デジタルノマドが地方経済や日本企業を変える?:「デジタルノマドシンポジウム」イベントレポート

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10月16日、東京・有楽町にて「デジタルノマドシンポジウム」が開催されました。

デジタルノマドとは、IT技術を活用し、場所に縛られず「ノマド」(遊牧民)のように旅をしながら仕事をするリモートワーカーを指す言葉です。

デジタルノマドの誘致は、地方誘客やイノベーションの促進として大きな注目を集めており、2024年3月31日には日本でも「デジタルノマドビザ」の運用が開始されました。

またこれを契機に、関係省庁や地方自治体、業界関係者などが集まった「デジタルノマド官民推進協議会」も設立。今回のシンポジウムでは協議会の設立を記念し、デジタルノマドビザの概要説明や、「観光」「イノベーション」などをテーマにしたパネルディスカッションが行われました。本記事では、イベントのレポートをお届けします。

「デジタルノマドシンポジウム」イベントレポート
▲写真右より、中野智恵(日本デジタルノマド協会代表理事)、下道英明(洞爺湖町長)、田中敦(山梨大学教授)、片山健也(ニセコ町長)、西村賢(日向市長)、牧野裕貴(RULEMAKERS DAO)、平澤岳(山ノ内 町長)、田鍋敏也(壮瞥町長)、西岡貴史(観光クロスオーバー協会)※敬称略

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デジタルノマドで日本全体の活性化を目指す

イベントは、主催団体である「RULEMAKERS DAO」牧野裕貴氏の挨拶からスタート。

「地域が盛り上がらないと日本は盛り上がらない」という思いから、デジタルノマドビザの運用実現に向けて政策提言を行なってきた同団体。牧野氏は今回のシンポジウムを通じて、デジタルノマドのノウハウを共有し、日本全体の活性化につなげたいと述べました。

続いて、デジタルノマドビザの制度化に尽力した、衆議院議員の武井俊輔氏、今枝宗一郎氏からビデオメッセージが寄せられました。

武井氏は、同ビザの運用によって地域が活性化する実績づくりを推進し、自治体や事業者とともに観光立国を目指すための取り組みを行なっていきたいと述べました。

衆議院議員 武井俊輔氏
▲衆議院議員 武井俊輔氏

今枝氏は、地方創生におけるイノベーションの重要性を強調。特に、教育機関や金融機関と連携した施策の必要性を訴えるとともに、デジタル人材の誘致が地方イノベーションを推進する重要な鍵になるとの見解を示しました。

衆議院議員 今枝宗一郎氏
▲衆議院議員 今枝宗一郎氏

デジタルノマドの推進を促す協議会が設立

続いて、本シンポジウムにて設立する「デジタルノマド官民推進協議会」についての説明が行われました。

デジタルノマドは主に観光立国の起爆剤」「イノベーション促進」「地域活性化において有用だと考えられています。

本協議会は、先進的な取り組みを進めている企業や自治体間で情報共有を行い、デジタルノマドの推進を促す目的で設立されました。イベントでは、デジタルノマド官民推進協議会に賛同する首長、自治体、関係団体が順に挨拶を行い、協議会の設立を祝しました。

3月に「デジタルノマドビザ」が施行、6か月以内の滞在が可能に

次に出入国財務管理庁 本針和幸氏が登壇し、2024年3月に施行された「デジタルノマドビザ」の概要について説明しました。

デジタルノマドビザは、6ヶ月を超えない期間、日本に滞在して国際的なリモートワーク等を行う場合に利用できる在留資格です。発行には、「1年のうち滞在期間が6ヶ月を超えていないこと」に加え、「査証免除対象かつ、租税条約を締結している国・地域の国籍を有していること」、「民間医療保険に加入していること」、「申請時点で年収1,000万円以上であること」といった細かい制約が設けられています。

本針氏は「予定した通りの形で運用されているか、活用状況を注視しながら運用していく」と説明しました。

デジタルノマド受入れに係る制度の検討状況について
▲デジタルノマド受入れに係る制度の検討状況について

デジタルノマド人口は2030年に6,500万人に

今回のシンポジウムでは、デジタルノマドに関する有識者を招き、効果的な活用に向けたディスカッションも行われました。

まずは、山梨大学教授 田中敦氏、RULEMAKERS DAO 貞包みゆき氏が登壇し「デジタルノマドの可能性」についてディスカッションが行われました。

田中氏は、デジタル人材が重視する環境について、Wi-Fiなどの通信環境が備わっていることに加え、地域の人たちと交流できるかどうかも重要なポイントだといいます。

さらに現在は、フリーランスだけでなく、企業に属しながら世界各地からリモートワークを行うデジタルノマドも増加。滞在先でのコミュニティや人との出会いが、新しいビジネスの創出や新規プロジェクトの始動につながる点も注目されていると述べました。

ツーリズム調査機関の試算によると、デジタルノマド人口は2030年に約6,500万人に達するのではないかと予想されています。

田中氏は、福岡で行われているデジタルノマドの祭典「COLIVE FUKUOKA(コリブフクオカ)」や海外の事例を紹介し、「デジタルノマドのパターンは1つではない。いいとこ取りをしながら自分たちの地域に適した方法を取り入れることが大事」と述べました。

山梨大学教授 田中敦氏
▲山梨大学教授 田中敦氏

課題であるインバウンドの地方誘客を促進

「デジタルノマドと観光」をテーマにしたディスカッションでは、宮崎県日向市長 西村賢氏、株式会社キッチハイク 千種浩二郎氏、観光庁 観光地域振興部 観光資源課 丹下涼氏の3名が登壇し、それぞれの実例を紹介しました。また、モデレーターとして観光クロスオーバー協会 代表理事の西岡氏が観光とデジタルノマドの結びつきを説明しました。

「デジタルノマドと観光」をテーマにしたディスカッション
▲「デジタルノマドと観光」をテーマにしたディスカッション:左から 観光クロスオーバー協会 代表理事 西岡氏、日向市長 西村賢氏、株式会社キッチハイク 千種浩二郎氏、観光庁 丹下涼氏

日向市はサーフィンの聖地として世界的大会が行われるなど、観光地としても注目を集めています。一方で短期滞在客が多いことが課題となっており、中長期滞在を促すためワーケーションを促進する取り組みを行なってきました。

その一環として、地元の人たちを交え、滞在を楽しんでもらうためのコミュニティやコンテンツを作成。官民一体となってデジタルノマドの誘致に取り組んでいます。

日向市長 西村賢氏
▲日向市長 西村賢氏

株式会社キッチハイク 千種氏は、子どもを保育園に通わせながら家族で多様な地域に滞在できる、「保育園留学」事業を紹介。

子どもを安全で自然と文化が豊かな環境で育てられるため、デジタルノマドにとってもメリットは大きいといいます。プレゼンの中では、和歌山県白浜町の事例を紹介しました。

株式会社キッチハイク 千種氏
▲株式会社キッチハイク 千種浩二郎氏

観光庁 丹下氏は、2024年の訪日外国人数は過去最高ペースで増加している一方、三大都市圏への偏りが顕著になっていると説明。そのため、長期滞在となるデジタルノマドが、地方誘客と観光消費の打開策になると話しました。

観光庁ワーケーション普及定着促進事業の一部として、「デジタルノマド受入に向けた環境及び体制整備に関わる実証事業」も実施しています。

観光庁 丹下氏
▲観光庁 丹下涼氏


デジタルノマド人材の誘客がイノベーションを生む

3つ目のテーマでは株式会社遊行 代表取締役 大瀬良亮氏、株式会社パソナJOBHUB 野島祐樹氏、経済産業省 イノベーション環境局 澤田佳世子氏が登壇。それぞれの地域イノベーションに関わる取り組みについて紹介し、意見交換を行いました。

大瀬氏の所属する株式会社遊行では、デジタルノマドの祭典「COLIVE FUKUOKA(コリブフクオカ)」を運営しています。国内外のデジタルノマドが1か月間福岡に滞在し、仕事と遊びを体験してもらうCOLIVE FUKUOKAでは、開始から2週間を経過した頃から、一緒に仕事をしたり、食事をしたりするようなコミュニティが生まれるそうです。

大瀬氏は、COLIVE FUKUOKAのようなデジタル人材向けのコミュニティやコンテンツを日本全国に作っていくことが、地域や企業のイノベーションにつながると述べました。

株式会社遊行 代表取締役 大瀬良亮氏
▲株式会社遊行 代表取締役 大瀬良亮氏

株式会社パソナJOBHUB 野島氏は、デジタルノマド人材と地域がマッチングすることで地域にイノベーションを起こすと同時に、ひとりひとりが多様な働き方をして、やりたいことを実現できる社会づくりの一助になると語りました。

さらに生産労働人口減少に伴う人材不足が深刻化する中で、高度なビジネススキルを持つデジタルノマドとの連携が、企業の人材戦略の鍵になるといいます。

株式会社パソナJOBHUB 野島氏
▲株式会社パソナJOBHUB 野島祐樹氏

経済産業省 澤田氏は、スタートアップという切り口から政府の取り組みを紹介。スタートアップの企業数は以前から1.5倍に増加しているものの、雇用や経済に大きなインパクトをもたらすユニコーン企業がなかなか生まれていない現状を明かしました。

末澤氏は、スタートアップ企業の質を高めるために「経営者あるいは経営層が海外経験者あるいは外国人であること」がキーファクターの1つであると説明。スタートアップの中でイノベーションを起こすようなチーム作りが大切として、企業のチームづくり・人材強化の面でも、デジタルノマドの活用を期待できるのではと述べました。

それに対し、大瀬氏・野島氏からは、現在のデジタルノマドビザでは雇用契約は結べないため、日本に訪れるデジタル人材が兼業・副業でビジネスや地域課題に参画できるような規制緩和や議論が必要だと意見も挙がりました。

経済産業省 澤田氏
▲経済産業省 澤田佳世子氏

デジタルノマドは「ミュージアムよりもスーパーに行きたい」

シンポジウムの最後に、一般社団法人日本デジタルノマド協会代表理事 中野智恵氏が講演を行いました。

初めに、デジタルノマドの人々が求めていることについて問われると、中野氏は知人に言われた「僕らはミュージアムよりもスーパーに行きたいんだよ」という言葉を引用し、彼らは観光客としてではなく日常生活者として扱われたいのだと語りました。

そのためには「いかにホーム感を与えるか」が鍵であると強調。働く場所と宿泊施設が一体となった「コリビング」や、地域住民と来訪者を繋ぐコミュニティマネージャーの存在が重要だと話します。

デジタルノマドが求めていること
▲デジタルノマドが求めていることについて

さらに自治体は、先進的な取り組みを行なっている事例を参考にしつつ、自分たちの町が目指せるポイントを見極めることが大切だと説明。

「見慣れた景色も、違うところからきたらキラキラ光って見える。外国人となると、また日本人とは違うところにキラキラを見つける」と話し、地方にこそデジタルノマドの魅力が溢れていると語りました。

日本デジタルノマド協会代表理事 中野智恵
▲日本デジタルノマド協会代表理事 中野智恵氏

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以上、「デジタルノマドシンポジウム」の様子をお届けしました。会場には観光客誘致に悩む地方自治体関係者や民間事業者が集まり、デジタルノマドの誘致促進に期待を寄せる様子が見て取れました。

好調なインバウンド消費の一方で、観光業界は都市圏への旅行者の集中や人手不足などの課題に直面しています。今後は、新たに導入されたデジタルノマドビザをうまく活用し、地方への経済効果につながる取り組みが必要となるでしょう。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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