近年、世界中で関心が高まる「巡礼ツーリズム」。巡礼路や宗教的な史跡を巡る旅行のことで、信仰の有無を問わず、ひとつの旅行形態として確立しつつあります。日本では四国八十八ヶ所巡り、熊野古道など、海外ではスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路などがその代表例です。
巡礼ツーリズムは、各地の自然や文化、歴史を体験する旅として、特に欧米を中心に人気が拡大しています。近年はアウトドアツーリズムの需要拡大に伴い、日本の巡礼路への注目も高まっている様子です。
そこで訪日ラボでは、巡礼ツーリズムについて各地の事例や誘客の取り組みを不定期の連載形式でお送りいたします。第二弾となる今回は、外国人観光客にとっての四国遍路の魅力、そしてインバウンド誘致に向けた各県の取り組みを解説します。
関連記事:連載vol.1 世界で注目高まる「巡礼ツーリズム」とは?その特徴とインバウンドへの影響を解説
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そもそも遍路ツーリズムとは?
四国遍路のような巡礼路を歩いたり、宗教的な史跡や遺跡を訪れたりする旅行のことを「巡礼ツーリズム」と呼びます。
古くから巡礼を目的とした旅は世界各地で行われており、当初は信仰心から旅に出る人がほとんどでした。しかし、現代は観光目的で気軽に参加する旅行者も増加。現代の巡礼ツーリズムにおいては宗教的な制限や参加目的を問われることはほとんどないため、トレッキングや文化体験のひとつとして参加する人もいます。
徒歩で巡礼路を巡る旅行者が多く、地域の風習をじっくり体感できる点も支持される理由で、巡礼は良質な旅行コンテンツとしても注目されはじめています。
巡礼ツーリズムの詳細は、「世界で注目高まる『巡礼ツーリズム』とは?その特徴とインバウンドへの影響を解説【「巡礼ツーリズム」連載 vol.1】」もご確認ください。
外国人お遍路が増加。注目高まる四国遍路
四国遍路は「お遍路さん」の愛称でも知られる日本を代表する巡礼路です。弘法大師(空海)に縁のある88の霊場(寺)を辿るもので、徳島県の一番札所から始まり、高知県、愛媛県、香川県を経て、四国をぐるっと一周するルートが整備されています。
総距離は1,200kmを超え、歩き遍路の場合は40日〜60日程度かかるのが一般的です。最近ではバイクや自転車を使った巡礼や、貸し切りバスで「お遍路ツアー」を実施する会社もあり、巡礼方法は多様化しています。
世界遺産に登録された熊野古道と比べると、四国遍路の巡礼者の数は少なく世界的な知名度もまだ低いのが現状です。しかし四国遍路を行う外国人は増加傾向にあり、2017年には全体の16.6%と10年前の10 倍に増えました。
2022年には世界的な旅行ガイドブック「ロンリープラネット」が選ぶ旬な旅行先(Best in Travel2022)の地域部門で「四国」が6位にランクイン。お遍路を代表する独自の文化と自然環境が高い評価を受けました。
また、四国遍路とスペインのサンティアゴ巡礼は2015年に協力協定を締結。PRをはじめさまざまな分野で連携を強化する動きもあり、今後、四国巡礼を目的としたインバウンド観光はさらに増加すると予想されています。
<参照>
新時代における遍路受入態勢のあり方 ~遍路宿泊施設の現状・課題等調査~
四国遍路を基軸とした観光振興の取り組み
四国各県の取り組み
外国人観光客へ四国遍路をPRする動きや、四国遍路を基軸としたインバウンド観光促進の取り組みは四国各地で進んでいます。
徳島県では、2024年版総合戦略の中で、産学民官が一体となり四国遍路の世界遺産登録に向けた資産価値・魅力の発信に取り組むことを明記。多言語観光情報サイト「Discover Tokushima」では、4か国語(英語・繁体字・簡体字・韓国語) による情報発信を行っています。
高知県では、高知県観光コンベンション協会が運営する外国人向け観光情報サイト「VISIT KOCHI」のなかでお遍路情報についても発信。facebookなどのSNSも活用し、高知県在住の外国人ライターが外国人の視点で観光情報を発信しており、2024年7月現在facebookページの“いいね”数は29万件に達しています。
愛媛県は第3期愛媛県観光振興基本計画(2023〜2027年度)の中で、インバウンド観光の振興策として「四国遍路の世界遺産登録推進とブランド化」を明記。ツアーガイドの養成や受入体制の整備、関心が高い層への幅広いプロモーション を展開していく計画です。
香川県では、高知県同様に香川県観光協会が運営する多言語サイト「VISIT KAGAWA」を運営。四国遍路について5か国語(英語・繁体字・簡体字・韓国語・タイ語)で情報発信を行っています。
<参照>
四国4県が連携した取り組み
各県独自の取り組みのほか、四国遍路のプロモーションには四国4県やJRなどの民間企業や大学が連携して行う例が多数あります。
一般社団法人四国ツーリズム創造機構は、四国4県およびJR四国をはじめ170の会員からなる広域連携DMOです。多言語情報サイト「TOURISM SHIKOKU」を運営し、サイト上で四国遍路について詳細な情報を発信。また、近年注目されるアウトドアツーリズムの一環として四国遍路の国内外へのプロモーションを強化しています。
外国での認知拡大のため、四国遍路の世界遺産登録を目指す動きも活発です。
四国4県と市町村、NPO法人や大学などが参加する「四国遍路世界遺産登録推進協議会」が2010年3月に設立。地域で連携をとりながら世界遺産登録に向けたルート整備や魅力の発信に取り組んでいます。
同協議会は受入体制の整備にも力を入れていて、四国遍路及び各札所に関する歴史や魅力等を紹介する多言語専用サイトや英語パンフレットを制作。サイトにアクセスできるQRコードを各札所に設置し、QRコードから旅行者の位置データを収集してマーケティング活動に活用しています。
<参照>
四国遍路世界遺産登録推進協議会:令和4年度活動報告及び令和5年度活動計画
お遍路に参加した訪日外国人の声
外国人の間でも知名度が高まる四国遍路。実際に外国人観光客はどのような理由で参加しているのでしょうか。訪日ラボでは、四国遍路23番札所・薬王寺のある徳島県美波町を取材。四国遍路を歩く外国人に話を聞くことができました。
スペイン人旅行者(29歳・男性)
「四国遍路のことを知ったのは、スペイン人の友人が勧めてくれたことがきっかけです。facebookのグループに参加して遍路に関する情報を集めました。歩こうと思った理由は、日本の仏教文化を学びたいと思ったから。あとは四国の素晴らしい自然を体験したかったからです。実際に歩いてみて、自然は想像通り素晴らしく、お寺はとても美しいです。もっとお遍路文化や宗教的行事に関する深い情報を知りたいと思ったのですが、なかなか見つけられなくて。例えば、各お寺にそういった情報を記載した読み物などを置いてくれるといいなと思います」
フランス人旅行者(27際・男性)
「日本でハイキングのようなアクティビティを探していた時に四国遍路のことを知りました。私はどんなスポーツも好きですが、特にハイキングが大好きなので、四国遍路はぴったりだと思い、歩くことに決めました。1,200kmを歩きながら四国という島全体を知ることができる経験はとても興味深く、ぜひ挑戦したいと思ったんです。四国遍路に関する情報は観光サイトで集めました。夏は本当に暑くて歩くのが大変だけど、道中の素晴らしい風景を楽しんでいます。場所によっては宿や飲食店を見つけるのが大変ですが、テントを持っているのでさほど困ってはいません。こうした不便な点も巡礼のひとつの側面ですからね」
「四国遍路を知ったきっかけ」については、国土交通省四国運輸局もアンケート調査を行なっており、1位が「家族・友人・知人からの紹介」、2位が「ネット検索」という結果が出ています。ネット検索では「巡礼」以外にも、「トレッキング」や「ハイキング」などのキーワード検索から四国遍路を知った人もいるようで、四国遍路が「歩き旅のひとつの形態」として認知が広まっていると言えるでしょう。
<参照>
国土交通省 四国運輸局:令和元年度“歩き遍路”を目的とした 欧米豪からの訪日外国人旅行者の受入環境整備対策事業
地域全体で取り組みを進めることが重要
海外での認知度が高いとは言えない四国地域。アウトドアツーリズムの人気も高まるなか、四国遍路はインバウンド観光の起爆剤となりうる可能性を秘めています。
誘客促進のためには、外国人が快適に旅行できる環境の整備が急務です。しかし、広大な遍路道をカバーするにはそれなりのコストがかかるため、四国4県と市町村、関連団体が足並みを揃えて取り組みむことが必要とされています。
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