国際会議や企業による会議、報奨・研修旅行などを指す「MICE」は、一般的な観光と比べて経済効果や文化的・教育的影響が期待されることから、日本でも誘致に向けた活動が進められています。
そんななか、アジア太平洋地域の観光・ホスピタリティ教育分野を代表する国際学会組織「APacCHRIE」の年次学術集会(APacCHRIE 2026)が2026年5月28日から31日にかけて、大阪の立命館大学にて開催されます。
本記事では、先んじて1月に開かれた「APacCHRIE東京シンポジウム」の様子をレポート。APacCHRIEの存在意義、観光・ホスピタリティ教育の国際的なトレンド、インバウンド市場における人材育成の重要性などについて紹介します。
インバウンド市場の成長に寄与するAPacCHRIEの役割とは
2002年に香港で設立された、観光・ホスピタリティ分野の国際学会組織「APacCHRIE(Asia Pacific Council on Hotel, Restaurant and Institutional Education)」。
現在、同組織はアジア太平洋地域ほぼすべてを網羅する18超の国・地域から、75校以上の主要大学が加盟しています。また、毎年5月に業界の知見共有や次世代の人材育成について議論する教育者・研究者・業界関係者向け学術集会「APacCHRIE Conference」を開催しています。
第24回年次カンファレンスは日本初開催 JNTO若松氏が意義を語る
2026年、大阪府茨木市の立命館大学大阪いばらきキャンパス(OICキャンパス)が、24回目となる同カンファレンスの会場に選ばれました。日本初開催となりますが、観光・ホスピタリティ経営分野における世界の技術が国内で発表されることで、産業の活性化、国際ホスピタリティ人材の輩出などに貢献すると期待が寄せられています。
カンファレンスに先駆け、認知度向上のために実施されたのがAPacCHRIE東京シンポジウムです。首都圏の観光・ホスピタリティ関係者を対象としたシンポジウムの冒頭では、APacCHRIE創設者であり、香港理工大学 ホテル・観光経営学院の学部長兼主任教授を務めるケイ・チョン氏によって、開会の辞が述べられました。
その後、日本政府観光局(JNTO)の若松務理事が登壇。観光・ホスピタリティ産業がいま急速な変革の時代を迎えていることに触れ、「デジタル革新や人工知能(AI)、持続可能な取り組みへの需要の高まりが、旅行者のニーズに応える方法を大きく変えつつあります」と述べました。

また、日本が2030年に向けて掲げる「訪日外国人旅行者6,000万人」という政府目標にも言及。市場成長の勢いを維持し、目標を達成するには、「観光・ホスピタリティ産業を支える人材育成を継続していくことが不可欠です」と語りました。
その上で、APacCHRIEが果たす役割は大きいと強調。人材育成を進め、教育機関と産業界の間にあるギャップを埋めることは、日本のインバウンド市場の持続可能な成長の基盤となります。
さらに、日本が推進する地方誘客や高付加価値観光の実現においても、APacCHRIEの国際ネットワークを通じた知見共有には大きな可能性があると期待を見せました。
若松氏は、「変化の激しい状況においては、一国だけの努力では不十分であり、国際的な協力が不可欠。アイデアを共有し協力関係を築けるグローバルなプラットフォームが必要です」と述べ、今回のシンポジウムは、その第一歩として産官学が連携しながら観光の未来を描く重要な場であると紹介しました。
2024年の国際会議件数は428件 日本を観光教育・産学連携のハブに
日本は国際会議の開催件数において世界トップ5入りを目指しており、観光分野でも「知識とネットワークが集まる拠点」としての存在感を高めようとしています。2024年には日本で428件の国際会議が開催され、前年2023年より18%増加しました。
若松氏はそうした点にも触れ、「APacCHRIEのような国際組織の会議が日本で開催されることは、単なるイベント誘致にとどまらず、日本が観光教育・研究・産業連携のハブとなるための重要なステップといえる」と説明しました。
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AI台頭で観光・ホスピタリティ教育の未来は変わる?
続く基調講演では、APacCHRIE 前会長/オークランド工科大学 教授のピーター・B・キム氏が登壇。
ホテル業界での実務経験や大学教育者としてのキャリアをもつキム氏は、歴史的な流れを踏まえつつ、観光・ホスピタリティ教育の未来について、持論を展開しました。
イノベーションをトレンドに 市場をけん引するアジアのポテンシャル
講演ではまず、観光・ホスピタリティ教育の歴史に存在する「3つの波」が紹介されました。
第一の波は、ヨーロッパのスイス・ローザンヌで始まったものです。ここでは徒弟制度のもと、所作やサービスの専門性を徹底的に磨く教育が中心となっていました。
第二の波はアメリカです。1970年代に、コーネル大学が「アメリカ近代ホテルの父」と呼ばれるスタットラーホテル創設者のエルスワース・ミルトン・スタットラー氏とともに、ホスピタリティ教育を体系化しました。会計・マーケティング・人材戦略といった経営の視点を加え、学問として確立したのが大きな変化です。
そして、第三の波はアジアで、現在のトレンドは「イノベーション」です。業界ですでに求められていることだけでなく、リードするような新たな取り組みを進めていく。「こうした教育へのシフトが、サービス品質の高いホテルや航空会社が多く存在するアジアから広がっています」とキム氏は強調しました。
観光・ホスピタリティ教育、未来に向けた3つの重要テーマを紹介
続いて同氏は、今後の観光・ホスピタリティ教育における重要テーマを3つ挙げました。
1つ目は、AIなどの「先端技術」です。現在のAIは単なるITや技術課題ではなく、観光・ホスピタリティ分野において「破壊的な存在」であり、非常に重要なものだと語りました。
2つ目に挙げられたのは、「サステナビリティ(持続可能性)」です。テクノロジーが進化する時代だからこそ、社会的責任を果たすため、ソーシャル・イノベーションを起こし続ける重要性は増しています。同氏は「企業や地域に閉じた視点からの教育ではなく、世界全体に対する責任をもつ教育が求められます」と指摘しました。
そして、3つ目は「ヒューマン・タッチ(人間味のある触れ合い)」です。同氏は、観光・ホスピタリティ分野においてはどれだけ技術が進歩してもヒューマン・タッチは重要であり、多くの情報がAIで得られる時代になっても、人間による文化的な感性や知識、情緒的な気づきが重要だと述べました。
学生が業界を愛せる学問・業界に 教育者は意識改革を
さらにキム氏は、観光・ホスピタリティ教育における重要な課題として、教育環境についても言及しています。未来のカリキュラムに必要なものとして、同氏は「イノベーション」と「ロイヤリティ」の2つを挙げました。
これらを実現するには、教育者の意識改革が不可欠だといいます。単なる情報提供者としてではなく、学生自身が充実したキャリアを築けるよう、興味喚起や動機づけといった刺激を与え続ける存在になること。こうした立ち位置を実現するには、「観光・ホスピタリティという学問そのものの名称についても再考が必要かもしれません」と続けます。
同氏はその理由として、人間が「体験」と「人間同士の相互作用」を大切にしている点に触れました。これまでの観光・ホスピタリティ教育は業界に必要な知識を提供していましたが、エクスペリエンス・アーキテクチャ(体験設計)へ範囲を広げ、新しい価値創出と産業を導く必要があると説明。大学と業界全体が「意味のある協働」を進めるなど新たな挑戦をして、学生が業界を愛せる状況をつくらなければ、観光・ホスピタリティ教育の未来はないと強いメッセージを送りました。
移動もプログラムに 日本初開催「APacCHRIE 2026」の特徴と魅力
シンポジウムでは、2026年5月28日から31日にかけて日本で初めて開催されるAPacCHRIE 2026の詳細についても、コンファレンスチェア/立命館大学 教授の西本恵子氏より説明がありました。

同大会は、立命館大学ビジネススクール(RBS)と香港理工大学 ホテル観光経営学部との共催で実施され、アジア太平洋地域をはじめ、世界各国から約500名の観光・ホスピタリティ研究者が参加する見込みです。
日本およびスイスの会議運営会社(PCO)でMICE運営に携わってきた西本氏は、近年日本ではMICEに関する知識や専門人材への需要が高まっており、大学にもその期待に応える役割が求められていると説明。
同氏は立命館大学に着任後、学内に素晴らしいコンベンションセンターがあることを知り、「ここで何かできないか」と考えるようになったといいます。APacCHRIE 2026は、その考えのもとに招致活動を進めた結果、実現したものだと述べました。
APacCHRIE 2026は、OICキャンパスに加え、関西国際空港と直結するスイスホテル南海大阪も初日の会場として利用されます。難波~茨木間はシャトルバスを活用し、観光地によるプロモーションプレゼンテーションを車内で実施するなど、移動そのものをプログラム内に組み込んでいる点も特徴です。
また、最終日には兵庫県神戸市内で、国際会議恒例のエクスカーション(観光プログラム)も計画されています。旅行会社と立命館大学の学生スタッフ(RBSアンバサダー)による体験企画が用意されており、学術交流だけでなく日本のユニークな地域文化を体感できる場になることが見込まれます。
教育・体験価値のアップデートは必須 カンファレンスを再考の場に
APacCHRIE東京シンポジウムは、日本が観光立国として成長を続けるなかで、国際連携を含む教育と体験価値のアップデートがいかに重要かを再認識する場となりました。
訪日市場が拡大するいま求められるのは、成長の基盤となる人材育成とこうした人々に提供する教育環境の構築です。5月に開催されるAPacCHRIE 2026は、観光・ホスピタリティ教育の未来を考える重要な機会となるでしょう。
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