観光庁 宿泊旅行統計調査によると、東北地方の2024年外国人延べ宿泊者数は約229万人泊で、コロナ禍前を上回り過去最多となりました。
そんな中、仙台市内で「第10回 東北インバウンドサミット」が4月21日に開催。今年で第10回を迎えるこのイベントでは、東北地方におけるインバウンド観光をテーマに、基調講演や3つのパネルディスカッションが行われ、現状と今後の展望が多角的に議論されました。
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開会挨拶・来賓挨拶:10年の節目に込められた想い
開会挨拶には、本サミットの主催者である宮城創生DMO会長 櫻井亮太郎氏、宮城ワーケーション協議会共同代表・宮城創生DMO理事 齊藤良太氏、株式会社インアウトバウンド東北代表取締役 西谷雷佐氏が登壇。10回目の開催を迎えたことへの喜びが述べられました。
▲左から、宮城ワーケーション協議会共同代表・宮城創生DMO理事 齊藤良太氏、宮城創生DMO会長 櫻井亮太郎氏、株式会社インアウトバウンド東北代表取締役 西谷雷佐氏
続いて来賓として、仙台市前文化観光局長・柳津英敬氏、一般社団法人東北観光推進機構理事長・紺野純一氏、国土交通省東北運輸局長・川崎博氏が挨拶。
柳津氏は、「観光は今、劇的に変わろうとしている」と語り、東北においてもインバウンド需要が拡大している現状と同時に、オーバーツーリズムや物価高騰といった新たな課題への対応の重要性を強調。「地域資源の発掘と編集によって、新しい価値を発信していくことが鍵」と展望を語りました。
紺野氏は、世界的なメディアで「東北」の注目度が上がっていること、ニューヨーク・タイムズで盛岡市がロンドンに次いで紹介された例などを挙げ、地域全体での広がりを実感。さらに来年には、アドベンチャーツーリズムの舞台として札幌・沖縄に続き東北が選ばれていることにも触れ、「今こそ本当の意味で、東北がインバウンド観光に本格的に取り組む準備が整った」と力強く語りました。
川崎博氏は、「PRは『誰が発信するか』が大事。旅行者自身に東北を語ってもらう仕掛けが必要」と述べ、今回のサミットを学びの場として捉えていると期待を寄せました。
また、イベント中盤には衆議院議員の森下千里氏も登壇。「自然や食、人のあたたかさをはじめとした地元のよさを再発見し、励まし合いながらより多くの人々に魅力を届けてもらいたい」と熱いメッセージを送りました。
基調講演:「地方におけるインバウンドの現在地」
▲株式会社やまとごころ代表取締役・宮城創生DMO理事 村山慶輔氏
基調講演には、株式会社やまとごころ代表取締役・宮城創生DMO理事 村山慶輔氏が登壇。過去10年の東北インバウンドの変遷を振り返りつつ、「為替レートに左右されない熱量の高い訪日観光客をいかに増やし、満足してもらえるかが今後の鍵」と語りました。
一方で、人材不足やサービスレベルの低下といった課題も指摘し、訪日外国人の満足度向上への取り組みは、インバウンド推進の根幹にあるのではないかと私見を述べました。加えて、観光を通じた国際理解・共生の重要性を強調し、「観光は平和への架け橋になる。しっかりと取り組んでいきたい」と熱意を込めました。
パネルディスカッション1.「東北インバウンド現在地を考える」
▲左から、宮城ワーケーション協議会共同代表・宮城創生DMO理事 齊藤良太氏、八戸せんべい汁研究所所長 木村聡氏、株式会社インアウトバウンド東北代表取締役 西谷雷佐氏、世界遺産平泉・一関DMO代表理事 松本数馬氏
最初のディスカッションでは、八戸せんべい汁研究所所長 木村聡氏、株式会社インアウトバウンド東北代表取締役 西谷雷佐氏、世界遺産平泉・一関DMO代表理事 松本数馬氏が登壇。ファシリテーターは齊藤氏が務めました。
プロの目線から東北インバウンドの現状を聞かれた松本氏は、「閑散期でも7割が訪日外国人」という現状を報告し、経済効果も含めインバウンドの影響を実感していると述べました。
また、西谷氏は、インバウンドの具体的な事例として「初来日でもゴールデンルートに縛られず、広島から北上して仙台に辿り着いた」という外国人旅行者の話題を挙げ、東北が観光の選択肢に選ばれていることに期待を寄せました。
木村氏は、ガイド事業を例に挙げ、語学スキルを活かした仕事をしたい女性たちの応募があったことを紹介。「子育てや介護などの事情でフルタイム勤務が難しい層にも社会参加の機会が生まれる」と語り、インバウンドの波が地域の暮らしに新しい風を吹き込むだけではなく、新たな雇用を生む機会にも繋がっていると話しました。
パネルディスカッション2.「訪日ワーケーションと2地域居住の融合」
▲左から、宮城創生DMO会長 櫻井亮太郎氏、福岡市観光産業課 横山裕一氏、百戦錬磨代表取締役 上山康博氏、ボーダレスハウス株式会社 李昌信氏
続くセッションでは、百戦錬磨代表取締役 上山康博氏、ボーダレスハウス株式会社 李昌信氏、福岡市観光産業課 横山裕一氏が登壇。櫻井氏がファシリテーターを務めました。
李氏は、仙台でのシェアハウス運営の経験をもとに「移住者とのコミュニティ構築がルール形成にも貢献した」と話し、人との繋がりが地域の価値を高めることを示唆しました。
横山氏は、デジタルノマドや2拠点居住をする人には富裕層やエンジニア、駆け出しのスタートアップなど、さまざまなバックグラウンドを持った人がいると言及。ネットワークが生まれやすい環境のため、人との繋がりから地域への愛着が生まれると述べました。
そして議論は、これまでの経験を踏まえたうえで、今後どのように仙台まで誘致していくべきかという問いに展開。
上山氏からは言葉や文化の違いを感じる「ホームステイ型」が提案されるなど、三者とも、「誰と出会えるか」「どんなコミュニティがあるか」が誘致や定着のキーポイントになると話し、地域と訪問者を繋ぐ“人”の存在が次世代観光の核となることを再確認しました。
パネルディスカッション3.「宿泊事業者が描く未来の観光戦略」
▲左から、ほほえみの宿 滝の湯 代表取締役社長 山口敦史氏、株式会社ガイア代表取締役・宮城創生DMO副会長 相澤国弘氏、仙台国際ホテル代表取締役社長 野口育男氏、La Union代表社員 伊藤篤史氏
最後のパネルでは、株式会社ガイア代表取締役・宮城創生DMO副会長 相澤国弘氏、仙台国際ホテル代表取締役社長 野口育男氏、La Union代表社員 伊藤篤史氏が登壇。ファシリテーターはほほえみの宿 滝の湯 代表取締役社長 山口敦史氏が務めました。
相澤氏は、山形の別荘地再生事業の経験を紹介し、「地域資源を活かした再生こそが出発点だった」と語りました。地元住民との対話を通じて地域のセーフティネットを整備した経験を語り、持続的な雇用を作ることが定住の可能性を生み出す重要性もあると示しました。
また、山口氏は、宿と地域体験をどう結びつけるかが大切だと述べ、現在においても「地域の魅力を事前に知って来訪し、地域体験にも参加する人」と「地域体験をきっかけに宿に訪れる人」の両方が存在すると分析。宿泊業は、地域と来訪者の橋渡し役を担う重要な立場であると強調しました。
その後、議論は業界が抱える課題の話に。山口氏は、おもてなしを強化しなければならないにも関わらず人手不足に直面している現状があると問題提起します。
人手不足や生産性向上といった課題についてどのような工夫をしているのか問われた野口氏は、コンテンツ作りの一貫として「自家製キャビア製造」を展開した経験について話しました。コンテンツの盛り上がりはもちろん、誇りを持つ社員が増え、社員の定着率にも繋がったと話しました。
相澤氏は、「人だからできる仕事」を重視。「誰もが安心できる街づくり」をするために、障害者も高齢者も立場に関係なくサービスの提供者になることを理念に街づくりをしていると言及し、今後はインバウンドを問わず、人の役割をどのように規定するかが大切とし、向き合っていきたいと展望を語りました。
終わりに:東北から、未来の観光をつくる
第10回を迎えた東北インバウンドサミットでは、過去を振り返るだけでなく、課題を直視しながら新たな可能性を見つめる議論が行われました。
登壇者たちが一様に強調していたのは、「人との繋がり」や「地域に根ざした視点」が、持続可能で豊かな観光の鍵であるという点です。
インバウンドという外からの視点を通じて、地域の価値を再発見し、世界へと発信していく——その動きは今、着実に東北で芽吹いていると感じられるイベントとなりました。
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