シンガポールでの高付加価値旅行プロモーションの可能性と具体的手法【現地専門家が語るシンガポール:高付加価値インバウンドの新潮流・後編】

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2022年5月に観光庁が「地方における高付加価値インバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を策定したのを機に、各自治体DMOでも高付加価値旅行に対する取組みがテーマにあがるようになりました。

近頃は一部でオーバーツーリズムの問題も聞くようになり、より一層、人数ではなく消費単価のアップ=富裕層の誘致に取り組まなければならないという機運が、これまで以上に盛り上がっています。

しかしこれまでの高付加価値旅行といえば、ほぼイコール欧米市場。距離の遠さや訪日頻度の低さなどから、なかなかマーケティング施策を打ちにくい、と感じている方も少なくないかと思われます。

そこで、今回は東南アジア市場からの訪日送客に10年以上取り組んでいるアジアクリックのシンガポール本社から、高付加価値旅行プロモーションに取り組む現場のレポートをお伝えします。

前編では、データをもとにシンガポール市場の現況や、なぜ、今シンガポール高付加価値旅行が注目されているのか、といったことについてお伝えさせていただきました。

後編では、高付加価値旅行のプロモーションを行うにあたってのシンガポール市場のポテンシャルや具体的な手法についてお話ししたいと思います。

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なぜシンガポールが高付加価値旅行のプロモーションに最適なのか

シンガポールの富裕層向け旅行会社は、地方の情報を求めている!

現在、シンガポールの主な富裕層向け旅行会社10社程度を把握してコンタクトを取っています。

こういった旅行会社は、これまで東京などのランドオペレーターに依頼して訪日旅行のアレンジをしてきました。

ところが、顧客から「もっと誰も行ったことがないところ」「新しいところ」という要望が大きくなると、中央のオペレーターではアレンジが厳しくなってきます。

「〇〇県の特産品の△△を、築100年の古民家で地元のおばあちゃんが身振り手振りで教えてくれて一緒に作って食べる」

このようなコンテンツのアレンジが難しいのです。

ですので、彼らが口をそろえてまず言うのは

「地元のDMCを紹介してほしい」※

ということです。

そこで、うまく地元DMCをご紹介し、その地域としても取り入れたい訪問地やお勧めしたい旅館さんなどを織り交ぜていくと、旅行会社に大変喜ばれる結果となります。

もちろん、英語でのコミュニケーションが必須ですが、基本はメールのやり取りなので翻訳アプリAIを使っても大丈夫です。

※ここで言うDMCランドオペレーターと同義。旅行をアレンジして卸してくれる現地AGTのことを指します。

富裕層シンガポール人の訪日旅行は、滞在型なので県内5泊もアリ

そのようにして旅行会社が提案する旅行は、以下のようなものです。

  • 行程のすべてをプライベートカー、ガイドがフルアテンド
  • 高級旅館の露天風呂付お部屋に宿泊、基本は連泊
  • 食事は非常に重要、ただし毎日懐石は食べられないので、連泊の場合は外食もする
  • 朝はゆっくり、午後ひとつかふたつ訪問して早くに宿に帰る
  • 訪問したいのは、「その土地でしか経験できないもの」
  • 移動も長距離は避ける、何度も日本には行くので「今回はその土地を満喫したい」

このような、県内泊数の多い高付加価値旅行が実現するのがシンガポール市場です。

何十回も日本に行っている(行ける)余裕さえ感じられる、まさに迎える側からすると理想的な旅行をしていただけるわけです。

▲シンガポールの富裕層旅行では、露天風呂付のお部屋を指定されることが多い
▲シンガポールの富裕層旅行では、露天風呂付のお部屋を指定されることが多い

送客のテンポが早い

富裕層向け旅行会社がアレンジをする場合、その多くは「すでに提案する(旅行に行くことが決まっている)お客さんがいる」ことが多くなっています。

しかもその時期は多くが6か月以内。

旅行会社から提案すると、受け入れていただけることも多く、こういった旅行会社がお客様との信頼関係で成り立っていることがよくわかります。

そうすると、地元DMCをご紹介してアレンジを始めるととんとん拍子に送客が確定します。

もちろん、宿や見たいコンテンツの時期的な営業状況や予約状況により成立しないこともありますが、少なくとも団体旅行の造成のように「それでは来年の秋の商品の改訂から〜」のような遠い話にはならないことが大変魅力的です。

また、具体的なお客さんに提案しますので、提案が受け入れられないことは当然ありますが、「造成したけど催行しない」というような団体旅行特有のフラストレーションはありません。

旅行会社からも求められ、送客していただける場合は高付加価値旅行を実現してもらえ、しかも送客の話がスピーディーにまとまる。

シンガポールは、こんなに高付加価値旅行のプロモーションに適した市場なのです。

具体的な取り組みは?

富裕層向け旅行会社は、団体向けの大手ほど規模は大きくなく、おおむね数名~十数名程度の規模が多いです。

代表も含めて、一人ひとりが顧客を持ったセールス、かつ旅行プランナーを兼任していることが多いので、自分が自身をもって説明できる地域を売りたい傾向がとても強くなります。

ですので、こういった旅行会社からの送客を考える場合、最も効果的なのがファムトリップだと考えています。

お客さんにそのまま提案できるような高付加価値旅行の行程を、英語ガイド付きでご案内します。私たちが行うファムトリップのほとんどは、同時に1社しか招へいしない特別なスタイルです。

▲少人数のプライベートファムでは、濃厚な地元の文化体験をご紹介することが可能
▲少人数のプライベートファムでは、濃厚な地元の文化体験をご紹介することが可能

その地域のファンになっていただくだけの魅力的なコンテンツがあることや、きちんとそれを提案できることは大前提ですが、好きになっていただけるとお客さんへの提案も進みやすいと思われます。

またファムトリップの次の打ち手としては、お客さんを招待したプライベートイベントを開催することで、より多くの人に一度に知ってもらえる機会となります。

旅行会社によっては、自社の顧客だけでなく銀行やソーシャルクラブ(富裕層の会員制組織)などと組んで、イベントの集客を行っているところもあります。

このような取り組みを地道に進めることで、高付加価値旅行の送客を推進しています。

まとめ

  • 私たちが思っているよりもシンガポール人の訪日旅行ファンが増えているし、個人手配の訪日客は使えるお金も想像より大きい
  • シンガポールからの高付加価値旅行は、高級旅館などを使って県内5泊などの行程で旅行してくれる
  • 富裕層向けの旅行会社は、地方の豊かなコンテンツの情報を求めている
  • 提案~送客のテンポが速い

ここまで、こういったお話をしてきました。

最後にひとつ、もし仮にシンガポール人の家族4人で8日間の高付加価値旅行をしたとしたら……いくらぐらいの消費金額になるか計算してみましょう。(仮に1泊1名8万円と想定)

※特定のエリアで5泊し、東京など前後泊でお買い物のために3泊=合計8泊

  1. 宿泊費:8万円 / 人×4名×8泊
  2. 昼食代:1万円 / 人×4名×8日
  3. プライベートカー、ガイド:約100万円

この旅行で上記合計388万円。1人当たり97万円になります。

もしこの8泊のうち、特定のエリア(地域)が5泊含まれているとしたら、その消費金額だけでも160万円です。団体旅行で1泊2万円のお宿に県内1泊の場合に置き換えると、80名送客と同じだけの金銭的インパクトがあるのです。

送客数も重要ですが、この点を見逃すとなかなか高付加価値旅行のプロモーションに舵を切ることができません。何度も言いますが、こういう旅行が可能なのは「何度も日本に来ているシンガポール人だから」です。一生に、一度か二度しか日本に来ないとしたら、このような旅行を提案することはなかなか難しいでしょう。

自分たちがPRしたい地域に来てくれるチャンスを作ること自体が難しいのは、皆さんご承知の通りです。

シンガポールからの高付加価値旅行誘致プロモーションを行い、県内全体で旅行の高付加価値化(=地方創生)を進めていくことが、将来的にも様々な地域からお客様を迎えるために非常に有用に作用すると考えています。

2025年は、高付加価値旅行プロモーションへの具体的なアクションを始めるのに、最適な年といっても過言ではありません。

まずは、一歩踏み出しましょう。私たちがサポートいたします。

著者プロフィール:株式会社アジアクリック 小桑謙一


株式会社アジアクリック General Manager 小桑謙一(在シンガポール)。2018年よりシンガポールに駐在し、同時にASIACLICK事業に参画。新潟県シンガポール観光コーディネーターをはじめとするシンガポール事業を担当しながら、全社のゼネラルマネージャーとして事業全般に関わる。https://asiaclick.jp/

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この記事の筆者

株式会社アジアクリック

株式会社アジアクリック

株式会社アジアクリック 代表 高橋学(在バンコク)・General Manager 小桑謙一(在シンガポール)。2012年よりタイ・バンコク、シンガポール、東京を主な拠点として活動している。各自治体・団体の訪日観光インバウンドPR受託実績多数。地に足の着いた地道なセールス活動や旅行博運営から、SNS運用・デジタル広告運用まで幅広く対応している。

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