中国人によるインバウンド需要は今後、どうなっていくのでしょうか。確かに、2017年の訪日中国人は延べ約736万人で、約2870万人に達した訪日外国人観光客数の中で最多でした。日本のどんな観光地や目抜き通りに行っても、必ず中国語が聞こえてくるような状態です。
しかし、中国人の間で「日本旅行の悪評判」になりかねないことがあります。それは、日本におけるネット活用の遅れです。意外に思う人が多いかもしれませんが、ネット社会として中国は日本を追い抜いた状況です。だから、先進国として“リスペクト”している日本を旅した中国人が意外に思ってしまうのです。
そこで、中国における昨今のネット事情と、訪日中国人がどんな不満を感じるかをご紹介することにしましょう。
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中国のネット事情がスゴいことになっている、対応せねば訪日客ビジネスが壁に突き当たる可能性
中国政府は国策として、インターネットの普及と発展に力を入れてきました。その成果が特に顕著になりはじめたのは2016年ごろでした。中国のネット事情と言えば情報統制がよく報道されます。でも、人々は実に頻繁に巧みにインターネットを利用しています。ネット利用大国として中国は日本を追い抜いた状況です。
特に目立つのがスマホ利用の多面化・多層化です。情報が大量に行き交っています。日本の特定商店や特定商品が大評判になることも珍しくありません。さらにスマホ決済の「常識化」など、急激な変化は枚挙にいとまがありません。そんな状況に慣れてしまった中国人訪日客に「気持ちよくお金を落としていただく」ためには、中国のネット事情を十分に理解し、対策を立てる必要があります。
日本より急速なインターネット利用の主役交代、97.5%の人が携帯利用
中国のインターネット事情や消費者動向の推移を知るのに、最も信頼ある基礎資料とされているのが、「中国互聯網絡信息中心(中国インターネット情報センター、CNNIC)」が年に2回発表しているリポートです。このリポートを過去のものから最新のものまで丹念に読んでいくと、中国ネット事情の「激動」が実感として伝わってきます。
その前に、日本の状況を見てみましょう。総務省の平成29年(2017年)版情報通信白書によると、2016年には、日本のインターネット利用者におけるスマートフォン利用の割合は71%に達しました。個人のパソコン利用率は横這いである一方でスマートフォン利用は順調に伸びているとして、同白書は「スマートフォン社会の到来」「パソコンからの主役交代」と表現しました。
中国における変化の速さは日本を大きく上回っています。日本とは異なり、携帯電話全体の利用についての統計ですが、携帯電話の主力がスマートフォンなのは明らかなので、以下は便宜上、スマホと記します。2016年12月の時点でネットユーザーの95.1%が、17年12月時点では97.5%がスマホを利用しています。中国における17年12月時点のインターネットユーザーは7億7200万人で、うち7億5300万人がスマホを利用しています。
2018年3月1日時点の日本の推計人口は1億2652万人でしたから、中国では日本の総人口の約6倍もの人が日夜、スマホのタッチパネル上で指先を踊らせている計算になります。
もちろん、スマホの用途はさまざまです。まずは検索サイトを利用した情報収集、SNSの利用、ゲーム、ネットショッピングなどを挙げることができます。中国ではさらに、手軽にできるスマホ決済の利用が極めて盛んになりました。中国人の感覚では、このようなスマホの「いつでもどこでも利用」が日本人以上に当たり前になっていること念頭に、中国人客への対策を考えねばなりません。
中国でスマホ決済が急成長、日本の総人口の4倍以上の人が利用
CNNICリポートはこのところ、ネット決済やスマホ決済の急増を強調しています。2017年12月時点では、ネット決済の利用者は前年同期比11.9%の5億3100万人に達しました。うちスマホ決済の利用者は同12.3%増の5億2700万人で、スマホ利用者全体の70.0%になりました。改めて日本の総人口との比較ですが、中国では日本人全員の4倍以上の人がスマホ決済を利用していす。
中国では現金での支払いができないケースも増加中
中国でスマホ決済がいかに急速に浸透したかは、日本に住んでいるとなかなか実感できません。すでに、「屋台での買い食いでも、QRコード利用のスマホ決済が可能」ということも、とりわけ特異ではないという状況があります。
スマホ決済オンリーの無人コンビニエンスである繽果盒子(ビンゴボックス)は2016年8月に広東省中山市で1号店をオープン。2018年1月上旬ごろまでに全国29都市に展開し、300店舗近くを開業したとしています。同社発表には不透明な部分もあり、水増しされた数字との見方もありますが、いずれにせよ「新しい小売りの形態」として注目されていることは間違いありません。
ビンゴボックス以外にも、EC大手のアリババや京東、飲料大手の杭州娃哈哈集団(ワハハ集団)などが相次いで、無人コンビニへの参入を表明しました。これらの状況からも、中国人にとってスマホ決済が「ありふれた日常的行為」としてほとんど定着していると理解できます。中国では偽札犯罪がしばしば報道されることもあり、店舗側が現金での支払いを嫌がる傾向もあります。中国を旅行した日本人から「現金での支払いができなくて困った」との声が聞こえてくるほどです。
日本を旅した中国人は「支払い方法」に不満、調査の結果でも如実に
中国最大手で世界の検索市場でシェア第2位のBaiduの日本法人であるバイドゥ(注参照)が2017年12月、過去1年内に日本旅行をした経験のある中国人を対象に実施した調査で設けた質問項目で、「情報が少なく不便に感じたこと」では、「支払い方法」を挙げた人が回答者全体の36.8%を占め最多でした。中国人客にとって、日本で買い物をする際にスマホ決済ができない場合があるということが、大きな不満点になっていることが分かりました。
「不便」と感じている回答者は、過去3年内における日本旅行の経験が1回だけの人の場合は34.2%、2回の人は42.3%、3回以上の場合は35.2%でした。リピート回数が増えても、不満を感じつづけているという状況が分かります。また、各分野で設備が充実しているはずの首都圏を含む関東地方を旅行した人でも、34.1%の回答者が不満を示しました。
訪日中国人を呼び込もうとするならば、店舗などの規模に関係なく、中国人が利用しやすいスマホ決済の導入は喫緊の課題です。中国人は日本旅行を計画する時点で、「訪日経験者」の情報を熱心に収集します。個別の商店についても「スマホ決済ができなかった」とネット投稿されたとたん、中国人の足が遠のく事態になりかねません。逆に、「小さい店だけどスマホ決済可だった」などと“つぶやいて”もらえれば、来店数と客単価の向上が期待できます。
ネット絡みの話題では、中国では2016年ごろからスマホ決済技術も導入したシェア自転車ビジネスが極めて盛んになりました。CNNICによると、17年6月には1億600万人だったシェア自転車ユーザー(各運営企業への登録者)は、同年12月には108.1%増の2億2100万人に達しました。
日本でもシェア自転車への取り組みは始まっていますが、中国の場合は街の各所に用意された自転車台数が極めて多いことや、利用の際のスマホ操作が簡単であることなどで、利便性が高いことが特徴です。中国人の日本旅行は自由な行動をより楽しめる個人旅行が増加していますから、今後はシェア自転車が発達していないことも、彼らの不満点になるかもしれません。
まとめ:日本旅行をした中国人の不満点、口コミで広がる前に迅速な解決を
中国人客を取り込もうと思ったら、彼らの感覚をしっかりと理解して、「気持ちよくお金を払っていただける」対策を取らねばなりません。また、中国はSNSなどの普及以前から、「口コミ社会」の傾向が極めて強かったことも理解する必要があります。
広告などは情報を発信する側の利益が絡んでいるとして、「怪しい面がある」と警戒する傾向が強いのです。だからこそ、日本側としては中国人の間における「口コミ評判の威力」を重視する必要があります。今のところ日本旅行全体に対する評判は上々ですが、バイドゥの調査の結果、スマホ決済が不便との意見が強いことなどが分かりました。個別の店舗について、そんな“つぶやき”が発信されてしまったのでは、得られたはずの売り上げをみすみす逃してしまう可能性も大です。迅速な取り組みが求められています。
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