【連載:マーケティング用語・施策の基礎解説】 |
「民泊」という言葉を耳にする機会が増えましたが、具体的にどのような宿泊形態を指すのでしょうか。
Airbnbに代表されるインターネットを通じた仲介サイトの登場や、急増するインバウンド需要、そして深刻化する空き家問題を背景に、今や新しい宿泊スタイルとして定着しつつあります。
民泊とは、自宅や空き物件の一部を旅行者などに有料で貸し出す、個人間の宿泊サービスのこと。ホテルや旅館とは異なる柔軟な滞在が可能となる一方で、トラブルや法律面での注意点も存在します。
本記事では、「民泊とは何か?」という基本的な定義から、メリット・デメリット、そして運営にあたって必須となる法律(民泊新法)まで、民泊に関心のある全ての方に役立つ情報を分かりやすく解説します。
これから民泊を始めたい方はもちろん、民泊の利用を検討している方も、ぜひ最後までお読みください。
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民泊とは?
新しい宿泊施設の形態として注目を集める「民泊」。従来のホテルや旅館とは何が違うのでしょうか?
民泊の定義
民泊とは、「民家に宿泊すること」を指す造語であり、実は法律上、統一された「民泊」という言葉の正式な定義は存在しません。しかし、一般的には以下のような形態を指します。
- 個人宅の空き部屋や空き家
- 別荘
- 民泊用に用意されたマンションの一室
これらを旅行者などの宿泊者に提供し、宿泊料を得る事業を総称して「民泊」と呼んでいます。
法律上は、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」に則って運営される「住宅」に人を宿泊させる事業がこれに該当します。
かつてはホテルや旅館と同じ「旅館業法」の規制下で運営されていましたが、その性質の違いから、より実態に即した民泊新法が2018年に施行され、現在の民泊の枠組みが確立されました。
民泊が注目される理由
不動産投資のきっかけや大きな収益を得られるビジネスとしても注目を集めている民泊ですが、日本で民泊が注目を集めるようになった背景として、インバウンド需要の急激な増加を受け、従来の宿泊施設だけでは不足が生じるようになった点が挙げられます。
そしてインバウンド需要の拡大と歩調を合わせるように、空き家を有効活用したいオーナーと、割安な宿泊施設を探す旅行者をネットを通じてマッチングするビジネスが発達し、そこから日本のみならず世界中で一気に民泊に対する注目度がアップしました。
空き家を民泊施設にするメリット・デメリット
空き家を民泊施設として活用することは、収益化、初期投資の抑制、資産価値の維持・向上、地域活性化など、多くのメリットがあります。
1. 空き家を利用して利益をあげる
近年、少子高齢化の影響で実家などが空き家化するケースが増加しています。空き家は防犯や管理面のリスクがあるだけでなく、誰も住んでいなくても固定資産税や管理費といった維持コストがかかり続けます。
そこで、空き家を民泊施設として活用することで、これらの経費を収益で賄うことが可能になります。
さらに、立地や宿泊料金設定によっては、一般的な賃貸物件として貸し出すよりも大きな利益を得られる可能性も秘めており、不動産有効活用の新たな選択肢として注目されています。
2. 建物の状態によって安価ではじめられる
民泊施設には、子どもが独立して空いた子ども部屋を民泊施設として活用しているケースなどがあります。
こうしたケースでは浴室、洗面所といった施設は居住者と共有することができるので、宿泊者用の最低限の備品を揃えるだけで、初期費用をほとんどかけずに民泊を始めることができます。
これは空き家を民泊施設として利用する場合も同様で、建物の状況がよく、特に補修の必要などがない場合には、電気やガスを再開させて備品を整えるだけでスタートさせられます。
3. 資産価値の維持・向上につながる
空き家を放置し老朽化が進むと、資産価値が低下します。しかし、民泊として使い定期的な清掃や設備の点検を行うことで、建物の状態を保つことができます。
また、民泊運営による収益実績がある物件は、事業用不動産としての価値が加わり、売却時に高値で取引される可能性も高まります。
4. 地域活性化に貢献できる
訪日外国人観光客や国内旅行者に新たな宿泊体験を提供することで、地域経済の活性化に貢献できます。
特に、観光地や地方都市では、宿泊施設の不足が課題となっており、空き家を民泊として活用することで、この問題の解決にもつながります。また、地域の飲食店や小売店の利用促進にもつながり、地域全体の経済効果が期待されます。
民泊を始めるデメリット
民泊の運営にあたっては、法令遵守や近隣住民との関係構築など、注意すべき点もあります。民泊を始めるデメリットを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。
1. 利用者によるトラブル発生のリスク
民泊運営における最大の懸念点の一つが、利用者によるトラブルです。
夜間の騒音による近隣住民からの苦情、ゴミの不法投棄、さらには備品の破損や持ち帰りなど、「ルールを守らない利用者」の問題は社会的な課題としても指摘されています。
特に、外国人観光客の利用が多い場合、言葉や文化の違いからコミュニケーションの齟齬が生じやすく、トラブルに発展するケースも少なくありません。これらの問題を防ぐためには、宿泊ルールの徹底的な周知(多言語対応)、そして適切な管理体制の構築が不可欠です。
2. 営業日数上限がある
民泊に関しては法整備が追いつかず、さまざまな問題点が指摘されてきました。そこで2018年に問題の解決策として施行されたのが、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」です。
民泊新法では、民泊の営業日数は上限は180日(泊)とする規定が設けられており、年間の稼働日数は約半分に制限されます。
空き部屋や空き家を活用している場合にはその期間収益が上げられないだけで影響は最低限に抑えられるものの、家賃を払って民泊用の施設を確保している場合には、その間支出だけは継続され、収益はあげられないため経済的に大きな負担になります。
3. 収益が安定しにくいリスクがある
民泊事業の収益は、宿泊ニーズの増減によって大きく変動します。旅行シーズンや地域イベントの開催時は予約が増えやすい一方で、閑散期には宿泊者が少なく、売上が落ち込む傾向があります。
さらに、感染症の流行など突発的な社会的影響により、営業の一時停止を余儀なくされる場合もあります。継続的な利益を得るには、市場動向に応じた価格設定や集客施策が欠かせません。
4. 管理・運営のコストがかかる
民泊を運営するには、予約管理から清掃、寝具の交換、チェックイン対応、宿泊者からの問い合わせへの応答など、幅広い対応が求められます。これらの業務は日々発生するものです。
特に、本業の合間で運営するケースや複数の物件を扱う場合には、手が回らなくなることもあります。また、外部に業務を委託する場合には、その分の費用も発生し、収益を圧迫する要因になります。
民泊ビジネスを行う上で知っておくべき法律
前項でも触れましたが、現在民泊は基本的に住宅宿泊事業法(民泊新法)に従って運営する必要があります。そのため民泊を始める前には、まずは民泊新法について熟知し、その決まりの中で設置、運営していくことが求められます。
2018年にこの新法が制定されるまでは、民泊も一般のホテルや旅館と同じく、旅館業法に従って運営することが求められていました。
しかし従来型のホテルや旅館といった宿泊施設と民泊は、その性質が大きく異なることもあり、旅館業法の要件を満たさないまま違法な状態で営業を行う民泊施設が増加してしまいました。
そこで民泊のより健全な運営を目指して施行されたのが民泊新法です。以下に民泊新法の主な中身について解説します。
住宅宿泊事業法(民泊新法)
民泊新法が適用される範囲は、大きく分けて実際に民泊の運営を行う「住宅宿泊事業者」、民泊施設を管理する「住宅宿泊管理業者」、民泊事業者と宿泊者とのマッチングサービスなどを行う「住宅宿泊仲介業者」の3つがあります。
民泊に参入する場合、一番重要になるのが「住宅宿泊事業者」にまつわる規定です。その中で特にチェックしておきたい項目には、次のようなものがあります。
届出の義務
民泊新法施行以前、民泊をスタートさせるためには「認可」が必要でした。しかし民泊新法施行により、現在は施設がある都道府県知事、または保健所設置市の長、特別区の長に「届出」を行うだけでスタートできるようになりました。
年間の営業日数
営業日数の制限については、前述のように、年間の営業日数の上限は180日(泊)までと定められています。
その他
そのほか熟知することが求められる主な規定には、以下のようなものがあります。
施設の利用案内や生活環境を守るためのルールを外国語で適切に案内すること
衛生確保措置
騒音防止や近隣からの苦情への対応
宿泊者名簿の作成・備付け
民泊施設の条件
民泊新法では、民泊施設として利用できる施設に関して「設備要件」「居住要件」のそれぞれに定められた要件を満たすことが求められています。
設備要件
このうち「設備要件」には「台所」「浴室」「便所」「洗面設備」の設置があります。建物内にこれらの設備がない場合でも、同じ敷地内の建物の設備を使用できる場合には、複数の建物を1つの住宅として届け出ることでも要件をクリアすることもできます。
居住要件
居住要件では、民泊施設として利用する住宅が次の3つのいずれかに該当することが求められます。
1. 現に人の生活の本拠として使用されている家屋(家主居住型)
管理者がその住宅に居住し、空室を民泊として運営するといったように、現に特定の者の生活が継続して営まれている家屋。
2. 入居者の募集が行われている家屋
民泊事業を行っている間、分譲(売却)や賃貸の形態で、居住用住宅として入居者の募集が行われている家屋。ただし、この要件を満たすために、実際は募集を行う意思がないため、募集広告等において故意に不利な取引条件を事実に反して記載しているといった違反行為が認められる場合には、要件を満たすことはできません。
3. 随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
生活の本拠としては使用されていないものの、管理者等により随時居住利用されている家屋。随時とは年1回以上は使用している家屋を指し、投資用に購入し、使用履歴が一切ないマンションの一室などは、この要件を満たすことはできません。
民泊施設の管理業務
利用者に快適で文化的な生活環境を提供することを目的に、民泊の管理者はゲストへの対応、部屋の清掃といった管理業務の責任を負います。
民泊新法では、その管理を住宅宿泊管理業者に委託することが求められています。
住宅宿泊管理業者とは、国土交通大臣から認可された民泊の管理業務全般を代行する事業者のことを指します。
住宅宿泊管理業者として登録するためには、住宅の取引や管理に関する2年以上の職務経験がある、もしくは宅地建物取引士、管理業務主任者、不動産経営管理士といった資格を保有といった条件が定められています。
オーナーが住宅宿泊管理業者資格を取得して自身で管理することもできますが、多くの場合、住宅宿泊管理業者に委託します。
空き家を有効活用する民泊業
民泊は、単に空き家対策の有効な手段であるだけでなく、投資目的で購入した不動産を収益化する上でも大きな可能性を秘めています。
本記事で解説したように、「民泊」とは個人が所有する住宅などを宿泊施設として提供する新しいスタイルであり、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」によってその運営が定められています。
初期費用の抑制や資産価値の維持・向上、地域活性化への貢献といった多くのメリットがある一方で、利用者とのトラブルや営業日数上限、安定しない収益性、管理コストといったデメリットも存在します。
民泊は、ホテルや旅館業と同様に、ゲストに質の高いサービスを提供し、周辺住民の理解を得ながら運営していく必要があります。その運営は決して簡単ではありませんが、金銭的なメリットだけでなく、世界各国から訪れるゲストとの国際交流といった、他では得難い貴重な体験ができる点も、民泊の大きな魅力と言えるでしょう。
民泊事業を検討する際は、これらのメリットとデメリット、そして関連法規を十分に理解し、適切な準備を進めることが成功への鍵となります。
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