をそれぞれお届けします。
※本記事で取り上げる6日の講演は、欧米豪市場(欧州、米州、豪州)に特化した内容となっています。
北欧市場
北欧市場は、新たに重点市場として追加された地域です。講演に登壇した若林 香名氏は、まさに今スウェーデン・ストックホルムに事務所開設を進めている状況だといいます。
若林氏は、そんな北欧市場を概観した感想として「開拓のしがいがある市場」と述べました。現地で日本に関する報道を目にすることは限られており、訪日客数も非常に少ない現状ですが、1人当たりの「海外旅行消費額」はフランス・ドイツ・イギリスと同程度で経済力があり、ポテンシャルは十分。その中でも数はスウェーデン、消費額はノルウェーが有望である他、日本への直行便はデンマーク・コペンハーゲン、フィンランド・ヘルシンキから飛んでいるとのことで、4地域すべてがそれぞれ伸びしろを持っているとしています。
やはり距離が近い欧州域内の旅行が多くなる傾向にあり、直接の競合としては米国などを焦点にしているとのことです。
訴求の際のポイントとしては、以下の4点を挙げています。
- 健康志向でヘルシーな日本の食文化に関心が高い
- エコ意識が高い。日本の自然を生かしたトレッキングやサイクリングが有効
- サウナ文化があるため、温泉や大浴場への抵抗がない。ただしタトゥー対応は必要
- 英語話者が多く、円滑にプロモーションが実施できる
現地ではアジアンレストラン、マンガ、ラーメンなどがブームとなっており、日本に関心を持っている方は多いのではないかと若林氏。旅行者の経済力もあることから、今後が楽しみな市場です。
豪州市場
次に豪州市場の動向について、シドニー事務所長 北澤 直樹氏より解説がありました。
渡航先ランキングにおいて、日本は2019年に5位だったのが、現在は3位に上昇。日本への高い関心がデータにも表れています。旅行消費額が高く、平均給与も高いことから、消費額向上を目指す日本にとって注目の市場の一つです。口コミが見られるGoogleトラベルやGoogleマップ、知人の情報が見られるFacebookなど、実際に訪日した人の情報を重視しており、プロモーションの際には留意すべきでしょう。
自ら体験することを好む傾向にある豪州の旅行者は、今話題の「アドベンチャートラベル」にも関心を持っています。これに関して、アドベンチャートラベルを扱う旅行会社・メディアの招請を実施。10〜12月に静岡、群馬、山梨、屋久島、鹿児島へ招く予定だということで、北海道以外の地域でもアドベンチャートラベルの推進が加速することが期待されます。
英国市場
次に英国市場の動向について、ロンドン事務所長 地主 純氏より解説がありました。
旅行会社によると、2024年春のツアーはほぼ完売状態とのこと。旅行関係者側の対応が追いつかないほど需要が多いといいます。
プロモーションについては海外メディアとの関係を大切にしており、情報提供や取材先を繋ぐなどの取り組みを進めています。その一つの成果として、ナショナルジオグラフィックトラベラー10月号(9月7日発売)に日本の特集が100ページ組まれたとのことです。
訪日マーケティング戦略に沿って、なるべく地方にも来てもらうべくプロモーションを進めていると地主氏。英国の訪日客のうち特に20〜30代は地方が好きで、「東北へ行きたい」といったニーズも持っているそうで、地方誘客にも期待を持てる市場となっています。
米州市場(米国、カナダ、メキシコ)
次に米州市場の動向について、ニューヨーク事務所長 山田 道昭氏、ロサンゼルス事務所長 田中 陽子氏、トロント事務所長 豊田 健氏、メキシコ事務所長 山田 麻須美氏の4名より解説がありました。
米州市場の旅行者は経済力があり、消費マインドが高いのが特徴。米国では2023年のクルーズがすでに完売。需要があるにもかかわらずガイド、ドライバー不足などで成約しないケースもあり、課題視しているとのことです。歴史文化やアドベンチャートラベルなどが有効な他、地方観光にも関心を持っています。
カナダでは訪日未経験者が最大ボリュームを占めています。若い世代にはポップカルチャーナイトライフなどの個性的コンテンツが人気で、アニメイベントが大盛況を博したということです。
メキシコも比較的高付加価値な旅行を求める傾向にあります。旅行会社向けに開催したセミナーでは、通常数十名程度のところ150名を集めたとのことで、情報がまだ少ない領域のため各社が情報を求めている様子がうかがえるとしています。
また、米州市場はラグジュアリー層の誘客にも期待が持てる市場です。
ラグジュアリー層が求めるコンテンツとしては以下の3点、
- Limited Access:一般旅行者が体験できない、限定的な体験
- Expertise:専門家が特別に案内するパーソナルなツアー
- Educational:学びがある体験
そしてアプローチのポイントとしては以下の4点を挙げています。
- 具体的にどのような体験ができるのかを訴求
- 「人」との対話、交流などができるのかを具体的に
- 具体的な行程案の提示
- プロモーションツールも「人」との関わりがわかる、体験などがわかる素材を準備すること
イタリア市場
次にイタリア市場の動向について、ローマ事務所長 水内 賀之氏より解説がありました。
イタリア国民は日本の半分であるにもかかわらず、国内含めた旅行者数は日本より多く、大きなポテンシャルを持つ市場です。ただし欧州以外への旅行者数は10%未満で、まだ浸透していないことがわかります。訪日初心者層が多く、ゴールデンルートが主流となっています。
コンテンツとしては伝統・歴史文化、飲食などを好み、なかでも「本物の日本食」を求めているといいます。旅マエはインターネットやガイドブックを活用して情報収集を行います。
訪日中は長時間ホテルで過ごしたり、急に旅程を変えることもあったりと自由気ままに過ごすのが特徴で、時間に余裕をもった行程が理想的だということです。
スペイン市場
次にスペイン市場の動向について、マドリード事務所長 シェスタク ワレンティン氏より解説がありました。
スペイン市場では訪日需要はあるものの、マドリード-成田線が運休している状況。フランクフルトやUAE経由で訪日しているそうです。ゴールデンルートの他、熊野古道、高山、松本、白川郷といった地方にも関心を持っています。
一方で、スペイン語ガイドの不足、ホテルの人手不足、さらにラグジュアリーホテルの不足などを指摘。他の市場とも共通する事項として、富裕層への対応が遅れがちであることを課題として挙げました。
フランス市場・ドイツ市場 サスティナブルツーリズムについて
次にパリ事務所長 高野 陽子氏、フランクフルト事務所長 臼井 さやか氏より、フランス市場・ドイツ市場の解説、ならびに欧州におけるサステナブルツーリズムの現状・取り組みの紹介がありました。
サスティナブルツーリズムの先進国として挙げられることも多い欧州。アンケートの結果を見ると、「環境保護」をイメージする人が多いことや、実はサスティナブルツーリズムが旅先を決めるときの決定打になるわけではなく、観光コンテンツとして魅力があることが大前提であることがわかっています。
ドイツで「サスティナブルツーリズム」という言葉を使って実験的に発信した際には、好意的な反応に混じって「日本はプラスチックは多いし、ゴミになりそうなものが多いよ」といったコメントも寄せられたということで、良くも悪くも関心度が高い言葉であるため、安易な使い方をしないよう注意が必要となりそうです。
そうした留意もしつつ、フランス市場に向けて旅行会社招請を実施したそうです。魚を提供したところ乱獲を心配されるなど思わぬ質問もあったものの、なんと満足度100%を達成。参加者の好評を得られ、ツアー造成の意向もポジティブだったということです。
以上の取り組みにより、今後サスティナブルツーリズムに取り組む自治体や事業者に向けては、用語を使用する際の期待値の調整や、環境保護の取り組みの前にまずは「観光魅力の磨き上げ」に力を入れるよう助言しました。
市場横断プロモーションについて
続いて、市場横断プロモーション部の取り組みについて、市場横断プロモーション部部長 藤内 大輔氏より説明がありました。
万博を契機とした観光交流人口の拡大を目指しており、万博のテーマと連動した日本各地のサスティナブルツーリズムを発信し、地方誘客を促進。「万博との相乗効果」を狙いたいとしています。
さらにサミットが翌週11日に迫るアドベンチャートラベルについても言及。ATTA(Adventure Travel Trade Association:アドベンチャートラベルの国際団体)によれば、アクティビティ、自然、異文化体験のうち2つ以上で構成されるものと定義されています。誤解されがちですが、「アドベンチャー=ハードな冒険」ではありません。例えば、以下のような一見単なるアクティビティや食事に見えるものも、アドベンチャートラベルの定義に沿った付加価値があれば該当するそうです。
ストーリーに沿ってツアーを展開し、地域とお客様をつなぐガイドがいて、内面の変化を促すチャレンジができる、それがアドベンチャートラベルだと藤内氏。1人あたりの消費額が高く地域への還元・雇用効果も高いのが特徴で、地方誘客・消費額拡大の双方の観点から注目され、市場横断戦略の軸の一つを担っています。
パネルディスカッション:高付加価値なコンテンツ作り・誘客における最先端の取り組み事例
最後に、金沢市観光協会 CMO 遠藤氏、Eighty Days株式会社 代表取締役 グランジェ氏、バリューマネジメント株式会社 松尾氏、ファシリテーターとしてJNTO 市場横断プロモーション部長 藤内氏の4名によるパネルディスカッションが行われました。
1つ目の事例として金沢市では、マスマーケットを対象にしたものが多く、富裕層向けコンテンツが不足していたと遠藤氏。富裕層についての情報が不足しており、わかりやすく「安い」コンテンツを提供してしまっていた背景もあったそうで、専門家を招いてセミナー、ワークショップを行いました。その成果として「金沢一期一会」と題し、伝統工芸の名匠に焦点をあてたプレミアム企画を実施。「ホンモノを見て体感してもらう」機会をつくり、欧米豪の富裕層が満足するコンテンツを提供しました。この経験から、高付加価値なコンテンツ作りに取り組む上では「地域のコアバリューを知ることが重要」と指摘しています。
松尾氏は、例えば「城泊」などのローカルコンテンツを推進した立役者の一人。こうしたコンテンツ醸成で地域資源の価値を引き出すことで、城や神社仏閣などでは入場料数百円だったものが、何百倍もの価値になる可能性を秘めているといいます。ファシリテーター 藤内氏からの「歴史的建造物を改修し、外国人向けに売るというのは、場合によっては嫌な目で見られるなどの苦労もあったのでは。合意形成の苦労や、工夫があれば」との質問に対し、「地域の方々の中でも危機感を持つ方から相談を受けて入るが、いろんな意見の方もいるので一足飛びにはいかない」「3年くらいかけて市と提携して、市民向けの説明会なども実施して合意形成をはかった」と語りました。
グランジェ氏は富裕層向けに体験コンテンツ・ツアー造成を行っており、例えば1人100万円で「久しぶりの家族旅行、本物の伝統文化とハイテクに興味がある」といったような細かなニーズに応えているといいます。使い方は多様であり、旅行商品にも「松竹梅」の3種類のコースを用意するのだそうです。 藤内氏からの「ガイドが重要になるかと思うが、どんな能力が求められるか」との質問には「英語力も重要だが、それ以上に相手を楽しませる能力」「訪日客側は意外と織田信長とかも知らなかったりする。相手の表情を見ながら、興味に合わせて話す能力」が必要だと語りました。
さらに、遠藤氏は「金沢・富山ガストロノミールート」や「北陸・飛騨・信州 3つ星街道の旅」など、周遊観光のモデルルートを開拓しています。その中で、地元のクリエイター、アーティスト、シェフの方々はその道のプロではあるものの、旅行素材を創ることには慣れておらず、どのように巻き込んでいくかが課題だと語りました。これについて問われたグランジェ氏は、本格的にコンテンツ化する前から試しに旅行者を送ってみるのも手だといい、「だんだん職人の方々の意識が変わっていく」「2回目に行ってみたら無造作に置かれていた作品がきれいになっていたり、3回目には商品になっていたりする」と、地域事業者のリアルな意識変化について語りました。
最後にファシリテーター 藤内氏は、「高付加価値旅行を推進するにあたり、プレイヤーの方々との連携強化を進める」「今年度中にネットワーク強化の事業も開発中」だとした上で、これから取り組む方も増えてほしいとして、「何かご相談があればお気軽に高付加価値相談室へ」と呼びかけました。
最後に:JNTO、インバウンド向けデジタルマーケティング支援メニューも展開中
以上、「第26回 JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」初日の様子をお届けしました。
情報の少ない北欧市場や市場横断戦略も含めて、各市場の詳細な動向・戦略、成功事例までを知ることができ、自治体やインバウンド事業者にとっては学びの多い講演だったのではないでしょうか。
なお、JNTOでは、インバウンド向け情報発信に取り組む自治体・観光地域づくり法人(DMO)・民間企業等に向けて、記事広告、デジタル広告商品等のデジタルマーケティング支援メニューを展開しています。ターゲットとする市場を選定した上で、JNTOの保有するデジタルメディアやデータ、ノウハウを活用し、日本各地の観光情報発信をサポートしています。今回の記事で紹介したような市場の特性も踏まえ、効率的に情報配信ができるとよいのではないでしょうか。
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