壁を扉に変える言葉 ~カタカナ英語でひらくインバウンド接客~【今考える インバウンド集客の「本質」vol.3】

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新型コロナウイルスの水際対策が緩和されて以降、日本には再び多くの外国人観光客が訪れるようになりました。東京や京都だけでなく、今では全国津々浦々、山間の温泉地や離島、小さな町の道の駅にまで外国人観光客が姿を現すようになりました。

こうした変化に対応しようと、地方自治体や観光事業者は一斉に“インバウンド対応”に取り組み始めています。多言語メニューやWi-Fiの整備、翻訳アプリの導入…。確かにどれも重要ですが、実はもっと根本的な課題があります。

それは、日本人の多くが持つ「英語への苦手意識」です。そこで今回は、「インバウンドに効くコミュニケーション」について掘り下げます。

文/櫻井 亮太郎(株式会社ライフブリッジ)

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「英語が怖い」現場のリアルな声

私たちライフブリッジが全国各地で研修を行うなかで、頻繁に耳にするのがこの言葉です。

英語が怖い」「話しかけられたらフリーズする」「間違ったら恥ずかしい」

ある温泉旅館の女将さんは、こんなふうに話してくれました。

「外国のお客様が来ると嬉しいはずなのに、緊張してしまって…。声をかけたいけれど、自信がなくて何も言えず、そのままチェックアウトされてしまったこともあります」

その場にいるだけで温かいサービスを届けられるはずの人たちが、「英語が話せないから」とチャンスを逃している。これは非常にもったいない現状です。

外国人観光客が本当に求めているのは…

英語が流暢なガイドや、完璧な接客英語を期待していると思われがちな外国人観光客。でも、彼らが本当に感動するのは、「心のこもったやりとり」です。

「片言だったけど、一生懸命説明してくれて嬉しかった」「日本語と英語が混ざってたけど、楽しかった」「通じるか不安そうに話しかけてきてくれたあの店員さんが忘れられない」

そう、求められているのは「完璧な英語」ではなく、「伝えようとする気持ち」なのです。

なぜ通じる?「相手も英語ネイティブじゃない」現実

実は、訪日外国人の約8割は英語ネイティブではありません。台湾韓国タイ中国インドネシアなど、アジア圏の方々が圧倒的多数を占めています。

彼らも流暢な英語を話すわけではなく、むしろゆっくり・シンプルな表現を望んでいるのです。そこに日本人らしい優しさや丁寧さが合わされば、「言葉の壁」はむしろ“心のつながり”に変わるのです。

他国の観光地との比較:「通じなくても、堂々と」

フランスイタリア韓国などの観光地では、英語がうまく話せない店員でも堂々と話しかけてきます。

「ビッグ?スモール?(笑顔で)」

「チーズ、ノー?チーズ、OK?」

文法的には間違っていても、気持ちが伝わってくるからこそ、会話が成立し、温かい印象が残るのです。

発想の転換:“カタカナ接客英語”とは?

こうした現場の課題を解決するために、私たちライフブリッジが開発したのが「カタカナ接客英語」です。

この手法は、以下のような特徴を持っています。

  • 中学1~2年生レベルの単語のみを使用
  • 正確な文法ではなく、単語の組み合わせ重視
  • カタカナ表記で覚えるため、発音の不安がなくなる
  • 「覚えやすい語呂合わせ」で自然に口に出る

たとえば、こんな風に覚えます。

「Something to drink?(飲み物はいかがですか?)」→ 「三品・トゥー・樹木(サンピン・トゥー・ジュリン?)」

「Is that all?(以上でよろしいでしょうか?)」→ 「伊豆ダロー ?」

まるでダジャレのように見えるかもしれませんが、脳に残りやすく、声に出しやすいのが特徴です。

また日本人なら誰でも知っている「英単語」を組み合わせることでお薦めフレーズまで言えるようになります。

「この刺身とこの酒、相性バツグンです」→ 「サシミ・ディスサケ・トゥギャザー・ベストマッチ! (Sashimi, This Sake, Together, Best match!)」

海外に出てみると実感しますが、高級ホテルでもない限り、非英語圏の国々の飲食店小売店のスタッフは、流暢な英語を話せません。それでも、にこやかに、そして堂々と、シンプルな単語や表現を使いながら、観光客と自然にコミュニケーションを取っています。

英語力よりも大切なのは、「伝えようとする気持ち」と「わかりやすい言葉選び」なのです。

とはいえ、業種や業態によって、使うべきフレーズは異なります。

そこで、ライフブリッジの接客英語研修では、画一的なマニュアルではなく、現場のニーズに合わせた「カスタムメイドのカタカナ英語フレーズ」を作成し、その店舗・その地域・その商品に合わせて、“売れる言い回し”を一緒に考え、スタッフが自信を持って使えるようになるまでサポートしています。

研修現場で起きる“変化の瞬間”

我々が全国で実施している「カタカナ接客英語研修」では、最初こそ緊張していた参加者が、徐々に自信を持って声を出し始める姿が印象的です。

ある地方の酒蔵スタッフの方は、研修後にこんな感想を話してくれました。

「今まで英語を話すなんて無理だと思っていました。でも“サケ・ベストマッチ”って言ったら通じて、お客さんが笑ってくれて…それがすごく嬉しかったんです。」

この“通じた”という小さな体験が、英語に対する恐怖心を解きほぐし、自信に変えていくのです。

カタカナ英語が売上を変える?実際の成果

宮城県内のある飲食店では、カタカナ接客英語を導入してから外国人客の購買単価が30%増加したという報告があります。

外国人がSNS口コミで「あの店員さん、面白かった」と投稿したことがきっかけで、訪れる観光客が増加した例もありました。

接客の“内容”よりも“印象”がリピートにつながる。その入口が、カタカナ英語によるコミュニケーションなのです。

英語力よりも、“伝えようとする心”

接客に求められるのは“英語力”ではありません。

大切なのは、

  • 声をかける勇気
  • 間違いを恐れない姿勢
  • 外国人を歓迎する笑顔

たとえうまく言えなくても、「Little English OK?(リロー・イングリッシュ・OK?)」(英語少しかできないけど大丈夫?)と一言添えるだけで、外国人はホッとするものです。

地域の未来を変える“ことばの力”

カタカナ接客英語は、単なる接客技術ではありません。それは、地域の人と外国人をつなげる“心のインフラ”です。

一人ひとりが「伝えよう」とすることで、観光地の印象は変わり、外国人は「また来たい」と思うようになります。

そして何より、地元の人々が自信を持ち、外国人と笑顔で交流できること自体が、地域の魅力を何倍にも高めてくれるのです。

最後に:あなたの勇気が、世界をつなぐ

英語は難しい」「私には無理」――そう思っていた人たちが、「通じた!」という体験を通して変わっていく。

そんな姿を、私たちは何度も見てきました。

カタカナ接客英語は、「英語を正しく学ぶもの」から「言葉を使って楽しむもの」へと、私たちの意識を変えてくれる力を持っています。

それは、文法や発音の正確さではなく、“伝えたい”という気持ちがコミュニケーションの中心になるという、新しい視点です。

もし道に迷っている外国人を見かけたら、ぜひ勇気を出して、こう声をかけてみてください。

「エブリシング OK?」

そして道案内を終えたら、笑顔でこの一言を添えてみてください。

「エンジョイ・ジャパン!」

たったそれだけで、あなたとその旅人の間に、忘れられない思い出が生まれるかもしれません。

言葉は、壁ではなく扉です。

その扉を開く鍵は、流暢な英語ではなく、“あなたの優しさ”なのです。

著者プロフィール:株式会社ライフブリッジ代表取締役 櫻井 亮太郎


仙台市出身。中学卒業後、渡米。英国リッチモンド大学卒業。10年間の海外生活を経て1999年に帰国。外資系銀行、証券会社でキャリアを積み、2006年故郷仙台で株式会社ライフブリッジを設立。全国でインバウンド人材育成に特化した研修・講演を行う傍ら、登録者300万人※のYouTubeチャンネルの「Abroad in Japan」をプロデュース。2020年4月には自らもYouTubeチャンネル「Ryotaro's Japan」を開設。登録者数15.7万人※のYouTuber、そしてフォロワー数7.2万人※のインスタグラマーとして、多くの観光プロモーションに携わっている。※登録・フォロワー数は2024年1月現在
また近年はそのインバウンドにおける豊富な経験と強い情報発信力を用いて「聖地・岩船山爆破体験ツアー」、「蔵王キツネルーム」等、インバウンド向けツアーの企画・造成・コンサルティング・PRを一気通貫に行っている。 内閣府クールジャパンプロデューサー、一般社団法人宮城創生DMO会長、宮城ワーケーション協議会共同代表。https://www.lifebridge.jp/

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この記事の筆者

櫻井亮太郎

櫻井亮太郎

仙台市出身。中学卒業後、渡米。英国リッチモンド大学卒業。10年間の海外生活を経て1999年に帰国。外資系銀行、証券会社でキャリアを積み、2006年故郷仙台で株式会社ライフブリッジを設立。全国でインバウンド人材育成に特化した研修・講演を行う傍ら、登録者300万人※のYouTubeチャンネルの「Abroad in Japan」をプロデュース。2020年4月には自らもYouTubeチャンネル「Ryotaro's Japan」を開設。登録者数15.7万人※のYouTuber、そしてフォロワー数7.2万人※のインスタグラマーとして、多くの観光プロモーションに携わっている。※登録・フォロワー数は2024年1月現在
また近年はそのインバウンドにおける豊富な経験と強い情報発信力を用いて「聖地・岩船山爆破体験ツアー」、「蔵王キツネルーム」等、インバウンド向けツアーの企画・造成・コンサルティング・PRを一気通貫に行っている。 内閣府クールジャパンプロデューサー、一般社団法人宮城創生DMO会長、宮城ワーケーション協議会共同代表。https://www.lifebridge.jp/

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