先日、滋賀県大津市で開催されたセミナーで地方創生担当相の山本幸三氏が、文化財のあり方に関して「文化観光を進めなければならないが、一番のがんは学芸員という人たち。一掃しないといけない」と発言。その後、不適切な内容だったことを釈明したことが、マスコミ各社から報道されています。
不評を買ってしまった理由は言うまでもありませんが、このコメントが飛び出た背景には、 文化財の観光活用に対する考え があるようです。今回は、山本地方創生担当相の「一番のがんは学芸員」発言の理由を解説していきます。
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そもそも学芸員とは?
そもそも学芸員とはいったい何でしょうか。
学芸員とは博物館や美術館、天文台、科学館といった施設で働く職員で、なるには国家資格が必要です。その役割が示されている法律は担当する施設によって異なりますが、それぞれの内容はあまり変わりません。博物館法では「資料の収集、保管、展示及び調査研究に関する職務に従事」とされており、平易に言えば「博物館の展示物管理をしたり、それについて調べたりする仕事」といったところでしょうか。
文部科学省の発表によれば、博物館の総数は年々増加しており、昭和62年(1987年)度~平成23年度(2011年)度までの約25年間で、2倍以上に増加。23年度10月時点で、5,747館にのぼっています。学芸員の数も増えていきましたが、博物館への入館者数は平成7年(1995年)度~22年(2010年)度までほぼ横ばい。そのため、1館あたりの入館者数は減少していったそうです。
予算不足などの原因により、日本では学芸員の人手不足が深刻化していると言われることも。専門性の強い職業ながら、施設運営に関わる多様な業務をこなす”何でも屋”のような働き方になっていることも多いようです。
「一番のがんは学芸員」発言の理由とは
山本地方創生担当相による「一番のがんは学芸員」発言があったのは、平成28年(2017年)4月17日、滋賀県大津市で開催された地方創生に関するセミナー。そこで同氏は「『地方創生』加速の戦略~全国の優良事例~」と題して公演を行いました。なお、これと同名の公演は、1月にも福岡、大阪、東京で行われており、48市町村112施設を実際に視察してきた経験から「各地域の参考となる」「全国の優良事例」を紹介するという内容でした。
この際に、山本地方創生相は インバウンドによる地域活性に関する質問を受け、「文化観光を進めなければならないが、一番のがんは学芸員という人たち。一掃しないといけない」と発言 。その理由を「文化財のルールで火も水も使えない。花が生けられない、お茶もできない。そういうことが当然のように行われている「学芸員は自分たちがわかっていればいい、わからなければ(観光客は)来なくてもいいよというのが顕著」と話しました。
各社の報道によれば、その後、報道陣への釈明があったとのこと。 「地域創生のためのアイディアに対し学芸員が難色を示すことが多く、考え方を改めてもらう必要がある」という意味のコメントだった としています。
山本地方創生相は、文化的に価値のあるモノの新しい活用方法を考えたい革新派(地方創生)、従来の扱い方を通したい保守派(学芸員)という図式を念頭に置いていたようです。
ロンドンオリンピック時の大英博物館の事例を受けたもの?
「一番のがんは学芸員」発言は、3月9日に行われた内閣委員会での山本地方創生相の発言からも読み解くことができます。
ここで同氏は、官民連携による地方創生について言及し、2020年東京オリンピックの際に「地方にまで足を広げていただく、そして地方の魅力ある食あるいは文化というものを味わっていただいて、そしてそれがレガシーとして継続的につながっていくということが非常に大事」と発言。
「私も、地方創生というのは地方の平均所得を上げることだと定義しておりまして、地域が稼ぐ力を涵養していただかなければ持続的な成長ができないと思って強調してまいりまして、そういう意味で、先ほど御紹介の交付金を使っていただいて地域の連携の下に稼ぐ取組をやっていただいていることは大変有り難く思っておりますし、これこそ地方創生の一番のポイントじゃないかなと思います。」との発言後、ロンドンオリンピックの際に行われたイギリスのプロジェクトについて以下のように紹介しています。
「文化プログラムをつくって、ロンドンのみならずイギリス全体の美術館、博物館を観光客のために大改革をしたんですね。例えば、大英博物館の中の壁を取っ払って、真ん中に人が集まるところをつくって、そこからいろんな部門に行くというように全部やり替えました。 そのときに一番抵抗したのが学芸員でありまして、そのときは観光マインドがない学芸員は全部首にしたというんですね 。それぐらいの取組をやって、その後、ロンドンにまさに大英博物館を始め大変な観光客が継続して続くようになりまして、オリンピック終わってもにぎやかさを保っているというようなことであります。」
イギリスに「観光マインドがない学芸員は全部首に」する先行事例があると考えていたようです。なお、この点に関して、ネット上では批判が上がっており、事実誤認と指摘する声も少なくありません。
MICE開催数の増加に向け、文化施設の利用解放に向けた動きが進んでいるのは事実
今回の発言の理由としてもうひとつ考えられるのは、日本で近年、MICE開催数の増加を目指す動きがあること。観光庁が、歴史的建造物や文化施設などで、会議などが開催できるようにして「ユニークベニューの開発・利用促進」を図る取り組みを進めています。
これが地方創生につながる可能性も十分に考えられますが、文化的な価値を有する施設を広く利用できるようにしなければならず、場合によっては飲食も必要になるでしょう。
大英博物館の話の真偽はともかくとして、文化財をどう活用すべきなのか見直さなければならない局面に来ているという認識に関しては間違っていないのではないでしょうか。
まとめ:文化財の活用方法について見直さなければならない時期
地方創生担当相の山本幸三氏が「一番のがんは学芸員」と発言し、物議を醸しています。この背景にはロンドンオリンピックでの事例、MICEが開催できる施設の増加などがあるようです。
発言内容の不適切さや、前者に関する事実誤認を指摘する声はありますが、文化財をどう活用すべきなのか見直すべき時期が来ているという認識に関しては事実を反映したものなのではないでしょうか。より良い形で課題を解消することが期待されます。
<参考>
- 地方創生市町村長トップセミナー
- 参議院会議録情報 第193回国会 内閣委員会 第2号
-
[MICEの開催・誘致の推進 国際観光 政策について 観光庁](http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/mice.html#unique)
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