7月19日、観光庁で「地方部における観光コンテンツの充実のためのローカルガイド人材の持続的な確保・育成に向けた有識者会議」が開催され、中間とりまとめが行われました。
ローカルガイドは地域の魅力を紹介するという点で、観光コンテンツの高付加価値化を図れる人材といえます。しかし地方部においては、報酬の低さや繁閑差により就労が困難という課題から人材確保に苦慮している状況にあります。
その中で、本会議は地方部でガイド人材を持続的に確保・育成するために必要となる取り組みやビジネスモデルを検討することを目的としています。
今後さらに拡大が見込まれるインバウンド市場においても、ローカルガイドの持続的な確保は必要不可欠です。そこでこの記事では、5回目の開催となる有識者会議の内容を取りまとめます。
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有識者会議における「ローカルガイド」の定義
本会議では、ローカルガイドを「特定の地域における訪問者の体験価値向上のため、当該地域について精通してガイドを行う者」と定義し、その中でもインバウンドに有償でガイド行為を行うローカルガイドについて検討されました。
現状と課題
DMOや観光関係事業者からの指摘として、ローカルガイドの不足の声が多数寄せられています。2024年3月に実施されたアンケートでは、DMOの約8割がローカルガイド不足を「感じる」「やや感じる」と回答しました。議論の中でも、「優秀なガイドは取り合いの状態で、2年先まで予約が埋まっている場合もある」との指摘がありました。ローカルガイド不足の要因は、育成環境が不十分であることやガイドが職業としての選択肢となっていないことにあるとされています。また、地域ごとにガイドが偏在している状況も指摘されました。
このようにローカルガイドが不足している中でも、実態調査は進んでいない状況です。その要因は、ローカルガイドの目指すべき姿が把握されていないことにあります。
そのため、本会議では「少なくとも今後目指すべき需要の増加に応えるだけのローカルガイドが供給できていない」と仮説立てた上で議論が行われました。
ローカルガイドが目指すべき役割と方向性
本会議では、ローカルガイドが目指すべき役割と方向性について議論され、現状における課題と指摘がまとめられました。ローカルガイドが目指す役割
ローカルガイドが目指す役割として、以下の4つが挙げられました。
1.観光客の満足度向上
地域の案内人として地域の魅力を深掘りしてツアー・コンテンツの付加価値を高め、観光客の来訪の満足度を高めることや、来訪者と近い距離で地域や地域産品の魅力を伝えることで、地域消費を促していくことも期待されます。
また、ツアー中の観光客の安全確保の観点でも、ガイドの役割は極めて重要だとされています。
2.来訪者の地域に対する愛着構築
ローカルガイドは来訪者との接点を担う「地域の顔」であるとともに、来訪者を地域へと結びつけていく案内人であり、来訪者と地域の間に属地的な関係を生み出す役割を担っています。
また、来訪者を地域の愛着につなげる役割をガイドが認識することで、ガイド自身や観光事業者の地域への愛着やプライドが醸成されることも期待されます。
3.インバウンドと地域住民との衝突回避
ローカルガイド自身が地域の環境・文化・経済等のサステナビリティに貢献する自覚を持つとともに、来訪者に地域のマナーや住民との関わり方をレクチャーすることで、インバウンドが意図せず住民を傷つけることを防止する役割があります。
インバウンドが文化や習慣を尊重することで、インバウンドと地域が双方向にリスペクトし合う関係性を構築することが期待されます。
4.インバウンドとの長期的な関係性構築
ここまでの役割を備えたローカルガイドを持続的に確保することで、高付加価値なコンテンツの持続的な供給、来訪者・地域側双方のロイヤリティー(愛着)向上、地域の持続可能性向上につながり、稼ぎ続けられる観光地が実現すると期待されています。
ローカルガイドが目指すべき方向性
有識者会議におけるヒアリングでは、ガイド不足とともに、現在の環境ではプロフェッショナルガイドでも専業で就業を続けることは難しいとの指摘もありました。その背景には、時期による需要の波や能力の高さに見合わない報酬の低さ、個人事業主中心の業界構造などがあるとされています。
質の高いローカルガイドを育成するためには、ローカルガイドを巡るビジネス構造を課題として捉え、変革を促す必要性があると議論されました。ローカルガイドの担い手の視野を広げ、インバウンド向けにも対応できるガイドの育成に取り組み、安定的な需要を作る好循環が必要としています。
さらに取り組みを通じて、ローカルガイドが憧れの職業と認知され、積極的に職業選択できる社会を実現することが求められています。
今後進めるべき取り組み
会議では現状の課題を踏まえて、ローカルガイドに関して今後進めるべき取り組みとして、5つの内容が取りまとめられました。1.ローカルガイドの担い手の視野の拡大
現在のガイド不足の状況を鑑みて、ローカルガイドの担い手の視野を広げることが重要だとされています。そこで観光業従事者だけでなく、他業種からのポテンシャル人材の活用がカギとなります。
そのためにも、初心者でもローカルガイドとして働くことができる環境の整備が必要です。具体的には、初心者でも実践経験を積むことができるガイドツアーのエントリーモデルの創出や、地域の就労環境や専門分野に応じたローカルガイドのロールモデルの創出が有効であるとされています。
2.ガイドの育成・質の向上
会議において、地域への理解と国際感覚を持つプロフェッショナルなガイド人材が不足していると指摘されました。プロフェッショナルなガイドは、満足度を地域消費額を高める上で重要な存在です。
この課題に対して、地域の専門ガイドとして質の高いガイドスキルを有した人材の育成を行っていく必要があります。具体的には、ローカルガイドのキャリア形成に関する検討やガイドの質に応じた報酬体制の導入が有効であるとしています。
3.安定的な需要づくり
地方部は季節によって需要が変動することから、ガイドビジネスを事業として成立させる難易度が高いという指摘がありました。
現在の需要に対して供給が整っていない状況は機会損失につながるため、変動する需要に柔軟に対応できる流動性を持った供給を創出する必要があります。具体的には、ガイド人材の供給量を可視化するシステムの構築や、繁忙期には学生ガイドや副業ガイドなど供給量を増やすことが有効としています。
4.就労環境の改善
地方部のガイド業は金銭的な待遇だけでなく、拘束時間の長さやライフイベントが発生した場合の保障がないことから、ガイド業に専念することが難しいという指摘もされています。
専業・副業など多様な就労形態に応じ、ローカルガイドが安心して働ける柔軟な就労環境の整備を地域一体となって進めることが必要とされています。具体的には、フルタイム出勤が困難な副業ガイドにも実践の場を与える機会創出の仕組みを構築することや、地域全体でのガイド価格設定の見直し・価格に見合った付加価値の向上が有効であるとしています。
5.観光コンテンツの商品としての磨き上げ
会議では、ローカルガイドを増やすだけでなく、商品(サービスプロダクト)も増やしていく必要があると指摘されました。
現状においては、ガイド確保の前に観光コンテンツとしての魅力が担保されていない場合も少なくないという声があがっています。そのため行政区間や既存の観光資源にとらわれることなく、観光客目線による商品造成・磨き上げが引き続き重要です。
またローカルガイドの品質向上と観光コンテンツの磨き上げを別次元の問題とするのではなく、地域の観光戦略に照らして一体的に磨き上げていくことが望ましいとしています。
今後の有識者会議の方針
今後の会議の方針として、地域の特性やターゲットなどのセグメントに分けて、さらに詳細な議論を続けていくことが肝要としています。加えて、ローカルガイド・ガイド事業が目指すべき全体像というマクロな視点での議論も引き続き必要だといいます。
今夏以降も引き続き有識者会議における議論が実施されるため、今後の動向に注視が必要です。
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<参照>
観光庁:地方部における観光コンテンツの充実のためのローカルガイド人材の持続的な確保・育成
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