【連載:マーケティング用語・施策の基礎解説】 |
「AMTUL(アムツール)の意味が知りたい」「自社のマーケティング戦略にどう活かせるのだろう?」
このような疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。AMTULとは、消費者が商品やサービスを初めて知り、関心を持ち、試用を経て、最終的に熱心な「愛用者」となるまでの顧客心理の変遷を5つのステップで示したマーケティングモデルです。
- 「Awareness(認知)」
- 「Memory(記憶)」
- 「Trial(試用)」
- 「Usage(日常利用)」
- 「Loyalty(愛用)」という
提唱から時間が経過した現在でも、顧客との長期的な関係構築やLTV(顧客生涯価値)向上を目指す上で、その本質は多くのビジネスにとって重要な示唆を与えてくれます。
本記事では、「AMTULとは?」という基本的な定義から、各ステップの詳細な解説、類似モデルであるAIDMAとの違い、導入によるメリット、企業が各段階で取るべき具体的な施策、さらには活用する上での注意点や実際の成功事例まで、AMTULに関するあらゆる情報を網羅的に、そして初心者にも分かりやすく徹底解説します。
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AMTULとは
AMTUL(アムツール)モデルとは、顧客が製品やサービスを初めて認知し、記憶にとどめ、試用し、日常的に利用するようになり、最終的にはブランドや商品に対して強い忠誠心(ロイヤルティ)を抱く「愛用者」となるまでの一連の心理的プロセスと行動変容を、体系的かつ具体的に示したマーケティングフレームワークです。
この洞察に満ちたモデルは、1970年代に日本の著名な経済評論家である水口健治氏によって提唱されたといわれています。水口氏は、一過性の購買で終わらない、顧客との長期的な関係構築の重要性に着目し、このAMTULモデルを考案したのです。
現代のマーケティングにおいて、「AMTULとは何か」を深く理解し、自社の戦略に組み込むことは、単に商品を販売するだけでなく、顧客一人ひとりと持続的な信頼関係を築き上げ、LTV(顧客生涯価値)を最大化していく上で不可欠と言えるでしょう。
AMTULは、顧客がどの段階にいるのかを把握し、それぞれの段階に応じた最適なコミュニケーションや施策を展開するための羅針盤となります。
では、AMTULモデルを構成する5つのステップと、それぞれの段階で企業が目指すべき状態について、具体的に見ていきましょう。
AMTULの5ステップ
1. Awareness(認知)
消費者が認知ゼロの状態から商品やサービスの存在を知る段階です。広告やSNS、口コミなどを通じて情報が伝わり、初めてその存在を認識します。この段階では、ブランドの認知度を高めるための広報活動が重要です。
2. Memory(記憶)
認知した商品やサービスを記憶し、必要なときに思い出せる状態です。繰り返しの広告接触や印象的なキャッチコピー、パッケージデザインなどが記憶の定着に寄与します。
3. Trial(試用)
商品やサービスを実際に試してみる段階です。サンプルの提供や無料トライアル、体験イベントなどが効果的です。この段階での体験が良好であれば、次のステップへの移行が期待できます。
4. Usage(日常利用)
試用後、商品やサービスを日常的に使用するようになる段階です。使い勝手の良さや品質の高さが継続利用の鍵となります。また、アフターサービスやサポート体制も重要です。
5. Loyalty(愛用)
商品やサービスに対して強い愛着を持ち、継続的に利用し続ける段階です。この段階の顧客は、ブランドのファンとなり、他者への推薦や口コミによる新規顧客の獲得にも貢献します。
このようにAMTULでは、最終的に商品やサービスを愛用する状態を目指しています。
AMTUL理解に不可欠な顧客ロイヤリティとは
AMTULが目指す目標は、消費者が商品やサービスを愛用している状態です。消費者が商品やサービスを愛用している度合いを、マーケティング用語で「顧客ロイヤリティ」と呼びます。顧客ロイヤリティが高いほど、消費者の店舗や商品に対する愛着が強く、長期的な購買行動を期待できます。
例えば、「その店舗だから購入する」「このブランドだから信頼できる」といった感情を持った消費者は、顧客ロイヤリティが高いと言えます。顧客ロイヤリティが低い消費者は、他店と比較検討する傾向があるため、自店舗ならではの魅力を積極的に伝え、選ばれるためのマーケティング施策に注力する必要があります。
そのため、店舗の常連客を増やし、売上アップやマーケティングコスト削減のために、顧客ロイヤリティが高い顧客を増やすことが重要です。
AMTULとAIDMAの違い
AMTULは、基本的な購買行動モデルであるAIDMAに、顧客ロイヤリティの概念を加えて考案されました。その違いを解説します。
AIDMAは、消費者が商品やサービスを購入するまでの心理変化を次の5段階で説明しています。
- Attention(注目)
- Interest(関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(行動)
AMTULは、AIDMAモデルの「一度限りの購買行動」に対し、継続的な購買行動や顧客ロイヤリティの形成に焦点を当てています。
AIDMAと比較して、より長期的に購買の段階を捉える点が異なります。
AMTULは、特に製薬業界や化粧品業界など、継続的な利用が重要な業界で活用されています。このモデルを用いることで、消費者の行動プロセスを可視化し、各ステップでの課題を特定しやすくなります 。
関連記事:AIDMAとは?AISASやSIPSとの違い、店舗での活用方法やメリットを解説
AMTULのメリット
AMTULを店舗や小売業のマーケティングに取り入れるメリットは、数値で評価しやすい点です。
AMTULの5段階では、プロセスが進むにしたがって顧客の数は少なくなります。
例えば、Awareness(認知)の状態にある顧客が1000人だとしても、Memory(記憶)では500人、Trial(試用)では100人に減少するといった具合です。
このとき、特に減少割合が大きいプロセスはマーケティングの問題点が潜んでいる可能性が高いボトルネックだと考えられます。
ボトルネックが分かれば、問題があるプロセスに集中してマーケティング施策を打ち出せます。
店舗や小売業がAMTUL各ステップで行うべき施策
AMTULは5つのステップから成り立っています。AMTULを理解することで、各ステップにおける見込み客の減少を抑えられます。ここでは、店舗や小売業がAMTULの各ステップで行うべき施策を解説します。
Awareness:認知する段階での施策
1つ目のステップAwareness(認知)は、消費者に店舗や商品、サービスについて認知してもらうことです。
店舗の再認率を測定し、その度合いによって認知度を上げる施策を選びます。再認率とは、ブランド名を示したら、そのブランドを知っていると認識できる消費者の割合です。
店舗や小売業の認知度を向上させるには、チラシ広告や看板、口コミサイトへの登録、ホームページの作成、SNS広告などが効果的です。ただし、広告にはコストがかかるため、予算を決めてその中で効果的な方法を探ることが重要です。
Memory:記憶する段階での施策
2つ目のステップMemory(記憶)では、消費者が商品やサービス、店舗をどのくらい記憶しているかが重要です。自店舗の記憶n度合である再生率を測定し、結果が悪い場合には重点的に対策をする必要があります。再生率とは、消費者がブランド名を自力で思い出せる比率のことです。
看板やチラシのキャッチコピーは、消費者の記憶に残りやすくするための重要なポイントです。店舗のターゲットに刺さるコピーに変更することで、自店舗のことを覚えてもらいやすくなります。
なお、再生率は店舗に関連するヒントを与えて店舗や商品を答えられるかで測定できます。
Trial:試用する段階での施策
3つ目のステップTrial(試用)は、消費者が店舗に1度でも訪れたことがある状態のことです。消費者の店舗への来店経験率を測定し、結果が悪い場合には施策を打ち出す必要があります。
店舗の良さは一度でも来店してもらわないと伝わりません。初回割引キャンペーンやモニターを募集し、商品やサービスを体験してもらう人を増やしましょう。
Usage:日常利用する段階での施策
4つ目のステップUsage(日常利用)は、店舗や商品、サービスを日常的に使っているかが重要なポイントです。日常利用しているかどうかは消費者の主使用率を測定して確かめます。主使用率は「次の○○店のうち、普段行っているのはどこですか?」などの質問で測定できます。
数値が悪ければ、リピート率を向上させる施策として、接客や顧客管理を今一度見直すことが必要です。再度訪れたくなるような接客の改善や、継続的に顧客との接点を持ち続けるためにダイレクトメッセージやメルマガなどの施策を打つと効果的です。
Loyalty:愛用する段階での施策
5つ目のステップLoyalty(愛用)は、AMTULを取り入れた店舗が目指すべきゴールです。
このステップでは、同業他社よりも自店舗を選ぶ愛用者が多いかが重要です。愛用者の数を調べるには購入意向率を測定します。数値が低い場合は、顧客ロイヤリティを向上させる施策を行います。
例えば、ユーザーコミュニティの作成や、ブログ・メルマガでの「ユーザーの声」を載せるなど、愛用者が楽しめる環境を整えるのがおすすめです。
なお、購入意向率は、今後も店舗で購入し続けたいかを消費者に尋ねることで測定します。
愛用者を増やすことで店舗や小売業が得られる効果
AMTULの目指すゴールは、消費者が商品やサービスを愛用している状態です。店舗や小売業が愛用者を増やすことで店舗や小売業が得られる効果は次の3つです。- リピート率の向上
- 口コミによる拡散
- 客単価のアップ
それぞれ詳しく解説します。
リピート率の向上
店舗の愛用者が増えるということは、リピート率も必然的に上がりやすくなります。愛用者は店舗への信頼度が高いため、ライバル店と自店舗どちらを選ぶか迷った際に「やはりこちらの店舗のほうが信頼できる」と、選ばれる可能性も高いと言えます。
例えば、飲食店や美容室などの店舗は、消費者の利用頻度が高いので愛用者を増やす効果は特に大きいです。
口コミによる拡散
顧客ロイヤリティが高い消費者は、家族や友人、知人へ積極的に店舗を推奨してくれる方が多い傾向にあります。また、口コミサイトやSNSに、訪れた際の感想やおすすめポイントを投稿することも多いです。店舗への愛着や満足度が高いと、自然と「他の人にもこの良さを伝えたい」という心理が働き、積極的な推奨行動に繋がると考えられます。このような愛用者からの良質な口コミは、店舗からの直接の発信よりも強力な宣伝効果があります。
口コミが新規顧客を呼びこむことにつながり、マーケティングコストの削減につながる点もメリットです。
客単価の向上
顧客ロイヤリティの高さは、平均購入金額と相関があることが分かっています。1回あたりの購入金額にも大きな影響があり、愛用者ほど客単価が向上すると言えます。
そのため愛用者を増やすことは、店舗売上の向上に直結します。
AMTULモデルを活用した業界別・成功アプローチ事例
AMTULモデルが各業界でどのように顧客の「愛用」へと繋がるか、代表的なアプローチを2つの事業タイプで見ていきましょう。
1. D2C(Direct to Consumer)および専門情報サービス業界
この分野では、まず専門性の高い情報発信や的確な広告でターゲット顧客の認知(Awareness)を獲得し、独自の価値提案で強く記憶(Memory)に残します。
次に、無料サンプルや返金保証といった購入ハードルを下げる施策で試用(Trial)を促し、購入後も有益な情報提供や関連サービスの提案を通じて日常利用(Usage)へと繋げます。
最終的には、リピーター特典や紹介制度などを通じて顧客を熱心なファンへと育て上げ、積極的な推奨行動を伴う愛用(Loyalty)の関係を築き上げます。このように顧客との直接的な関係を深化させることが成功の鍵となります。
2. サブスクリプション型サービス(コンテンツ配信、SaaSなど)
継続利用が重要なサブスクリプションビジネスでは、無料プランやフリートライアルで幅広く認知(Awareness)され、サービスの独自価値を体験させることで記憶(Memory)に刻みます。
この試用(Trial)期間でサービスの魅力を十分に伝え、有料プランへの期待感を高めます。その後は、利用データに基づくパーソナライズや利便性向上により日常利用(Usage)を定着させることが不可欠です。
そして、魅力的な有料プランの特典、多様な料金設定、エンゲージメントを高める特別な施策(例:利用状況レポート)などを通じて顧客満足度を高め、解約を防ぎながら真の愛用者(Loyalty)を育成していきます。
店舗経営での常連客獲得にAMTULの活用を
ここまでAMTULの5段階の心理的なプロセスや、顧客ロイヤリティの概念、メリット、各ステップで行うべき施策、得られる効果について解説しました。
店舗でのマーケティングにAMTULを取り入れると、ボトルネックを見つけやすくなり、顧客ロイヤリティが高い常連客を効果的に獲得しやすくなります。
常連客の増加はリピート率や客単価向上に直結するだけでなく、良質な口コミによる新規顧客の獲得も期待できます。
店舗経営者が今以上に常連客を増やすには、AMTULを取り入れてみるのも一つの手ではないでしょうか。
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