ヴィーガン、ムスリム、LGBTQ…多様性への対応で、選ばれる観光地へ【セミナーレポート】

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観光庁は2025年2月、「ベジタリアンヴィーガン ムスリム LGBTQ 受入対応促進セミナー」を開催しました。

基調講演では、フードダイバーシティ株式会社の守護氏が、食の多様性対応が消費拡大に与える影響について解説。さらに、公益財団法人大阪観光局からはLGBTQ+ツーリズム推進の事例が紹介されました。

また取り組み事例として、外国人観光客の受入環境整備に取り組む3団体が登壇。インバウンド戦略の一環として、ヴィーガンムスリムの観光客にどのように対応しているのか発表しました。

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今後、日本に来るベジタリアン・ムスリムは増加

セミナーの冒頭は、観光庁 外客受入担当参事官付課長補佐(総括)の荒井氏が登壇。インバウンドの現状と、ベジタリアンムスリム訪日客の市場動向について説明しました。

過去最高の訪日客数と観光消費額を記録した2024年。一人当たりの消費額も2019年比で43%増加し、22.7万円と大きく成長しました。訪日客の消費力は拡大しており、観光客の多様性に合わせた受入環境の整備が重要だと荒井氏は解説しました。

また、ベジタリアンは増加傾向にあり、2023年時点で全世界で約5.3億人に達したと紹介。訪日旅行者上位20か国では、インドが突出してベジタリアン比率が高く、20.2%を占めると説明しました。インドに次いで台湾(12.3%)、カナダ(11.8%)もベジタリアンが多い傾向にあります。

ムスリムの旅行者に関しても、東南アジア中東からの訪日旅行者の増加に伴い、今後も右肩上がりで推移すると予想しました。

荒井氏はベジタリアンヴィーガンムスリム旅行者への対応を強化することは、リピーターの創出や消費額の増加に寄与すると説明。一方で、何から取り組めばいいかわからないといった声が多いことに触れ、今回のセミナーのような機会や、観光庁などが発信する情報をうまく活用してほしいと述べました。

関連記事:ヴィーガン(ビーガン)とは?ベジタリアンとの違いや種類などを徹底解説

ベジタリアンの旅行者 ベジタリアン ヴィーガン ムスリム LGBTQ 受入対応
▲ベジタリアンの旅行者の傾向:セミナー資料より

専門家による基調講演

基調講演では、食の多様化に関する専門家である守護氏と、公益財団法人大阪観光局が登壇しました。

【食の多様性】「違い」ではなく「共通点」に目を向けた対応を

基調講演の一人目は、フードダイバーシティ株式会社の守護氏が登壇。インバウンド市場における「食の多様性対応」の重要性を強調し、取り組みの障壁や乗り越えるポイントを解説しました。

守護氏は、日本食は世界的に認知度が高い一方、ベジタリアンムスリム向けの対応が不足しており、その結果、観光消費額の伸び悩みに繋がっていると指摘。多くの事業者が「専用の厨房が必要」「ハラール認証を取るには高い費用がかかる」などと誤解し、対応を諦めてしまうと話します。また、すでに対応できていると考えていてる事業者でも、実際には観光客のニーズと乖離があり、十分に対策できていない場合が多いと説明しました。

こうした課題の解決策として守護氏は、「違い」ではなく「共通点」に目を向けることが重要と述べ、既存のメニューを見直すことを提案。例えば、ペペロンチーノに入っているベーコンをキノコに変えるだけで、ムスリムベジタリアンヴィーガンの他、アレルギーの人も食べられるメニューになります。どの属性の人でも共通して食べられるものは何か、考える姿勢が大切だと強調しました。

また、団体客の中にヴィーガンの人が1人でもいれば、多くの場合、その団体はヴィーガン対応の店を選びます。店が食の多様性に対応していなければ団体ごと客を逃してしまうリスクがあることから、「言われたら対応する」のではなく、常に提供できるメニューを用意することが不可欠です。

さらに守護氏は、こうした食の対応について何から始めていいのかわからない事業者は「ヴィーガン対応から始めるのが有効」と補足。ヴィーガンに対応することで、アレルギーや宗教上の制限にも広く対応でき、訪日客が安心して食事を楽しめる環境を整えることができると言います。そのうえで「店舗側が対応可能な範囲を定め、そのポリシーをお客様にしっかり伝えることが重要です」と述べました。

▲発表のまとめ:セミナー資料より
▲発表のまとめ:セミナー資料より

【LGBTQ+の受入環境整備】ポテンシャル大きい市場 リピートにもつながりやすい

基調講演の二人目は、大阪観光局が登壇。LGBTQ+ツーリズムの概要と取り組み内容ついて発表がありました。

大阪観光局では2018年より、「多様性の推進」「LGBTQ+市場が確立されている欧米豪の誘客促進」「富裕層対策」の3つの理由からLGBTQ+ツーリズムを推進しています。

登壇したルーカス氏は、世界のLGBTQ+旅行者による市場規模は2,180億ドル(日本円で約28兆円)と、非常に大きなマーケットであると説明。LGBTQ+に該当する層は弁護士、医者、経営者などの割合が多く、可処分所得が高い傾向にあり、一度満足するとリピーターにつながりやすい傾向にあると言います。

大阪観光局では、日本の観光局として初めてLGBTQ+の情報ポータルサイトを開設。情報発信の強化やLGBTQ+イベントへの参加などを組み合わせてブランディングに取り組んできました。理解促進を目的としたセミナーやカンファレンスの開催も積極的に行っています。

また、LGBTQ+ツーリズム普及のために1983年に創立された国際団体「IGLTA」の総会を大阪に誘致。

誘致に向けて大阪観光局は、ミラノで開かれた総会で大阪開催を積極的にアピールしました。日本文化を活かしたプロモーション実施などにより、競合のタイスペインを抑えて2024年10月の開催が決定しました。アジアでの開催は今回が初めてです。

開催に向けては、30社以上の企業や自治体にスポンサー協力を依頼。会場調整や受入環境整備にも注力し、特にミナミエリア一帯でのウェルカムメッセージ掲出は高い評価を受けました。

総会はスイスホテル南海大阪を会場に開催され、51の国と地域から575名が参加。アメリカ以外での開催としては過去最多の参加者を記録し、大阪のLGBTQ+ツーリズムの推進が世界的に認知されました。これは、NYタイムズの「2025年に行くべき観光地」に大阪が選ばれた理由の一つにもなっています。

開催後、商業施設鉄道事業者からはポジティブな反応が寄せられたと、同じく大阪観光局の立石氏は説明。「まずはやってみること」の重要性を実感したといいます。

また立石氏は、IGLTA総会の開催はゴールではなく、日本のLGBTQ+ツーリズムを推進する通過点に過ぎないとコメント。大阪観光局は今後も、大阪・関西万博ワールドマスターズゲームズなど国際的イベントを通じ、LGBTQ+フレンドリーな都市・国づくりに取り組むと締めくくりました。

関連記事:NYタイムズが選ぶ「2025年に行くべき観光地」日本から富山・大阪が選出

今後の取組みについて:セミナー資料より
▲今後の取組みについて:セミナー資料より

各地域の取り組み事例

セミナーでは、外国人観光客の受入環境整備に取り組む自治体事例が紹介されました。

秋田県横手市(一般社団法人 横手市観光推進機構)

秋田県横手市は、台湾タイからのインバウンド誘客を進めるなかで、ムスリムヴィーガンの観光客を受け入れる体制が十分に整っていない課題を抱えていました。

そこで、地域として食の多様性を尊重する環境を整え、受入体制を強化することを目的に、以下の取り組みを実施しました。

  • 現状調査と意識改革
    市内35店舗の事業者を訪問し、ヴィーガンやムスリム対応の基本レクチャーを実施しました。
  • 「横手人VEGANルール」の策定
    対応ポリシーや使用食材のチェックリストを整備し、メニューごとの対応状況を可視化しました。
  • 情報発信の強化
    地域住民への理解と認知度を広げるため、市民向けアプリ「MINEBA(ミネバ)」にて情報を発信しました。
地域の概要:セミナー資料より
▲地域の概要:セミナー資料より

成果と今後の展望

今回の事業を通じて、市内の事業者と食の多様性対応に関する共通認識を深めることができました。2025年度以降は、対応店舗の情報発信をさらに強化し、ムスリム対応にも取り組んでいく予定です。

関連記事:宗教別の食べてはいけないものを一覧で紹介!押さえておきたいタブーと飲食店での対策とは

今後に向けて:セミナー資料より
▲今後に向けて:セミナー資料より

埼玉県所沢市(一般社団法人 所沢市まちづくり観光協会)

埼玉県所沢市は、東京都に隣接しながらも、インバウンド観光客の誘致が進んでいない課題を抱えていました。特に、台湾からの団体ツアーが市内の大型商業施設「ところざわサクラタウン」を訪れるものの、地域内の宿泊や消費につながらない状況でした。

そこで、世界で2番目にベジタリアンが多い台湾からの観光客を誘致するため、以下の取り組みを実施しました。

  • ベジタリアン・ヴィーガン対応メニューの開発
    中国割烹旅館「掬水亭(きくすいてい)」と連携し、オリエンタルベジタリアン向けの料理を開発。大豆ミートを使った酢豚や、湯葉の皮を使った北京ダックなど「おいしくて満足度の高いベジタリアン料理」を提供しています。
  • 受入環境の整備
    受入環境の整備に向けたセミナーを開催したり、市内のベジタリアン・ヴィーガン対応情報を観光客に周知できるようにしました。
  • 情報発信の強化
    Google My Mapsを活用して、市内のベジタリアン・ヴィーガン対応飲食店をまとめたマップを作成。現在およそ20店舗が登録されており、今後さらに増やしていく予定です。
▲地域の概要:セミナー資料より
▲地域の概要:セミナー資料より

成果と今後の展望

今回の取り組みを通じて食の多様性への意識が高まった一方で、地域全体での受入体制を整えるには、引き続き取り組むべき課題も残されています。

今後は、地域全体を巻き込みながら持続可能な仕組みを構築することで、観光地としての魅力を高めていく方針です。

関連記事:五葷(ごくん)とは?台湾に多い「オリエンタルヴィーガン」が五葷を避ける理由、対応するための3ステップを解説

今後に向けて:セミナー資料より
▲今後に向けて:セミナー資料より

岡山県倉敷市(倉敷市)

観光地としての認知度が高い岡山県倉敷市は、台湾や欧米からの訪問が多く、イスラム圏も観光客が増えつつあります。一方で、多様な食文化・文化的習慣を有する外国人の受入体制は、各店舗での対応にとどまっており、地域全体での取り組み推進が課題となっていました。

そこで、ヴィーガンムスリムの観光客が安心して滞在できる環境を整え、地域の消費拡大を目指すため、以下の取り組みを実施しました。

  • インクルーシブツーリズムの推進
    地元の旅行会社や宿泊施設に加え、岡山市や地域住民団体、市内のモスクに通うムスリムの方も交えた検討会を開催しました。
  • 受入環境の整備
    デニムや花ござなど、倉敷の地域資源を活かしてムスリム向けの礼拝マットを製作し、観光案内所の礼拝スペースに設置しました。また、ヴィーガンやムスリム対応をしている店舗をHP上で紹介しています。
  • モデルコースの設定
    ムスリム観光客向けに、岡山市と連携したモデルコースを設定。岡山市の既存ルートに倉敷の新たなコンテンツを加え、滞在時間の延長を図りました。
地域の概要:セミナー資料より
▲地域の概要:セミナー資料より

成果と今後の展望

今回の取り組みを通じて、地域の事業者や住民の理解が深まり、受入体制の強化につながりました。一方で、継続的なセミナーの開催や、地域資源を活用した持続可能な仕組みづくりは、引き続き求められています。今後は、今回策定した地域戦略を市のMICE戦略や観光振興プログラムに組み込み、中長期的な取り組みとして発展させる方針です。

今後に向けて:セミナー資料より
▲今後に向けて:セミナー資料より

積極的に情報を発信し、「選ばれる観光地」に

本セミナーでは、各地域が食・文化の多様性やLGBTQ+ツーリズムへの対応を進めることで、インバウンド集客の拡大を図る取り組みが紹介されました。

インバウンド誘致を成功させるには、「対応する」だけでなく、積極的に情報を発信し、「選ばれる観光地」となることも重要になります。今回の事例が、全国の自治体や事業者にとって、多様性対応の推進に向けた一歩となることが期待されます。

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【6/11開催】欧米豪インバウンドに刺さる!“地域にどっぷり浸かる”ローカルイマーシブ観光とは?


本ウェビナーでは、株式会社movと株式会社大阪メトロ アドエラの共催により、欧米豪向けインバウンドをターゲットとした「ローカルイマーシブ “地域にどっぷり浸かる没入体験”の提供」をテーマに最新情報をお届けします。

2025年大阪・関西万博の開催を契機に、欧米豪を中心とした訪日外国人観光客が関西を中心に日本全国に訪れる機会が急増しています。

一方で、地域の受け入れ側には「英語対応が難しい」「どう関わればいいかわからない」「コンテンツや訴求方法がわからない」「対応できる人材がいない」といった課題も多く、せっかく外国人観光客が訪れても、地元に経済的な波及効果が十分届いていないのが現状です。

本セミナーでは、大阪メトロ アドエラが展開する欧米豪向けインバウンド事業「Osaka JOINER」をもとに“まち全体でインバウンド受け入れるスキーム”を通じた、インバウンドに関わる人と経済のパイを増やすための可能性を紹介します。

観光施策、まちづくりに携わる方にとって、明日から活かせるヒントが満載です。

<本セミナーのポイント>

  • 欧米豪インバウンドに刺さる「ローカルイマーシブ観光」の実践例がわかる!
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詳しくはこちらをご覧ください。

欧米豪インバウンドに刺さる!“地域にどっぷり浸かる”ローカルイマーシブ観光とは?【6/11開催】

【8/5開催】「THE INBOUND DAY 2025 -まだ見ぬポテンシャルへ-」

2025年、日本のインバウンド市場は訪日外客数が過去最高の4,020万人に達するとの予測や大阪・関西万博、IR誘致などによる世界からの注目度の高まりから、新たな変革期を迎えています。一方で、コロナ禍を経た現在、市場環境や事業者ごとの課題感、戦略の立て方は大きく様変わりしました。

「THE INBOUND DAY 2025」は、この歴史的な転換点において、インバウンド事業に携わるすべての企業・団体・自治体・個人が一堂に会し、日本が持つ「まだ見ぬポテンシャル」を最大限に引き出すための新たな視点や戦略的アプローチを探求、議論する場です。

初開催となる今回のテーマは「インバウンドとは」。

参加者一人ひとりが、「自分にとって、企業にとって、地域にとってのインバウンドとは何か」「いま、どう向き合うべきか」「どうすれば日本の可能性を最大化できるのか」という問いを持ち帰り、主体的なアクションへとつなげていただきたいと考えています。

<こんな方におすすめ>

  • インバウンド戦略の策定・実行に課題を感じている経営者・担当者
  • 最新の市場動向や成功事例を把握し、事業成長に繋げたい方
  • 業界のキーパーソンと繋がり、新たなビジネスチャンスを模索したい方
  • 小売・飲食・宿泊・メーカー・地方自治体・DMO・観光/アクティビティ事業者
  • インバウンド関連サービス事業者、およびインバウンド業界に興味がある学生

「THE INBOUND DAY 2025」特設ページを見てみる

【インバウンド情報まとめ 2025年5月後編】2025年の訪日客数「4,500万人」へ、観光庁長官の見解は? ほか


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2025年の訪日客数「4,500万人」へ、観光庁長官の見解は? / 2025年訪米旅行者支出「125億ドルの損失」予想 ほか:インバウンド情報まとめ 【2025年5月後編】

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

訪日外国人観光客インバウンド需要情報を配信するインバウンド総合ニュースサイト「訪日ラボ」。インバウンド担当者・訪日マーケティング担当者向けに政府や観光庁が発表する統計のわかりやすいまとめやインバウンド事業に取り組む企業の事例、外国人旅行客がよく行く観光地などを配信しています!

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